Eternal Blaze -永遠の輝き-   作:茶々

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第十四小節 Death Scamper

 

広木防衛大臣の暗殺。

複数のグループから犯行声明の出された緊急事態に、病院から飛ぶように二課本部へと戻った翼と、同じく緊急招集のかけられた響は休憩スペースにあるソファでそれぞれにくつろいでいた。

 

「…………」

 

永田町にある特別電算室、通称『記憶の遺跡』へのデュランダル移送計画に備え、ブリーフィングの後に休憩時間を与えられたはいいものの、響はソファの上に体育座りをして憂鬱そうな面持ちを浮かべていた。

 

「……どうしたの?」

「ふぇっ!?え、あー、い、いえ!その……えっと!な、何でもないですハイ!」

 

明らかに怪しさ爆発の言い訳にもなっていない言葉を羅列して、紛らわす様に響は机の上にあった新聞を手に取った。

 

「―――!?」

 

開いたページに偶々載っていたグラビアを見た途端、顔を真っ赤にした響は弾かれる様に新聞を放り投げてソファの端に飛び退いた。

その様子に何事かと翼も新聞を捲り、下着姿で女豹の様なポーズをとる女性の写真を見て、響と同じ様に顔を赤らめた。

 

「お、男の人ってこういうのとかスケベ本とか好きですよね!?」

「そ、そうね!仕方ないかもしれないわね!」

 

何が仕方ないんだ、とかそういうツッコミをしてくれる人は残念ながら其処にはいなかった。

 

「そ、空もこういうのが好きなのかな……?」

 

写真を見、自分を見、そして身体の一部分に手を当てて神妙な面持ちを浮かべる翼。何処に手を当てたとか、それは彼女の名誉の為にも黙っておくのが花だろう。

 

気を取り直して翼が新聞を捲ると、覗きこんでいた響の眼に『風鳴翼 過労により入院』の文字が飛び込んできた。

え、と響が顔を上げると、コーヒーを飲んでいた翼がカップを机に置いて口を開いた。

 

「緒川さんに頼んで、暫く時間を空けて貰ったの」

「空けて貰った、って……」

 

自分の記憶が正しければ、確か今月末にはライブも控えていたと思うんですけど……とは響には言えなかった。

代わりとばかりに、翼が口を開いた。

 

「私にとって優先すべきは“ノイズ”の殲滅。歌うのだって、本来は“ノイズ”と戦う為のモノに過ぎないのよ」

「そ、そうなんですか……」

「他人事じゃない。貴女にだって言える事よ」

 

キッ、と翼の鋭い眼光が響を射抜いた。

 

「貴女にとって大事なモノは何?守るべきモノ、貫きたいモノ……それを見失い、ただ力を振り回すだけの者に“防人”たる資格はない」

「大事な、モノ……」

「貴女が多くの時間を研鑽に費やしているのは知っている。けれどそれに傾倒しすぎて、大切なモノを失ってはならないの」

 

そう語る翼の瞳は、響には何処か寂しげに映った。

 

「家族や友人……そうした人達の事を疎かにしていれば、いつか必ず後悔する時が来る。そうなってからでは遅いの。それを忘れないで」

「はい……」

 

返事こそしたが、事情を話せないまま親友―――未来になんと謝ったものか。

 

答えが見いだせないまま、気づけば響の手元にあったカップの中にあったホットココアは冷え切っていた。

 

 

 

 

 

 

明朝、五時。

広木防衛大臣殺害犯の検挙を名目とした検問によって『記憶の遺跡』までの道路を完全に封鎖した二課は、デュランダル移送計画――了子命名『天下の往来独り占め作戦』――を開始した。

 

了子の運転する本命の車には響が同乗し、翼は弦十郎と共に上空からヘリで周囲を監視、了子の車の四方を護衛車で囲んで、敵の襲撃前に一気に突破する算段である。

 

―――それは、海峡を繋ぐ橋の中程に差し掛かった所で起こった。

 

その異変を最初に察知したのは響だった。

突如として橋の一部に亀裂が奔り、轟音と共に耐震性の高い特性仕様のアスファルトが崩れ落ちたのである。

 

「了子さんっ!」

 

響が叫ぶや否や了子が荒々しくも華麗にハンドルを切り逃れるが、逃げ遅れた護衛車が一台転落し、爆発。

余りの事態に唖然とする響を余所に、了子が警告した。

 

「しっかり掴まっててね……アタシのドラテクは凶暴よ」

 

瞬間、響は全身がシートに圧し付けられた。規定速度など当の昔に振り切っている、道交法なんて構ってなどいられないとでも言わんばかりの速度でバーの上がりきった料金所を抜け市街地に入った所で、今度は通り過ぎたばかりのマンホールから間欠泉の如く噴き出し、僅か数瞬後ろを走っていた車を虚空へ吹き飛ばした。

 

『下水道だ!“ノイズ”は下水道を伝って攻撃してきている!』

 

弦十郎の警告の間にも、今度は前方を走っていた車が吹き飛ばされ、急速に視界を埋め尽くしてきた。

 

「ぶつかるっ!!」

 

響の悲鳴が響いたのが先か、了子のハンドルが切られたのが先か。

ぐんと左右に振り回される様に重圧を感じた響は、途端にフロントガラスに次々とぶつかる障害物に思わず眼を瞑った。

 

「弦十郎くん、ちょっとヤバいんじゃない?この先の薬品工場で爆発でも起きたら、デュランダルは……!」

『分かっている!さっきから護衛車を的確に狙い撃ちにするのは、“ノイズ”がデュランダルを損壊させないよう、制御されているからと見える!』

 

悪化し続ける状況に、了子は思わず舌打ちした。

 

『狙いがデュランダルの確保なら、あえて危険な地域に滑り込み、攻め手を封じるって算段だ!』

「勝算は?」

『思いつきを数字で語れるものかよ!』

 

弦十郎の言葉に、しかし二課の対策は決まった。

 

即座に進路を薬品工場の方へととると、今度こそ“ノイズ”がハッキリと姿を現して最後の護衛車を襲った。

とり付く様にした“ノイズ”諸共、運転手のいなくなった車はそのまま薬品工場の一角に突っ込み、爆発。一瞬にして大炎上する。

 

派手に攻勢に出られない“ノイズ”達の動きが鈍ったのを見て、思わず響が歓喜の声を上げた。

 

「狙いどおりです!」

 

―――刹那、何かに乗り上げた様な感覚と共に視界がぐるりと反転する。

 

それが工場内の至る所に伸びるパイプの一本だったと気づいた時、ぎゃりぎゃりと音を立てて響の乗った車は逆さまのまま転がった。

 

 

 

 

 

 

「了子さん……これ、重い!」

「だったら、いっそ此処に置いてアタシ達は逃げましょう?」

「そんなのダメです!」

「そりゃそうよね……」

 

眼下に獲物を望み、一つの鉄柱の頂上に立ってクリスはほくそ笑んだ。

 

幾十百という“ノイズ”を使役し、連中を此処まで追いこみデュランダルを奪う。

邪魔な護衛車はもういないし、上空から応援が来ようとしてもこの爆煙では何も見えないから迂闊に手出しも出来ない。下手をすれば味方諸共ドカンである。

 

後はこのまま残った連中を“ノイズ”に始末させ、自分はデュランダルを奪えばそれで済む。前回のあの憎々しい金ぴか野郎に落とし前をつけさせることが出来ないのは聊か不満ではあるが、まぁアレもその内叩きのめせばそれでいいか……と、そんな事を考えていたその時だった。

 

―――凛とした歌声が、何かと共に紡がれる。

 

瞬間、上空から何かが襲い来るのを探知したクリスは慌ててその場を飛び退く。

途端、もうもうと上がる爆煙を切り裂いて青い斬撃が閃光と共に大地を抉り、“ノイズ”達を切り裂いた。

 

「逃がすかっ!」

「ッ!?」

 

続けざまに迫る何かを振り払う様に無数のトゲが連なる鞭を振るうと、ガキィンという甲高い音と共にクリスはその正体を認知した。

 

青の鎧を纏った、蒼い髪の少女。

聖遺物の欠片しか持たぬ、出来そこないの一人。

 

「テメェか……っ!」

「奏の命を奪ったそれを……空が、命を賭して取り戻そうとしたそれを!“ネフシュタンの鎧”を!今日こそ取り戻して見せる!」

「ぬかせっ!出来そこないがァッ!!」

 

振り払い様に“杖”で“ノイズ”達をばらまくも、気づけばもう一人の出来そこないがシンフォギアを展開し“ノイズ”を駆逐しているのを視界の端に見止めた。

 

「アイツ……戦える様になっているのか!」

「私を前に余所見か!余裕だな!」

 

怒声と共に、翼の縦横無尽の斬撃がクリスを襲った。手に持った剣は勿論、脚部のブレードや小刀の投擲など多種多様な攻めが自在に繰り出され、“ノイズ”の召喚も儘ならぬ中クリスは追い込まれていった。

 

「はぁっ!!」

「この……舐めるなァッ!!」

 

上段からの一刀を振り切り、横薙ぎに翼を吹き飛ばした――――――瞬間、何処かから膨大なエネルギー反応が洩れでているのを検知した。

 

視線を巡らせれば、虚空に一振りの古びた剣が浮かんでいた。刀身はおろか、柄に至るまで淡い輝きを放ち、完全聖遺物たる“ネフシュタンの鎧”越しにも伝わる尋常ならざるエネルギーがなければ、ただの骨董品の一つとしか見えない様な代物。

 

「こいつがデュランダルか……!」

 

これ以上の長居は無用、とばかりにクリスは跳躍し、デュランダルへと手を伸ばす―――と、その往く手を遮る様に何かが何処からか突進してきた。

 

「なッ!?」

「立花!デュランダルを!!」

「渡すものかぁッ!」

 

一瞬の隙をついて翼がクリスを抑え込み、響がデュランダルへと手を伸ばし、掴んだ。

 

――――――数瞬、世界が極彩色に染まる。

 

天壌の鐘にも似た聞き慣れない音が、やけに大きくクリスの耳朶を打った。

 

 

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