――――――八千八声 啼いて血を吐く ホトトギス
その小さな鳥が、生まれてから死ぬまで、血を吐いても尚歌い続ける様に。
俺の大切な人も、命の灯火が消えるまで、血を吐いても尚歌い続けていた。
彼女は最期まで、歌い続けた。
「………………久しぶりだな、奏」
篠突く雨降りしきる中、男の声は静かに響いた。
眼前にあるのは、小さな墓石。
余りにも小さく……そして、“中身”のない、墓標。
「今の俺を見たら、きっと驚くよな? ……もしかしたら、俺だって気づかないかもしれないな」
言って、雨に濡れて顔に纏わりつく色素の抜け落ちた毛髪を僅かに弾く。……と、頬を雨以外の筋が通って滴り落ちた。
一筋、二筋……零れ落ちて、地面に弾けて。堪えていた感情を押し流す様にして止めどなく、流れ落ちる。
墓石の前に手向けた花は、彼女の一番好きだった花。
太陽の様に紅く、夕陽の様に穏やかな色合いのそれは、彼女に一番似合っていた。
雨にぐっしょりと濡れた服は、およそ墓地に似つかわしくない白のタキシード。
嘗て、その髪に色が宿っていた頃であればさぞその金色に映えたであろう、穢れを知らぬ純白の礼服。
――――――そして、手に持ったのは一組の指輪。
神前に祷りを捧げ、真に愛を誓い合った者にのみ許された純潔の輝きが、暗い闇に落ちた世界の中にあってただ一つ、光を放っていた。
「…………今になって、漸く言えそうだ」
声は、僅かに震えていた。
「どうして今まで言わなかったんだ、って…………お前なら、そう言って怒るかな? それとも、呆れて何も言わないかな」
浮かべた笑顔は、余りにも歪で。
「―――好きだよ、奏」
だからこそ、その声音は何人にも侵せぬ程に確固たる決意に満ちて。
「世界中の誰よりも、俺は貴女を愛しています」
だからこそ、その瞳には何者にも揺るがせぬ程に強固な意志が宿り。
「だから俺は、俺の全てを――――――」
貴女に
貴女だけに
俺の全てを 捧げます。
全てを捧げて
誰よりも 何よりも
貴女を愛する事を 誓います。
少年は歌う。
大切な人がそうであった様に。
戦場で一人、歌い続ける。
絶望しか抱けずとも。
悔恨しか残らずとも。
憎しみに色褪せた髪を揺らして。
怒りに染まった瞳で無色な世界を見据えて。
声は響く。悲しみの空に。
歌は響く。憎しみの海に。
血を吐いて、倒れ伏しても尚、歌い続けた少女の様に。
少年は歌い続ける。
痛みを癒す鎮魂歌(レクイエム)を。
そして、
少女に捧ぐ恋愛歌(ラヴソング)を。