Eternal Blaze -永遠の輝き-   作:茶々

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第二十四小節 The Nightmare

 

櫻井了子――――――フィーネの反乱によって中枢システムを乗っ取られた二課の廊下を、弦十郎達は進んでいた。

真っ暗な廊下にコツコツと響く靴音の中、独り言のように弦十郎は呟いた。

 

 

「それでも、同じ時間を過ごしてきたんだ。その全てが嘘だったとは、俺には……」

 

 

フィーネの一撃に腹部を貫かれても尚、弦十郎は未だ彼女に対して非情に成りきれなかった。

その結果がこの様である。病院で寝ている空に言わせれば「アンタはバカですか」と切り捨てられるのが目に見える程に滑稽だ。

 

そして、それはきっと逆の立場でも同じだろう。

 

 

『―――弦十郎くん!!』

 

 

あの刹那、自分は確かにフィーネの中に“櫻井了子”を見た。

 

もし、彼女に立ち向かっていたのが自分ではなく空だとしたら―――きっと同じ様に攻撃を止め、そして返り討ちにされていただろう。

もしそうなってしまっていたら、空はきっと戻れなくなってしまう。

 

十四年前、辛うじて踏みとどまれた彼は、今度こそ死んでしまう。

 

戦士として――――――そして、人間として。

 

 

「……甘いのは分かっている。性分だ」

 

 

何か言いたげだった慎次に言い聞かせる様に、弦十郎は呟いた。

 

腹はまだ痛い。血が滲み出て激痛が奔るし、背中を嫌な汗がびっしりと埋め尽くしている。

 

 

 

―――それでも、未来ある“子供”を守る者として、仕事を最後までやり遂げる“大人”として。

 

 

 

決意を目に宿し、弦十郎は暗闇の向こう側を見据えた。

 

 

 

 

 

 

リディアン音楽院地下―――特異災害対策機動部二課本部、エレベーターシャフトから地上にせり上がった、異様にして異形の巨塔。

十二年前、風鳴翼のアウフヴァッヘン波形検査に立ち会った事で覚醒した遺伝子の亡霊、フィーネによって建造された、天をも穿つ荷電粒子砲“カ・ディンギル”。

 

 

―――その一撃を以て、「バラルの呪詛」の源たる月を砕く。

 

 

それこそが、フィーネの野望。

 

 

―――そして、重力崩壊による天変地異を恐れる人類を、完全聖遺物の力を以て統一・制御する。

 

 

それこそが、フィーネの宿願。

 

 

「それは、お前が世界を支配するって事なのか!?」

 

 

人類全ての相互理解。

それを可能とするというフィーネの言葉を、しかしクリスは一笑にふした。

 

 

「安い……安さが爆発しすぎてる!!」

 

 

 

―――そんな事で平和になる程、この世界は優しくなんかない。

 

 

 

嘗て、戦禍の中で絶望と無力を味わい続けてきた少女の雄叫びを前に、フィーネは何処までも蔑んだ様な眼差しで三人を見下した。

 

 

「フン……永遠を生きる私が余人に歩みを止められる事などあり得ない」

 

 

既に第一射に向けて、膨大なエネルギーを溜め始めたカ・ディンギル。雷鳴の様な大音量が天に響く中、少女達の歌が静かに木霊した。

 

 

 

―――為政者からコストを捻出させる為の副弐品たるシンフォギアシステム。

 

 

 

フィーネにしてみれば、そんな紛いモノを纏った目の前の少女三人を殺す事など、赤子を縊り殺すよりも容易い。

だが、ふと――――――本当にふと、実に愉快な“戯れ”をフィーネは思いついた。

 

 

「―――これも一興、か」

 

 

クリスの射撃がフィーネの足元に着弾―――するよりも数瞬早く、フィーネは鷹揚に手を中空に翳した。

途端、濛々と舞い上がった爆煙に直撃を予感したクリスは――――――しかし、途端に背筋が凍りつく様な感覚を覚えた。

 

似た様なモノを感じたであろう響も、一瞬脚を止めた。

だが、翼だけはその雑念を振り払う様に剣を横薙ぎに構え、突進する。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

裂帛の勢いと共に振り抜かれる筈だった一撃は、しかし“鍔競り合う様な”甲高い音を立てて止められた。

 

 

「なっ……!?」

 

 

驚愕に目を見開いた翼は、そのまま数瞬動きを止める。

防人として鍛え続けてきた、戦士として戦い続けてきた身であればあり得ない程に致命的なその隙を、“彼”は見逃さず、殴り付ける様に振り抜いた大剣の一撃で翼を吹き飛ばした。

 

 

「くっ!」

「翼さんっ!」

 

 

弾き飛ばされた翼を視線で追う響を余所に、クリスは我が目を疑った。

 

 

「……ん、で……だよ」

 

 

何故これ程まで心がざわついているのか分からない。

 

 

「なん、で……だ、よ……っ!!」

 

 

何故これ程まで頭が苛立っているのか分からない。

 

只一つ、分かる事は―――

 

 

「――――――なんで、テメェが其処にいるんだよッ!? 大鳳ィィィィィィ!!!」

 

 

この殺意が――――――目の前に立ちはだかる“大鳳空”が、止まらないという事だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回復した回線が映し出した地上の映像は―――悪夢というより他なかった。

 

無残にも瓦礫と化した校舎。

天高くそびえ立つ異様な塔。

 

そして、嬲る様に響達を蹂躙する――――――空。

 

 

「そんな……っ!?」

「大鳳くんが……っ!」

 

 

オペレーター二人が絶句する中、抑えきれない怒りを無理やり押し殺した様な声音が未来の耳朶を打った。

 

 

「そういう事か……くそっ!!」

 

 

声の主である弦十郎の方を見やれば、自身の掌から血が滲むのも厭わない程に険しい表情で、モニターの中で悠然と三人を甚振る空を見据えていた。

 

 

「何なのよ……これ。まるでアニメじゃない」

 

 

震えた声音で後ずさるクラスメイトの板場弓美に、叶うのなら未来も同意したかった。

 

だが、この光景が現実である事は、同時に何よりも強く彼女の中に厳然たる事実として存在していた。

 

 

「……ヒナは、ビッキーの“この事”を知ってたの?」

 

 

安藤創世の言葉に、未来は押し黙る。

それで大方の事を察したのであろう創世が、続けた。

 

 

「そっか……じゃあ前にヒナとビッキーが喧嘩したのって……」

「……うん。ゴメンね」

 

 

何に対しての謝罪なのだろう。

分からないまま言葉を失った未来の背中を、弓美はじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

―――砂の上に、少女の足跡が連なっていた。

長い、長い道のりを歩む様に刻まれてきた足跡は、やがて少年の傍らで止まった。

 

 

少女は言った。

 

 

―――どうしたんだ?

 

 

少年は答えた。

 

 

―――長い、夢を見ていた。

 

少年の視界に広がる、何処までも続く水平線の向こう側。青い空の下、青い海の向こうをじっと見つめて、思い起こす様に口を開いた。

 

 

―――座れよ、話してやる。

 

 

その言葉に従う様に、少女は少年の傍に腰を降ろした。

拳一つ分もない、けれどもほんの少しだけ離れた場所に、二人並んで座り、じっと海の向こう側を見つめた。

 

 

―――色んな事があったから……凄く時間がかかるけど、全部聞いて欲しんだ。

 

 

少年の言葉に、少女は静かに微笑んで、頷いた。

 

潮風に攫われる様に、夕陽の様な少女の髪が揺れる。

その姿を見て、少年は小さく笑んで、話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あのな、奏

 

 

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