色々ありましたがのんびりと続いて行くつもりです。
何時までプロローグは続くのだろうか……
奏を応援すると決めてから数日後、いつも通りの検診を終えた後に私と翼、そして奏はブリーフィングルームに集められていた。
「……」
「……」
「……ちっ」
何もせずに椅子に座って待ち続ける私と、奏の方へと視線を向けてはそっと目を逸らすことを繰り返すも、普段の少しおどおどした雰囲気を見せずに姿勢良く座る翼、そして苛々した様子で舌打ちをする奏。
会話もなく待ち続ける事五分少々。実際には短いけれど、少しギスギスしていた雰囲気のせいか長いと感じていた所で漸くこの場に私たちを集合させた了子さんと、風鳴司令がやってきた。
「お待たせ~。ってあら、ホントに大分待たせちゃったみたいねん」
「御託はいいからさっさと話しを進めてくれ。アタシ達を此処に呼び出して一体どういうつもりなんだ?」
苛ついた様子を隠そうともせず、不快だという表情を浮かべた顔で奏は了子さんの軽口に返す。それに対して、咎めるように翼が口を開いた。
「天羽さん、目上の方に向かって失礼です」
「あーはいはいそーですね、済みませんでした風鳴のお姫様」
「っ謝るのは私にではなく櫻井女史にだッ!」
見たこともない怒った表情で叫ぶ翼に少しだけ驚いて、それ以上に奏と翼の二人は仲が悪いんだ。と二人の険悪な雰囲気に驚いた。
少しの間呆けたまま翼と奏の口論を眺めて、はたとそろそろ口を挟んで止めるべきだろうか、と考えが過る。二人に声を掛けようと動こうとしたその直前に、大きな音が鳴り響き、全員の視線が音が鳴った方向へと視線を向け、風鳴司令へと目線が集まった。
「喧嘩するな、とは言わん。寧ろ拳で語り合う事は構わんが、今は少し落ち着け二人とも」
そう言って風鳴司令は音を出すために左掌に打ち付けたらしい右拳をゆっくりと降ろす。視線で追えば、白い煙が少しだけでているのが見えて相当な速度で打ち付けたのだと、その威力を理解させられる。
それなりに身体を動かすのは得意なつもりだけれど、やはりこの人類最強筆頭と比べれば全然だなと改めて実感て、ふと同時に、少しだけ普段より急いているような印象を抱き小さな違和感を覚えた。が、それはまあ今はどうでもいいかと流して、そのまま事の推移を眺める。
少し腰を浮かせていた奏と翼は、顔を少しだけ引き攣らせながら座り、風鳴司令と入れ替わるように了子さんが前へと一歩踏み出した。
「さて、じゃあ今日のお話だけど、これは三人にとってとっても重要なお話だから聞き逃しちゃダメよ?」
一言置いて、了子さんは背部にある巨大なスクリーンに大きく『Yggdrasill』という文字と、その背後に巨大な樹の意匠を表示させた。
「『ユグドラシルプロジェクト』――四月より発足するシンフォギア運用における新たな構想の総称よ。詳しい事は今から説明するわ」
そう言いながら、同時にスクリーンが絵を表示した画面に切り替わり、同時に了子さんは噛み砕いて説明を始める。滔々と、分かりやすさを優先したそれは了子さんの持ち前のトークスキルもあり、すんなりと頭に入っていく。
……と、言っても
「つまり、その『ジークフリードシステム』というものを使ってシンフォギアの適合係数やフォニックゲインをカバーするシステムという事ですか?」
話を聞き終えた翼の要約に対して了子さんは肯定を返した。
「ユグドラシルプロジェクトの第一段階は準適合者のフォニックゲインをクロッシングによってシンフォギア装者に届けるジークフリードシステムによってギアの継続的な性能維持並びに適合係数の代用を目的とするもの。そして第二段階は、それを成功させた後に国内中の特異災害対策機動部にフォニックゲインの中継基地を作り、何処を戦場にしようともその供給を維持できるようにすること。この二つを合わせてユグドラシルプロジェクトと呼称しているわ」
『シンフォギア』――聖遺物から作られたFG式回転特機装束であるこれは現在、ノイズに対抗しうる唯一の装備であり、装者が戦意を持ちながら歌唱する事でそのポテンシャルを発揮する物。つまり、起動するだけでも聖遺物を励起させることが出来る歌を歌える適合者でない限りシンフォギアは纏えず、また励起させる事が出来ても戦いながら歌を歌うという事を熟せなければ機能を停止するという二つの問題がある。この厳しい条件を突破できたのは今の所ただ一人。翼だけで、日夜努力している奏は都合十度の実験を重ねてなお、まだギアの起動に至っていないというのが現状。その上、ギアを纏える最低限度の適合係数では聖遺物のポテンシャルを引き出しきれず無理に出力を上げればバックファイアで肉体に多大なダメージを負う危険性があり、これに関しては翼ですら安全とは言えない状況だ。
そんな現状を変えうるとされるのが、ジークフリードシステム。
二課本部から聖遺物を起動させることが出来るレベルの適合係数を持ちながらギアを扱えない人のフォニックゲインを現場で戦う装者に届けるためのシステム。
このシステムを通じてシンフォギアから流れてくる歌を共に歌う、もしくは何らかの自由で歌えない時に代わりに歌う事でシンフォギアのパフォーマンスの低下を防ぎ、同時にバックファイアを軽減、緩和することが出来る。
基礎理論は証明されており、後は実際に行い一定の活躍が見込めればレイラインを利用したフォニックゲインの中継器を開発する予算が下り、二年もあれば国内の何処でも使用可能になる。つまり、従来までのシンフォギアの運用を大きく覆せるのだ。
「……なあ、了子さん話はわかったがちょっといいか?」
翼の要約と了子さんの説明を受けて納得していたような様子を見せていた奏が、ふと顔を了子さんの方へと向けて手を挙げた。どうしたのだろう? と、その顔を伺うと、少しの焦りと怒りのような物が見えた気がした。
「この話によるとシステムを動かすのに適合者が一人要るってことだろ? それはどうするんだ? まさかとは思うが―――」
「アナタにやれとは誰も言わないわよ、奏ちゃん。というか無理ね」
語気を荒げそうになった奏に対して、了子さんがそう機先を制して返した。じゃあ誰が出来るんだよと首を傾げる奏に、了子さんは少し口を噤み迷う様な素振りを見せて、その間に私は小さく手を挙げて、告げた。
「私がするの」
瞬間、室内が静まり返り、翼と奏の視線が集中した。信じられないと言うような翼の表情と、コイツが? とでも言いたげをした奏の瞳が私へと向く。少しだけ、居心地が悪くなったような気がして目を逸らして、もう一度、
「私がジークフリードシステムのパイロットを務める事になっているの」
「だ、ダメだよ未来ッ!? そんな、そんなのッ!」
途端、ガタリ。と、音を立てながら翼が立ち上がり、そう声を荒げて、肩へと手を添えてくる。驚いているような、混乱しているような、言葉は論理が通っておらず、何が言いたいのか伝わってこなくて、だけど揺れている瞳が心配してくれていると告げているような気がした。
「ありがとう、翼。でも、これは自分で選んだことだから」
勘違いかもしれない、けれど嬉しかったことは事実だからありがとうを口にして、同時にこれを決めたのは自分だと自身にも言い聞かせるようにハッキリと告げる。返ってきたのは、唇を噛んで少しだけ寂しそうな表情。それでも、だけどと言葉を次ごうとする翼にどういうべきかと頭を捻らせる。
「別にいいじゃねーか。やるってそいつが決めたんなら好きにさせろよ」
考えている間に、奏はギアを纏える可能性が上がったと考えたからか少しだけ上機嫌にな様子で翼に対してそう意見を述べた。途端、翼は普段私と話す時の天然気味というか気弱そうな表情から一転して凛とした勇ましささえ感じさせる表情になり、不快さを滲ませた声を上げた。
「未来の事を何も知らない貴女が首を挟まないでッ!」
「アタシがソイツの事を詳しく知っている訳ねぇだろが! けどな、自分で決めたってんならそいつがどうしようが勝手だろッ! 家族でもねぇのに邪魔される筋合いはねえだろうよッ!」
犬猿の仲。とでも言うべきか、直ぐに口論になる二人を今度こそ止めようと動こうとしたところで、先程の風鳴司令の重い打撃音とは違う軽い柏手を打つような音が数回響いた。
「本人置いてけぼりで勝手にヒートアップするんじゃないの。気が短い女はモテないわよ? それに、このシステムはそもそも未来ちゃんしか適任者はいないわ。それについて本人が納得しているのに無理やり辞めさせるのは駄目よ、翼ちゃん」
少しだけ呆れたような表情の了子さんの発言を受けて、翼が再び視線を揺らしながら此方を見つめる。先程と比べると相対的には落ち着いた様子で、今は驚きというよりも不安や心配の色のように思えた。
「本当に、大丈夫なの?」
頷けば、何も言わずに翼は俯いてしまった。その姿に思わず声を掛けようとして、
―――そんな資格があるのだろうか。
そんな考えが胸に去来して、伸ばそうとする腕が止まった。
翼は昔の事を知っている。だから言葉を掛けてくれたはず。なのに私はもう決めたと振り払っている。言葉を掛ける資格はあるのか?
そんな考えが思考を満たし、そのまま何も言わずに腕を降ろした所で俺からもいいか。と、今まで聞きに徹していた風鳴司令が私に声を掛けてきた。
声に振り向いて見えた真剣な眼差しで此方を射抜く表情に、少しだけ困惑する。あらかじめ了子さんから風鳴司令には話を通して置いて貰ったはずなのに、何を聞きたいのだろうかと?
「……なんでしょうか?」
「君しかジークフリードシステムに乗れないという事はわかっている。だが、その上で俺は君がジークフリードシステムに乗るのに現状だと反対の立場を取らざるを得ない」
反対の言葉を言われるような気はしていた。だけど、理由はわからない。だから、何故と問いかけた。
「……君はまだ子供だ。無論、翼や奏君も子供だが、その中でも君はまだ小学生の身だ。バックアップだとしてもまだ戦いに関わるのは早すぎる。戦い等は俺たちに任せて此方を気にせずに、自由に過ごして欲しい」
「ですが、ユグドラシルプロジェクトが正式に認可されるには成果を出さないといけません。そのためにはジークフリードシステムの完成と稼働が必要不可欠のはずです」
「ああ、それはわかっている。個人の感情で君を引き留めれるとは思っていない。だが、その上で二課の司令として君に問わせてもらう」
一呼吸間をおいて、風鳴司令は口を開いた。
「君は現状
「―――っ」
「今の生活を全て犠牲にして、その上で君に戦いに参加する覚悟は君にあるのか?」
一瞬、響の顔が脳裏に浮かんだ。
今まで通っていた学校に通えなくなれば、まずもう会えなくなるだろうと。でも、直ぐに気を取り戻して一度瞳を閉じて深呼吸をした後、風鳴司令に目線を合わせてハッキリと口にした。
「あります」
問題はない。あってはいけない。響と離れることを苦しいと、辛いと思ってはいけない。いつか来る響と会えなくなる日が早くなるだけだ。だから、気にしてはいけない。私はもう決めたのだから。奏を応援すると、助けると。
―――いや、違う。
「国を守る為に命を使わ
翼しか戦える人がいなかったときはジークフリードシステムの運用の必要性は薄く、私の手は不要だった。だけど、今は私にしか出来ない、必要なことがある。ならば私も出来る事をしないといけない。そう決意を籠めて言いきった言葉に対して風鳴司令は唯々悲しそうに目を伏せ、手を広げてそっと抱きしめてきた。
「え、あの、何を―――……」
「―――すまない」
なんでそうされたのか理解できず、言葉を掛けようとした時に耳に聞こえてきたのは絞り出すような、諦めの色が混ざった声で謝罪の言葉が聞こえた。風鳴司令はそれ以上は何も言わずに立ち上がり、了子さんに目配せをして退出する。その後ろ姿を見ながら、少しだけ困惑した。当たり前の事を言ったのに、何故謝られたのだろうか? と。 理解できないまま了子さんへと視線を戻せば、了子さんは何を考えているのか分からないいつも通りの笑顔。そのまま視線を動かせば悲し気な表情の翼と、理解できないと言いたげな表情の奏。
沈黙する翼と奏に対して、了子さんは再び両手を叩いて視線を集めた。
「まあ、色々あったけれど以上でお話は終了よん。何か質問はあるかしら?」
「ありません」
「……私もありません」
「アタシもねえけどよ……」
ならいいわと、了子さんは画面に映っていた文字を消した。
「じゃあ、本日はこれでお開き。と、言いたいところだけど未来ちゃんと奏ちゃんまだ残ってて頂戴」
「……え?」
何かとあったけれど如何にか無事に終わったと安堵の息を吐こうとした時、了子さんが突然そう言った。
突然の言葉に呆気に取られる中、了子さんはにんまりと笑いを浮かべた。
「三日後、三月末の第十一回聖遺物起動試験並びにジークフリードシステム試験運用の前に先駆けてちょっと特訓のお時間よ」
未来さんの過去については次回で恐らく説明できるかと。
国を守る為に命を使わないといけない。
この考えを未来さんに叩き込んだのは一体風鳴何堂なんだ……
ジークフリードシステム並びにユグドラシルプロジェクト
原作において歌っているのは一人なのに戦っているのは複数人という状況や伴奏が流れているだけという描写は多々ある。その場合本来であればシンフォギアの原理上スペックの低下は免れない事に対するこの作品内での独自解釈&対処法。
シンフォギアと繋がったジークフリードシステムから常時歌を歌う事で生み出されるフォニックゲインをシンフォギアに送りスペックを下がらないように対処することが出来る。いわばパソコンとバッテリーの関係。
ユグドラシルプロジェクトはジークフリードシステムが二課から離れると無線などの関係もあり使用できないというデメリットの対処として、日本各地のレイラインにシステム中継器を置くことである。言ってしまえばバッテリーとパソコンを繋ぐ延長コードを何処までも伸ばしていく事。
モチーフはファフナーのジークフリードシステム。
分からなければそちらのイメージでも大丈夫です。