衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
おまたせしました。加筆修正版五話です。元から全六話中もっとも長い回だったので1万文字オーバーするんじゃないかと冷や冷やしましたが、どうやら大丈夫だったようです。
今回のメインはランサーだと思う。
それではどうぞ。


第五話

 

 食材を買いにいく。そういって男が出て行ったのは昼前のはずだった。

 幸い朝食は遅かったし、昼飯の分くらいの食材は残されていたのだが、それにしてもたかが買い物にしては遅い。

 英霊とは過去の英雄が魔力で受肉した形(サーヴァント)として呼び出されたものなのだと、遠坂凛は説明した。ならば、現代の常識が果たしてあの白髪の大男にわかるのか? そこが衛宮士郎にとっては疑問だ。有り得ないと思うが、もしやこの遅さは迷子なのか。

 否。

 朝起きた時、屋敷中がぴかぴかに清掃され、洗濯物がきちんと干されていた。塵一つおちていないのが少し悔しいのはここだけの話だ。犯人はおそらくあの自分を嫌っている従者(サーヴァント)だろう。

 遠坂凛がやったこととは思えないし、セイバーは尚更有り得ないだろう。まあ、あんだけ自分(マスター)を嫌っているくせに、その主人の洗濯物を完璧にこなしているあたり、あの男もよくわからないのだが。

 そして朝食。完璧な和食だった。和食は自分も得意料理で、密かに自信があったのだが、その自信を見事に打ち壊す腕前をあの赤いエプロンの男は見せ付けてくれたのだ。

 一体どういう原理かしらないが、あの男は完璧に現代の生活に馴染んでいるといえるだろう。しかし、白髪に褐色の肌という特徴をもちながら和食を作るとは、あの男は一体何人なのだ。あの容貌で日本人だったりするんじゃないだろうな? と士郎は思った。

 とにかく、そんなことを悶々と考えながらも洗濯物を取り込んでいると、どうやら男が帰宅したらしい。それに気づいた凛やセイバーも顔を出す。どうも、内心この二人もアーチャーの帰宅の遅さを気にしていたらしい。

「ちょっと、アーチャー、遅かったじゃ……」

 文句を言ってやろうと思っていたらしい、凛の言葉は玄関の向こうの光景を見た途端、止まった。

「よぉ」

 アーチャーの隣に立っていたのは、アロハシャツを着た青い男だ。端正な顔立ちに一つに縛った青い長い髪、赤い瞳にしなやかな体つきの長身痩躯ときたら、格好は違えど間違いがない、あれは士郎を一度殺した男、槍兵(ランサー)のサーヴァントだ。

「リン、下がってください!」

 認識した瞬間、セイバーは鎧を纏い、凛を庇うように前に立ち、ぎっと槍兵と白髪の男をにらんだ。

「どういうことだ、アーチャー! あなたは、よもや、ランサーに我々を売ったということか? 返答次第によっては……」

「あー、それは違う」

 ここで切ると言わんばかりの少女騎士の言葉を、手を上下に振るという軽い仕草で遮って青い男が言う。

 そして、続いて思わぬ言葉が、その口から発せられた。

「俺はこいつに夕食に招待されただけだぜ?」

「は?」

 ぽかん、と三人が目を丸くする。武装しているセイバーを目の前にしても、青い男も赤い男も全く動じていない。

「まあ、その通りだ、セイバー、今は剣を収めてはくれんかね? 戦闘は食事を終えてからにしたまえ。ランサーもそのつもりでここにきたのだからな」

「どういう、ことだ?」

 セイバーは碧い瞳でじっとアーチャーの鋼色の目を見ている。ふっと、アーチャーは口元を綻ばせた。

「何、私は効率のいいほうを取ったまでさ」

 

 

      * * *

 

 

 ……話は3時間ほど前に遡る。

 衛宮邸を出たアーチャーは、その足で本来の用事であるはずの買い物は後回しにして、ここぞとばかりに人助け(しゅみ)に励んでいた。

 道に迷った老人がいれば家まで送り、重い荷物を抱えている老婆がいれば荷運びを手伝い、暴漢に絡まれている婦女がいれば助けに入り、野良猫が川で溺れていれば救出し、交通事故にあいそうになっている子供がいれば事故を阻止しと、まさに冬木のブラウニーといわんばかりの活躍っぷりである。本人も無駄に生き生きしている。

 そして目の前に「おかあさーん」といない母親を呼んで泣いている子供がいたら、このとき男がどういう選択を選ぶかのかは、想像に難くないだろう。

「どうしたのかな?」

 普段は仏頂面に近いその顔に、出来るだけ優しい笑顔をのせて、180cm越えのガタイのイイ体格で子供を怖がらせないように、出来るだけ小さく体をまとめて、子供と目線の高さをあわせ、優しい声音で語りかける。

 おそらく5歳くらいであろう女の子は、ぱちくりと大きな眼を見開いて、じっとその白髪の男を見ている。

「お母さんと、はぐれたのかい?」

 いつもの皮肉気な口調は出来るだけかき消し、女の子と視線をあわせながらそう問うと、女の子は素直にこくんと頷いた。

「じゃあ、お兄ちゃんが一緒に探してあげよう。君の名前は?」

「みぃ」

 おそらく愛称なのだろう。

「そうか。みぃちゃんはおかあさんとどこではぐれたのかわかるかな? お母さんはどんな恰好をしていたかわかるかい?」

「うーんとね、おかあさんは白いセーターなの。みぃといっしょ。しょーてんがいってところにいくんだよってみぃにいったの。でもね、おさかなやさんとおはなししてたとおもったらおかあさんいなくて……ふぇ……」

 思い出したのだろう、泣き出しそうになっている。アーチャーはぽんぽんと女の子の頭を優しく撫でると、「大丈夫、すぐに見つかるから」と言った。それに、女の子は「本当?」と純粋無垢な瞳で訊ねる。

「本当だとも。そら、こうすればよく見えるだろう?」

 言いながら、アーチャーはその女の子を抱え、肩車した。女の子は「きゃっ」といって驚いた後、嬉しそうにはしゃいで「たっかーい」と笑っている。

「では、行こうか」

 そういって、足を一歩踏み出した時、「何やってんだ、てめえ」と心底あきれた声が背後からかけられた。

 

 そこにはアロハシャツに身を包んだ槍兵(ランサー)が立っていた。

 それを見て、アーチャーは女の子を肩車したまま、動じることもなく、マイペースな調子で言葉を紡ぐ。

「む? 見て解らんかね? 迷子を届けようとしているのだが」

「俺がちょっと前からてめえをつけてたのはわかっていたんだろ?」

「無論だ。それくらいわからずして何がサーヴァントか」

「時折殺気を浴びせても無反応。何をやってるのかと思えば、人助け。何考えてやがる」

 ランサーは心底理解不能だとばかりに、その秀麗な形をした眉をひそめる。そんな青い男を前に、赤き弓兵は飄々と言ってのけた。

「ああ、人助けは私の趣味だ。君のような正英霊は知らんのかもしれないがね、守護者というものは心が荒む仕事でな、たまに現界して自我があるときくらい趣味に走らないとやってられんのだよ」

 そうアーチャーはにっこりと、食えない笑顔でさらりと返す。「どんな趣味だ、どんな」とかなんとか青いのがなんか言っているが、そんなもん知ったこっちゃないと言わんばかりに右から左に聞き流す。不貞不貞しさもここまでくるといっそ、天晴れである。

「テメエ、今が聖杯戦争中だってわかってんのか?」

 奇しくもその台詞は、自分(アーチャー)が今朝、衛宮士郎(マスター)に言った台詞と同じだった。そのことに、黒衣のブラウニーはふっと自嘲の笑みをこぼす。

「私の聖杯戦争はアレに召喚された時点で終わっているよ」

 疲れと自棄が混じった台詞だった。

 

「ああ、そうかい」

 目の前の青い男の声に苛立ちが混じる。

「でも、生憎見逃してやるわけにはいかないんでね。なにせ俺はマスターに令呪で「全サーヴァントと戦え」と命令されているからよ。あとはテメエだけだ」

 ぴりぴりと英雄の覇気が辺りに漂う。

 それを受けて、アーチャーの肩に乗っていた少女は「ふ、ふぇ」と泣き出しかけていた。

「ああ、全く、ランサー、君少しは空気を読みたまえ。みぃが怯えてしまったではないか」

「ふぁああん」

 え、悪いのは俺か? ランサーは自問自答した。

「ああ、よしよし。いい子だから泣くな。あそこのお兄ちゃんには近づいては駄目だぞ。がぶっと食べられてしまうからな」

「って、おい」

「ふぇ、みぃ、たべられちゃうの?」

「おい、アーチャー、てめえ」

「だから近づいては駄目だぞ。と、ランサーいい加減にしたまえ。そもそもこんな往来でことを構えるつもりなのかね? 君は」

 その言葉にランサーはぐっと黙する。

「……あとで覚えとけよ」

 ともかく、まもなく彼女の母親は見つかった。アーチャーは母親に感謝の言葉を、女の子には笑顔をもらいながら手をふってわかれると、人目があまりなく、槍を振るうには手狭だろう路地裏へと歩を進めた。

 ランサーの気配はいまだある。霊体化してついてきているらしい。サーヴァントにはサーヴァントの気配がわかるものだ。

 路地裏とはいえ、まだ昼間となれば人もいる。あまり得意ではないのだが、アーチャーは周辺に簡易な人除けの結界をかけることにした。

 ただでさえ、マスターが衛宮士郎なのだ、魔力は少ない。それでもセイバーと自分の時の契約とは違って細いとはいえ一応レイラインが通って魔力がきている分だけはマシなのか。セイバーのときは繋がらなかった魔力線がつながったのは自分とアレだからこそなのか、わからないが不快な思考をとめる。

 どちらにせよ、魔力が少ないというのに、不慣れな結界を張るのに使うというのはあまりありがたくないことに思えた。まあ、そんなことで苛立ったところで今更しょうがないのではあるが。

 

「得物を出す間くらいまっといてやるぜ? そら、弓を出せよ、アーチャー」

 既にやる気満々であるらしき青き槍兵は、今までになく愉快そうな声を出し、己の赤い魔槍を肩に携えている。

 アーチャーは、失くさないように、預かった財布を投影した聖骸布(ちなみにあまり真面目に投影してない)に包んで戦闘の邪魔にならないように端におき、今まできていた黒いシャツとスラックスを投影破棄して、赤い外套と黒い鎧の概念武装姿に切り替え、その両の手に白と黒の夫婦剣・干将莫耶を構え、そのままランサーに踊りかかった。

「馬鹿が! 弓兵風情が接近戦を挑んだな!」

 サーヴァント中最速を誇る槍兵の得物が、獣そのものの俊敏さでアーチャーを襲う。次の瞬間そこには槍でつかれ、倒れ付す赤い男が……いなかった。がっと、黒と白の短剣が、その目にも留まらぬ速さの槍の穂先を弾く。一瞬虚を突かれた青い男は驚くが、手は止めずに槍を自在に操り攻撃を繰り返す。アーチャーはそれらを弾き、いなし、見極めた。

 ……鷹の目だ。その研ぎ澄まされ無骨に研鑽を続けてきた武人の瞳。それが男が攻撃するポイントを計算し、隙を作り、わざと攻め込ませ、押し返していた。

「これも私の武装だよ」

「ちっ」

 青い男は少し距離をとろうと後ろに跳ね、その瞬間アーチャーは手にしていた双剣をランサーへと放っていた。

「たわけ!」

 無手になったアーチャーに神速のうなりを上げて赤い槍が迫る。が、確かに無手だったはずの褐色の手には次の瞬間あの白と黒の双剣が握られていて、再び槍の穂先を弾いた。同時に、膂力の差がここにきて出て、アーチャーの双剣が再び手元から弾かれる。

 弾けども弾けども褐色の両手へと剣が現れ続けるその様は、まるで魔法(マジック)のようだ。何度も現れ、何度も弾かれる双剣。それを前にランサーの困惑が強くなった。その時、背後からくるそれの気配に気づけたのはランサーが生き残りに長けた英霊であったからなのか。

「なっ!?」

 最初にアーチャーがランサーに向かって放っていた白と黒の双剣が背後から戻ってきていた。されど、いくら驚いていてもそこは英霊、槍は目前のアーチャーとの攻防を忘れることはなく、今がチャンスとばかりに攻撃に転じてくる赤い男の攻めをはずし、背後からの予想外の攻撃にも対処し、その奇襲は回避されたはずだった。

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 そう赤い男が言い放った瞬間回避したはずの双剣と、男が弾き飛ばした双剣のランサーに極近い場所にあったものは爆発をおこした。

「ッ!?」

 本来、英霊が使う宝具は無二のものだ。爆破させるなど正気の沙汰ではない。煙が周囲を舞う。その一瞬、それで赤い男の目的は果たされた。歪な形をした刃がほんの僅か青い槍兵に刺さる。

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

「どういう、つもりだ」

 青い男が感情を抑えた声を吐く。

「何、君ほどの男を偵察に使うようなマスターだ。大方、君も自分のマスターには不満をもっていたのではないのかね?」

「てめえは……!」

 血を吐き捨てるような口調で、槍兵は言う。

「てめえは一体なんなんだ。サーヴァントとマスターの契約を切れるような弓兵なんざ聞いたことがねえ!」

「言ったろう。私はただの守護者だ。世界の掃除屋だよ」

 武装を解き、再び黒いシャツと黒のスラックスを再投影し、アーチャーは何事もなかったかのように、財布を拾う。

「それに、まあ見ての通り私は此度の聖杯戦争への興味が失せていてね、やる気がおきないのだよ。目下気にかかるのは今晩の夕食でね。そろそろ買い物をして帰らねばと思っていたところだ。ともかく、君への全てのサーヴァントと戦うという令呪ももう無効だろう? というわけでそろそろ開放してほしいのだが」

 そんなマイペースなことをいう弓兵に、青き槍兵はひくひくとこめかみをひくつかせた。

「ああ、そうだ。なんだったら、夕餉でも食べていかないかね? ランサー。確か君は目下からの食事の誘いを断らないという誓い(ゲッシュ)があっただろう」

「……ほぉ、そうかい。俺の正体なんかお見通しってか? この狸が」

「これでも私は君に善意で言っているのだがね? 家には今、セイバーがいる。君の望みは大方、聖杯ではなく、死闘を尽くすというところだろう? セイバーたちの目下の悩みは敵を如何にしてあぶりだすかだ。君は望みを叶えられるし、セイバーたちは倒すべき敵を得られる。どうだ? 一石二鳥ではないか」

 

 

      * * *

 

 

「で、その後ランサーと買い物をして帰ってきたってわけ?」

 遠坂凛が美人と呼べる顔に青筋を立てながら、アーチャーに言葉の確認をとる。それに対して、この白髪のサーヴァントはといえば、少女の怒りなど歯牙にもかけず、呑気にも日本茶をすすりながら、「ああ、その通りだ」と答えた。

「その通りだ、じゃなーい! あんた、何勝手なことしてんのよ!」

 ばんと、机をたたきながらアカイアクマがほえる。ちなみに細かい部分の話は適当に誤魔化しておいた。契約を切る力を所持していることを知られたら面倒だ。尚、ランサーには帰りがてら、自分は(担い手じゃないので)契約を切ることは出来ても再契約は出来ないことは話している。今のランサーの立場ははぐれサーヴァントである。

「最善を尽くしたつもりなんだがな」

「連絡の一つや二つ寄越せっていってんのよ」

「そこの駄マスターにか? 御免蒙る。さて、それよりそろそろ夕餉の支度をはじめたいのだがね? 今日は洋食にしようかと思っているのだが。それにセイバーとの先日の約束も果たしたい」

「そんなのどうだっていいでしょ!」

「む、よくなどない。それに、ランサーには時間がない。なにせ食後にはセイバーとの死合いが待ち受けているのだからな」

 はぐれサーヴァントであるランサーには聖杯のバックアップはきかない。現界出来るのはせいぜい一日といったところか。それなら時間があるように感じるかもしれないが、戦闘とは多く魔力を消費するものだ。故に戦闘を控えている今、時間があるとはいえない。

「って、なんだ? 作るのはオマエなのか? 嬢ちゃんじゃねえのか?」

 今までだらんとしながら話を聞いていた青い男が、片眉を上げながら話に入っていく。

「私だ。何か問題でもあるのか?」

「オマエ、作れんの?」

「アーチャーの料理は非常に美味です」

 何故かこれまで黙ってランサーを監視していた筈のセイバーが混ざってきた。

「ふ、料理は私の趣味でね。なに、どこぞの小僧などには早負けぬ腕前だと自負している」

「テメエの趣味は一体、どうなって……あー、いや悪かった。聞いて悪かった」

 何故か青いのはげんなりとしている。それに首を傾げながらアーチャーが立ち上がり、赤いエプロンを装着していると、後ろから「まてよ」と少年の声が響いた。

「なんだ、小僧」

 赤毛の少年は意志の強い目でぎっとアーチャーを見上げると「夕食は俺が作る」と言い出した。

「貴様如きの腕で? ふ、やめておけ、客人をがっかりさせるのがオチだ」

「うるさい。客人をもてなすのは本来家主である俺の義務だっていったのは、あんただろ」

「はいはいはい、喧嘩しないの。ああ、もういいから二人で作りゃいいでしょ。これ以上頭痛の種増やさないで頂戴。いい加減にしないとぶっちぎるわよ?」

 凛の腕の魔術刻印が光を放って浮き上がっていた。

 

 まあ色々あったが、結局の所、衛宮士郎(マスター)アーチャー(サーヴァント)は2人主従共同で夕食を作ることとなった。やはりこうなったというべきなのか、互いに互いを罵倒、口喧嘩しながらも、周囲からすれば意外なくらいにぴったり息をあわせて次々と料理を作り上げていく。何を告げなくても、なんとなく相手が次に何を作ろうとしているのかわかってしまうのだ。まさしく阿吽の呼吸といえるだろう。

 そんな中ふと、あることに士郎は気づいた。

「おい、アーチャー」

「なんだ、小僧」

「うちにそんな包丁あったか?」

 アーチャーが握っている包丁。それは士郎の見たことの無いものだ。無自覚に発動する解析の魔術は目の前の包丁がいいものだと告げている。

「ああ、正宗君二号か」

 こともなげにアーチャーは名前を言った。

「ふ、見たことなくて当然だ。私の持ち物だからな」

「あんた、どこにそんなものもってたんだよ」

 半ば本気で、実はアーチャーは四次元ポケットでももっているのではないかと疑ってしまう。

「ところで、そんなことを気にしてていいのか? それ、私はもう5品目だ」

「あー!! くそ、負けないからな」

 そうして士郎は再び料理に没頭した。

 

 その日の夕餉は好評だった。セイバーは嬉しそうに高速で頷きながら平らげるし、ランサーは「うめー、うめー」と大喜びで食いながら、機嫌よさ気に「やるじゃねーか」とかいいつつ、バンバンとアーチャーの肩を叩いたり、セイバーとおかずの取り合いをしたりしていたし、凛もなんだかんだいいつつ美味しさをかみ締めるように食事をしている。

 士郎はアーチャーの料理を口にするたび複雑そうで、アーチャーはいそいそとセイバーやランサーのお代わりを注いだりなど、皆の給仕にまわっていた。そしてあらかた片付けると、アーチャーは、今日買ったらしい紅茶を、優雅な仕草で人数分配った。手馴れているどころではなく、その仕草は当たり前のように洗練されていて、とても自然だ。

 その紅茶に口をつけた途端、凛が目を見開いた。料理もそうだったが、紅茶もとても美味しい。ゴールデンルールを守って淹れられたものだと一発でわかった。香りが喉を通り広がって、至福が心と胃を満たす。

「さて、デザートだ」

 言いながら、アーチャーがもってきたのはオレンジとレモンのシフォンケーキだった。ふんわりと焼き上げられたそれは見るからに美味そうだ。セイバーの目が輝く。

「アーチャー、これは」

「君に言ったろう? 今度君に本物のケーキを進呈しよう、とな。これはシフォンケーキという。こちらの生クリームをつけながら食べるといい」

「オマエ、そんなもんまで作れんのか」

 ランサーが感心したように「女だったらいい嫁になったろうにな、勿体ねえ」とか漏らしている。とりあえず、アーチャーはそのランサーの台詞を無視(スルー)することにした。

 凛は体重が気になるのか、ケーキを受け取るか迷っていたようだったが、結局食べることにしたようだ。

「いただきます」

 その言葉と共にぱくりと皆がそのケーキを口に含む。美味い。ふわふわしてて甘酸っぱいケーキに、あっさり滑らかな植物性の生クリーム、美味しさと香りを極限まで引き出された紅茶、どれもが秀逸だった。その全員の顔に浮かんだ笑顔、それが妙に衛宮士郎には印象に残った。

 

 そうして30分ほど経った頃か。

「さて」

 よっと、青い髪をした男が立ち上がる。そのときには既に男は赤き魔槍を携えて、元の青きボディアーマー姿に武装していた。

「やるか」

 そんなあっさりした声をかけて、とん、と庭におりる。セイバーもまた武装し、同じく庭に降り立った。ぴりりと空気が震える。衛宮士郎の葛藤している顔が見えた。

 衛宮士郎が何を考えているのかわからぬわけではない。大方、武装したセイバーを見て、女の子が戦うなんてとかそういうことを思っているのだろう。もしかしたら、何故オレ(アーチャー)が戦わずセイバーに戦わせるのかとか、検討違いのことを放っておけば言い出すかもしれない。だから、アーチャーは先手を討って口を開く。

「二人の邪魔をするなよ、小僧」

 その言葉に、ギッと琥珀色の瞳が赤の弓兵を射抜く。意に介した風もなく、アーチャーは言った。

「セイバーは騎士なのだからな」

 

 半刻ほどが経ち、勝敗はついた。勝者はセイバー。ランサーは満足そうに消えていった。

 しかし、ランサーも流石のもの、心臓こそはずしたがセイバーは重症を負い、辛勝には違いがなかった。暫く、戦闘は避けて回復にまわしたほうがいいだろう。

 

 

      * * *

 

 

 その夜、衛宮士郎はいつもの魔術鍛錬をしていた。脳裏に過ぎるのはアーチャーが「正宗君二号」とか呼んでいた包丁。なんで気になるのだろう。気になるといえばアーチャーもだ。無性に腹立たしくてむかつくし、向こうも自分を嫌っているというのに、なんでか気になるし、言葉も無視できない。漠然とした口に上手く出来ない感情だ。

「集中しないと……」

 士郎は、頭から考えていたことを追い出そうとし、けれどそれでも目の前のことだけに集中仕切れずに、脳裏をよぎったのはあのアーチャーが使用していた包丁の姿だった。

投影開始(トレースオン)

 それを試してみたのは、なんとなく、だ。なんとなく、自分はアレを作れる気がした。

「え?」

 投影は成功していた。それも考え付く限り完璧な形で。今までの形だけの投影(がらくた)とは違う。確かな手ごたえ。どういうことなのか、理由を追求するのは危険な気がした。

 ……寝よう。ともかく、今は眠りにつこう。

 

 

      * * *

 

 

 あれから、何日も経った。セイバーや遠坂、アーチャーが暫く家に住むことについて、姉貴分であり保護者を自称する幼馴染みの藤村大河と揉めると慌てた士郎だったが、気づいたらアーチャーの口八丁で全て丸め込まれていた。ぬけぬけとあの男、よくもすらすらと嘘が言えると、思わぬところで士郎は男に感心した。ついでにアーチャーは「衛宮弓兵衛」という名前で、切嗣の疎遠になっていた従兄弟の息子ということになった。それを聞いた時、アーチャーの名前のセンスを疑った。

 色んなことがあった。色んな事件があった。そんな中、何度か夢を見た。

 人を殺す夢だった。

 絞首台に上る夢だった。

 あの10年前の大火事の夢だった。

 そしてまた赤い丘。

 赤い剣の丘。

 墓標だ、きっと。

 そしてそっとその下に秘められた、黄金の、夢。

 明け方の、眩しい夢。

 笑っている金髪の少女。輪郭だけだ、詳細は失われている。でも、だけど、自分は、士郎は、その子のことをセイバーだ、と思った。

 あれはきっとセイバーだ。

 ふいに『もしかしたら私は、君に私の作った料理を食べてもらうために今回の召喚に応じたのかもしれないな』なんてことを冗談めかして言っていた男の横顔を思い出す。

 あいつは嫌いだ。気に食わない。

 遠坂は最近「同族嫌悪だったんじゃない」と言うようになった。

 同族なんてものじゃない。だって、あいつは。

 また夢から目覚めた。

 

「アーチャー」

 士郎は、自分が呼び出した男(のサーヴァント)を呼ぶ。

「なんだ、小僧」

 男はめんどくさそうに答える。日に日にアーチャーは、最初ほどの拒絶は示さなくなっていった。それは士郎がどうでもよくなったのか、現世を楽しむことにしたのか。

「話がある」

 遠坂に聞かれたくない。そう士郎は思った。だから、土蔵に招く。男を。

 

「アーチャー、お前の真名がわかった」

「……言ってみろ」

「お前は、英霊エミヤ、そうだな?」

 出来るだけふてぶてしく告げる。その声に、にやりと、褐色の薄い唇が笑みを模ったような気がした。

 

 

 

 続く

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