衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
おまたせしました加筆修正版第三話です。とりあえず元版より1000文字ほど増量しますた。


第三話

 

 

 

 外国人を数多く受け入れている街、冬木。その中でも新都にある丘の上の教会は一種独特の風情をもって、街に溶け込んでいる。厳かな雰囲気のその教会は、まるでその教会の主たる神父の人間性を体現するかのように、一種の異界染みた威圧感を放って存在していた。

「決めたのかね?」

 低音の男の声が響く。黒い死んだような眼の、一種独特な雰囲気をもつ長身に黒い僧衣をまとった男、この言峰教会の神父にして、第五回聖杯戦争監督役である言峰綺礼が、此度聖杯によってマスターへと識別された少年へと、その胸の内を問う。

 問いかけられた赤毛の少年、衛宮士郎は、意思の強い瞳で男を見上げると「ああ」と頷いて、己の誓いを口にした。

「俺はこの聖杯戦争に参加する」

 

 どうしたものかしらねと、内心重い気持ちを抱え、鮮やかなる美貌の少女……遠坂家六代目当主たる遠坂凛は、頭の痛い問題を前にはぁとため息を一つ吐いた。

「ん? どうしたんだよ? 遠坂」

「なんでもないわ」

 なんでもないわけがない。だけど弱みを見せるのは主義に反する。凛は不機嫌そうに眉間に皺を寄せながら、少年の言葉に言葉を返した。

 そもそも彼女が頭を悩ませることになった原因は、この目の前の男、衛宮士郎にある。

 

 内心、凛は士郎にこんな戦いに参加してほしくないと思っていた。

 これは殺し合いなのである。

 一度マスターになったものはやめられないことは凛も重々承知だ。しかし、偶然でサーヴァントを呼び出してしまったような、魔術師とも呼べない魔術をかじっただけのド素人が、この戦いに混ざるのはどうなのか? と思うのだ。

 自分はいい。最初から参加する気だったし、遠坂の悲願でもある。他の参加者も魔術師として覚悟の上での参加だろうから、容赦するいわれもないし、勝ち抜くつもりだ。その際、相手の命を奪うことになってもそれはお互い様というものだろう。

 だが、この少年は違う。この少年は「聖杯戦争を止めるため」なんていう理由にもなってないような理由で参加を決めたド素人なのだ。魔術もろくに使えないくせになんという無鉄砲なのか。これが殺し合いだということを本当に理解しているのかも怪しい。

 なにより、もし途中で……いや、確実にこいつが死んだら、桜が悲しむ。それがとても嫌だ。

 凛が知っている限り、遠くから見守ることしか出来なくなってしまった (さくら)が笑顔を見せるのはこの男の前だけなのだから。

 とはいっても、ここで令呪を全て使い切りマスターをやめるというのも、それはそれで危険であることは自分とてよく知っている。

 サーヴァントは聖杯を求めて マスターに使役されるのを了承する。三つの令呪はサーヴァントを律するための首輪でもある。それをなくした途端マスターはサーヴァントに殺されても文句は言えないといっていい。

 最も、彼のサーヴァントであるあの赤い弓兵は聖杯を求めていないらしいが、彼が自身のマスターである衛宮士郎のことを嫌っているのは明らかだ。おそらく、聖杯がどうのなど関係なく、衛宮士郎がマスターをやめたらこれ幸いとばかりに襲い掛かるのではないだろうか?

 そう考えるとやはりマスターをやめるというのも危険なのだ。しかし、現状維持(マスター)のままであっても、赤い弓兵(アーチャー)が自分のマスターを守る気がないと公言している以上、他のサーヴァントとマスターに出会ったときの危険度で言えば、マスターであろうとなかろうと同じくらい命に関わると言わざるを得ないのだが。

 いや、そもそも何故召喚したばかりのよく知りもしない自分のマスターを、あの白髪長身のサーヴァントは嫌っているのか? 逆に敵であるはずの自分とセイバーに対しては無駄に友好的である。

(あれ? そういえば)

 

「衛宮君、あなた令呪使った?」

 そう、衛宮士郎の左手に浮いている令呪は一角足りない状態だった。

「え? ああ、あれが令呪を使ったってことになるのか?」

 士郎はなにやら思い出したらしい、苦虫を噛み潰すような顔をしている。

「あいつ、アーチャーだっけ? 死ねとかいって襲い掛かってきてさ、「やめろ」って叫んだら左手が光ったんだ」

 

(て、マスターのままでもやっぱり危ないんじゃない!!)

 

 この先本当に士郎は生き残れるのか?

 凛の疑問の答えはまだ誰も知らない。

 

「ふん、遅いお帰りだったな?」

 教会の外ではセイバーとアーチャーが並んでまっていた。アーチャーは出てきた士郎を、その鋭い鷹のような目でジトリと見ている。それに、むっとなった士郎もまた男に負けじとにらみ返す。

「何故やめなかったのだ」

 苛立たしそうに男は鉛色の眼で士郎を射抜きつつ言った。

「あんたに指図される覚えは無い」

「ち、この大たわけめ。ふん、私は貴様を守ったりなどせんぞ」

「俺だって、あんたなんかに守られるつもりなんてない」

 どうにもイライラとして士郎は叩き付けるように言葉を返した。

 そんな赤毛の少年を前に、フンっと白髪の男は鼻で笑って吐き捨てるように言う。

「貴様1人が参加してどうにかなると思っているのなら、余程頭がおめでたく出来ていると見える。それで? 半人前以下の未熟者がどうするつもりなのだ? 今の貴様なんぞ、格好の獲物にすぎんぞ。鴨が葱をしょって歩いているようなものだ。そんなこともわからんのか、このたわけ」

「なんとでもいえ。俺は親父と正義の味方になると誓ったんだ。俺にだって出来ることがあるはずだ」

「それが大たわけだというのだ。今の貴様に出来ることなどあるはずがなかろう」

「やってみないとわからないだろ」

その士郎の言葉を前に、一瞬だけアーチャーはまるで何かに耐えるような顔を見せた。けれど、まるで今しがた見せた顔は見間違いだったかのように、再び皮肉な表情を浮かべて、アーチャーは嫌みったらしく少年を否定する言葉を紡ぐ。

「いいか、衛宮士郎、貴様に出来るのは人の足をひっぱることだけだ」

「なんだと?」

「そもそも、貴様は正義の味方といったが、誰かを救ったと思ったところで、果たして貴様は相手を笑顔にすることは出来るのか?」

「え?」

 それは、予想もしてみなかった言葉だった。

 

「誰かを救うのは体だけでは意味などない。心も救わねば意味などない。それを貴様は出来るのかと尋ねたのだ、衛宮士郎」

 その言葉を聞いて、少年の脳裏をよぎったのは10年前の大火災だった。

 その日士郎は本物の家族を失って、まるで自分のほうが救われたかのような笑みを浮かべた男に拾われた。その時の光景を、男の言葉は想起させた。

 何故こいつはそんなことを言うのだろう。……知らないはずなのに。

「はいはいはい、いつまでもこんなところで喧嘩してんじゃないわよ」

 その時、終わりの見えない二人の口論を止めたのは、やはりというべきだろう、遠坂凛だった。

 アーチャーは自分の態度や言葉が少しは大人気なかったと自覚していたのか、年下の少女に仲裁されたのに対し、ばつの悪そうな顔をしながら、黙ることにしたようだ。

 そんな白髪の弓兵の態度とは裏腹に、赤毛の少年は変わらず自分より頭一つ分ほどでかい男をにらんでいた。学校では「ブラウニー」の異名で呼ばれ、誰かと敵対する姿などついぞ見たことのない少年が、こんな風に誰かに明確に敵意をむけている姿を見るなど凛には初めてだ。なので、少し驚いた。

 とはいっても、凛とて元々衛宮士郎のことをそれほど知っているというわけではない。せいぜいが桜が好意を寄せている相手で、あとは……なくらいだろうか。魔術師であることも知らなかった。

 冬木の管理者としては、自分の知らない魔術師が自分の許しも取らず、納めるものも納めずに自分の街に住んでいたことに対して気分のいいものではなかったのだが、どうやら魔術を使えるといっても本当に素人同然だったようで、アーチャーの言葉を鵜呑みにするならスイッチのオンオフも出来ない素人中の素人らしい。それは魔術師とすら呼べないだろう。敵対し難いことこの上ない。

 

 そして、衛宮家と遠坂家を別ける坂道へとたどり着いた。

「……あのね、衛宮君」

 凛は決意したように口を開く。本当はここできっぱり別れて明日から敵同士になると宣言するつもりだった。だが、それでいいのだろうか? この先1人で士郎が生き残れるとは思えない。アーチャーが士郎を守るとはどう考えても思えないからだ。そんな、見殺しにするような後味の悪さをひいたまま、ここで別れて本当にそれでいいのだろうか?

『リン?』

 念話でセイバーが訝しげな声で呼びかけてくる。わかってる、こんなの心の贅肉だ。

「なんだよ、遠坂」

 暢気に少年がこちらをむいていた。

 そして凛はある提案を口にしようとして……その時、予断ならぬほど圧倒的な死の気配が接近した。

「ねえ、お話は終わり?」

 そこにいたのは幼い少女だった。銀の髪に赤い瞳の10歳前後くらいの見目の妖精のように愛くるしい容姿をした少女。その少女の背後に巨大なそれは佇んでいた。

 

 くすりと、少女はスカートの端をつまみ、優雅に一礼をして、口上を述べる。

「はじめまして。お兄ちゃんは二度目だね。わたしはイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンといえばリンにはわかるよね?」

「アインツベルンですって!?」

 その名に、赤いコートの少女は驚きの声を上げる。

「知ってるのか、遠坂」

「聖杯を求める御三家の一つよ」

 そんな少年少女のやりとりを、雪の少女はくすりと笑いながら見ている。あどけないようでいて、どこか妖艶な笑みだった。

「もういいよね? やっちゃえ、バーサーカー!」

 現界した、圧倒的な死を連想させるそれは言葉にならぬ咆哮を上げて、無骨な石剣を手に踊りかかってきた。

「リン、アーチャーのマスター、下がってください!」

 がぎっと音を立てて、巨大な石剣と目に見えない何か……おそらくはセイバーの持つ不可視の剣だろう、は鍔競りあった。

 

「はああーー!」

 掛け声を上げながら、セイバーはバーサーカーに踊りかかる。しかし、巨体に傷がつくことはなく、バーサーカーの攻撃は一撃一撃が致命的な暴風だ。しかし、小柄な少女の外観をしているにも関わらず、セイバーも負けているわけではない。そしてそこにただの人間が入り込む余地などなかった。

 はっと士郎は、今までアーチャーが立っていたところを振り返る、そこには誰もいない。

「あいつ……」

 逃げたのか、そう思って気分が悪くなったその時、三連の矢が遥か遠くから飛翔した。

 一体どれほど離れた距離から飛ばしたのかはしらないが、その矢はどれも正確にバーサーカーに向かった。しかし、それらの矢がこの屈強たる狂戦士の体を傷つけることはない。

「あはは、無駄よ。そんな攻撃じゃバーサーカーには傷一つ負わせることは出来ないわ。だってあいつはギリシャ神話最大の英雄ヘラクレスなんだもの」

 ころころと白い少女が笑う。

「なん、ですって?」

 思わぬバーサーカーの正体を前に、凛が絶句している。その時、士郎の脳内に男の声が割り込んできた。

『おい、小僧』

 それは先ほどから姿の見えなくなったアーチャーの声だった。

『な……』

『念話くらいで驚くな、たわけ』

 そのやりとりにむっとなりつつも、次第に少年に冷静な思考が舞い戻ってくる。

『何の用だよ』

『今からとっておきを使うから、合図をしたらセイバーに離れるように凛を言い含めろ、いいな?』

『お前の攻撃通じてなかったじゃないか』

『だから、とっておきを使うと言っておるではないか。人の話を聞け、たわけ』

 喧嘩越しで念話を終えると、次いで、凛に向き直り、士郎は小声で先ほどのアーチャーの言葉を告げる。その様を見て、イリヤスフィールは「どうしたの? 諦めでもついたのかしら?」と楽しそうに尋ねてきた。

 見れば、バーサーカーとの戦いはセイバーのほうがやや不利な状況だ。小柄な体が弾き飛ばされ、そしてその時アーチャーの『偽・螺旋剣(ガラドボルグ)』という声が聞こえた。

「遠坂!」

 呼びかければ念話でセイバーに伝えたのだろう、セイバーはバーサーカーから離れ、そしてそこに先ほどの矢とは比較にならない魔力の塊が狂戦士の頭に襲い掛かろうとしていた。

 矢だと思ったそれは膨大な魔力を秘めた捩れた剣だ。

「あはは、無駄よ、バーサーカーには……」

 そう少女が続けようとした時、アーチャーの『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』という呪文が士郎の耳に聞こえた。同時、バーサーカーの頭部が爆発し、周囲を瓦礫が舞った。その瓦礫がセイバーに当たりそうになっている。そう認識した瞬間、士郎は駆けていた。

「え?」

 驚きに見開かれた碧い瞳。それを見たのを最後に、士郎の意識は暗転した。

 

 

 

 続く

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