衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです 作:EKAWARI
おまたせしましたギャグ色濃厚(?)な第二話です。
一話ほど加筆修正はしていませんが、それでも地味に文量増えていますので、よければそのあたりもお楽しみください。
「以上が聖杯戦争の説明になるけど、わかった?」
あれから、衛宮邸へと乗り込んだ黒髪をツインテールにした美少女、遠坂凛はこの魔術師見習いの少年、衛宮士郎が何も知らないということを前提に、彼が今回巻き込まれたイベントのことについて、じっくりと最初っから懇切丁寧に説明をしてくれた。
それは、本当に初心者中の初心者である士郎にとってはとてもありがたく、話も理路整然としていてわかりやすく、当初の少年にあった疑問の6割を解消するものではあった。
纏めるとこうだ。過去の英雄の魂が、
そして、話の終わりに遠坂凛は諭すような声で、自分の正面に座る赤毛の童顔な少年へと、今回の出来事について理解したか否かの確認を取る。
そんな少女を前にして、赤毛の少年……この家の家主である、衛宮士郎は言いづらそうに口を開きかけては惑っていた。
「何よ、衛宮君。言いたいことがあるならはっきりしなさい」
といいつつも、彼女も少年の気持ちはわかる。痛いほど。なにせこうして真面目な話を自分たちが繰り広げている背後では……。
「セイバー、これも作ってみた。食べてみてくれ」
「む……素朴でありながら上品深い味わい、素晴らしい。まさか粉をまぶして焼いただけの代物にこんな奥の深さがあるとは……」
「ホットケーキという。確かに単純で子供でも作れる料理だが、なにせ英霊となって以来料理をする機会がなくてな。単純だからこそ腕の違いが出る。なに、腕がさび付いてないようでほっとしているところだよ」
「これがケーキというものですか。私の時代では甘味など果実くらいしかありませんでしたから、新鮮です」
「今は深夜で時間もなく叶わんが、ふ……よければ今度は本物のケーキというものを君に進呈しよう」
「アーチャー、それは素晴らしい」
サーヴァント2騎がなんかそんな会話をしていた。より正確にいうならば、セイバーがアーチャーに餌付けされていた。
士郎も凛もそのことについてツッコミたい。この二人に激しくツッコんで追求したい。だが、予感と確信があった。そんなことをしていたらいつまでたっても聖杯戦争について説明が出来ない、と。
だから気になりつつも放っておいたわけなのだが……それに調子にのったアーチャーが余計にいそいそと給仕に励む。
ちなみに、セイバーを餌付けする片手間、凛の茶がなくなったタイミングを見計らって、茶を追加したり、ピカピカに台所が磨き上げたりしている。お前はどこの執事だ。
(耐えろ。耐えるのよ、私! 遠坂の家訓は常に優雅たれ! てか、セイバーもあっさり餌付けされてるんじゃないわよ!)
「む?」
じろりと知らず知らず凛はアーチャーを睨んでいたようだ。それに気づいた男は小首を傾げながら「もしやと思うが、君も食べたかったのかね?」とかやっぱりずれたことを言い出した。
セイバーはセイバーで「え?」と自分の食事が奪われる危機を感じていますみたいな顔をしている。
「そんなわけあるかー!!」
つい、自己暗示も忘れて怒鳴った。
「ふむ、それはよかった。サーヴァントであるセイバーならばともかく、君は生身の女性だ。こんな深夜の間食はあまり感心せん」
「あ、あんたねー……」
「ああ、それとも、やはり君のようなお嬢さんは煎茶よりも紅茶のほうが御所望だったかな? だが、生憎この家は紅茶を常備していないようだ。全く、緊急の来客への備えもないとは、家主の格がしれるな」
「人んちの食材や台所を勝手に使ってるやつにそんなこと言われる筋合いなんてねえ!」
まさに家主である少年は、まるで己の家のように台所を好き勝手している男を前にキレて叫ぶ。
けれど、アーチャーは相変わらず、涼しげな顔をして飄々と言ってのける。
「一応は仮にも貴様が私のマスターだろう。自分のサーヴァントも養えないというのかね? 器の小さい男だ。その間抜け面を見ているだけで殺意が沸くというものだ。……なんで私は貴様のサーヴァントなのだろうな?」
「俺が知るか!」
フォロー不可能な相性の悪さである。
「遠坂」
少年は己のサーヴァントであるらしい、赤いエプロンを身に着けた長身の男を無理矢理視界からはずして、再び自分の向かいに座っている学園の優等生に口を開く。
「サーヴァントは過去の英雄がなるんだよな? あいつ、本当に英霊か?」
……それは凛も疑問に思っていた。
「……そのはずよ」
「そもそもあいつ俺をマスターなんて認識してないと思うぞ?」
「…………そうね」
「遠坂」
「聞かないで」
望んでいたはずの聖杯戦争、それはこんなはずじゃないわよねと凛はそう思った。
「このままじゃ埒があかないわね」
一通りセイバーの餌付けを終えた男は、今度は食材を確認しながら明日の朝食の仕込みらしきことをしている。……考えるな、考えたら負けだ。
「よし、衛宮君、今から教会にいくわよ」
「教会?」
「そう。この聖杯戦争を監督しているやつがそこにいるから、納得できないこととかそこで説明受けなさい」
「まて、今からいくのか?」
「この時間だから歩きになるけど夜明けまでには帰ってこれるでしょ」
言いながら凛は颯爽と立ち上がり玄関へと向かう。
「セイバー」
そう
「出るのかね?」
アーチャーは召喚された時の黒い軽鎧と赤い外套姿で玄関口に立っていた。その表情はセイバー同様凛々しく精悍な様子で、戦うものの顔をしている。先ほどまでの嬉々として家事と餌付けに勤しむ姿の面影はどこにもない。ひょっとしてこの男、二重人格なのだろうか。
「意外ね」
凛は呆れたような声と表情で男を見据える。
「どうやらあなた、衛宮君のこと嫌いなようだし? ついてこないのかと思ってた。それとも、口でなんといっても、やっぱり本当はマスターが心配なのかしら?」
凛の最後のほうの言葉は挑発的で、相手を探る色がある。あまりのマスター嫌いな態度で敵になりえないと思っていたのと、なにもわかっていないド素人とは戦いづらいからこそおせっかいを焼いたのだが、口でなんだかんだ言っていても敵を油断させるための演技で、実際はそうでないのだとしたら、とんだ食わせ物ということになる。
「まさか」
そんな凛の心境がわかったのだろう、アーチャーは心底嫌そうな声で、ちらりと己のマスターである士郎の顔を一瞥すると、はぁ、とあからさまに大きなため息をひとつつき、続いて真面目な顔で少女に向き合い、言った。
「最初にも言ったが、私はそれを守る気など毛頭ない。私が同行しようと思ったのは君たちの護衛だ」
「セイバーがいるから、必要ないわ」
きっぱり言い切る凛。それに続いてセイバーも「私では頼りないとでも言いたいのか? アーチャー」と不機嫌そうに続けた。どうやら騎士の誇りを傷つけられたらしい。
「君を侮辱するつもりなどないよ」
男は肩をすくめる。
「遠坂というのだったかな」
「遠坂凛よ」
「遠坂、凛……ああ、その名前は実に君によく似合ってる」
「……!」
さらりとした意外にも嫌味のない笑顔と共に告げられたそれに、思わず、凛の頬が紅潮する。
「で? いつまでもあなたに関わってられないんだけど?」
顔の熱さを無視して、そんな小さな混乱に陥った自分の感情を誤魔化すように、凛は矢告ぎ早に言葉を重ねた。
「まあ、まて。私が同行しようと思ったのはセイバーの能力を軽視しているわけではなくてだな」
こほん、咳払いを一つするとこの弓兵は真面目な顔で彼女達に向かい合いなおす。
「礼をしたいのだ」
「礼?」
それは意外な言葉だ。
少なくとも、この知り合ったばかりの……それも敵サーヴァントたる男に礼を言われるようなことなど、彼女には覚えがない。そんな凛の戸惑いもわかっているのだろう、コホンと咳払いを1つして、赤い外套の男は、その低く落ち着いた声で訥々と説明をした。
「あまり認めたくはないが知ってのとおり私のマスターはそこのそれだ。本来なら、たとえ相手がド素人だろうと聖杯戦争に参加しているマスターである時点で、君はそいつに事の経緯を説明する義務などないはずだろう? それを親切にも説明してくれたばかりか、自分の時間を削って監督役にまで紹介しようとしている」
つまり、曲がりなりにもマスターに当たる存在の世話をやいてくれたことに対して、礼をしたいということなのだろうか。なんだひょっとしてこいつ思ったより悪いやつじゃないの? とそんなことを思う凛に対して、次に男が浮かべた表情と声は想定外過ぎるものだった。
「君はお人よしだな」
そんなことを、とても嬉しそうに男は言ったのだ。それはまるで少年のような笑顔だった。
「~~~!!」
カァアア、と一気に頬が赤く染まる。その熱さに、凛は自分の顔が熱をもったのではないかと錯覚した。
そんな己の心情を誤魔化すように彼女は「わ、悪い!?」と男に言葉を返す。
士郎は自分も遠坂は親切だなーと思っていたのであえて口を挟んでいないようだった。
「気に食わんといっても、一応は私のマスターはそれだからな。マスターが世話になったのなら、そのサーヴァントが恩義に報いるのはおかしな話でもあるまい? それに君は足手まといを引き連れて夜の聖杯戦争中の街を行くことになるのだ。たとえ、途中で敵マスターに遭遇しても1対1よりも、2対1のほうが有利なのは明らかだし、この身は弓兵だ。接近戦に長けるセイバーと、遠距離戦が得意なアーチャーのサーヴァントという組み合わせは中々悪くはないと思うのだが、どうだろうか?」
そこまで言われたらこちらにも否やはない。
「……いいわ。ついてきて」
そうして夜の街を、いささかちぐはぐな4人で歩んだ。
「……なにかね?」
自分を見ているセイバーの視線に気づいていたのだろう。アーチャーが視線の意味を問う。
セイバーはじっと、自分より頭2つ分近く高い男を見上げて、それから言った。
「霊体化はしないのですか?」
サーヴァントは魔力で体を構成された英霊だ。つまり本体は霊である。
故に、魔力を節約するために普段は霊体化してマスターの周囲に控えているわけなのだが、どういった理由か、アーチャーもセイバーもどちらも実体をもって歩いていた。
「それは君もではないかね?」
質問に答えず、返すように静かな口調でアーチャーが言う。それにセイバーは戸惑いつつ真面目な口調で答えた。
「私は、マスターの身を守るのにもこちらのほうが有利だと判断したまでです。が、貴方は最初に会ったとき、マスターの魔力量の少なさを匂わせることを言っていたではありませんか。おまけに何が気に入らないのかはしりませんが、マスターを守る気などないと公言している。霊体化して魔力の消費を抑えたほうが建設的なのではありませんか?」
その優等生じみたセイバーの発言に、ふっと軽くアーチャーは笑って、言った。
「なに、君らに余計なことを疑われたくないだけさ」
「何?」
「見えているほうが監視しやすかろう」
そのアーチャーの物言いに、セイバーがあっけにとられる。赤い弓兵はそれきり押し黙って、空を見上げてた。今宵は月が綺麗だ。セイバーはこれが彼の話が終わりだという合図だということに気づき、再び気を引き締めて周囲を警戒することにした。
「ほら、あれが言峰教会よ」
そう、目的地は丘の上の教会。
続く