ワーレンを拠点とする傭兵のシーザ。今日の仕事は商人の護衛だ。異国から来た船からはいろいろな人や物が降りてくる……

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ファイアーエムブレムのシーザとラディのワーレン時代での話です。



ワーレンの港で(シーザとラディ)

 シーザはワーレンの港の波頭に片足をおき、海の彼方を見ていた。

潮風が彼のくすんだ金髪を強く撫でる。カモメが彼の回りを飛び回る。

 

「……」

 

 シーザは無言でカモメ達に向かって餌を振り撒く。

カモメはその餌を我先にと口に飲み込ませる。

 

「到着したみたいだな……」

 

 シーザは波頭から足をおろし、巨大船の停留所に向かって歩き出した。

彼の背中に見える海には、巨大な船が陸に向かって迫ってきていた――

 

 

 

「シーザ、どこへ行っていた?」

 

 太った商人らしき人物がシーザを呼び止める。シーザは彼に軽く手を振る。

 

「すまない、少しボッーとしていた」

 

 シーザは答え、商人の横に着く。

商人は「しっかりしてくれよな」とブツブツと言い、商売の準備を始める。

 

 異国の巨大船が港に停泊する。

巨大な帆船ではあるがアカネイアでは見かけない船だ。シーザはこの船が「ジャンク船」という名の船であることを知っている。

遠い遠い「倭国」とかいう辺りからきた船だ。

 

 商人がその船から降りてきた商人と取引を始めた。

シーザの役目はその商人の護衛だ。

今回の取引相手は武器商人らしい。

その商人は聞き慣れない言葉でシーザの雇い主の商人と激しい交渉している。

 

「金塊二十では少し高すぎないか?」

 

 その言葉に対して、異国の商人は甲高い声で「安いくらいだよ!」と囃し立てたいる。

 

 シーザは少しならば異国の言葉が解る。

異国の商人は珍しい形の曲刀を何本か商人に売り付けようとしてるようだ。

シーザが見た限り、その曲刀は商人が言う位の値打ちがあるように見える。

以前、この異国の商人はガラクタ同然の壺やらなにやらを売り付けようとしたため、油断が出来ない。

 

 シーザは雇い主の商人にそっと耳打ちした。

商人もシーザとは長い付き合いで彼の事は信頼している。

商人はシーザのアドバイスに納得したようだ。その異国の商人とまた激しい交渉を再開した。

 

 シーザが交渉を続ける商人の傍らで船から降りる人々を何気なく観察する。

最初に降りてきたのは傭兵風の大男と眼帯を着けた女の剣士だ。

 

「今回の仕事は儲かったなあ!戦利品も沢山手に入ったしよ! ガハハッ! 」

 

「またすぐにギャンブルでスルんしゃねえぞ、親父!」

 

 豪快に笑う大男を眼帯を着けた女が気っ風の良さそうな声で叱る。

 

「だけどよ! 見ろよ、この立派な大斧! これは見るからにすげえ魔法の斧だぜ!」

 

 大男は赤く光るグレートアックスをこれ見よがしに頭上に振り上げる。それを見てシーザはニヤリと笑った。

 

 大男が自慢しているのは魔法の斧は斧でも、呪いのかかったグレートアックスだ。

シーザは武器商人の護衛をすることが多く、その為、武器についてはちょっとした専門家と言える。

シーザはその大男が無事に生き延びられる事を心の中で祈ってやった。

 

 雇い主の商人と異国の商人との商談は続く、どうやらあの異国の曲刀の件は片付いたようだ。

曲刀はロープでぐるぐる巻きにされ、隅に置かれている。

 

 その曲刀をじっと見詰めている異国風の剣士の姿があった。

鋭い切れ目の男で艶やかな長い黒髪をしている。

 

「倭人か……?」

 

 倭人とはシーザが勝手に遠い異国からやって来たと思われる人間に対して使っている別称である。

その男はしばらくその曲刀を見ていたが、その内にワーレンの街中に去っていった。

その男の長い黒髪を見ながら、潮風で痛まなければいいなと余計なお世話をシーザは心の中で言った。

 

 

 

 商人を護衛する時間が終り、シーザは自分の宿に戻って行った。

宿のドアを開けると騒々しい笑い声と酒の匂いがした。シーザはあるテーブルに座っている少年の姿を見つけるとそのテーブルに近寄って行った。

 

「お帰り、シーザ」

 

 少年は骨付き肉をかじりつきながら、シーザにそう言った。

その少年は革のベストとズボンという姿で、腰には小剣を帯びているという出で立ちである。

少年は店員にシーザの分の食事を注文すると、骨付き肉を食べながらシーザに話しかけた。

 

「シーザ、今日の仕事はどうだった?」

 

 シーザはコップにはいった水を飲みながら少年に答えた。

 

「特に問題は無かったよ、ラディ。今度お前も一緒に護衛の仕事をしないか?」

 

 ラディと呼ばれた少年は二本目の骨付き肉を食べながら答えた。

 

「へへっ、俺には護衛の仕事は向いてねえよ、じっとしているのが苦手だからよ…」

 

 ラディは口に付いた油を拭きながらそう照れ笑をした。

シーザは運ばれてきた食事に手をつけながら少し厳しい声で言った。

 

「そんな事をいっても、近所の小僧達に剣の稽古をするなんて仕事は仕事の内に入らないだろう、傭兵の主な仕事は護衛が主なんだ、選り好み出来るのは極一部の凄腕だけだぞ」

 

 シーザはパンをスープで口に流し込み流し込みながら、ラディを叱った。

ラディは苦い顔をして三本目の骨付き肉に取りかかった。

 

「わかったよ、シーザ。今度俺もシーザの仕事に連れていってくれよ」

 

「よし、その粋だ、明日からワーレンの街の警備に付く、お前も一緒にこい」

 

 シーザはパスタと呼ばれる麺を口に入れながら、酒を飲み始める。

 

「へへっ、シーザとは久しぶりの仕事だなあ」

 

 ラディも酒に手を伸ばした。

彼は酒をコップに入れて水で割って飲み始める。

 

「最近、また戦争が始まったみたいでな、アリティアとかいう国がドルーア帝国とかいう国と戦い始めたみたいだな。ま、俺たちにはあまり関係のない話だなぁ」

 

 シーザは少し酔いが回り始めたのか、少し饒舌になってきた。

 

「お偉いさん方の事情なんて、俺たち庶民には関係ないさ、俺たちは目先の事だけを考えてればいいさ…」

 

 ラディも酔いが回ってきたのか、少し呂律が怪しくなってくる。

 

「そうだとも…… 俺たちは…… 自分達と…… アイツのことを……  」

 

 シーザは疲れていたらしい。そのまま酔いつぶれてテーブルに伏してしまった。

今日は護衛とともに通訳をしなくてはいけない場合があったため、神経が疲れたいたのだろう。

ラディはシーザをよろよろと抱えながら、自分達の部屋へと行く。

シーザはもう眠りこけてしまったようだ。そんなシーザにラディはそっと呟く。

 

「俺はシーザについてくよ、どこまでもね……」

 



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