Eternal Blaze -永遠の輝き-   作:茶々

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第九小節 Friendship Meeting

 

響がシンフォギア“ガングニール”を顕現し、空と翼が大喧嘩を繰り広げ、響が翼に強烈なビンタを喰らってから、一カ月。

 

幾度にも渡る出撃、“ノイズ”との戦闘を繰り返し、そろそろ対“ノイズ”戦にも慣れてきたのではないかと思える時分になって、

「…………ひと月経っても、かみ合わんか」

 

戦闘記録映像を眺めて、弦十郎は呟いた。

 

 

 

 

 

 

元々、幼い頃から“戦士”として訓練を重ねてきた翼の実力は言うまでもなく、比較的自由に出来る時間が多く、その殆どを薬物投与や実地における鍛錬に費やしてきた空もその戦闘能力は高い。

この二人に比べて響の場合、どうしても学生としての日常や束縛があって割ける時間は限られ、一カ月やそこらで満足な訓練が行き届くかと云えばそんな事は勿論なく、その少ない時間をやりくりして“ノイズ”との戦いを繰り返しても、付け焼刃程度の力しかつかないのは道理だった。

 

その上、彼女自身の“アームドギア”が未だに発現していないのも痛打である。

“アームドギア”は翼の刀、空の剣の様に最も眼に見えて分かりやすい形での武器であり、前任者である奏は槍を携えて戦っていた。

 

無論、これがなくても戦えない事はないのだが、あるのとないのとではその戦闘効率は段違いに変わる。

 

そしてあの一件以来、言葉にこそしないが翼と空、響の間に目に見えない亀裂が奔っている様に感じられていた。

そんな状態では連携もままならず、結果的に足を引っ張る形となってしまっている響が自責の念にかられる事も、そんな響を翼が更に鬱陶しく思う事も、悪循環的に必然と云えた。

 

「なんとかしないとな…………」

 

誰に聞かせるでもなく、弦十郎は一人呟いた。

 

 

 

 

 

ミーティングの報せを受けた響が急いで本部に到着すると、既にメンバーの殆どが集合していた。

 

「遅くなりました!」

 

慌てて了子に駆け寄ると、視界の両端にそれぞれ翼と空の姿が映った。

 

「…………」

「…………」

 

一か月前の休憩スペースで見かけた時はあんなにも仲良さそうにしていたのに、今は二人揃って剣呑そうな雰囲気を漂わせながらコーヒーを啜っている。

その動きの一つ一つ、コーヒーを飲むスピードから机に置く仕草、足の組み方から何からまるで合わせ鏡の様にピッタリ同じなのだから仲が悪いという事は決してないというのに…………

 

(やっぱり、私の所為……なんだよね)

 

思いの丈を込めた宣言をビンタと冷徹な眼光によって一蹴されてから一月が経った。

そしてこの一月は、そのまま響が自分の無力さを痛感させられた期間でもあった。

 

このギスギスした空間の元凶は自分。

自分が余計な事を言ってしまったが為に、二人の間に亀裂を奔らせてしまった。

 

そんな響の心境を察したのかどうかは定かではないが、

 

「では、全員揃った所で仲良しミーティングを始めましょう」

 

やけに明るい語調で了子が宣言した。

 

 

 

「どう思う?」

 

映しだされたモニターの中心に黄色い円が一つ。その周囲を取り囲む様に無数の赤い円が点在している。

それを見て、弦十郎が響に問いかけた。

 

「……イッパイですね」

 

言った瞬間、右側から微かに吹き出す様な声が洩れる。見やれば、先程までコーヒーを啜っていた空が肩を震わせて口元に手を持っていき、笑みを噛み殺していた。

 

「はっはっは! 全くその通りだ」

 

次いで弦十郎も哄笑を上げ、了子もまた愉快そうに表情を緩ませる。唯一翼だけはむっとした面持ちを崩さず、何処となく不謹慎さを咎める様な表情を見せた。

 

「これは、此処一か月に渡る“ノイズ”の発生地点だ。“ノイズ”について、響君が知っている事は?」

「テレビのニュースや学校で教えて貰った程度ですが…………」

 

・無感情で機械的に人間だけを襲う事。

・襲われた人間が炭化してしまう事。

・時と場所を選ばず突然現れて周囲に被害を及ぼす“特異災害”として認定されている事。

 

レポートで纏めている範囲にあった知識をつらつらと述べていくと、弦十郎が感心した様に声を上げた。

 

「そうね。“ノイズ”の発生が国連でも議題に挙がったのは十三年前だけど、観測そのものはもーっと前からあったわ。それこそ―――」

 

世界中に、太古の昔から。

 

世界各地に残る神話や伝承に伝えられる数々の偉業は“ノイズ”由来のモノが多いという。

 

ヨーロッパ、ギリシア、北欧、ケルト、アジア、日本。

現代に神話や伝説として伝えられるそれらもまた“ノイズ”と絡んだモノが幾つもある。

 

凡そ空想上の産物としか思えない様な事件も、そこに“ノイズ”が絡んでくるだけで信憑性は格段に変わってくるのだ。

 

 

 

 

 

 

「“ノイズ”の発生率は決して高くはないの。この発生件数は誰の目から見ても明らかに異常事態……だとすると、そこに何らかの“作為”が働いていると考えるべきでしょうね」

「作為…………? って事は、誰かの手によるものだというんですか?」

 

懐疑的な声と共に首を傾げる響。

すると、ソファに腰掛けて今まで沈黙を保っていた翼が口を開いた。

 

「中心点は此処、私立リディアン音楽院高等科。我々の真上です」

「狙いは……まぁ考えるまでもなく“デュランダル”だろうな」

 

空が紙コップを机に置いて言葉を繋げた。

初めて聞く単語に、響は疑問符を浮かべた。

 

「あの…………“デュランダル”って一体……?」

「此処よりも更に下層、“アビス”と呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて我々が研究しているほぼ完全状態の聖遺物。それが“デュランダル”よ」

 

翼の持つ“天羽々斬”

空の持つ“Excalibur”

響の持つ“ガングニール”

 

これらは全て、元はもっと巨大な聖遺物の欠片に過ぎず、その為に特定振幅による再構築によってエネルギーとして活性化、シンフォギアとして起動しなければその力を発揮する事は出来ない。

これに対して“デュランダル”の様な完全聖遺物は、一度起動させれば後は常時全力の状態を維持でき、更には装者以外の人間も使用可能になるという研究結果が出ている。

 

「そ・れ・が! 私の提唱した櫻井理論…………だけど、完全聖遺物の起動には、相応のフォニックゲインが必要なのよね」

 

二年前、“ネフシュタンの鎧”の起動実験の際には、空と奏―――“ツヴァイウィング”の歌によって実験が行われた。

だが、完全聖遺物はその内包するオーバーツの異質さ故に扱いがとてつもない程に慎重さが求められ、“ネフシュタンの鎧”にした所で起動実験にこぎつけるまではかなりの時間を要した。

 

あれから二年。

今の翼の歌であれば、或いは起動は可能ではないかという事も考えられなくはない。

 

だが、問題はそれだけではなかった。

 

現在、唯一研究が進められている“デュランダル”にした所で、アメリカが安保をたてに再三の引き渡しを要求している。直属の上層部に当たる日本政府の官僚とて、ロクに考えもせずに外交カードの一つとしか捉えていない節が多々見られる。

そして、目に見えぬ水面下ではそれ以外の国家、企業、果ては名称不明のグループから個人に至るまでが絡みに絡んで日夜闘争を繰り広げている。

 

「調査部からの報告によると、ここ数カ月の間に数万回に及ぶ軍部コンピューターへのハッキングを試みた痕跡が認められるそうだ…………流石にアクセスの出所は不明。それらを短絡的に米国政府の仕業とは断定できないが……」

 

無論、泣き寝入りを決め込む様な二課ではない。そもそも大戦時に設立された“風鳴機関”を前身とする二課は、本来こういった分野に関してその真価を発揮する。

 

「勿論、痕跡は辿らせている。本来こういうのこそ、俺達の本領だからな」

 

そこで一旦言葉を区切り、弦十郎はコーヒーに口をつけた。

 

“ノイズ”だけではない。

人間同士でも諍い、争わねばならない。

 

どうして人間同士が仲良く出来ないのか。

どうしてみんなで一緒に進もうとしないのか。

 

何も出来ない自分を恨む様にして、響は俯いた。

 

胸に刻まれたフォルテ型の痕が、微かに疼いた気がした。

 

 

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