剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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 俺は作戦の全貌を、まずはなるべく簡潔にハットンに伝えた。これは時間との戦いなのだ、細かい調整は進行しながらしなければならない。

 

 ハットンが俺の提案を呑んでくれた段階でネットの情報を確認すると、既にロボコンダはこちらに向かって来ているようであった。市街に到達するまであと一時間程度だ。

 

「よし、今だ。レベッカ、言った通りに情報を流してくれ」

「は、はい! えと……遊園地に沢山コンピュータが……」

 

 作戦の準備開始後すぐに、俺はレベッカを通じてロボコンダにメッセージを送った。遊園地に餌があるから来てみろと。これで一時間後に最初に奴が襲撃するのはここだと確定した。あとはそれまでに作戦を即座に実施できる体制を整えられるかどうかだ。

 

「ライアン君、爆薬の調達だが、どうにも無理そうだ。SWATは爆弾なんて持ってないから近所で調達しようと思ったが、ビル解体現場は近くに無い。中国人の爆竹屋ならいるが」

「ならばボンベとドラム缶だ。ありったけのガスと油で代用できます。それと、第二段階で使用する固体ロケットに関しては火薬ロケットで充分だから爆竹の素材で代用できるでしょう」

 

 無いものはあるもので補う。木の棒で生き抜いた俺にはそれが如何に重要であるかがよくわかるのである。

 

「しかし、よくもまあ、こんな奇想天外な作戦を思いついたものだな、ライアン君」

「ええ、ああいう奴らを倒すには内部爆破が一番だと思うんですが、ロボコンダは知恵をつけているから爆発物を体内に入れるには考える隙を与えさせない、こういうやり方しかないと思いまして」

「なるほど。で、作戦名は考えてあるのか?」

「作戦名、ですか」

 

 そう言えば考えていなかった。俺は改めて自分のプランの全貌を思い返してみる。

 

 この作戦は対象を一方的に受け身の立場にならざるを得ない状況に追い込み、そしてそれから脱することができないようにさらなる攻めをかけることが主眼に置かれている。

 

 つまり「攻め」と「受け」、それがキーワードと言えるかもしれない。

 

俺はそこから想起した単語を組み込んだ作戦名をハットンに告げた。

 

 遊園地中を武装警官たちが資材を担いで走り回っている。皆が俺の作戦に命を賭けているのだ、失敗する訳にはいかない。

 

「ショットガンの設置完了しました!」

「よし、では遠隔制御システムに繋いで下さい。専門家がいないなら、ダニーを頼って。あいつ、ラジコンくらいなら自分で作れる奴だから」

「了解しました!」

 

 コンピュータやメカに強いダニーは電気系統の手伝いに出ている。ダニーだけではない、ケヴィンも元軍人としてのスキルをあちらこちらで存分に振るい、レベッカだって発令所でロボコンダの情報をマークする補佐をしている。ここにいる全員がそれぞれ戦っているのだ、椅子に縛り付けられたギルバートを除いては。

 

「ねぇ、ライアン。一つ提案があるんだけど」

 

 キャサリンの役目は、遊園地の中央に指揮官たるハットンと共に鎮座して指示を飛ばす俺の代理として各地に出向いて様子を見たり細かい指示をすること。そんな彼女が、作戦第一段階の要からの帰りがけに俺に向かって得意げな笑みを見せつけてきた。

 

「どうしたキャサリン」

「向こうでこんな大きいチェーンソーが二つも手に入ったの。でもあたしでも流石に二刀流はキツイわ。そこで提案。ショットガンだけでなく、チェーンソーも一丁、『アレ』に付けてみたら?」

「……名案だ。確かにその方が内部破壊の効率は上がるな。よし、ショットガンよりも前、最先端に取りつけるように言ってくれ」

「了解よ」

 

 こうして少しづつ新たな工夫を盛り込みつつも、作業は進行する。

 

 必ず間に合うとは決して言えない速度かもしれない。だが、これはもとよりギリギリの作戦なのだ。総員が託す願いは、ロボコンダに一矢報いるならば少しでも太い矢を見舞ってやろうということなのである。

 

「隊長、ライアンさん! 駄目です、どうしてもあと十五分はかかってしまいます!」

 

 しかし、最後の最後で時間配分にやはり無理があったことが判明。覚悟してはいたが、ある程度順調に行っていただけに悔しさも身に染みる。

 

「何と言うことだ、あと五分で完了せねばならない予定だぞ!」

「申し訳ありません! しかし、資材の落下による負傷者が出てしまい作業効率が低下しまして!」

 

 もしこのまま迎撃体制を敷けないまま時間通りにロボコンダが来襲してしまったら、大勢の勇敢な警官たちが集結し、そして大量の危険物資も集積されている地が奴の狩場となるということだ。何としてでもそれは避けたい、何か手段は無いのか、そう苦悩していたその時である。

 

『ライアンさん、ロボコンダの襲来時刻を二十分延長しました!』

 

 発令所から、今までに無いほどに頼もし声で叫ぶレベッカからの通信が入った!

 

「襲来時刻を延長⁉ どういうことだ⁉」

『発令所のみんなで協力して、ネット上に偽情報を流布したんです。ロボコンダの予想進路上にあったゴミ集積場の周囲に大量の精密機器があるって! やっぱり予想通り、ロボコンダはネット上の情報でも精密機器の在処を探してたみたいです! 偽の書き込みを大量にしたら信じてくれました』

 

 ナイスアシストだレベッカと発令所の皆! でもネットのデマ流布は本来良くないことだから、皆もイカれたモンスターと戦う時以外は控えるんだぜ!

 

「二十分……それだけあればやれます、いや、やってみせます!」

 

 伝令の警官も通信を聞いてその頼もしさが伝染したように白い歯を見せ、漲る活力と共に持ち場へと戻っていった。

 

 そして時間きっかり二十分後、この場にいる者全て(ギルバートを除く)の想いを乗せた運命の作戦が、幕を開けた。


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