Eternal Blaze -永遠の輝き-   作:茶々

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第八小節 Those Passing

 

空と翼が対峙した時、二課の司令本部は騒然となった。

 

「なっ……!? 何をやっているんだ、アイツらは!?」

「んーっ、青春真っ盛りって感じね」

 

画面上に映る二人の姿に弦十郎は驚きを露わにし、了子は何故か御機嫌そうに喜色に顔を綻ばせた。

 

剣を構え、腰を落としたその姿はまさしく現代に蘇った一騎討ちと云える。

 

「司令、どちらへ?」

「誰かが、あのバカ者共を止めなきゃいかんだろうよ……!」

 

オペレーターである友里あおいの問いに答えながらも、あっという間に弦十郎は高速エレベーターに乗って地上へと向かう。

そんな弦十郎の姿が消えた頃になって、ポツリと了子が呟いた。

 

「こっちも青春してるなぁ…………拳と拳で語り合うなんて、男同士の友情モノなら定番じゃない?」

「翼ちゃんは女の子ですよ……」

「でも、確かに気になる子よねぇ? 放っておけないタイプかも」

 

オペレーターの的確なツッコミを無視して、了子は再び画面に視線を戻す。

その時、鏡があって了子の顔を見る事が出来たモノは、須らく背筋を震わせた事だろう。

 

その表情は、科学者としての喜色と探究心、女としての妖艶さ――――――そして、獲物に狙いをつけた獣の様に歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

それは最早、衝撃の暴力としか言い表しようがなかった。

 

「うひゃぁっ!?」

 

荒れ狂う暴風、飛び交う斬撃、襲い来る瓦礫。

最早何が何だか訳がわからない状況のただ中に置き去りにされた響の耳朶を貫く様に、二人の声が重なった。

 

「星天(エクス)―――――」

「天ノ―――――」

 

中空に突如出現した大剣の柄を足裏で大地に叩きつける様に急速に落下する翼。

それを真っ向から迎撃せんとばかりに、刀身に眩い輝きを収束させて構える空。

 

溜めたのは、ほんの数瞬だっただろうか。

 

その時響が理解出来たのは、“あれ”がまともにぶつかりあえば、先ず間違いなく二人ともタダでは済まないという危険性だけ――――――!!

 

必死に制止の声を張り上げようとして、

 

「――――――衝滅(カリバー)!!!」

「――――――逆鱗!!!」

 

それよりも早く、響のすぐ傍を“何か”が奔った。

 

「――――覇ァ!!!」

 

両者のぶつかる正にその中心に飛び込んだのは、風鳴弦十郎その人。

 

「司令ッ!?」

「叔父さんッ!?」

 

驚愕に僅かにぶれたそれぞれの切っ先に両の拳をぶつけて、凄まじい突風を吹き荒らして、瞬間、

 

「――――――フンッ!!」

 

衝撃を流動させたかの様にアスファルトが抉れ、吹き飛び、弾けて舞う。弦十郎を中心に半径何十メートルという範囲のアスファルトが悉く吹き飛ばされて、その下の地面に埋まっていた水道管さえも弾け飛んで夥しい量の水が間欠泉の如くあふれ出た。

 

「あーあ……こんなにしちまって。何やってんだお前達は?」

 

呆れた声音で、弦十郎は二人を見やった。

 

すぐ傍でへたり込んでいる響よりも更に後ろに吹っ飛んだ空と、自分を挟んで正反対にいる翼のそれぞれを一瞥する。

衝撃ですっかり駄目になってしまった靴をネタにすると、律儀な事にすぐ後ろから「御免なさい」と本当に申し訳なさそうな声音で響が謝ってきた。

 

(その真っ直ぐな性格が、事の原因か……)

 

普段から“防人”だの“剣”だのと、感情を余り表に出さない翼や、年中テンションの変動が極端に少ない空がこうまでぶつかり合う理由。

 

そんな事は、考えずとも直ぐに察せた。

 

「らしくないな、翼。ロクに狙いもつけずにぶっ放したのか、それとも―――――」

 

歩み寄って、気づく。

 

「お前、泣いてい―――」

「泣いてなんかいません!」

 

拒絶する様に、声を張り上げた。

 

「涙なんて、流していません……! 風鳴翼は、その身を剣と鍛えた戦士です。だから……!」

「『だから涙は流さない、悲しまない。怒りも、憎しみもないこの身は、ただ“戦士”として、“防人”として戦う為にのみ存在する一振りの“剣”である』」

 

震えていた言葉を続けて紡いだのは、酷く冷淡な、それでいて何処か疲れた様な空の声音だった。

 

「…………司令。ご迷惑をお掛けしました」

「まっ、二人とも無事なんだ。子供の喧嘩くらい、大目にみてやるさ」

 

頭を下げる空にそう言って、弦十郎は翼を抱きかかえる様にして支えた。

 

「翼さん!」

 

やがてよろよろと力なく立ち上がった彼女に、響が駆け寄る。

 

「私、自分が全然ダメダメなのは分かっています。だから、これから一生懸命頑張って“奏さんの代わりに”なってみせます!」

 

その時その瞬間、自分が抱ききれるだけの決意と覚悟を込めて響が宣言したその言葉が弦十郎の耳朶を打った瞬間、

 

「―――ッ!!」

 

憤りに唇を震わせ、怒りに瞳を潤ませた翼の左手が閃いた。

 

 

 

 

 

「立花響」

 

頬を打たれ、呆然としていた響の鼓膜を、何処か剣呑な調子の声音が震わせた。

 

「君が何を思おうと、何をしようと俺の関知する所ではないという事は重々承知している…………が、その上で一つだけ頼みたい事がある」

「……ハ、い…………」

「―――二度と俺や翼の前で“奏の代わり”などという言葉は使ってくれるな」

 

それは、命令に等しかった。

逆らう事を許さない、絶対的な、圧倒的な得も言われぬ重みを伴って、酷く鮮明に耳朶を打ち、脳髄に刻みこまれる様にして響いた。

 

「――――――頼むから、俺に君を殺させないでくれ」

 

酷く重々しく、そして微かに震えたその声音が、まるで泣くのを堪える子供の様に弱弱しく紡がれた。

 

 

 

 

 

 

少女が“剣”となる事を誓ってから二年。

少年が更なる“力”を渇望してから二年。

 

それぞれに、それまで以上の修羅道に身を置いて命を削り続けてきた。命を砥石に、血肉を贄に、身を剣として鍛え続けてきた。

 

全ては“あの日”を再び繰り返さぬ為。

 

己の無力さを噛み締めたあの屈辱を。あの後悔を。あの憎悪を忘れ得ぬからこそ。二人はもう戻らぬ命から教えられたそれを心に深く刻みつけて戦ってきた。

 

だからこそ、立花響のあの言葉は許されざるモノだった。

 

 

 

――――――これより、一カ月の後。

 

少年少女は、それぞれに転機を迎える事となる。

 

ある者は真なる決意と覚悟を刻みつけ。

ある者は忘れかけていた存在を知り。

ある者は目指すべき標を得る。

 

果てなき地獄へと続く道程は、未だ半ばにも達してはいなかった。

 

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