剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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 雑木林の周囲にゾンビの大集団は無かった。少数のゾンビが点在しているだけで、作業はしやすそうだった。だが相手は空挺ゾンビ。いつどこで空襲されるかもわからないから、注意が必要だ。

 

「よし、この辺りに止めろダニー」

「おう」

「あっちにガソリンスタンドが見える。タンクローリーが丁度停まってたらビンゴだ、そいつを引っ張って来い」

「お前は毎度のように、オレに多種多様な乗り物の運転を押し付けるな、ライアン」

「ふん、まんざらでもないんだろ?」

 

「あ、バレてたか? ま、オレ様を頼ってくれんのは嬉しいことだ、惚れても良いんだぜ?」

 

 ダニーは相変わらず調子の良いことを言いながらガソリンスタンドに向かって行った。

 

「さて、俺はボンベを探してくる。キャサリンとレベッカは脱出に向けてこの車を守れ、ケイシーは俺に同行してくれ」

 

 俺もすぐにケイシーを伴って駆け出した。車の守護を任されたキャサリンも、喜々としてチェーンソーのエンジンを点火する。

 

「探すのはボンベですか」

「ああ、時間が惜しいから少しでも一気に燃え広がるようにしたいからな。ダニーにはこの雑木林の外縁にできるだけガソリンを散布してもらうが、それの点火にボンベの爆発を使いたい。どこまで違うかわからないが、単にマッチで火を着けるよりは勢い良さそうだし、近づかなくて済むから安全だ」

「油を撒ききれなかったところに点火するのにも使えますしね」

「そういうことだ。二つは確保したい。でも俺一人じゃ一つしか持てないからな、ついて来てもらったんだ」

「わかりました。力を尽くします」

「助かる」

 

 俺たちは雑木林の外縁を半周分ほど走ったところで、都合よくガス会社の出張所を見つけた。だがそのエントランスの中にはゾンビが犇めいていた。

 

「ケイシー、行くぞ!」

「了解です」

 

 俺とケイシーは迷わずにガス会社に突入。

 

 俺は木の棒を振りかざしながら拳銃を発砲、温存していた最後の丸ノコ手裏剣も投げつくす! 

 

 ケイシーは練乳を一気に飲み干してたっぷりとエネルギーをチャージした上でパワードヘルメットのブースト機能を発動、圧倒的な処理速度と加速された挙動を以てして、群がるゾンビたちを、何と今回は首狙いに固執することなく、優位なパワーを以てして速やかに殲滅していった。

 

「よし、クリア! ボンベを運び出せ!」

 

 ゾンビはまだ建物内に残っているようだが、全員を相手にしている余裕は無い。出入り口付近の中型ボンベを俺は担ぎ上げ、ケイシーも小柄な体躯からは想像できない力で大き目のボンベを持ち上げ、二人で建物を後にした。

 

「ヴァ、ヴァァアア……」

 

 建物内から聞こえる呻き声が大きくなってくる。奥の方や二階に隠れていたゾンビが俺たちに気づき、追って来ようとしているのだ。

 

 だが遅い! この段階で俺たちの方が優位だ!

 

「燃え尽きろ!」

 

 俺は手持ちの最後のカセットボンベをガス会社エントランスに投げ込んで発砲。爆発したカセットボンベは至近の中型ボンベに誘爆し、そして建物内のボンベたちが立て続けに連鎖爆発を起こしていった。これで屋内にいたゾンビは全て丸焼きだ。

 

「ライアン! ガソリン撒き終わったぜ!」

 

 ダニーが血のついたタンクローリーに乗ってやって来た。

 

 俺に見える範囲内にはガソリンを撒いていない辺り、死角になるところで撒き切ってしまったようだ。

 

「お疲れ。やっぱり足りなかったか?」

 

「ああ。だが、撒けてないのはこの近辺だけだ」

「わかった。ならばここにボンベを置こう。ケイシー、その大きいボンベそこに置いて」

「はい、了解です」

「よし行こう」

 

 俺はケイシーが設置したボンベを拳銃で爆破し、辺りの木々に火が着いたのを確認しながら言った。

 

 俺たちはボンベを爆破するとすぐにダニーのタンクローリーに乗り込み、もとのバンの報に向かって走った。

 

 バンが見えてくる。バンは既に多数のゾンビに囲まれ、キャサリンがレベッカの援護射撃を受けながら何とか守り抜いているが、如何にキャサリンと言えどやはり前衛一人でこの数を相手にするのは無理があったのか、既に彼女は珍しく披露を顔に滲ませていた。手にしたチェーンソーも既に刃の回天が緩慢になり始めている。

 

「キャサリン! 避けろォ‼」

 

 ダニーはタンクローリーを一旦加速させてからブレーキを踏みながらハンドルを目一杯に切って車体をドリフトさせ、その豪速と質量、そして車体の長さ全てを活かして群がるゾンビたちを薙ぎ倒していった。

 

 それにより、バンが発進するには十分な空間が確保された。

 

「みんなバンに乗り込め! ガソリン散布とボンベの爆破は終わった! あとは逃げながらこっちのボンベで着火するばかりだ!」

「わかったわ!」

 

 邪魔なゾンビが残っていれば車窓からの銃撃で強引に排除、一体や二体ならばさらに強引に轢き殺しながら発進した俺たちのバン。

 

「ライアン、ここがオレが撒いたガソリンベルトの真ん中ら辺だぜ」

「よし、ならここから燃やせば一番効率良く燃えるな。まだゾンビは追って来てるが、手短に済ませちまおう」

 

 俺はダニーが指定したところに車内からボンベを転がし、そして発車しある程度距離を取ったところで同時にそれをライフルで狙撃。

 

 辺りを轟かす爆炎はその勢いのまま自らの力の一端に周囲全てを飲み込み、同化するようにしてガソリンを燃やし、ベルト状に巻かれたガソリンは地を奔る勢いで燃え広がる。そしてやがて、森林の外縁部が見事に炎の輪に囲まれた。 

 

炎の輪が完成する頃には既に、中央に向かっての勢力拡大も始まっており、雑木林全体が炭になるのも時間の問題である。

 

「見て! ゾンビたちが惹かれてるわ! 大成功よ、ライアン!」

 

 黒煙を上げて天を焦がさんばかりに轟々と燃え盛る雑木林に向かって、この場に通じる全ての路地からゾンビたちがふらふらと熱にでも浮かされたようにやって来た。成功だ、比喩でなく、本当に熱に浮かされて集まって来たのである!

 

「よしダニー、俺たちはトンズラと行くぞ! あそこの道はまだゾンビが少ない。あそこから脱出する」

「よっしゃ任せとけ!」

 

 俺たちのバンは熱気に後押しされるようにして加速する。多数のゾンビ共とすれ違うが、皆俺たちには見向きもせず一様に大火を目指していたため、本格的な戦闘は要さず、たまたま進路を塞がれていても、車上からの銃撃でどうにでもできた。

 

「まさかここまで上手くいくとは……」

 

 振り返って見てみると、歩いて火に入る冬のゾンビたちが全身火だるまになって共食いしながらもどんどん業火の中心に向かって行進していた。

 

 頭上から爆音が聞こえる。見上げてみるとその主は件の輸送機たち。

 

 やはり輸送機パイロットも巨大な熱量に惹かれてしまうようで、空を飛んでいた輸送機が次々と吸い込まれるようにして炎の中に全力で突っ込んで行き、次々と爆発していく。これでは収容されている残りの空挺ゾンビも無事では済まないだろう。

 

「あ、爆撃機が……」

 

 キャサリンが上空に空軍の爆撃機の機影を発見した。恐らく旋回して様子を伺ってから空爆を始めるだろう。爆撃機のパイロットは森林火災に群がるゾンビを見てどう思うだろうか。

 

「ダニー、かっ飛ばせ! 空爆が始まる!」

「よし来た! しっかり掴まってろ!」

 

 俺たちが市街地から脱出して少しすると、俺たちの背後でいくつもの中型のキノコ雲が発生、ニュースタング市は消滅した。


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