剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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「戦え、戦うんだ!」

 

 俺たちはホームセンターの敷地から出ると、早速路上でゾンビ共に遭遇。いつ空挺部隊が来るかもわからないので、上空にも注意を払いながら進むことにした。

 

「レベッカ、どっか車を調達できそうなところは?」

「そ、そうですね……新設されるショッピングモールの工事現場なんてどうでしょうか。ここから五キロのところなんですが、今日は工事が休みだったみたいで作業員がいなかったから、ゾンビもあまりいないようです」

「なるほど、土建屋の兄ちゃんたちならゴツい車もそこに放置してそうだな。よし、まずはそこをチェックポイントとして目指そう!」

 

 俺たちは第一の目的地を定めると、北に向かって走り始めた。

 

 まず最初に十字路でゾンビの群れと遭遇する。だが迂回などしない、戦って最短ルートで突破してやる!

 

「よし、まずはこいつを喰らえ!」

 

 俺は向かって来た三体のゾンビたちに向かって丸ノコの付け替え刃を手裏剣の要領で投擲した。正確に眉間に突き刺さりノックアウト。

 

「ひゅう、やるなライアン。シュリケンとは想定外だ」

「前世が日本人ならできて当然の芸当さ。それより、ダニーのそれは?」

「ああ、こいつかい?」

 

 ダニーは俺の疑問に応えて、手にしたボウリングの玉を投擲、迫り来るゾンビ四体の脚の骨を打ち砕いてストライク。

 

「まさかそんな使い方するとは」

「ああ、でも今ので使い切っちまった」

「お前馬鹿か」

「だが、銃と鈍器はまだまだあるぜ」

 

 ダニーはショットガンを普通に構えた。

 

 対して女性陣はどうか。

 

 キャサリンはまあ、相変わらずの超人っぷりだった。流石はサーファーである。

 

 中距離の相手に対しては両手に持ったバールを投げつけて正確に頭部を破壊するか、あるいは手足を粉砕して戦闘力を奪うかしているが、空中で円を描きながら飛翔するバールの姿は一種美しさを感じさせるほどに見事なものであった。そして使命を果たしたバールは逆方向に宙を裂き、キャサリンの手元に戻って来る。ゴム紐で手首と連結されているからだ。

 

 だが、彼女が敵ゾンビ集団に積極的に切り込んでいっている以上、中距離戦だけで済むわけではない。敵の数も多く、バールで倒せなかった奴らが肉薄してくる。

 

 そこで輝くのが彼女のチェーンソー。バールを手元でスタイリッシュに回転させながら工具ベルトに戻すと共に背中からチェーンソーを抜き、その勢いのままに接近してきたゾンビを両断する!

 

「チェーンソーは友達! チェーンソーがあれば何も怖くない!」

 

 頼もしい限りである。

 

 彼女の親友であるレベッカも、拳銃とクロスボウを上手く使い分けながらも奮闘、前衛のキャサリンをうまい具合にサポートしていた。

 

 そしてケイシーはスチールガールとしての鎧の姿に変身した上で、次々とゾンビの首をへし折っていく。たまに肩から小型ミサイルも撃つ。そんな武器を収納できるスペースがあるようには見えないが、現に撃ってるのだから仕方が無い。

 

「君たちもやるな!」

 

 俺は俺で丸ノコ手裏剣投擲しつつ近接戦闘ではパイプ椅子での打撃攻撃をやっていたが、やはりパイプ椅子はかさばる。威力は申し分ないのだが、まだ道が長いことを考えると、武器を変えた方が良さそうだ。

 

「ライアン、良いところに木の棒が落ちてたぜ!」

 

 ゾンビをバットで撲殺しつつダニーが木の棒を投げてくれた。そう、やっぱり俺の手に馴染むのはこいつだ!

 

「礼を言うぜダニー! これならまだまだ戦える!」

 

 俺が木の棒を振りかざすと、少しでも掠ったゾンビは恐れおののくようにして一歩後退した。やっぱり効いている!

 

「ライアン、ダニー! 上から来るわ、気をつけて!」

 

 と、キャサリンが左手にチェーンソーを持ったまま何と片手でライフルを構えて空中から襲いかかって来た空挺ゾンビを撃墜し始めた。それでも着地した空挺ゾンビはチェーンソーの餌食。サーファーだから仕方が無い。

 

 俺たちも追従して手持ちの銃を以てして可能な限り空挺ゾンビを空中で撃破するよう試みるが、それでもやはり何体かは着地を許してしまう。しかしそこは重装備の空挺装備、パラシュートを畳んでいる着地直後を狙えば意外と簡単に倒すことができた。

 

 こうして、多用な武器を駆使して目的地までの半分を越したくらいのところまで来たところでゾンビの気配がだいぶ無くなったため、とりあえず小休止を俺たちは取ることにした。

 

「さて、今後のためにも今のうちに色々と確認しておこう」

 

 俺たちは無人の喫茶店の客席に腰掛けた。

 

「このパンデミックの元凶が空からやって来たというのはわかった。でも、どうして空挺部隊がウイルスに感染してるんだ? 何のために飛んでるんだ? 輸送機のパイロットも感染してるのか?」

「うーん、それだが、ここに来た時にカーラジオで何か気になること言ってなかったか?」

 

 疑問に応えてくれたダニーの言葉を聞いて、俺はさっきのラジオの内容を思い出した。

 

「レンゴクとかいうので言ってたあれか。空軍基地で、何かヤバいものの輸送を始めるって」

 

 だとすれば、それがウイルスなのだろうか。だがそれでは、飛行機の乗員が感染していたことの説明がつかない。

 

「……そのことなら私たちにも心当たりがあります」

 

 とケイシー。

 

「何、本当か?」

「はい。詳しいことは先生にお願いします」

『うむ。我々が、某軍事企業の手先を追ってここまで来たというのは話したな? では疑問に思わないか? 何故、その軍事企業が事前にこの事態がこの街で起こることを予測して潜り込めたのかを。実は、そのウイルスは他の某製薬会社が米軍と協力して作ったもので、サンタクラム空軍基地から輸送されるはずだったのだが、積み込み前に漏出して、基地内で感染が広まってしまったらしい。幸いにも基地の滅菌は成功したようだが、既に輸送機は乗員に保菌させたまま飛び立った後だったのだ』

 

 まーた米軍は怪しげな会社の口車に乗せられてナチスを笑えない面白ビックリ兵器に手を出していたのか。こういう話を聞けば聞くほど、この後世世界米国の安全保障が心配になりまくるのだが。日本なんて、一般国民こそ平和ボケしてるようで、実際には自衛隊は怪獣上陸に備えてメーザー兵器を大量配備し、都内の在来線も有事の際には特攻兵器に転用できるように作られているというのに。

 

「なるほど、それでその騒ぎを嗅ぎつけた軍事企業が、奴らが降下するなら進路上にある最初の一定規模以上の街ってことで、このニュースタング市に予測をつけて、先回りしたと」

『そういうことだ。奴らはホームセンターにいただけが全てではない。私たちはこれから街中で奴らの残りを探して、チップも奪わねばならないのだ』

「そう言えば、何であの輸送機はこの街の上空をひたすら旋回してるの? 別にここがあいつらの本来の目的地って訳でもないんでしょ?」

 

 キャサリンが新たな疑問を挙げる。確かに、たまたま進路上にあったでは説明のつかないことだ。

 

『私にもわからん』

「あの……もしかしたらわかるかもしれません」

 

 無責任にも質問を突き放すクラッシュ博士に代わってレベッカが挙手した。

 

「本当? 流石ベッキーね。聞かせて」

「はい。彼らは熱を感知するんですよね。っもし輸送機のパイロットも感染しているとしたら、あちこちに熱源が散在している街の上空でとどまってしまうのもおかしくはないんじゃないでしょうか。その場合は、街のどの熱源よりも大きな熱があれば輸送機を誘えると思いますが……」

 

 なるほど、確かに理にかなっている。俺たちはとりあえず、今後行動するための指針を安定させるため、ここで成された結論を前提条件として捉えることにした。

 

「そういえば、ヘルメットくらいは脱がないんですか? スーツ全部は大変かもだけど、ヘルメットくらいは小休止の時に脱いだ方が楽になるかと思いますよ」

 

 レベッカが悪気も無く禁句に触れてしまった。しまった、このことをキャサリンとレベッカに伝えてなかった。

 

「……脱げるものなら脱ぎたいですよ」

 

 対してケイシーは、ものすごーくげんなりとした、人生に疲れ切ったような遠い目を湛えた表情で応えた。

 

「え、脱げないんですか?」

「はい、脱げません」

「どういうことですか博士⁉」

『本当は着脱可能にしたかったが、予算が無くて手が回らなかった。とてもすまないと思っている』

 

 相変わらず悪びれない博士。

 

「ご近所の博士の研究所に入り浸ってたのが私の運の突きだと思ってますよ……。そうですよね、一介の女子小学生にできる研究のお手伝いなんて実験台くらいですよね」

 

 自分の人生を狂わせた元凶を軽く皮肉るケイシー。完璧に悟ってる感があった。

 

『そんなことはない。君は将来有望だった。だから手伝いも頼んでいたのだ』

「で、将来有望な女の子を全身貞操帯に封じ込めたと」

『私は君の正義感が強くて真っ直ぐな性格を信頼していたのだ。だから正義の力を授けた』

「私の意思は全く考慮してくれませんでしたけどね。……挙句、パパとママも巻き込まれましたし」

『本当に申し訳ない』

 

 真の絶対悪とはこの博士を言うのではないかという気がしてきた。

 

 ともあれ小休止もいいところなので、俺たちは再び戦いに戻ることにした。


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