衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです 作:EKAWARI
加筆修正版第四話、アーチャー再びセイバーを餌付けするの巻です。
ぶっちゃけ、セイバーを餌付けするアーチャー書きたさにこの話考えたんだよな。
そんなわけでどうぞ。
衛宮士郎は、奇妙な夢を見ていた。
赤い赤い剣の丘。幾千もの剣が荒野に突き刺さっている。そこに立つのは1人の男。
振り返りもせずに立っている、その背中はどこか見覚えがあって……。
『え?』
鋼色の瞳と視線があった気がした。
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甘やかな木の香りがする。何度も嗅ぎ慣れた臭い。降り注ぐ柔らかな日差しは今は朝だと明確に告げていた。
「ここは……」
暫し瞠目する。どうにも頭が回らず、自分の家の自分の部屋だということに少ししてから気づいた。
そうしている内に、ガラリとふすまを開けて自分と同じ年頃の黒髪の少女が入ってきた。ミスパーフェクトと呼ばれる学園のアイドル、遠坂凛だ。
「あ、気がついた?」
その声には心配げな響きがあるような気がした。何故彼女が
「……ッ」
その時、身を起こそうとして、ずきりと背中が痛んだ、それでようやく士郎は昨日のことを思い出した。
少年は慌てた声で矢継ぎ早に問う。
「遠坂、あいつは!? あれからどうなったんだ? お前は、怪我はしてないのか?」
「イリヤスフィールなら帰って行ったわ。怪我人はあんただけよ。それより、どういうつもりなのかしらね? 士郎?」
目に見えて遠坂凛の雰囲気がかわっていく。彼女は笑顔だ。それは間違いがない。けれど、その背後に灼熱の炎のようなものが見えるのは気のせいなのだろうか?
「ど、どういうつもりってなにがだよ」
「セイバーを庇うなんてどうかしてるっていってるのよ」
「なっ」
思わぬことを言われて、驚愕に目を見開く。
「いい? 本来なら貴方もマスター、私もマスターで敵同士なの。その敵を庇って怪我を負うとか貴方頭は確かかしら?」
「敵? 俺は遠坂と敵対するつもりなんてないぞ。それに遠坂は俺を助けてくれたじゃないか」
「それはあんたが未だに敵と呼べるような存在にすらなっていないからよ。ああもう、全く、私の聖杯戦争はこんな筈じゃなかったっていうのに……」
ぶつぶつと凛は何か言っている。士郎からしてみればセイバーを庇って怒られるなど理不尽だ。目の前に傷つこうとしている女の子がいるのだから、助けるのが当然なのではないのか?
と、そういえば、とそこで士郎は自分の体を思いなおす。背中は痛むけれど、怪我らしきものは負っていない。昨日の感じからして一日で治る傷だとは思えないのだが、凛が治したのだろうか?
「遠坂、傷を治してくれたのか?」
「そんなことしてないわよ。あんたの傷は勝手に治ったの」
「……なんだって?」
その言葉に驚きつつ、凛を見ると、彼女はもう小言をいうのに飽きたのか、ため息を一つつくと立ち上がり、「とにかく目が覚めたんなら居間にきなさい。話があるから」と言い、去る。
家主である赤毛の少年は、慌てて凛のあとを追いかけた。そこで士郎が見たものは……。
「どうだ、セイバー、和食というのも中々いけるものだろう?」
「ああ、素晴らしい……素晴らしいです」
「何、まだまだある。遠慮せず食べたまえ。料理を作ったものとしては、料理を食べてくれるものの笑顔以上の対価はないのだからな。そら、肉じゃがの追加だ」
……なんだろう。この光景は。
「く……
「ふ……もしかしたら私は、君に私の作った料理を食べてもらうために今回の召喚に応じたのかもしれないな」
「アーチャー……貴方に心からの感謝を」
そう士郎が居間に来て見たもの、それは……歴代の英雄という肩書きどこにいったと言いたくなるサーヴァント2騎の姿だった。
机の上にはアーチャーが作ったらしい和食の数々が所狭しと並んでおり、セイバーは昨日の鎧姿とは打って変わった白いシャツに青いリボン、それと同色のスカートという現代服で、こくこくと高速で頷きながら、その皿の中身を次々と平らげている。その表情は至福そのものだ。
それを給仕しているアーチャーはといえば、一体どこからひっぱりだしてきたのか、どこにあったのか、これまた昨日の軽鎧姿と打って変わって、黒のシャツと黒のスラックスに、昨日も見た真っ赤なエプロンを身に着けたそんな姿だった。とてもじゃないが英霊には見えない。しかもやたらと手馴れた優雅な仕草で食卓に仕えている。その二人の姿は絵になるくらい自然だ。
「何やってるのよ、あんたたちはーーー!!!」
アカイアクマが吼える。そこで漸く気づいたのか男は凛に振り返り、「む、朝っぱらからどうしたのかね。ああ、君のためにホットミルクを作っておいた。まずはこれでも飲んで落ち着きたまえ」などといいながら、すっと適温のマグカップを差し出した。
凛はまだ文句がありそうだったが、奪うようにカップを受け取ると不満げな顔のままそれを飲んだ。
悔しいが美味しかった。
「リン、リン、アーチャーの料理は素晴らしいです。リンも是非食すべきです!」
そんなふうに興奮しながら自分の
「君は昨日そこのそれの看病で疲れているだろう? 朝食は大事だ、君も席についてひとまず食事をすませたまえ」
なんてことを最もそうな顔で告げてくるのは、
そして、凛の後ろを歩いていたこの家の主人である衛宮士郎はといえば、じっとアーチャーの作った料理を凝視し、立ち尽くして見ていた。
「どうしたのよ、士郎」
凛は疲れたような目で少年を見上げる。少年は何度か料理とアーチャーを見比べると、ぽつりと「これを、お前が?」と聞いた。
「ふん、毒など入ってないから安心しろ。そんなものは食材への侮辱だからな。なに、一応は食材提供者は貴様だからな、貴様も席に着き食せばいい。駄マスター」
「……なんだと?」
「全く、言いたいことは山ほどあるが、今は後回しにしてやるといっておるのだ。料理が冷めないうちにさっさと席につけ。この駄マスター」
「てめえ」
「はいはい。こんなところで喧嘩するんじゃないわよ。ぶっとばすわよ?」
まさに一触即発という空気が流れると、それをとめたのはやはり例によって、遠坂凛だった。
士郎は渋々席につく。そして、皆が揃ったところで「いただきます」との言葉と共に朝食が始まった。
「……!」
ぱくりと、最初の一口を食べた時、凍りついたのは凛だったのか士郎だったのか。
あえて言うなら、それはとてつもなく美味かった。
続いて別の料理にも箸をのばす。美味い。どれもとんでもなく美味い。それでいて、高級料理店などにありがちなお高いイメージもなく、家庭的な温かさが宿った優しい素朴な味をしているのだ。
「ふむ、ふむ、ふむ」
見れば、赤いエプロンを着た男が、凛の顔を見ている。凛は若干頬を赤らめながらわざと渋面を作り「何よ」と問うと、男は嬉しげな笑顔でこんなことをのたまった。
「いや、なに。感想を聞きたかったのだが、その顔では聞くまでも無いと思ったのだ」
「!」
心底嬉しそうにそんなことをいう男に悔しい思いがこみ上げる。完敗だ。自分も料理には自信があったのだが、目の前のそれらに比べるとどうしても見劣りする。女のプライドがずたずたとかそういうレベルを超えて、悔しいが追いつけそうにもないくらい完敗だ。
「……あんた、本当は
じと目で思わずそんなことを言わずにはおれなかった。
「なに!? そうだったのですか、アーチャー。そういえば、騎士ではないと言ってましたしね。成程」
いや、冗談で言ったのだから、本気にとらないでよ、セイバー。と、凛は内心でツッコンだ。
そうして10分ほど食事を続けたあとだろうか、セイバーはパチリと瞬きを1つして、首をかしげつつアーチャーに向かって言った。
「そういえば、あなたは食事はとらないのですか?」
「む? 私はサーヴァントだ。別に必要はあるまい」
「なんだよ、それ。セイバーもサーヴァントだけど、一緒に食べているじゃないか」
士郎が会話に割り込んできた。どうやらこの白髪の男に対する嫌悪感も、美味い食事のせいで若干和らいでしまったようだ。
「ふん、貴様には関係あるまい」
「てめえ」
その皮肉で突き放した物言いに、意外に沸点の低い少年のコブシが強く握られる。
「アーチャー」
そんな2人を見て、たしなめる様にかけられたセイバーの声を前に、アーチャーは肩を軽く竦めると「私は美味しそうに食べている君たちの姿を見るだけで十分だよ」とそんな言葉を残して台所の奥へと消えていった。
ひとまず食事が終了し、アーチャーが全員にお茶を配ると、さて、本題に入るかとばかりに、アーチャーが強く士郎をにらむ。
「それで、昨日のことに弁明はあるのかね? 駄マスター」
「なんだと?」
「やれやれ、わからんかね? 何故、セイバーを庇うようなまねをしたのかと聞いたのだが?」
「なっ!?」
それは今朝、起きがけに遠坂凛に言われたことと同じだった。
「お前こそ、あんな周囲に被害が出るような攻撃しといて! 弁明が必要なのはどっちだよ」
少年は思わず激昂して席を立つ。
そうだ、こいつは確か遠坂とセイバーの護衛を買って出て同行していたのではなかったのか? なのにやったことは逆なのではないのか? そう思うと、滾る心に歯止めは利かなくて、士郎は憤り交じりに声を低めて言う。
「答えろよ、アーチャー」
「たわけ」
アーチャーは士郎の追求を一言できって捨てると、その歴戦の戦士を思わせる鋼の瞳で士郎を射すくめる。
「あれくらいやらねば、
「そうね、あのバーサーカーは一定以下の攻撃をキャンセルしてるみたいだった。確かにアーチャーの判断は正しかったわ」
と、そう凛が続ける。
「なんだよ、それ」
自分が悪いとでもいうのかと、むっとしながら士郎は眉を顰める。
「それにだ、小僧。貴様がわざわざ庇いにいったセイバーだがな、あれしきの瓦礫など、もっている剣で一閃すれば振り払えただろうさ。貴様がやったのは、丸っきりの無駄。いや、足を引っ張っただけなのだ」
「そうですね。シロウが入ってきたので驚きましたが、あれくらいなら私1人で問題などなかったでしょう」
(なんだよ、それ)
庇った筈の相手にまで、お前の行動が全くの無駄だと言われ、ぎりっと士郎は歯をかみ締める。
「ここまでは把握したか? 更に言えばな、貴様が倒れてどれほどまわりに迷惑をかけたと思う? そこも自覚しているか?」
「なんだよ、それっ」
思わず、苛立ちのあまり士郎は叫んだ。
「貴様が負わなくてもいいはずの怪我を負ったことによって、凛やセイバーは貴様をこの家に連れ帰り、看病をするという本来やらなくてもいい労働を請け負うことになった。そこで敵マスターなのだからと見捨てられる人間ならよかったのだろうがな、生憎この二人はけが人を放っておくことが出来ん性分らしい。ましてや、それが自分を庇っておった傷なら尚更だ。貴様ならどうだ? 自分なら平気なはずの場面で、自分を庇おうとして怪我をおった人間が目の前にいたら放っておけるか?」
「それ、は」
「わかったか? 貴様がやったのは周囲に迷惑をかけただけなのだ」
話は終わりだといわんばかりに、ピシャリと言い切り、アーチャーは茶を啜る。
「ちょっと、あんた言いすぎなんじゃない?」
そんな弓兵の言葉と態度に、思わず眉をひそめたのは凛だ。それにアーチャーはふんと鼻を鳴らすと「誰かが言わねばわからん……いや、言ってもわからんだろうが、だから私が言ってやっただけだ」と言うなり、今度こそ話は終わりとばかりに押し黙った。そんな良い年した大人の外見とは裏腹に、どこか拗ねた子供を思わせるアーチャーの顔を見て、凛はあきれたように肩を竦めると、真剣な顔で士郎に向き合い、少年にとっては予想もしていなかったことを言い出した。
「ねえ、衛宮君。私達と共闘しない?」
「共闘?」
「私はね、この聖杯戦争をセイバーと共に勝ち抜くつもりよ」
その言葉に金髪の少女はこくんと
「でも、あのバーサーカーは
それに、と言葉を区切ると、凛はちらりと赤いエプロンをきた白髪長身の男を見上げる。
「衛宮君もアーチャーも聖杯に興味なんてないんでしょう? なら、協力しても問題はないはずだわ。私達がほしいのは勝利よ。いらないというならもらうわ。それに、アーチャーの戦力を遊ばせておくのも惜しいしね。アーチャーが士郎を守る気がないって言っている以上、私と一緒にいたほうがあなただって生存の可能性があがると思うしね。それに、アーチャー、貴方言ったわよね。士郎に勝利を捧げるくらいなら『敵でもこの際構わんからか弱い女性でも守って消えたほうが余程本望』だって。なら、士郎のためではなく、私達のために戦うのなら異存はないのよね?」
そんなことを遠坂凛は、にっこりと優等生スマイルを浮かべながら一息に言い放った。その言葉に赤いエプロンの男はこくりと頷く。
「ああ、その通りだよ。全く、君のような人間が私のマスターだったのなら、私も少しはやる気がおきたのだがな」
とか言いながら、ちらりと士郎を見て、またため息をつく赤い男。それに士郎はむっとなりながらも、こいつなんか無視だ無視、というのを呪文にして、凛に向き合い言った。
「わかった。俺も遠坂とは敵対したくないからな。よろしく頼む」
こうして、遠坂凛と衛宮士郎の同盟はここに結ばれた。
そして色々これからの方針について話をしはじめてから1時間ほど経った後、その男は言った。
「ところで、駄マスター」
「駄マスターっていうんじゃねえ。俺には衛宮士郎って名前がある!」
「そうか、駄マスター」
マイペースである、士郎の声は犬の遠吠え程度にしか感じていないようだ。
そしてその黒衣に赤いエプロン姿をした大男は、真剣な顔をして予想外な言葉を口にした。
「食材がなくなった」
「は?」
士郎は目をぱちくりさせながら男を見上げる。
「ついては食材を購入してくるから金を出して欲しいのだが」
そんなことを言いながら、大きくて無骨な手を士郎に差し出す。
「なんで、俺が」
鼻で笑いつつ、小馬鹿にした表情と、嫌味な声音で男は言う。
「ふん、仮にも貴様はマスターだろう? なら、サーヴァントを養うのも立派な貴様の仕事だ。貴様は
「必要ない! 俺が買いにいく」
「やれやれ。いまだ状況がわかっていないようだ。まあ、貴様がどこで野たれ死のうが私には関係ないがね、昨日の今日で貴様が死んだらあの二人に後味悪い思いをさせるとは思わんのかね?」
「言いたいことがあるならはっきりいえよ」
苛々としながら士郎が叫ぶと、男は「今は聖杯戦争中だと覚えているか?」と問うた。
聖杯戦争について説明を受けたのは昨日の今日だ。忘れる筈もない。その聖杯戦争についての説明の中には、マスター同士の殺し合いのことや、1人で出歩くことの危険性などについてのことも含まれていた。
「まだ明るいんだから大丈夫だろ」
そんな士郎の楽観視した台詞を切って捨てるように、アーチャーは言う。
「たわけ、日中でも気にせんものは気にせん。守る気がないと公言している私がいうのもなんだが、サーヴァントも連れずに出かけるなど愚の骨頂だ。それにセイバーと凛は荷物を引き取りに遠坂家に帰ったようだが、そのうち戻ってくる。客人をもてなすのは本来家主である貴様の義務だ。二人が戻ってきた時貴様は家を留守にするつもりか?」
「? まてよ、荷物を引き取りに行くってなんでだ?」
「そんなもの、この家に暫く住むからに決まっているだろう、たわけ。共闘する以上、拠点をどちらか一方に絞るのは当然の判断だろう」
「な、なんだって!!?」
吃驚仰天している少年に対し、赤い男は苛々としながらも、更にずいと手を差し出す。
「さて、金を出してくれるだろうな?」
そうして金をもぎ取った男は衛宮家を出た。
エプロンをはずし、黒いシャツと黒いスラックス姿となったその後の男の軌跡、それは多すぎて一言では語れない。一ついうならば、彼が帰宅したのは夕方であること、そしてその日冬木の町に「白髪黒衣のブラウニーが現れた」という都市伝説が生まれたということだけだった。そのことについてはまたのお話。
続く