Eternal Blaze -永遠の輝き-   作:茶々

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第七小節 Conformity Person

 

『――――――二人一緒なら、何も怖くないな』

 

大切な人がいた。

誰よりも、何よりも大切で、大事な人が。

 

全ては過去の記憶。

全てはただ思い出。

 

だからこそ、それは何者にも代え難い大切なものなのだ。

 

断じて、他人が土足で踏み入って良いものではない。

 

『あの子は“違う”。それを忘れるな、風鳴翼』

 

空の言葉とて、分からない訳ではない。彼の言わんとしている事が何なのか、理解出来ない程に妄眛な自分ではない。

 

それでも――――――それでも、尚、

 

「―――あのギアは、奏のモノだ……ッ!!」

 

滴る水滴は肢体を巡り、髪を伝い、床に零れ落ちて弾ける無数のそれに混じって、幾粒もの“それ”は滴り落ちた。

 

 

 

 

 

 

日付が変わって、夕方。

昨日の“立花響”の一件もあって本日予定されていた実験が軒並みキャンセルとなっていて暇を持て余していた空は、地上に上がって響を連れてくる様にという指示を受けていた。

 

夕方の下校時間を間もなく迎えるといっても外には未だに部活動に勤しむ生徒達の声が絶えず、仮に見つかって身元を調べられれば聊か面倒な事になりかねない……というのは、一般男子に該当する危険性である。

 

何処からどうやって手を回したのかは不明だが、弦十郎と了子が空の為に用意してきた普段エージェント達が身につける様なスーツ一式と伊達眼鏡を装着させられたその姿は、何処からどう見ても外資系企業の俊英か欧州系の若手の外人講師にしか見えず、つまりは一般人とはかけ離れて声をかける事も憚られる様な雰囲気を纏う彼は最早何処からどう見ても学校の上層部関係者にしか見えなかった。

 

なので、昨日直接顔を合わせているにも関わらずいきなり「ついてこい」とかなり威圧的な声音で声をかけられた時、響がその正体を見抜けなかったのは仕方のない事なのかもしれない。

何しろ今し方、頻繁に顔を合わせている筈の翼ですらその姿に呆けた様に目を丸くしたばかりなのだから。

 

「ミルクコーヒーでいいか?」

「え、ええ…………」

 

案内終了後、お役御免を言い渡された空は翼を伴って休憩スペースに足を運んでいた。

 

「………………」

 

コーヒーメーカーを操作する空の姿を、改めて翼は見やった。

黒のスーツに彼の地毛である金色の短髪はよく映えており、眼鏡をかける事で理知的な雰囲気が醸し出されている。元来の硬質(テノール)気味な声音とも相まって、普通に行動している分には本当に何処かの企業勤めのエリート職員にしか見えない。

 

差しだされたコーヒーを受け取り、口に運ぶのも妙に様になっている。

 

そんな事を考えながら、翼はごく自然な動作でコーヒーに口をつけ、

 

「―――甘ッ!?」

 

その凄まじい味に思わずいつもの凛とした姿勢を崩して声を上げた。

 

ミルクはミルクでも特濃練乳(ミルク)の間違いではなかろうか。いや、最早砂糖一袋を丸々ぶち込んだのではなかろうかというぐらいに甘い。甘いなんて言葉では表現出来ない程の凄まじい甘さに最早コーヒーの味も香りも何一つ存在しない。完全にミルクオンリー仕様になっているではないか。

 

「空…………よくこんな甘いの飲めるわね?」

「そんなに甘かったか?」

 

不思議そうに小首をかしげつつ、虫歯増強飲料としか思えない代物をゴクゴクと呑みほして、空は壁に背中を預ける。翼も手近な机に紙コップを置いて、空に視線を向けた。

 

「…………昨日、教授(プロフェッサー)の調べていたあの子のデータを見たが、やっぱり“適合者”だったよ」

 

自分に言い聞かせる様な口調で、空は話し始めた。

 

「二年前の一件で心臓近くに喰い込んだ破片が“ガングニール”の欠片……それを媒介にして起動したから、彼女のギアもまた“ガングニール”って訳だ…………」

 

ある程度推察出来ていた。

とはいえ、改めて聞かされるとまた――――――

 

「翼、落ちつけ」

「……ッ!」

 

気づけば、知らないうちに力の籠っていた手を空は包む様に握っていた。両手を通して伝わる温もりが、何処か懐かしく感じられる。

 

「昨日も言っただろ? あの子は“違う”。間違ってもその面影を重ねるな、風鳴翼」

「ッ……そんな事、分かっている!」

「そっか…………なら、大丈夫だよな?」

 

子供の頃、まだ泣き虫だった時分にして貰った時の様に、空は翼の頭に手を乗せて、髪を梳く様に優しく撫でた。

何かとがさつというか大雑把な面が目立った奏にやらせると髪の毛がぐしゃぐしゃになって最初の頃は大変な事になっていたそれは、しかし十年近い付き合いの空にしてみれば呼吸をするが如く手慣れた動作であり、その力加減も翼にとっては心地よいもの。

 

(わ、わーっ!?)

 

故に二人が気を緩めて、出るタイミングを失って物陰からこっそり自分達を見つめる少女がいた事に気づかないのは、ごく自然な事であった。

 

結局響は、そのままアラートが鳴り響くまでずっと物陰に隠れて二人の様子を窺う事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

――――――思えば、それはもしかしたら必然だったのかもしれない。

 

“誰かの為になる”

 

たったそれだけの理由で、平凡な日常から突然、命を削る様な戦場に身を投げうてる人間がマトモである筈がないのだ。

 

故に、彼女―――立花響は、“歪”な何かを抱えている。

 

“それ”を誰よりも知り、誰よりも強く感じてきたからこそ。

 

その“歪”と共に生き続けてきた空が響を庇い。

その“歪”を敵に断ち続けてきた翼が響を拒む。

 

その相対は、きっと必然だったのだ。

 

「どうしてその子を庇うのよ、空」

「どうしてこいつを拒むんだ、翼」

 

“ノイズ”を殲滅したその戦場で、灼炎を背に響に向かって“天羽々斬”を構える翼。その切っ先から響を守る様にして、空は剣呑な眼差しで翼を見やった。

 

「貴方なら分かるでしょう空。私が、風鳴翼がその子を受け入れられる筈がない。力を合わせ、共に戦う事など、風鳴翼が許せる筈がない」

「あの…………翼さん」

「立花響。貴女もアームドギアを構えなさい。それは“常在戦場”の意志の体現。貴女が何者をも貫き通す無双の一振り、“ガングニール”のシンフォギアを纏うモノであれば――――――胸の覚悟を構えてごらんなさい!」

「昨日今日シンフォギアに目覚めたばかりの素人にそんな事が出来ると本気で思っているのか? だとしたら失望したぞ風鳴翼。言った筈だ、こいつは“違う”。お前とも、俺とも――――――天羽奏とも違う、立花響という一個の人間だ」

 

言いながら、空は手に柄を握り締めて構えた。

 

「初めから全部許容しろなんて言ってない。だが、そうやって頭ごなしに何もかもを否定して、自分のやり方を押しつけるその方法が、その姿が、本当に“風鳴翼”の、“防人”としてのやり方なのか?」

「“ガングニール”は奏のモノだ…………それを今持つその子が……覚悟も持たず、遊び半分で戦場に立つその子が、奏の――――――奏の何を受け継いでいるというの!?」

「――――――あぁ、そうだよな……お前が苛立つ理由なんて、最初っからそういう事に決まってるよなぁ! ちったぁ頭冷やしやがれこの石頭!!」

 

瞬間、暴風にも勝る突風が戟音と共に響を襲った。

 

怒号、絶叫。

世界を覆う程に凄まじい轟音が、甲高い剣戟に混じって響き渡る。

 

「星天(エクス)―――――」

「天ノ―――――」

 

天空に舞う少女と、大地に立つ少年。

それぞれに携えた剣に、幾つもの想いを乗せて、

 

「――――――衝滅(カリバー)!!!」

「――――――逆鱗!!!」

 

閃光が、弾けた。

 

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