衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです 作:EKAWARI
さて、『衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです』IN加筆修正版もこれが最後となりました。
どうか少しでもお楽しみいただけたら幸いに存じます。かしこ。
―――――もしかしたらこの日が来ることを待ち望んでいたのかもしれない。
「いくぞ、錬鉄の英雄。食材の貯蔵は十分か」
「ふ、ついて来れるか」
「てめえの方こそついてきやがれー!」
いざ、
『衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです』
最終話:これも一つの正義の
「ああ、ハンデをつけてやろうか? 衛宮士郎」
余裕の笑みを浮かべた白髪の男が、そんな言葉を士郎と呼ばれた少年へとかける。
士郎にとって、このニヒルな笑みを浮かべた男が自分が成ったかもしれない存在というのは不思議なことで、また同時にとても気に食わないことだった。
だから、フンと鼻を鳴らして士郎は言う。
「余裕こいてて足元すくわれるなよ、アーチャー」
そんな不敵な赤毛の少年の言葉に、赤き弓兵は皮肉気な笑みを消して、至極真面目な声音で言った。
「ふむ、よかろう。全力で相手をしよう」
言葉を交わす合間も、アーチャーは自分の手元にある野菜の選別を怠りはしない。手触りを確かめると同時に解析の魔術も発動させているのは想像に難くない。いくら、遠い昔に別れた存在とはいえ、根本はこの男も自分と同じエミヤシロウなのだ。
「先輩、大丈夫でしょうか?」
「やー、楽しみねー」
「はい、タイガ。シロウがアーチャーに勝てるとは思えませんが……」
「……はぁ。なんか頭が痛いわ」
所詮は外野であるところの、
「ではルールの確認だ。私とお前はお題にある料理を各3品、1品ずつ出し、それを審査員である、セイバー、桜、大河、凛が判定し、どちらが美味いかを決める。これに異存はないな?」
「ああ、それで構わない」
「それでは、はじめ」
ぴぃーっと、大河がならした笛が合図だった。
既に野菜の選別は済んでいるのだ。バッと士郎とアーチャーは調理に同時にとりかかる。
(くっ)
わかっていたことだが、アーチャーの料理の腕前は凄い。手際も鮮やかで大胆にして繊細だ。動きにも微塵の隙もない。おそらく今の自分なんかではとても太刀打ちできないだろう。だが。
「負けるもんか」
だからといって負けを認めるつもりなど毛頭ない。諦めたらそこで終了だ。歯を食いしばり、士郎は己の最善を手繰る。
「言うのは容易いが、実力が伴っていなければ意味などもたん。そら、一品目が終わったぞ」
一品目の品目は味噌汁。アーチャーの勝利によって終わった。
二品目に取りかかる。がぎりと、魔術回路が音をならしたように感じた。アーチャーが手にしているのは変わらず、正宗君二号と呼んでいたあの包丁。自分がこの手に握ったものとはやはり違う。
「
憑依経験を読む。それでもまだ、この男に迫るには足りない。もっと、もっと深く、業を。
「終わりだ」
二品目は鯛の活け造り。
「こ、これは」
「むむ、シロウも中々やりますね」
やはりアーチャーの勝利だった。けれど、確実に観客の反応は変わってきた。
最後の勝負、絶対に負けてなるものかと、少年は意気込む。かつて少年だった青年は、それを見てふと笑う。
(私は、何故こんなことをしているのだろうな?)
わかっていた。この少年は
今でもあれだけは鮮明に覚えている。月明かりの中の金紗の髪。『問おう、貴方が私のマスターか』その神聖な響き。地獄に堕ちても忘れないと思った。
けれど、ここの
それでも、未熟だった頃の自分を見続けるというのは中々に耐え難いものだ。自分を召喚した時点でこの男に八つ当たりをする価値もないが、それでも顔を合わせると歯がゆさと苛立ちを感じるのは仕方ないというものだろう。
それでも、今自分は、アーチャーは、オレは、笑っていた。こっそりと、口だけは、笑みを刻んでいた。
「何、笑っているんだよ」
「さて、気のせいだろう」
「アーチャー」
少年は真っ直ぐさを湛えた、真剣な顔で調理をしている。その声もまた自分にない真っ直ぐさで、握る包丁は
「お前には負けない。誰かに負けるのはいい。けど、自分には負けられない!」
「なら、越えて見せろ」
言われなくても、そう言われた気がした。
最後の料理が出来た。コトリと、彼女たちの前へと、美味しそうに湯気が立てられたそれが置かれる。
最後の品目は肉じゃがだ。以前にもアーチャーがいつぞや作ったそのメニュー。その料理こそ、何にも勝る日本の家庭の味。それに箸がのばされる。
「!」
勝負は終わった。
笑っている。至福をかみ締めた顔で、金紗の髪の少女が言葉もなくじっくりと租借している。他の3人の参加者とて無意味などではない、けれど、この勝負において、
だから、まだいつかに至っていない少年は宣言した。
「俺の勝ちだ、アーチャー」
「ああ。そして、私の敗北だ」
きっと……ずっと、この時を待っていた。
二人で並んで洗い物をしつつ、ぽつりと士郎が口を開く。
「俺はあんたなんかにはならない」
「それでいい」
今までになく、清々しい声音で
でもかまわないと、青年は思った。
そんな男に向かって、少年は言う。
「俺は正義の味方になると
その士郎の言葉を前に、アーチャーは正義の味方などただの都合のいい掃除屋だ、と反射的に言いそうになる。でも、やめて、話の先を促した。
「でも、俺が最初に憧れたのは、俺を救ってくれたときのあの笑顔だったんだな、と、そんなことを思い出した」
あの顔は今でもアーチャーとて覚えている。
まるで救われたのが自分のほうだったかのような、心底嬉しそうな、そんな男の笑顔。
「そうだ、俺は沢山の人の笑顔が見たくて、だから正義の味方に憧れたんだ」
士郎は会った日にアーチャーに言われた『誰かを救うのは体だけでは意味などない。心も救わねば意味などない』という言葉と『誰かを救ったと思ったところで貴様は果たして相手を笑顔にすることは出来るのか?』という言葉を思い出していた。
衛宮切嗣は衛宮士郎を救った。それは事実だ。でも、確かに其れは体だけではなかったはずなのだ。そして、笑顔を思う。
自分が庇ったことについて却って迷惑だったというセイバー、それがアーチャーの料理を前にしたとき、本当に幸せそうに笑っていた。人を幸せにするのは力だけではない、そんなことにこんなところで気が付いた。
「俺は正義の味方になる。けれど、それは、アーチャー。お前が思うようなやりかたじゃない」
「……そうか」
しかし、士郎にそのことを気付かせた男自身は、いまだ気づいていないのかもしれなかった。
「俺はあんたを越える。越えてやる」
「ああ……」
白髪褐色の肌、鋼色の瞳の長身痩躯。色が違う。声すら違う。やがて自分が成ったかもしれなかったはずのその男は、その
……話を戻すが、現在の聖杯戦争の現状はこうなっている。
まず始めにランサーがセイバーに敗れた。その後、学校に人を溶かす結界が発動したが死者が出る前に食い止めるのに成功、ライダーはセイバーのエクスカリバーの前に消え去った。が、マスターの慎二は逃げ出したところをイリヤスフィール率いる
そしてキャスター、アサシンの両名は昨日の未明、正体不明の新たな第八のサーヴァントによって倒されていた。予想外の珍客の乱入に我らがリーダー遠坂凛も慎重だ。明日はイリヤスフィールのいるというアインツベルンの城に向かうということで話はついた。そのため、各々は早く体を休めることとなった。
何が起こるのかわからぬのだ。万全を期した体調で向かう。それは当然の戦略だ。
そのタイミングを見計らって、士郎はアーチャーとの料理勝負を持ちかけた。勿論、凛は「こんな時に何を考えてるのよ!?」と激怒したが、餌に釣られたセイバーに押し切られたのと、あまりに士郎が真剣だったので、結局折れた。
今はPM9時。間桐桜と藤村大河は既に帰宅した後だ。
凛とセイバーは衛宮家敷地内にある別邸で暮らしている。
凛は明日の準備に勤しんでいた。その時、コンコンと控えめなノックの音と共に、アーチャーの声がかけられた。
「凛、少しいいか?」
「アーチャー? 何の用よ?」
珍しい来客を前にして、凛は宝石を磨く手を止め、アーチャーを室内に招き入れつつ問う。
そしてアーチャーが言い出した内容は、凛にとって意外な言葉だった。
「君の宝石を一つ、借り受けたい」
「……それ、本気で言ってる?」
「ああ。そうだな、負債は我がマスターにでも任せよう。だから、出来るだけ魔力を篭ったのをくれないか」
「貸しにしといてあげるわ」
そんな会話をしていたのを士郎は知らなかった。そして暫く後、士郎は凛への借金の返済に苦しむことになるのだが、それはまだ先の話だ。
そして、アインツベルンの城についた。そこには第八の男がいた。金色のアーマーに身を包んだこの世の財全てを手に入れた男、英雄王ギルガメッシュ。ヘラクレスは無残にも討ち取られ、そしてイリヤも殺されるその直前にぎりぎりで間に合わせることが出来た。イリヤが助かったことに一番ほっとしている顔をしたのはアーチャーだ。その理由を士郎だけは気付いていた。
「なんだ、雑種、
そういって激怒してかかってきたギルガメッシュだったが、アーチャーによる固有結界『
でも、魔力の使いすぎでアーチャーがなんか大変だった。まあ、結局は凛からもらっていたという宝石をのんで乗り越えていたのだが。
その後、衛宮家に保護したイリヤを奪いに言峰がやってきたりもしたが、なんとか追い返した。イリヤの状態はサーヴァントの受け入れすぎで既に一杯一杯だった。とりあえず、聖杯が光臨したという山に皆でむかった。そこで泥に汚染されたソレを見て、セイバーがあれは自分の願いを叶えるものではないと判断、凛の令呪によってブーストさせたエクスカリバーを使い、破壊した。
こうして、第五次聖杯戦争がおわった。
……筈だった。
「どうした、小僧」
アーチャーが茶を入れている。
「アーチャー、わたしのぶんは砂糖三つね」
イリヤスフィールがはしゃいでいる。
「……なんでもない」
アーチャーは首をかしげるとまた給仕に戻った。今日のお茶請けはアーチャーお手製のスコーンだ。
聖杯が消えるとサーヴァントも消えるはずだったのに、遠坂が何かしたのか、アーチャーとセイバーの2人は残っていた。
二度目の生には興味がないというアーチャーだったが、それでも「あの時の言葉が嘘ではないと証明してみせろ」と言い笑った。つまり、自分の先を見届けるために残ることを選択したらしい。
イリヤスフィールについては、実家からは勘当の扱いになっているらしい。藤村組が養子として引き取った。
アーチャーによると、イリヤスフィールは自分の養父である衛宮切嗣の実の娘にあたるらしい。つまり、義理の姉だ。どうみてもイリヤのほうが年下にしかみえないが、そうらしい。そして、その時告げられた事実、イリヤは長くない。だから、イリヤが死ぬまでは
「ねえ、シロウ、明日はどこに連れて行ってくれるの?」
「ああ、そうだな」
イリヤは無邪気だ。余命一年もないとは思えない。だから、馬鹿な
「遊園地にでもいこうか」
半年後、イリヤは死んだ。いつものように、無邪気に笑って、「シロウ」と自分の名を呼びながら、明日のことを話しながら死をむかえた。最期まで白い妖精のような少女だった。
それに並行して思い出したんだと、男は言った。今では殆ど背丈が変わらなくなってきた、白髪の男。男の記憶は摩擦し磨り減っている。だから色々忘れているらしい。
桜は黒い聖杯。このままでは悲劇がおこるという。だから、士郎はそれを止めるために駆けた。それは1人ではない。遠坂とセイバーとアーチャーがいる。正義の味方は独りではない。
間桐の家は焼かれ、桜は一時は危ないところだったけど、それでも救われた。
そして、衛宮士郎は旅に出る。
当たり前のような顔をして
紛争地で、ゲリラ街で、士郎は自分に出来ることをした。
それはアーチャーがかつて行った命の剪定ではない。やったのはもっと単純。ただ、料理を作って振る舞っただけ。
劣悪な食糧事情を解決し、食物が育つに不向きな土地に行っては、土地を開拓し、たとえろくに食材がなくても、それでも美味い食事を振る舞い続けただけ。「だけ」かもしれないが、それでも人々は暖かな笑顔をくれた。
それでもぶち当たる汚れ仕事はアーチャーが請け負った。「何、オレにはこちらのほうがふさわしいだろうよ」と自嘲気味に笑いながら、それでも頑なに請け負った。
そうしてそんなことを繰り返してどれくらい経っただろうか。いつしか士郎はこう呼ばれるようになっていた。
どんな劣悪な環境でも最高の料理で皆を照らし出す「正義の料理人」なのだと。
始まりは少し頭の悪そうな赤い弓兵を召喚したことだった。
これは切嗣と約束した正義の味方とは違うかもしれない。
それでも、これも「正義の味方」の一つの答えなのだろう。
さあ、みんな一緒に命の恵みを。
―――――いただきます。
完
というわけで最終回でした。
本作品を初めて発表したのは今から約2年前の4月頃で、当時はネタバレは見ていたとはいえ、セイバールートしかクリアしていない状態で勢いだけで一週間で書き上げた作品でした。
この作品がにじファンでの俺の代表作だったわけではないんですが、それでも個人的にはとても思い入れの深い作品です。
とくにイリヤが亡くなるシーンと、最後のオチは今見ても気に入ってます。
アーチャーのキャラは半分くらい壊れていたし、ギャグとして書きだしたわりに文体は硬いし、話としては最初っから中編として作っているだけあって短く、駆け足。
それでも、少しでも読者の皆様へ、心に残ったものがあれば作者としてとても嬉しく思います。
それでは、ここまでご覧いただきありがとうございました。