衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです   作:EKAWARI

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はじめましての方もそうでないかたもばんははろ、EKAWARIです。
この作品は2年ほど前に今は無きにじファンで連載していた中編小説「衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです」の加筆修正版となります。
本当はコピー本としてイベントに参加して配ろうと目論んでいたんですが、ぶっちゃけ経済状況的にイベントに参加する金ないので、今回こちらに移転掲載することにしてしまいました。
元版より2000字くらい増えていますので、話の内容は変わりませんが、元版知っている方にも再び楽しんでいただけたらと思っております。かしこ。


第一話

 

 

 その日、その学校の生徒であるところの少年……衛宮士郎が、夜の校庭で目撃したものは、彼の人生において例がないほどに奇異なるものだった。

 碧と青の衝突。人間と同じ姿をしながら圧倒的に違う二人のナニか。それが、夜の学校という日常と非日常の狭間にある舞台を上に、戦いを繰り広げていた。

 見えない剣を手にした、金紗の髪をもつ青と銀に彩られた鎧の少女が重々しい一撃を放ち、青いしなやかな体躯をした、赤い禍々しい槍を手にした青年が目にもとまらぬ速さをウリに相手を翻弄する。

 人の理を外れた実力者2人の激突。

 それはまるで神話の再現のようで、己が目を疑わずにはいられない。ふいに男の雰囲気が変わり、重厚な空気が場を包む。それに、ただ事ではないと感じ、このままではあの少女が危険だと士郎が直感したその時、男は傍観者であるところの少年に気がついた。

 廊下を逃げる。追いつく男。運が悪かったなと笑う口元、其れを最後の光景として、赤い槍は少年の心臓を貫いた。そうして赤毛の少年は、衛宮士郎は死んだはずだった。

 しかしどういうわけなのか、理屈は不明なままに彼は生き返った。自分は確かに心臓を貫かれたはずなのに、とその現象に首をひねりながらも、廊下に散らばった血痕を清掃し、士郎は家へと帰った。

 ……そして彼は己の家で再び、この赤い槍をもつ青い男に襲われることとなる。

 数年ぶりに強化に成功したポスターなどなんの役にも立たず、男の遊びの一手を前にしてさえ、その抵抗は紙くず同然でしかない。あまりに少年は無力だった。

 そうしているうちに、土蔵まで弾きとばされ、自分の死を少年が予感したその時、それはまるで魔法のように現れたのだ。

 ボゥと古い魔方陣が光を放つ。

 眩む目、神々しいほどの光。そこから出てきたのは長身の男だった。

 自分に襲い掛かってきた青い男も背が高かったが、それよりも僅かに高い。黒い軽鎧に包まれた体躯は服の上から見ても鍛え抜かれた鋼の体躯で、上下にすっぱりわかれた不思議な形状の赤い外套を身につけている。逆立てた白髪に、褐色の肌。鋼色の瞳は鷹の目を連想させる。

 鍛え抜かれた鋼の戦士。それを思わせる男を前に、士郎は知らず息を飲み込んだ。何故現れたのか理由など後回しだ。

 そうして、呆然と己を見上げる士郎を前に、現れた赤い外套の男の反応はといえば……。

「なんでさ」

 そんな、少年自身の口癖である筈の台詞を、とんでもなくうろたえた声で吐き散らしていた。

 

 

 

 『衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです』

 

 

 

 

 

 ええと、こいつは誰だ。なんでこいついきなり現れたんだ? など少年の疑問はつきなかったが、目の前のでかい男は自分以上に動揺しているように見えたため、士郎はとりあえず声をかけることにした。

「お、おい、あんた?」

「さ、最悪だーーーー!!」

 おそるおそる声をかけた士郎に対し、きーんと、至近距離でくらうと痛いくらいの大音量で男はそんな台詞をのたまう。意味がわからない。

 が、ぐわんぐわんと頭が痛んで、士郎はこれまでのダメージもあり、その大声攻撃に気絶するかと思った。

「ええい、なんでよりにもよって貴様が私のマスターなのだ!? 認めん、認めんぞ、こんな現実。こんなのと契約の繋がりがあるなんて、今日は人生最大の厄日か!? ええい、気色悪い、貴様なんぞがマスターなど、吐き気がするわ! とっとと死ね、たわけ! 今すぐ自害しろ!!」

 なんだか言いたい放題である。何故出合ってすぐの人間? にここまでぼろくそに言われなきゃならないんだとか、言ってる言葉の中に意味不明なことがあるんだが、マスターとか契約の繋がりとかどういうことだ、とか、士郎少年から男には言いたい台詞が山ほどあったわけだが、先ほどの至近距離の大音声の影響が今も継続中であり、少年は文句を言いたくても頭が痛くて出来ない状態だった。

 なおも好き勝手な男の言葉は続く。

「は!? 先ほど無意識で払った攻撃を払わなければそのまま死んでいたか。ちっ、私としたことが惜しいことをした。ん? なんだ? なにか言いたいことでもあるのか? 遺言ならば聞こう。だから今すぐ死ね」

 この男、見た目は歴戦の戦士じみているというのに、言っていることが無茶苦茶である。

「なあ」

 その時、外部より動揺染みた第三者の呼びかけの声が聞こえる。が、それに気づいているのか気づいていないのか、赤い外套の白髪の男はテメエ勝手なフリートークを続けた。

「なんだ? まだ死なないのか? ふむ、ならば私自身の手で引導を渡してやろう」

「なあ」

 尚も、赤い男は言葉を無視(スルー)している。いや、聞いてやれよ、と自分の命の危険も忘れて士郎は心の中でツッコんだ。

「何、安心するがいい。一瞬で終わる。では、さら……」

「人の話聞け、テメエ」

 痺れをきらしたのか、赤い槍をもった青い男が、ごんと軽快な音を立てて赤い男を殴った。

「む……? なんだね、ランサー。悪いが今は取り込み中でね、君の相手をしている場合ではないのだが」

 白髪の男は殴られた頭をさすりながら、表情だけは涼しげに、合いも変わらずマイペースに話を続ける。そこには敵意の欠片もない。青い男……ランサーというらしい。は、頭が痛いといわんばかりの顰めっ面を浮かべながら、聞き分けのない生徒に言い聞かすような声音で、言葉を紡ぎだした。

「オマエ、サーヴァントだろ」

「ふっ……君には、私がサーヴァント以外のものにでも見えるのかね?」

「質問に質問で返すんじゃねえ!」

 ランサーはキレかけていた。それでも完全に頭に血が上っていない様子を見て、士郎はこの一度は自分を殺した筈の青い男に、ほんのりと親近感と尊敬染みたものを感じはじめていた。多分同じことを自分がこの赤い男に言われたら……キレる。

「オマエのマスターはこの坊主。違うか?」

 びしっと士郎を指差しながらの宣言。それは青い男がすこぶる良い男なのも相まって格好良い。兄貴と呼ばせてくれ。ところでマスターやサーヴァントって何なのさと、士郎は暢気に思った。

「うむ、甚だ不快かつ認め難い現実だが、その通りだ」

 白髪の男はなにやらしきりに頷いている。なんだろう、とてもうざい。

「何自分のマスター殺そうとしてんだ、テメエは!?」

 ランサーは怒声をあげてがーとわめく。士郎は若干頭が戻ってきたので「そうだ、そうだ」と話半分に彼に同意した。

「何を言う。元々君とて、これの命を狙ってここまできたのだろう? なら、私がこれを始末したら一石二鳥ではないか。何故そう怒るのだね」

「テメエに英霊の誇りはないのか!?」

「ふ、これをマスターと認めるくらいなら、こいつを殺して私も死ぬ」

 きらんと、無駄にいい笑顔だった。

 ていうかなんで俺、初対面の人間? にここまで言われなきゃいけないんだ? とか士郎は思わずにはいられなかったわけだが、ぶっちゃけ話が半分くらいわからないし見えていない。だってなんの説明もなしなのだもの。

 だから、この場では少なくとも赤い男よりはまともな気がする青い男に、期待を込めて視線を送ってみたわけなのだが……ランサーのテンションはといえば、目に見えておちていってる。

 

「そうだ、ランサー、妙案を思いついたぞ」

 また赤いのがなんかのたまっている。

 いや、そんなことよりさっさと説明しろよと士郎は思った。

 ランサーは気怠げに顔を上げる。まだ赤い男に付き合ってやる気とはお人好しに違いない。

「あ?」

「これと君のマスターと交換しないか?」

「は?」

「ていうか、交換してください、おねがいします!!」

 それは、今までの慇懃無礼さはどこにいったのかってくらいのスライディング土下座だった。

「ってえ、何言ってやがるんだ、テメエは!?」

「これが私のマスターとか、悪夢過ぎる!! 君は英雄なのだろう!? なら私の1人や2人くらい救ってくれてもいいじゃないか。ていうか、救ってええええ!!!」

「ええい、離せ!! 人に抱きつくな、くっつくな、気色わりぃだろうがああ!」

 なにやら白髪の男は懇願していた。すごい迫力かつ、本気でランサーに縋っていた。その嫌がりっぷりもここまでくるとなんだかすがすがしいんじゃないかと思う……傍目で見てる分には。

「つか、どこのどいつかしらねえが、てめえもサーヴァントなら英雄だろうが!?」

「チガイマスー、オレハタダノ守護者デスー」

「なんでいきなり片言になってんだ、テメエは!?」

 そこで、士郎は思った。

(俺、完全空気だよなあ)

 あー、明日の朝飯何にしよう。そういえば、ガラス割ったんだったなあ。業者に連絡しないと。そんな取り止めの無いことを考えた。つか、そういうことを考えてないとやってられなかった。

 その時ふいに、ランサーは何かに気づいたように、ピクリと視線を斜め前へとよこした。

「ちっ、他のサーヴァントがきたか。今回はここらで退くが、あー……」

 ランサーは罰の悪そうな顔で士郎を見ると、困ったように軽く首をかしげてから言う。

「まあ、なんだ、坊主……強く生きろ」

「……ああ、ありがとう」

 その紅い瞳は憐憫と同情がつまっていた。

「ランサー、退くならそこの小僧の命もついでに」

「オマエはもう黙ってろ!!」

 そうしてランサーは家の塀を乗り越え出て行った。

 ああ、残念だ。良い人だと思ったのに。

 最早既に士郎の中で、ランサーは自分の命を奪った男であることは忘れ去られていた。

 

「さて」

 気づけば男はいつの間にもったのか、黒と白の二刀を手に自分に向き合っていた。

「では、今度こそ死ね」

 無駄に爽やかな声音で言い放ちながら近づいてくる長身鋼の体躯の男。

 そこには言葉に表せぬ息苦しいまでの透明な殺意が隠すことなく滾らされていて。

「や」

 明確な殺意が刃と共に自分へと痛いほど叩きつけられ、本気で自分を殺そうとしているとイヤでも理解させられずにはいられなかった。

 

「やめろーーーーー!!!!」

 叫んだのは反射的な生存本能。

 しかし、それに応えるようにカッ、と光と共に少年の左手が光を放った。

「何!?」

 男は驚いたような声をあげる。光が収束したあと、男は手から二刀を落とした状態で膝をついていた。

「やってくれたな……小僧」

 恨みがましい声だ。やってくれたなってなにがさ? と赤毛の少年は思う。

「人をいきなり殺そうとしといて何を言ってんだ」

 なので、苛っとしながらもそう訪ねると、男はぷいっと横を向いた。つーんとした澄まし顔。

 ……身長180cmオーバーの大男がやっても可愛くねえ。つか、お前は子供か。

「ていうか、あんた、なんなんだ!?」

「おい」

 男は、そんなことだろうと思ったけれど全く士郎の話を聞いてなかった。

「客だぞ」

「は?」

 耳を澄ませば確かに二人分ほどの足音。

「どうやら敵マスターとサーヴァントのようだな」

「は? ますたー?」

「これは都合がいい」

 だから、自己完結するなって。

 少年の心のツッコミは男には届かない。

「というわけで、死んで来い」

 そういうや否や、赤い男は衛宮家の門を開けると、士郎の小柄な身体をがっしり掴み、ひょいっと猫の子を投げるように門の外へと軽快に分投げた。

「のぁあああ!?」

「!?」

 

 これには門の外にいたものも驚いたらしい。士郎は外にいた人物にがっしりと抱きとめられた。

「って、アンタ、いきなり何すんだ!?」

「ち、往生際の悪いやつめ」

 士郎はがばっと頭を起こして赤い男に怒鳴る。男は門の柱から顔と身体を半分だけだしながら、まるっきり子供みたいなふてくされ顔でそんなことをのたまっていた。

 尚、士郎は自分が、自分を抱きとめた人物に現在進行形でお姫様抱っこをされていたりするのだが、そのことに思い至らないくらいには怒りに狂っているようだ。

「むぅ。いまならその未熟者を殺すのは簡単だろうに、何故殺さんのだ?」

 赤い男はなんだか不思議そうにそんなことを言ってる。

「意味解らないことばっかいってないで、少しは説明しろー!」

「そう……そういうこと」

 後ろからどこかで聞いたような声で、そんな言葉が聞こえた。そこではたと思い出したように士郎は後ろを振り向く。そこには、ミスパーフェクトの呼び声高い、自分も憧れていた学園の優等生である才色兼備の美少女、遠坂凛が佇んでいた。

 にっこりと綺麗に笑って凛は言う。

「こんばんは、衛宮君」

「と、遠坂?」

 少年は慌てた声を上げながら、戸惑うように憧れの少女を見やった。

「ところであなた、いつまでセイバーに抱かれているつもりなのかしら?」

「え? のぁ!?」

 そこで士郎は、自分は学校で見たあの時の金紗の髪に青と銀の鎧の少女に、今の今まで抱きかかえられていたことに漸く気づいた。慌てて少女から離れて自分の足で立つ。

「わ、悪い」

「いえ」

 清涼で毅然とした声でセイバーといわれた……騎士なのだろうか? 少女騎士は言葉を返した。よく見ると凛々しさと可憐さを内包したような、とんでもない美少女だ。

 2人のタイプの違う美少女を前に、思わず士郎の胸がバクバクと高鳴る。そんな少年の心を置き去りにして、赤いコートのよく似合う学園のアイドルは、どことなく困ったような声で言った。

「まさか、衛宮君がマスターだなんて思わなかったわ」

「マスター?」

 そうだ、先ほどからマスターがどうのこうのとか言ってた。

「と、言いたいところだけど……あなた、状況わかってる?」

「?」

「聖杯戦争ってわかる?」

「なんだそれ?」

 その心底わからないといわんばかりの士郎の反応を前に、遠坂凛は、はぁと大きなため息をつくと、ちらりと門の柱から半分顔を出してこちらの様子を伺っている白髪長身の男を一瞥する。男は小声で「ええい、何をのんびりしている。状況がわかっていようとわかっていまいとマスターなのだから殺せばすむだろうに」とかぶつぶつ言っていた。

 ……ああ、苛っとするなあ。

「ちょっと、そこのあなた」

 じろりと遠坂凛は男を見上げる。

「なにかね?」

 その少女の呼びかけに対し、意外にも素直な態度で男は門から姿を現した。

「確認だけど、あなた衛宮君のサーヴァントよね?」

「非常に不本意かつ、悪夢以外の何者でもないが、一応そうなる」

「で、なんであなたは衛宮くんのサーヴァントなのに、敵の私達に衛宮君を放り投げたりしたのかしら?」

 それは、怖いくらい綺麗な笑顔だった。

 ……あれ? 遠坂ってこんなキャラだっけ? 学校と随分イメージが違うような。

 士郎は思わず、背筋に冷たいものを感じつつ戸惑う。

「うむ。無論、君たちに殺させようと思って」

 先ほどの遠坂とためをはるくらい綺麗に笑顔にのせて、男はそうのたまった。

 その男の台詞を前に、遠坂凛は弾けた。

「って、どこの世界にマスターを敵マスターにわざわざ殺させようとするサーヴァントがいるっていうのよ!?」

「む? 目の前にいるだろう?」

「わかってんの!? マスターがいなければサーヴァントは現界出来なくなるのよ!?」

「なーに、この身は弓兵だ。マスターなどいなくても二日はもつ」

「しかも自分からクラスを自白した!? もう、なんなのよ、あなたは!? いえ、そもそも聖杯の導きによって招かれる英霊は聖杯にかなえてもらう望みがあって呼びかけに応じるんでしょ!? 二日であんた他のサーヴァントを倒せるとか言う気!?」

「む? 私は聖杯に興味などないが?」

「……は?」

 遠坂は目に見えてフリーズした。

「そもそも、私が聖杯を手にするということは一応はマスターであるそこのそれも聖杯を手にするということだろう? そんなことになるくらいなら敵でもこの際構わんからか弱い女性でも守って消えたほうが余程本望というものだ。そもそも私はそれを守る気など毛頭ないし、何二日もあれば現世を観光するには十分だよ」

「アーチャー」

 その男の台詞を前にして、今まで口を挟まずにいた金紗の髪の少女が、綺麗な碧い目で赤い男をギロリと睨む。

「よくもまあ、己が主にそこまで言えるものだ。貴様に騎士の誇りはないのか」

「そもそも私は騎士などではない」

 きっぱりと男は言い切った。それに秀麗たる鎧を身に纏った少女が顔をしかめる。

「ちょっとまって」

 どうやら遠坂は復活したらしい。ちょっと困惑したような声だ。

「つまり、貴方、現世遊興が目的で召喚に応じたとか言いたいわけ?」

「何を言う。私のマスターがマスターにふさわしい人物だったのなら、マスターに協力し聖杯を得ることに尽力しても構わなかったが、よりにもよって私のマスターはこれなわけだぞ? このにわか魔術師もどきの半人前マスターに従うくらいならそのほうが余程建設的ではないか」

「半人前で悪かったな」

 正直士郎にとって遠坂の会話も、男の言っていることも、ちんぷんかんぷんなのだが、自分が思いっきりこの男にこけにされているのくらいはわかった。

「ちょっとまって、そもそも衛宮君、あなた、本当に魔術師なの?」

 疑わしげな声で遠坂が訊ねる。

 ……解析と強化の魔術くらいしか使えないので堂々と魔術師と名乗って良いのかは謎だったが、それでも士郎とて義父・衛宮切嗣によって魔術の手解きを受けた身である。

 なので、「……一応」と答えておいた。

 そんな士郎を前に、間髪入れず赤い男の辛口口撃が入る。

「この魔力量の少なさで魔術師など名乗るな、たわけ。そもそもスイッチのオンオフも出来ない分際で片腹痛いわ、たわけ」

「だああ、あんたは本当になんなんだよ!?」

 思わず拳を振り上げるが、ひょいと軽くよけられる。ああ、むかつく。

「……スイッチのオンオフも出来ない……?」

 余程、その告白は意外だったというのだろうか、遠坂の声が固まっている。先ほどセイバーと呼ばれていた少女が怪訝気な顔で「凛?」と己の主に呼びかけるが……不穏な空気を降りまいたまま、彼女、遠坂凛はがっしりと士郎の肩に手を置いて、次のようなことを言った。

「ちょっと中でお話しましょうか」

「え?」

 怖いくらいの笑顔だった。バックに角と尻尾が見えるのは気のせいだろうか。

「ふむ、そうだな。こんな時間にいつまでも外に立ちっぱなしでは身体が冷えるだろう。女性が身体を冷やすのはよくない」

 赤い男はなんだかずれたことを言っていた。

「お邪魔するわよ」

 ずかずかと遠坂は衛宮邸へと向かって歩く。

「ちょっと、おい!? 遠坂」

 慌てて追いかけるが、彼女の歩みは止まらない。

「ふむ、では茶の準備でもしてくるか」

 いいながら、赤い男もいそいそと玄関へと向かっている。お前はいい加減黙れ。そしてそのエプロンいつ出した!? てか、どこにもっていた。

 少年の心のツッコミが追いつくことはなかった。

 

 セイバーと呼ばれた少女はため息をつきながら主である少女の隣に並び立つ。

「凛、ここは敵地です、わかっているのですか」

 そっと二人だけで聞こえる声でささやくように諫言をこぼす。

「あのね、セイバー……」

 それに対し、遠坂凛は心底疲れた顔をして、従順な己の従者の顔を見た。

「あの二人が、私達の敵になりうると思う?」

 言われ、固まる西洋人形のような少女。やがて、ゆっくりと左右に首を振る。

「でしょう?」

 

「ちょっとまて、あんた、なんで俺んちの台所や食器や茶葉の場所を把握してんだ!?」

「気にするな」

「気にするわ!」

 この夜が長い夜になることを衛宮士郎だけが知らずにいるのだった。

 

 

 

 続く




尚、この作品は全6話構成となっております。
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