剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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「いやっほう! つくづくオレの運転テクは仲間を救ってると実感するぜ、みんな、オレに惚れて良いんだぜ?」

 

 ゾンビ密集地帯からの脱出に成功したダニーが浮かれていると、フロントガラスに空挺ゾンビが血のりをまき散らしながら落下、激突の勢いのままガラスを突き破って上半身を車内に突っ込んできた。

 

「う、うお! 来るな! 運転の邪魔だ、どけ!」

 

 空挺ゾンビはハンドルから手を離せないダニーに掴みかかろうとするが、すんでのところで何とか俺が銃を抜くのが間に合った。顔面に拳銃弾を受けた空挺ゾンビは車体から転げ落ち、車輪の一撃で止めを刺されることとなった。

 

「まずい! どこの空を見ても空挺ゾンビだらけよ! この街の空はゾンビで埋め尽くされているわ!」

 

 車窓の外を見ると、今まで以上に降下作戦が本格化していた。三百六十度前方角に宙を舞う空挺ゾンビの姿が見える。輸送機の最大収容人数がどれくらいだったかを気にするのはきっとご法度なのだろう。

 

「このままではゾンビが風に乗って街の外にまで拡散してしまうのでは……」

『ああ、そうなれば一挙に始末するのは困難になるな』

 

 外界の終末へのカウントダウンが近づいている光景を前に絶望に駆られようとしていると、俺の携帯電話がこんな時なのに突如着信音を発した。番号は非通知だった。

「……もしもし、ライアン・ブラウンです」

『ライアンか? すぐに出てくれて良かった、手短に済ませたい』

 

 しかしいざ出てみるの、俺の耳に飛び込んできたのは聞きなれた声だった。

 

「クレア? 非通知だったから一体何ごとかと思ったよ」

『ああ、普通の回線では言えないことだからな……秘密の回線で電話させてもらっている。……お前たちは確か、今日キャンプに行くと言ってたな? ニュースタングを通るルートだったと思うんだが、もう通過済みか?』

「ああ、今丁度ニュースタング市で混雑に巻き込まれてる状況だ」

『……そうか。なら話は早い。単刀直入に言おう。もうすぐ空爆が始まるから一刻も早く脱出してくれ。州軍の筋から入手した噂話だが、信憑性は高い』

 

 我らが祖国のお家芸来ました。

 

「まさか核攻撃?」

『いや、流石にそこまではいかないらしい。燃料気化サーモバリック爆弾を使うらしい。既に連邦空軍のB-1戦略爆撃機二機がそっちに向かってるとのことだ。早く逃げた方が良い』

 

 その滅菌方法が証拠隠滅を兼ねていることは言うまでも無いだろう。

 

「わかった。危険を冒してまで忠告してくれてありがとう、クレア。何とか脱出してみよう」

『ああ、気をつけてな……』

 

 俺は電話を切って、仲間たちに向き直る。

 

「お、幼馴染みの州兵姉ちゃんからかい、ライアン?」

「ああ、彼女が機密情報を流してくれた。もうすぐこの街は焼き払われるから脱出しろってな」

 

 俺はクレアから聞いた話を手短に説明した。

 

「ふうん、それは大事になってきたわね。……でも」

「ああ、この拡散の仕方じゃあ、空爆だけではどうにもならないかもしれない。それこそ、核兵器を使わないと完全に滅菌できないだろう。すでに郊外まで拡散してるかもしれないし、何よりあの輸送機が他のところに飛んで行ってそこでゾンビをまた投下してしまうかもしれない」

「あの輸送機は街の熱に釣られてこの上空を滞空している……となれば、街の機能が完全に死んだら、他の熱源に行くかもってことね。地上のゾンビたちももちろん」

「ああ、そして軍は戦闘機を派遣しない辺り、その可能性を考慮するにはまだ至ってないらしい。このままじゃあ、なし崩し的に本当に国内で核を使う事態になっちまう」

 

 もしそうなれば、この国はどうなるのか。前代未聞の大混乱に覆われるだろう。また、ある程度拡散してしまえばただ一発の核で全てを終わらせられる保証すら無くなってしまうのだ。

 

「……こうなったら、俺たちでこの事態をどうにかしよう」

 

 またしても望まぬ活躍をしてしまうのは不本意だが、アメリカの危機かもしれないのだ、仕方が無い。

 

「マジかよ……一体どうやるってんだ?」

「レベッカ、この街の地図を今一度見せてくれ」

「あ、はい。これです」

 

 俺はレベッカの示した地図を見て、やはりな、と唸った。

 

「ど、どうするんですか?」

「ここから二キロ離れたところに雑木林がある。サッカーコート三面分の面積だ。ここに放火しよう」

 

 放火、という不穏な単語に車内が凍りつく。何だよライアン、とうとうイカれたか、とでも言いたげだ。

 

「……奴らは熱に反応するが、どうやら人間の体温とか適温でなくても良いようだ。さっき、ボンベ爆破でゾンビを何体か燃やしたら俺に見向きもせずに共食いを始めた。つまり奴らは、より大きい熱量に優先して釣られていくんだ」

「なるほど、サッカーコート三面分の林を燃やせば今のこの市内では一番の熱量になる。そうすれば全てのゾンビはそこに釣られ、郊外の奴らも街の中におびき寄せられる、って訳ね。道理に適ってるわ」

 

 流石と言うべきか、一番最初に放火の意味を理解したのはキャサリンだった。

 

「そうだ。それに輸送機も釘付けにできるかもしれない。パイロットゾンビはおそらく、街を俯瞰して見てるから、同程度の熱が散在する街のどこにも降りずに、旋回を続けてる。街のどの熱源よりも巨大な熱量を発見すれば、絶対に突っ込んできてくれるはずさ」

「決まりね。じゃあ皆、雑木林に向かうわよ。ダニー、さっさと運転しなさい」

 

 こうして俺たちはいまいちスケールが小さいのに、もしかしたら国の存亡に関わるかもしれない個人的な作戦を敢行することとなった。


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