剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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 まず俺たちは発電室に向かう。脱出ポッドがちゃんとカタパルトの傍ら備えられているかは不確実だが、じっとしていてもサメ人間にされるだけだ。目の前のやれることをやるしかない。

 

「いたぞ、侵入者だ!」

「とっ捕まえろ」

 

 警備兵たちが躍りかかってくるが、やはり人数が足りていない。先頭を征くクレアがMP40の弾丸をばら撒き、制圧する。

 

「うらぁぁあああ!」

 

 クレアやキャサリンが正面の敵と応対している隙に、廊下の角に隠れていた兵士が、intが足りていないのか何故か素手で俺やダニーに向かってくる。

 

 しかしネックハンギングで一気にダメージを与えてやれば、二人がかりとは言えすぐに制圧できた。兵士の訓練にすら予算が足りていないのか。

 

「あの扉が発電室だ、でもロックが厳重そうだ!」

「よし、みんなあたしを援護して!」

 

 止める間も無くキャサリンは、基地内で拾ったというチェーンソーを構え、鋼鉄の門へ吶喊。

 

 キャサリンに襲いかかる兵士には、俺たち三人で銃弾を見舞ってやる。

 しかし兵士を食い止めたと思いきや、次は四体のサメボーグが天井と床から出現、キャサリンに凶牙を向ける! あんなの何体も作る予算あるなら兵士増やして戦車でも置いておけ。

 

「やぁぁあああっ!」

 

 しかしキャサリンの心とチェーンソーは折れない。一体はその機械化された脚部の脆弱な関節部を粉砕され行動不能にさせられ、一体は首を斬り落とされ、一体は喉の奥に高速の刃をねじ込まれて内側から絶命した。

 

「欠陥品は大人しく工場に帰りなさい!」

 

 そして最後の一体はキャサリンのハイキックを受けて何故か壮大によろけ、近くにあったエレベーターの奈落に転落していった。下が本当に工場なのかなどもうどうでもいい。

 

「なるほど、サメボーグってあんなに簡単に倒せるものだったのか。わざわざガスボンベ使うまでも無かったか?」

「いや、あいつは特別だから誤解しないでよクレア軍曹?」

 

 木の棒で戦う男に余計な期待を持たれても困るのだ。俺はサーファーじゃないから人間離れした戦いなんて無理なのだ。

 

「さあ、チェックメイトよ。連中のメタンに火をつけて、屁、プ、バーンといってやるわ」

 

 キャサリンはチェーンソーで鋼鉄の錠前を両断して扉を蹴り開けた。これだけ酷使して折れないチェーンソーの歯はミスリルか何かか。

 

 ともあれ、発電室の扉は解き放たれた。中に入ってみると予想通り、大量のパイプとタンクが立ち並んだ、いかにもエネルギーの中枢って感じだ。相も変わらず鉤十字の旗は自己主張が激しいが。

 

「さて、この時限爆弾を仕掛けるとしよう……ん? マジかよこれは参った」

「どうした、クレア?」

「お前さんたちが持ってきてくれたこのプレゼントの素敵な目覚まし、タイマーが壊れてるぞ。十二分にしかセットできない」

 

 まるで俺たちが緊迫した状況下でギリギリの戦いを繰り広げるために作られたようなピンポイントの壊れ方だ。

 

「どうする、ライアン。このまま予定通りに爆破するか?」

「急がないとオレらもサメと一緒にローストってことだぜ、ライアン?」

「それでもこの機を逃す訳にはいかないと思うわよ、ライアン?」

 

 三人の視線は俺に集中。

 

「……何で皆俺に聞くの?」

「お前は、善悪の判断ができる人間だ。決断を託したい。いいか?」

 

 託すとは押し付けるの同音異義語であると俺はよく理解している。

 

「えー、はい。するしか無いんでしょ? じゃあ決めよう、今ここでやってしまおう。もう他にチャンスがあるとも思えないし、十二分あれば上の射出場には辿り着ける。ポッドが用意されてることを信じるしかない」

「流石ねライアン、決断が早い。日本の首相なら、『今ここで決めるのか⁉』とか言って渋るわよ」

 

 そしてアメリカ大統領ならノリノリで核を撃つのだろう。俺知ってる。

 

「とにかくやってしまおう。爆弾のセットは、クレアに任せる。セットが終わったら、さっきショートカットできそうな階段が視界に入ったから、そこから上の射出場まで駆け抜けよう」

「どうせ時間設定は選択肢一つしかないから、セットはすぐに終わる。場所はこのタンクで多分良いだろう。はい、今セットしたぞ」

「クレアさん、少しくらい覚悟決める時間とか最終決戦前に回想とかする時間くれてもいいんじゃないですかねぇ⁉ まあいい、みんな走れ!」

 

 そして俺たちは、火のついた鞭で尻を打たれるようにして、発電室を後にしたのであった。


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