笑顔は太陽のごとく…《艦娘療養編 完結済》 作:バスクランサー
本編、どうぞです!
それぞれの笑顔
ーーーある日 第35鎮守府
マルロクサンマル 提督自室
「ふぁ〜…んん…」
俺はベッドからその身を起こした。クローゼットから提督用の白い軍服を取り出し、着替える。
「さてと、今日も頑張りますか。」
俺は自室隣の執務室へと移動。軽く机の上を掃除して、今日の予定、出撃の要項を確認する。
スケジュール関係の自作の書類を整理し終わったタイミングで、コンコン、とドアを叩く音が執務室の中に響く。
「今日もいいタイミングだな」
俺がドアを開けると、そこには。
「おはよう、司令官」
「響。おはよう。ここに来たってことは…」
「食堂が開いた、ってことだよ」
「よし、じゃあ朝ごはん食べに行こうか」
「ハラショー」ーーー
ーーー食堂
「いらっしゃいませ…あら提督、おはようございます」
「おはよう、鳳翔さん、間宮さん」
人数が少ないため、この第35鎮守府の食堂の規模は小さい。しかし、だからこそ家族のような関係、コミュニケーションを築ける場所として、ここは重要な役割を果たしている。
「今日の朝食は…よし、ご飯と味噌汁、卵焼き、野菜とソーセージの和え物、といくかな」
「じゃあ僕はトーストとスクランブルエッグ、コーンスープで。おかずはサラダでもつけようかな」
「はい、かしこまりました!」
「用意するので、ちょっと待っててくださいね!」
ここの鎮守府の食堂を切り盛りするのは、間宮、そして鳳翔。かつて無力感、そして自責の念で、自室に引きこもっていた鳳翔も、今ではこの鎮守府を様々な面で支える存在となった。
「うーん、やはり美味い…」
「これは…ハラショーだ。単純にそれだけだ」
「ありがとうございます、2人とも。私もそう言っていただけて嬉しいです。」
ニコリと微笑む鳳翔。間宮からデザートとしてヨーグルトをもらい、腹を満たして朝食を終了した。
「ふう、ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「ありがとうございます、こんなに食べてくれて」
「そりゃあ美味いからな。じゃ、また来るな」
「はい!ありがとうございました!」
頭を下げる鳳翔と間宮に見送られつつ、俺たち2人は食堂を後にしたーーー
ーーーそれから執務室で書類整理をひとしきりしたあと、俺と響は明石たちに開発を頼もうと、工廠へ向かった。
「明石ー、いるかー」
「あ、提督ー!すみませーん、今、夕張ちゃんに義手のメンテナンスしてもらってるんで、少しだけ待っていてくださーい!」
工廠の奥から明石の声が響いてくる。
「…ということだし、待つとするか」
「そうだね、司令官」
すると、そこへ人影が。
「あら、提督?」
「提督さんじゃん、どうしたの?」
五航戦姉妹の翔鶴、瑞鶴だった。
「開発に来たんだよ。工廠はなんか今、明石が義手のメンテしてるみたいだから開いてないんだ。多分あと少しで終わるから、待ってるんだ」
「そうですか。」
「翔鶴さんと瑞鶴さんは?」
「私たちは艦載機の整備です。ね、瑞鶴」
「うん!」
響の問に返し、笑顔で微笑み合う2人。
元々翔鶴は、結果に囚われて生きる意味を見失ったためにここに来た艦娘だ。日記をつけ、毎日自分の頑張りの記録をつけることを提案すると、翔鶴は日々の成長を実感できるようになり、見事に立ち直った。
「すみません!お待たせしました!」
中から出てきた明石。その右手には、見違えるようにピカピカになった、銀色の義手がはまっていた。
「こちらこそ、忙しい時にすまん。よろしく頼むよ」
「私たちもお願いします」
すると中から、もう一人の艦娘ーーー夕張が現れた。
「あ、翔鶴さんと瑞鶴さん!じゃあ、提督の開発の方は私が担当しますので、明石さんは艦載機の整備の方をお願いします!」
「はーい!」
明石は義手を器用に操って、翔鶴と瑞鶴に渡された機体を整備する。
明石はかつての鎮守府で、ケッコンカッコカリまで行った提督を失い、そしてそのショックで自身の右手首から先を自ら切断してしまった。その後長らく開発ができなくなってしまっていたが、提督と響にその過去を吐き出し、そして夕張にもらったこの義手のおかげで、今では俺の祖父の設計図を使って、次々と強力な装備を開発している。
「はい、じゃあこのレシピで3回、ですね。分かりました!」
「タックアローにスーパースワロー、それからガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターですね!任せてください!」
2人は工廠奥の作業室へ。まもなく夕張の方はこちらの頼んだ開発が終わり、ソナーなどを持ってきてくれた。
「ありがとう、夕張」
「いえいえ!またどうぞ!」
艦載機の整備はまだかかりそうなので、ここで五航戦姉妹と別れ、俺と響は出撃まで鎮守府をめぐることにした。と、
ーーーシュィィイイイイン…
向こうの演習場から、独特のジェット音が聞こえてきた。
「やってるね、司令官」
「ああ。少し、見に行ってみるか」ーーー
ーーー演習場
そこにいたのは、加賀、そして赤城だった。
「あ、提督。こんにちは。今、新型XIGファイターの飛行演習を」
「そうみたいだな。俺と響も、少し見させてもらってもいいか?」
「どうぞ、お構いなく」
俺と響は演習場後方にある椅子に腰掛け、その様子を見守ることにした。
加賀と赤城は、同じ鎮守府から来た。かつて深海棲艦に襲撃を受け、その時に起きた事件で、加賀は言葉を発せなくなっていた。しかし、この鎮守府が襲撃を受けそうになった時、自身の強い心で過去の束縛から脱出、立派にここを守り抜いた。また赤城も、加賀と同じ事件で車椅子生活となったが、ここでは基地航空隊の要として頑張ってくれている。
「では、XIGファイター、発艦します!」
凛々しい声とともに、加賀は空に赤と青の矢を、一本づつ放つ。やがてそれは、空中で青の矢が一つ、赤の矢が二つの六角柱の形へと変化し、さらにそれが展開し、青の戦闘機ーーーファイターSTと、ファイターGTの形をなして、3機でのフォーメーション飛行を始めた。ちなみに、全て最近明石たちの手によって開発された、新型中の新型である。
「この高性能…気分が高揚しますが、やはりリパルサー・リフト搭載機、さらにその強化型とあって、制御が難しいですね、赤城さん」
「はい。でも、せっかく私たちに受け渡されたものです、頑張って使いこなせるようになりましょう、加賀さん!」
「ええ。この海を守るために。」
ウルトラメカの扱いも上手く、五航戦姉妹の指導も行っている2人は、今では鎮守府の立派な主力だ。
しばらく、ファイターの飛ぶ様子に目を奪われていると、響が袖を引っ張ってきた。
「…司令官、そろそろ出撃の時間が、近くなってきたんじゃないかい?」
「あ、確かにそうだな。
加賀に赤城、すまんがここら辺でおいとまさせてもらうが、いいか?」
「ええ。ありがとうございました」
「こちらこそ。頑張ってな!」
「はい、提督!」
強く微笑む加賀と赤城に見送られながら、俺と響は演習場を後にして、執務棟へと戻ったーーー
ーーー執務棟 司令室
「大淀、今来た。遅れてすまん」
「大丈夫ですよ、時間ぴったりです。招集をかけますね。」
艦娘全員の心の傷が癒えた今は、一斉放送も使えるようになった。放送後まもなく、出撃予定のメンバーの、金剛、榛名、陸奥、高雄、大井、島風が入ってきた。
「よし、今回出撃するこの海域だが、上位階級のル級、タ級が頻繁に確認されている。索敵を厳として、そして大破進撃は絶対に行わないこと。命だけは持って帰ってくること、何か質問がある者は?」
その問に、今回の旗艦である金剛が、ノープロブレムネー、と返す。他のみんなも笑顔で頷いたのを確認し、俺は6人を出撃スペースへと移動させた。
もうすぐ大本営管理下の艦娘が、人員の少ないここに移ってくることになっているので、つい最近、リフト付きの立派な出撃スペースが新設された。準備を整える6人に、見送りの艦娘が声をかける。
「金剛お姉様、頑張ってください!」
「榛名お姉様、しっかりね。」
「任せてくだサーイ!」
「はい!全力で参ります!」
「高雄、ちゃんと帰ってきてね」
「もちろんよ、愛宕」
金剛型戦艦の金剛、榛名、そして高雄型重巡洋艦の高雄。経てきた過去は違えども、3人とも人間に傷つけられた艦娘だ。金剛はかつての街の身勝手な住人にそこの提督を殺され、復讐のままに暴れて前科持ちとなった。人間から生まれた榛名は、虐待を受けて育った。高雄は前の鎮守府の憲兵から暴行された。しかし、金剛は郷秀樹ーーーウルトラマンジャックからの言葉を胸に、復活した怪獣を妹の比叡、そして彼ともに撃退。榛名は、響との関わりで勇気を取り戻した。高雄は提督との旅行で、閉ざしていた心を開けた。
「大井、頑張れよ!」
「はい、提督!北上さんに恥じぬよう、頑張ります!」
「陸奥、無理はするなよ」
「頑張ってくださいね、陸奥さん!」
「長門、それに吹雪ちゃん、ありがとう。大丈夫、心配いらないわ。」
「おっし、島風もがんばるんだぞ!」
「私たちも、鎮守府から応援しているわよ〜」
「はい、天龍さん、龍田さん!」
ーーー大井は、自分をかばい轟沈した北上を幽霊として呼び出すほどの思念を持ち、一時はマイナスエネルギーにその体を支配されてしまっていた。彼女を救ったのは、幽霊となった北上、そして矢的猛ーーーウルトラマン80。2人の心からの言葉は、彼女に先へと進むプラスのエネルギーを与えた。
陸奥を見送るうちの1人、長門は、艦娘性超記憶障害という奇病の影響で、今でも出撃できない。しかし、仲間の出撃の際にはこうしていつも見送りに来ている。そして彼女の心の大きな支えとなっている存在が、見送るもう1人、吹雪だ。かつての鎮守府で優しさを失いかけていた彼女は、「優しさを失わないでくれ」というウルトラマンエースの言葉を胸に、すれ違いながらも長門と友好な関係を築き上げた。
島風は、以前の鎮守府の全滅によりここに来た。自身の心の葛藤に苦しんでいた彼女を救ったのは、いつも彼女のそばで支えていた天龍と龍田、そして厳しくも優しく、彼女の心身を強くしてくれた、おおとりゲンーーーウルトラマンレオだ。ゲンの厳しい修行を乗り越えた島風は、レオとともに、宿敵の戦艦水鬼、その艦隊を倒すことができたのだ。
「よし、時間だ。さっきも言ったが、命だけは持って帰ってこい!
第一艦隊、出撃!!」
6人がリフトに立って艤装を展開すると、リフトが発進場となっている海面へと降りていく。
「ファーストゲート・オープン!
ファーストゲート・オープン!」
大淀の声による、ゲート開放のアナウンス。青空の下、6人は意気揚々と、海面を駆けていったーーー
ーーー午後 執務室
俺と響は、書類整理の続きを行っていた。先述のとおり、もうすぐたくさんの艦娘たちがここに来ることになっており、それについての書類が、先程大量に到着したのだ。ちなみに、俺と響のほか、大淀、長門、さらに本日休みの響の他の第六駆逐隊である暁、雷、電、吹雪に夕立も作業に加わっている。
「駆逐艦の分の書類、まとめ終わったっぽい!」
「これは寮の増築設計図なのです!」
「司令官!お茶を淹れたわ、どうぞ!」
みんなも協力してくれた。そのおかげか、窓に夕日が沈む頃には、書類はなんと全て片付けられた。
「よし!ありがとうみんな!」
と、通信が入る。大淀が受け持った。
「はい、はい…分かりました!
提督、第一艦隊が鎮守府正面海域に到着、間もなく当鎮守府に帰還します!」
「よし、みんなを呼んで来てくれ!全員で迎えにいくぞ!」ーーー
ーーーヒトナナヨンマル 埠頭
先程の書類整理のメンバー、さらに出撃のなく休憩中だったり、食堂にいたりしたメンバーが、今か今かとその帰りを待つ。
「見えた!」
響の指さす向こう、夕日の沈む地平線に、大きく手を振る影一つ。その後からは五つの影が着いてきた。
第一艦隊の帰還だ!
「テートクー!全員、無事帰還デース!」
大声で叫びつつ、こちらに向かってくる金剛。
「おう!みんな、お疲れー!!」
夕焼け空の下、第35鎮守府のメンバーは埠頭に群がる。
そしてその顔は、全員が
太陽のごとく、満面の笑顔であったーーー
笑顔は太陽のごとく… 終
というわけで、完結です!
評価していただいたり、感想もたくさんもらえて
本当にこちらも嬉しかったです!
評価や感想、これからもお待ちしております!
続編や次回作については、今のところ考え中です笑
またどこかでお会いしましょう!