剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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俺たちが無事にホームセンターに着いた時には、既にそこには全く生きた人間は残っていなかった。多くがサメの餌食になり、それ以外は逃げたのだろう。

 

 そして同様に、物資もさほど多くは残っていない。きっと、俺たちと同じような考えの人たちが持ち去ったのだろう。しかし、この人数に行き渡らせるには充分だ。

 

「おいおい、店員避難済みじゃあオレたち万引き犯じゃん」

「聞こえ悪いこと言わないで、ダニー。これはツケってやつよ。レジに適当なメモでもおいておけば良いでしょう、緊急時なんだし」

 

 ダニーとキャサリンの会話に、物は言いようだということを改めて実感させられる俺。

 

 俺たちはその後、各々で武器を調達した。

 

 状況がどう変化するかわからない中で長くここに留まる訳にはいかないから、みんな特に長期的な戦略とかは考えずにほとんど直感で良さげな武器を選んでいる。そういう俺も、何やかんやで安定性が高いというか、まあ、クセは無いだろうという理由で、鉄砲店に置いてあった適当な自動拳銃を手に取った訳だが。

 

「おう、ライアンはピストルか。じゃあ弾幕は任せるぜ、オレは重い一撃とかやってやるから」

「ふーん、まあ、妥当よね」

「……そういう君らは、やたらとごついの持って来たな」

 

 キャサリンとダニーも既に自分の武器を手にしていたが、二人共何と言うか、それらしいといえばそれらしいのだろうが、この状況で実際に使ってみて、本当に使い勝手が良いのかといえばよくわからなさそうな代物を選択していた。

 

 ダニーはショットガン。この州じゃあその辺で手に入るものではあるが、空から降ってくる大量のサメ相手だと、連射の利かない銃はどうかなーという気もする。まあ、それでもショットガンを肩に担いでドヤ顔でこっちを見ているダニーは、何気に絵になっていたりするのだが、それがかえって腹立たしい。

 

 キャサリンの方が携えているのは、チェーンソーだった。なるほど、常日頃からあらゆる災害に備えていると豪語している女の子の選択だと思うと、そんな胡散臭い装備も何だか説得力を帯びて……こないな。

 

「おーい! サメが来たぞーッ! ……ぎゃーっ!」

 

 しかし、武器を速攻で選んだのは正解だったようで、早くもサメがここにも来襲してきたようだ。第一声を上げた人はまだ装備選びが終わっておらずそれが祟ってしまったのだろうか、悲鳴の後には何も言わなくなってしまった。

 

「ライアン、ダニー。ショッピングはここまで、行くわよ! 戦いながら走れば、ここから街まですぐだから!」

「わ、わかった!」

 

 俺たち三人は早速ホームセンターの外に向けて走り出す。その途中で、他の生徒たちを拾い上げ、警告の叫びを響かせながら。

 

「うお、結構来てるぞ!」

 

 建物の外に出てみると、空には結構な数のサメが! これはおそらく、数キロと離れていない市街地の方にも影響があるだろう。

 

 しかし、どうもサメの降り方にやっぱり違和感を感じる。毎回同じ方向から飛んでくるというのもそうだが、それだけでなく、何故か、一度に沢山のサメが宙を舞うと、その後しばらく経ってから再び同じくらいの数のサメが舞い上がる。そのサイクルを定期的に繰り返しているように思えるのだ。――そう、まるで人為的に操作されているように。

 

 しかし、現段階では他のみんながそれに気づいている様子は無い。当然だろう、みんな今は自分の身をかばうことで精一杯な状況なのだから。

 

 だから、そこで俺は気づいた。そうか、これがケントも期待していたという、客観的に見れる力というやつなのかと。

 

「よーし、一気に駆け抜けるわよ! みんなあたしに続けェ!」

 

 俺たち以外の生徒がある程度出てくると、キャサリンは手にしたチェーンソーのエンジンを始動させながら、一番に賭け出した。

 

「キャサリン、危ない!」

 

 そんなキャサリンに向かって一直線に飛来するサメが! しかしキャサリンは臆しない。

 

「やぁぁぁあああああッ‼」

 

 キャサリンは飛んできたサメに正面から挑んでいき、高速回転する鉄の牙を、餓えた生の牙を閃かせる生物の鼻先にめり込ませる!

 

「てぇやぁぁぁぁあああああッ‼」

 

 キャサリンはほとんど動かない。しかし刃を突き立てられたサメは慣性の法則にしたがってそのまま直進し、鼻先から尾びれにかけて、きれいに真っ二つに裂かれてしまった。

 

「やぁ‼」

 

 二枚に下ろされたサメが自分の後ろに通過すると共に、俺たちの方を振り向いて気合いに満ちた声を張り上げるキャサリン。

 

 それを見た生徒たちの多くは、自分たちでもサメに勝てるのだ、そんな希望が目に見える形となって現れたことに心を震わせた。俺とて例外ではない。

 

 そして各々がその手に持った多彩な武器を強く握り締め、必勝の叫びと共にホームセンターの外に向かって一斉に駆けだした。

 

 市街地は、すぐそばだ。

 

 無数のサメが空から躍りかかる。

 

 俺は両手に持った拳銃を天に向かって突き出し、本能のままのとでも言うやつだろうか、接近してきたサメに対して、直感的に自らの身を護るべく、敢えて何も考えずに引き金を引く。それを繰り返しながら疾走する。

 

 するとどうだろう、対空目標であるにもかかわらず、結構意外な確率でサメを撃墜することができた。普段の射撃スコアを考えると、かなり腕が上がっているようにも思える。

 

 これが生存本能の力というものなのだろうか。

 

 他のメンバーも同様に奮闘している。

 

 ダニーは持ち前の度胸で複数の敵を存分に引き付けた上で、散弾で一網打尽にしたり、俺のように火力が足りない仲間が大型のサメと対峙した時に駆け付けて、ショットガンの重い一撃を見舞ってくれたりしている。

 

 キャサリンはというと、当然のように重々しいチェーンソーを的確に振り回し、群がるサメを手当たり次第に両断している。しかし、あれほどの速度で飛んできた重量級のサメを何度も瞬間的に切断しているようでは、チェーンソー自体もそう長くは持ちそうにない気がするのだが、何だかキャサリンの戦う姿を見ていると、そういう細かいことはどうでもいいように感じられてくる。

 

 そして、俺たち三人の後に続く生徒たちも、それぞれがそれぞれの得物を手に戦っていた。

 

 一番多いのは、やはり金属棒を使う者だろう。鉄パイプやバッドは、少なくとも飛び道具を持たない野獣相手には安定した武器なのかもしれない。その次に拳銃やアーチェリー用の弓といった遠距離武器を使う者が多く、他にはピッチングマシーンでボールを投擲する、灯油を使った手製火炎放射器で焼き払うなどといった変わり種も見られた。

 

 しかし、やはり最初の優勢は勢いによるものが大きかったのだろう、市街地が目と鼻の先というところまで来たところで、俺たちは次第にサメの軍団に押され始めた。

 

「畜生、あとちょっとなのに……! ダニー、キャサリン、生きてるかァ⁉」

「ああ、何とかなァ……」

「あたしは大丈夫、でも、みんながピンチ気味よ! サメの勢いは止まらない!」

 

 俺たち三人こそ、自らの身を守る分には支障を抱えるに至っていなかったが、他の生徒たちはそうもいかない。ナードは体力と気力の消耗で敵に隙を見せ、ジョックはいつものように優先的に餓えた牙のターゲットにされてしまう。

 

「キャー! 助けてー!」

「うわわ、こっち来るなサメ野郎!」

「ぐわぁぁああ! 腕が! 俺の腕がぁぁああ!」

 

 ここに来て既に他のメンバーの半数近くが犠牲となっているが、俺たちに彼らを庇うほどの余裕も無い。あるのは先陣を切って彼らの残り少ない闘志を引っ張り出す勇気くらいだ。

 

「くそ、こう言っちゃ何だが、大人数は思いのほか不利だ!」

 

 なまじ大勢で動いているだけあって俺たちは目立ってしまっているようで、サメに襲われるリスクも高まっているようだ。

 

 俺たち以外の大勢のクラスメイトを囮にして俺たちだけ街に駆け込めば確実に助かりそうなものではあるが、そうもいかない。だが、それにしても限界は刻々と近づいているように思えた。

 

「もう、こんな時に限って天気が! あの予報士嘘ついたわね、ハイキング日和とは何のことやら!」

 

 群がる三匹のサメをチェーンソーの一閃で瞬時に薙ぎ払いながらキャサリンが漏らす。

 

 そう、さっきまでは風も穏やかな快晴ピクニック日和だったのに、つい十数分前から急に雲行きが怪しくなり、風が強まり始めたのだ。

 

 ただでさえ降ってくるサメの量は増えているというのに、風が吹いてきたせいで宙に舞うサメはどういう訳かその風を上手く利用して、空中をトリッキーに機動しながら襲撃してくるようになったのだ。

 

 今までは単純な放物線で躍りかかってきたサメたちが風に乗って一工夫された襲い方をしてくる、これはこういうイレギュラーな事態に弱い者にとってはこの上無く致命的だった。

 

「沿岸部ではサメが竜巻に乗ってくるって言うけど、こんな感じなのかしらねっ⁉」

「てか、この分じゃ街も危なくねぇか⁉」

「ええ、もしかしたら壊滅してるかもっ!」

 

 街まで数キロの地点でこの有様となると、たとえ辿り着けたとしても行政区画としてちゃんと機能しているのか、俺たちが助かるための足がかりが残っているのか怪しい。

 

「お前たち、伏せろッ!」

 

 しかしそんな時、やたらとわかりやすく頼もしい感じな男の声が俺たちの耳に響いた。

 俺は反射的に地面に伏せ、仲間にもそうするよう叫んだ。

 

 そして次の瞬間、拳銃やショットガン、ライフルなどの様々な火器による弾幕が俺たちの頭上に展開され、その時群がっていたサメのほとんどを地上の骸に変えた。

 

 弾丸が飛んできた方向に目を向けると、保安官らしき体格の良い壮年の男性に率いられた警察官たちが銃を構えていた。彼らの背後には二台のパトカーと一台のマイクロバスも控えている。

 

「来い! 早くバスに乗れェ!」

 

 保安官らしき偉丈夫が手招きする。

 

 助けを断る道理は無い、俺はすぐに仲間たちに号令をかけ、次のサメが来る前に現時点で生き残っているメンバー全員をバスに乗せた。この時点で既に俺たちは半分もの仲間を喪失してしまっていた。

 

 俺たちが乗り込むと、警察官たちもすぐにパトカーとバスに分乗し、市街地に向かって車を転がした。


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