未来へのフリューゲル   作:マアア

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昨日は393の誕生日でした。おめでとうございます。
そして昨日のうちに執筆が終わらなかっただらしない作者ですまない……。


プロローグⅢ

 『天羽奏』そう名乗った彼女が求めた絶対的な力。それは此処、二課にいる人なら誰もが知っているものだ。なぜならば、二課という組織――『特異災害対策機動部二課』という組織はその絶対的な力を作り、特異災害であるノイズと戦う為に作られたからだ。だからこそ、その存在について言及されたとき、その場にいた全員が動揺した。

 

「どこでそれをッ!?」

 

 誰かの驚きの声は、此処にいる大人の人か、翼か、あるいは私の声だったのかもしれない。絶対的な力。それは平和を掲げる日本には大き過ぎる力で、それ故に一般国民や同盟国であるアメリカにも伝えられていないはずのトップシークレット。それを何処からか侵入してきた彼女は知っているということに受けた衝撃は計り知れない。

 

「―――うっせぇッ! アタシが聞きてえのはイエスかノーかだッ! それ以外の答えは求めてねぇんだよッ!」

 

「―――っぁ、ァッ!?」

 

 そんな私たちの様子を気にも留めず、不愉快そうに天羽奏と名乗ったその人は吠え、それによって入った力が私の首を絞めつけ、圧迫感と共に痛みが強くなる。悲鳴を上げそうになり、しかし息も出ずに悲鳴の声は掠れて音にならない。苦しさと同時に吐き気さえ覚え、口はだらしなく開き、酸素を求めて喘ぐのを抑えることは出来ず、しかし息は入ってこなくてただ苦しさが増した。

 

「未来ッ!」

 

「動くんじゃねえつってんだろッ!」

 

 翼の呼ぶ声に反応すらできず、強まる圧迫に意識が飛びそうになる。視界が涙で滲み、やがてぼやけて―――死ぬかもしれない。と、思った。

 

「――――イタ、イ」

 

 死ぬ。殺される。存在しなくなる。このままだとそうなってしまうのだと、身体が拒絶反応のようにどうにかしろと足掻こうとする。だけど、どこかで―――そうなるのだったらそれは仕方のないことなのかもしれないと諦めている自分がいた。

 

「――――」

 

 首を絞める腕に絡めた指が落ちる。意識を保つことさえ難しくなってぼやけていく脳に拒絶を示すこともなくもはや何も考えられなくなり―――。

 

 

 

―――左目の奥が熱を持ち、ズキンと痛みを発した。

 

 

 

 痛みに落ちかけた意識が熱のような熱さを放つ左目の痛みに遠退き掛けた意識が戻ってきたと感じ、起き上がりながら抑えると同時に、ふと首に掛かっていた拘束がなくなっていることに気付いた。それどころか、私は今まで壁に寝かされていたのだということにも、またその時に気付いた。

 

「――――?」

 

 夢だったのか? 先程までの苦しさも、死の予感も、天羽奏という彼女の存在もそう言葉にしようとして、直ぐに違うという事を気付かされた。

 

「クソ、離せッ! アタシを自由にしろォォッ!」

 

 場所が変わっていない。そして彼女、天羽奏の叫び声が聞こえてきた。顔を動かして聞こえた方向へと目を向ければ全身を二課のセキュリティガードの人たちに取り押さえられて足掻いている姿が見える。一体何があったのか? 疑問を覚えて立ち上がろうとして、

 

「未来―――ッ!」

 

 声が聞こえたと思う間もなく突進されたような衝撃が身体を襲う。いや、事実突進されたみたいだ。正面、私の胸部に目を向ければそこに青い髪、翼の頭がある。

 

「……翼? どうかしたの」

 

 バッ。と、音を立てそうな勢いで翼が顔を上げた。瞳が潤み、鼻が若干赤くなっている。泣いていたの? 聞く前に胸をポカリと叩かれた。

 

「どうかしたの? じゃないよッ! 首を絞められて、意識を失って、緒川さんが何とか助けてくれたけど全然反応なくてッ! でも、でも―――ほんとによかったぁ!」

 

「えっと……ゴメン」

 

 言いながら泣き出してしまった翼にどう反応すればいいのかわからなくて、言えたのはそんな言葉だけだった。涙ぐんだまま動かない翼の頭が目の前にあり、とりあえずやることなく持ち上げた腕で翼を撫でる。

 

「大丈夫ですか? 未来さん」

 

 そうしている内に私が起きた事に気付いたらしい男性の声が聞こえた。翼へと向けていた視線を上に挙げれば、丁度前を向くような位置にその人の顔が見える。

 

「緒川さん」

 

「はい。助けるのが遅くなって申し訳ありません」

 

 茶色い髪に柔和な笑みを浮かべ、何処か話しやすそうな印象を受けるその人――『緒川』さんが今この時は本当に申し訳なさそうな表情でそう言った。

 

「いや―――大丈夫です」

 

 そう返しながら、改めてこの人が助けてくれたのだな。と、少しだけ驚き混じりそう思う。あまり荒事は得意そうに見えないのにどうやってあそこで暴れている彼女を止めたのだろうか。天羽奏へと視線を向ければ、まだ暴れている最中。セキュリティガードの人が数人がかりで関節を決めているのにまだ足掻いている。

 

―――なんで、そこまで力を求めるんだろうか。

 

ふと抱いた疑問にジッと彼女を見つめていると、天羽奏の視線は緒川さんへと向いた。

 

「テメェッ! 一体何しやがった!? 金縛りなんて忍術みてーなことしやがってッ!」

 

「大人しくしなさいッ!」

 

 叫びながら暴れている彼女をセキュリティガードが必死に抑える声を聴いて、聞こえたセリフと向けられた対象に疑問を漏らした。

 

「―――忍術?」

 

 こちらを、緒川さんを見ながら天羽奏が漏らした言葉にあった単語。忍びが使う技。それを緒川さんが使ったという。

 

「昔取った杵柄ですよ」

 

 疑問の視線を受けてか、緒川さんは気恥ずかしそうに首を少しだけ掻きながらそう笑った。というより、否定しなかった事にむしろ驚きを隠せなかった。

 

「水上走りとか、隠れ蓑とかもあるんですか?」

 

「ええ、ありますよ」

 

 少しだけ本気で、でもまさかという気持ち混じりに尋ねたことにあるという返答が返ってくる。今度は驚き以上にちょっとだけ、私にも出来るのかと気になった。忍術。

 

「―――えっと。この後、どうするんですか?」

 

 少しだけ逸れた思考を戻して、改めて天羽奏へと視線を一度戻してから、再び緒川さんへと視線を向けて肝心なことを尋ねた。

 

「えっと―――彼女ですか?」

 

 頷く。言ってから主語がなかったと気付いて申し訳ない気持ちで少しだけ深い頷きになり、翼の頭と私の顎がぶつかった。

 

「ふぇッ!?」

 

「あ、ごめん」

 

 ちょっと勢いがついていたからか、ぶつかった拍子に翼がびくりと震える。こちらへと恐る恐る目を向ける翼に何でもないといって、そこでふと目を白黒させた翼が私から飛びのくように離れた。猫みたいだ。そう思って、直後に顔を真っ赤にして一礼してきた。

 

「―――――ッ!!? わ、あ、その未来ゴメンッ!?」

 

 真っ赤にした顔を指で隠しながら翼がそう謝ってきた。声が裏返って、混乱していると伝えるようなその勢いに押されて、頷く。

 

「あ、うん。別に―――気にしてないから」

 

それでも頭を下げたまま動かない翼にどうしようかと悩んで、少しだけ聞こえてきた笑い声に意識を向ければ何故か緒川さんが笑っていた。何故笑っているのかと疑問を零しながらそう言えばと先程の話の続きをお願いした。

 

「司令に連絡しましたのでまずは拘束してから改めて事情を聴くことになります。こちらとしてもどうやってここを知ったのか等は聞きださなければならないので」

 

 浮かべた笑みを消して真面目な表情の緒川さんのセリフにまあそうなるかと納得した。天羽奏は知りすぎている。本来公務員―――それも地方役人とかではなく国家公務員の人間以外に知られてはならない二課の事を翼と同じか少し上の一般人が知っているなどあってはならないことだから。私と翼は例外として、なぜ彼女が知っているのかその情報源を聞きださなければならない。

 

「じゃあ私と翼はどうすればいいですか?」

 

「お二人ですか? そうですね――」

 

 ついていくべきなのか、それとも別の場所にいるべきなのか。どうすればいいのかと尋ねた言葉に緒川さんが耳に当てた機器で小さく話し始めた。

 

「―――わかりました。では翼さん、未来さん。お二人は一度ご飯を食べに行ってください。まだ食べてないんですよね? ご飯を抜くのは身体に悪いですし、追って司令が連絡するそうなのでまずはお昼ご飯を食べましょう」

 

 では、お願いしますと緒川さんが頭を下げた。想定と違う言葉に少しばかり呆けて、一泊遅れての返事を返す。

 

「わかりました」

 

 そうして、改めて翼の方に向き直ってそういう訳だからご飯を食べに行こうかと言おうとして、指をきゅっと掴まれた。

 

「翼……?」

 

「――――っ」

 

 真っ赤な顔を隠そうともせず、掴んだ私の指から離そうとしているのかもごもごとして、だけど離さずに強く握る。何かを言おうとしているのか口を何度か動かしては言葉を発さずに閉じて―――やがて決心したかのように顔を上げて、口を開いた。

 

「い、一緒にご飯食べにいこッ!」

 

「……うん?」

 

 言いたかったことはそれだけなのかと少しばかり疑問に思って首を傾げる。翼があうっと言葉を漏らしながらまた目を伏せようとして、その動作で揺れた髪にチラリと視界の端に映った緒川さんがそのまま行ってくださいと紙に書いてこちらへと見せていた。

いつの間に用意したんだろう? そう思いながら、まあ一緒に行くのだからと離れかけていた翼の指を私から握りなおした。

 

「一緒にご飯、食べに行こう?」

 

「――――っうん!」

 

 本当に嬉しそうな、晴れ晴れとした表情で翼が笑う。

 

―――そういえば少し前にこれやらなかったっけ?

 

 そんなことをふと疑問に浮かべたけれど握った指を強く締めて進み始めた翼に、まあ聞かなくていいかと流すことにした。

 

 

 

―――……

 

 

 

「やはり翼さんには未来さんが必要ですね」

 

 翼と未来が去った後に彼―――『緒川慎次』はそう呟いた。明るい笑み。慈愛に満ちた表情でのその言葉には悪意などは欠片もなく、ただ純粋に彼女――『風鳴翼』のことを案じているのがわかる。そんな彼だからこそ、翼の現状を憂いているのだから。

 

「翼さんももう少し踏み出せれば周りの方々と仲良くなれると思うんですけれど……」

 

 7年前に来た未来。彼女との付き合いが5年以上にもなるのにコミュニケーションに支障がある翼に対して思ったことを言葉にして、しかし否と呟く。一歩ずつ、ちょっとずつだけど前進しているのだからもう少し見守るべきですよねと戒めた。

 

「ちっくしょぉッ! は、な、し、や、がれぇぇええええッ!」

 

「お、と、な、し、くしなさいぃぃっ!」

 

「―――こちらはもうひと踏ん張り、ですね」

 

 セキュリティガード6人に抑えられ、5分以上経過しているのに勢いが衰えること知らない天羽奏の様子に緒川は浮かべていた笑みを抑え、仕事としての顔で天羽奏の方へと歩き出し、暴れている彼女の足―――その下に映る影へと服の袖から取り出した小さなペンを投擲した。服の上からではわからないほどに、しかし肩から手頸に至るまでに力を流してそのまま投げられたペンはそのまま天羽奏の影が映る床へと突き刺さり、影を縫われた彼女は動きを止める。

 

「がッ!? くっそ、また手前か忍者ぁぁああああッ!」

 

 吠えながら、しかし身動き一つ取れなくなった彼女の四肢に手錠が掛けられ拘束される。流石の彼女もその状況では動くことは叶わず、ようやく手負いの獣のようなその少女の暴走は一応の鎮火を見せた。

 

「これで一段落、ですね。これ以上何も起こらなければ良いのですが―――」

 

 事態の収束に一息。言葉を零した直後に緒川の耳は慌ただしく動く足音を聞いた。その方向へと目を向ければ、タイミングよくそこの曲がり角から人影が飛び出した。

 

「ゼハー、ゼハー……あ、緒、川君……ゼハー、ゼハー。あの……ウプ……未来、ちゃん……ゼハー…見なかったッ!?」

 

「一体どうしたんですかッ!?」

 

 珍しく声を荒げて、緒川は目の前に息を切らせたまま現れた了子に目を見開いて尋ねた。

 




神速フラグ回収はシンフォギアの基本。
あと弦十郎さんがまた出せなかった……。

追記。
仲が良くなればなるほど自己犠牲ってつらくなりますよね!
……別に393さんがそうなる訳ジャナイデスヨ?
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