世界はきっと優しくて 作:たたた
出会い編
閑話「好きになった人」1-1
彼と出会ったのは──今から二年前、光坂高校の入学式の日だった。なぜかほかの新入生よりも遅い時間になってから坂道を下りてきて、たしかその時は『ヘンな子』がいる、そんな認識だったっけ。……今思えば、こんな私を好きになるような本当に変な人、それにそんな彼を私も好きになって、本当にお互いどこか変なのかもしれない。
──そう、これは昔の話。私がまだ立ち止まっていた頃、そんな私の背中を彼が押してくれる話。そして、私が彼に心を許すまでの──ありきたりで、それでも私の大切な思い出。
4月10日、その日は光坂高校の入学式だった。けど、しがない寮母の私は春休みから入っていた子がうまく馴染めているか上級生に聞いたりしていた。県内外から通うのが大変な子や、部活動の朝練に参加するために寮に入っている子が毎年一定数居るため、こういったことをして新入生へのストレスが少なくなるように考えるのも結構大事だったりする。……まぁ、生徒会長をしてた時よりは問題は少ない……かな?
入学式や卒業式の時には毎回参加しないか?って幸村先生に誘われるけど、あいつとの思い出が染み付いている学校に入るのは……少し躊躇われて毎回、断ってしまう。……いつか、あいつの事を忘れることが出来るんだろうか。今でもあいつの事を思い出すと、胸が苦しくなるのに……。
ふと、外を見ると入学式が終わったのだろう、胸元に『祝・御入学』と書かれた花飾りをした男の子が歩いていた。……おかしい、今はもう午後3時で新入生は午前中に自己紹介などを終わらせてもう帰っているはずなのに。
気が付くと外に出て、彼に話しかけていた。この頃はまだ親心みたいなものだったと思う。
「ねぇ、ちょっといい?」
「……なに?」
そう声をかけると気だるそうにこちらへ振り向き、胡散臭いものを見るような視線を向けてくる。……今と態度が違いすぎるけど、彼によると中学時代に色々あったらしくて、その頃はこういう態度が普通だったらしい。今でもこの話をすると顔を真っ赤にして慌て出すからから、彼に対しての数少ないアドバンテージとしてずっと覚えていると思う。
その後は、彼の視線に少し怯んでしまい、その日はそれ以上の会話はなかった。……あの頃の彼は少し怖かったかもしれない。
次の日、彼がちゃんと登校してくるのか気になった私は朝から玄関の掃除をしていた。生徒の団体がいなくなり、遅刻ギリギリの子が走って坂道を上って、それから更に15分ほどして掃除も終わってしまい中に入って少し休もうかというタイミングで、いかにも面倒です、と言った足取りで歩いてくる彼の姿が見えた。……流石に大人として彼を見過ごすことは出来なかった。
「ねぇ、キミ!」
「あっ、昨日の……。おはようございます?」
「おはようございます、じゃないでしょう?今何時だと思ってるの?」
そう言われ、自分の腕時計をみて「あぁ、もうこんな時間か」と呟く声が聞こえる。
「いやぁアッキーがパン何個詰めるのか気になっちゃって……」
そんな風に、何を言ってるか分からない言い訳をする彼。……反省の色が見られないのはこの頃から変わらない。それに、昨日の帰りが遅かったこともある。私のせいで彼がさらに遅刻になるけど、もう遅刻しているから今更変わらないと棚上げして、昨日のことも聞くことにした。
「今朝のことはもういいわ。……昨日、なんで帰りがあんなに遅かったの?」
「あぁ、あれは自己紹介の時間が退屈過ぎて寝ちゃった?みたいな?」
「寝ちゃったってアンタね……。友達とか作る気ないの?」
「友達って頑張って作るものでもなくないですか?……それに、友達ヅラする奴嫌いですし」
そう言った彼の顔に影が差す。……未だに彼に何があったのかは分からない。智代ちゃんに聞けば分かるだろうけど、喋ってくれるまで待った方が良いわよね?
「そっか。で、起きて気づいたら誰も居なかったってこと?」
「そういう事です。まぁ担任も起こそうとしてくれたみたいなんですけど、一回寝るとなかなか起きないもんで」
そう言いながら笑う彼と会話をして昨日感じた怖いって気持ちは露ほども無くなって、代わりに放っておけないって感じるようになっていた。
「あっ、そうだ学校行かないと。俺、三浦紘太って言います。以後お見知り置きを。なーんて」
「引き止めて悪かったわね。私は相楽美佐枝、ここの寮母をしてるの。学校で困った事があったらアドバイスくらいは出来るから、いつでも来なさい」
「へぇ、寮母なんだ……。勝手なイメージで悪いけど寮母さんってもっと年上の人がやってると思ってた」
そう私の顔を真っ直ぐ見ながら、更に爆弾を落としていく。
「──こんなに美人だと色んな人から告白されるでしょ?」
この後私がどういう返答をしたのか覚えていない。彼に聞いても「教えてあげない」か「あの時の美佐枝さんメッチャ可愛いかった」のどちらかの返答しかしてくれないので、この時の事を思い出すのは諦めている。
ただ、この後気が付いたら自分の部屋で正座してお茶を飲んでいたから、バカみたいに動揺していたのは確かだと思う。
どうでしょうか。美佐枝さんの口調大丈夫かな?不安だな……
美佐枝さんにアタックしない主人公を見るとアタックさせたくなるからいけない。まだ親しくないから敬語ですけどすっごい違和感だね!
光見守る坂道で二巻のジャケ写の美佐枝さんめっちゃ色気出てて良い。おすすめ。
本編と分けるために後々番外は番外に纏めます