世界はきっと優しくて   作:たたた

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おとといは兎を見たの。昨日は鹿、今日はあなた。


第九話

 

 ──少女の泣き声が聞こえる。目の前には煌々と燃え上がる炎が見える。その炎はまるで意志を持っているようで、部屋の一角、誰かが使っていたのであろう机をその身で包み込み燃やし尽くす。

 呆然とその光景を見ていると脇から知らない男性が現れ、自身の纏っていたコートで炎を消していく。……俺が思っているよりも火の勢いは弱かったようで、数分もすると炎は消えていた。その後、男性は少女に何かを語りかけていたが、少女はただ泣くだけで男性の話をとてもじゃないが聞いていられるような状況ではなかった。

 

 そして、俺に向き直り男性は──

 

 

 

 ──目が覚める。何か大切なことを夢で見たような、そしてそれはとてと大切なことのようで、必死に思い出そうとする。

 

「はぁ……なんだかなぁ」

 

 結局、夢で見た内容については思い出すことも出来ず、残ったのは嫌に寝汗をかいたせいでベッタリと肌にくっつく寝間着だけだった。

 

 

 シャワーを浴び、制服に袖を通す。朝飯を食べようとしたが相変わらず冷蔵庫の中は寂しいものだった。よし、今日は古河パンだな!

 

 

 

 パンを買いに行くとアッキーと早苗さんは相変わらずどこぞへと消えていたので渚さんが店番をしていた。

 

「あっ、おはようございます。三浦さん。」

「おはよーございます。アッキーはまたアレですか?」

「はい。えへへ、困っちゃいますよね」

 

 今日はカレーパンにカツサンド、メロンパンといったラインナップにしてみた。会計が終わると思い出したかのように渚さんが問いかけてきた。

 

「あっ、そうだ三浦さんって何か部活に入ってたりしますか?」

「えっ部活ですか?やってないっすけど」

「じゃあその、ご迷惑でなければその、演劇部に入って頂けないでしょうか……?」

「演劇部、ですか?」

「はいっ、私昔から演劇が好きでですね、それでその演劇部として活動したいんですけど、部員が足りなくてそれでですね……その、入って頂けると」

 

 演劇部か、そういや朋也が智代に勧誘してたっけな。……あいついつの間に渚さんと知り合ったんだ?それにしても渚さんが演劇かぁ、人前に立つのどっちかっていうと苦手じゃなかったか?この人。

 

「ありがたいんですけど……。ごめんなさい、ちょっと焦っちゃってたみたいです。今の話は聞かなかったことに……」

 

 少し考え込みすぎていたようだ。渚さんが今にも泣きそうな顔をしていらっしゃる。それにこんな所をアッキーにでも見られた日には何をされるか分かったものじゃない。……取り敢えず入るかどうかはぼかして部員集めに協力する感じでいいか。

 

「あぁいやいや、迷惑とかじゃないっすから、そんな思い詰めた表情しないでください。……とりあえず入ってくれそうな奴片っ端から勧誘してみますから」

「本当ですか?……ありがとうございます!」

 

 めっちゃいい笑顔頂きましたー!……言えねぇ俺の交友関係が渚さんに毛が生えた程度とか口が裂けても言えねぇよ……。

 

 

 

 さて、学校での交友関係を振り返ると俺は特定の奴としか話さないしつるまないことが判明した。しかも両手で足りそうな人数なのがホントに悲しい。……幸村の爺さんは生徒じゃないけど顧問枠として必要になるだろうから放課後にでも顔を出しとけばいいだろう。

 問題は部員の方だ。俺の狭い狭い交友関係は朋也と重なる部分が多々あるため、確実に藤林姉妹にはもう勧誘をしているだろう。と、なるとだ。あとは……。

 

 

 

 図書室に入ると、窓から入る朝日に照らされるように本を読んでいる少女が居た。相変わらず凄い集中力で本を読み進めている。

 

「ことみちゃん」

 

 そう呼びかけると、すぐに本から目を離しこちらを見て俺がいることを確認すると微笑みながら「おはよう、紘太くん」と答えてくれる。

 

「紘太くん、 ご本、読む?」

 

 そう言い、座っているクッションに半分ほどのスペースをつくり、クッションをぽんぽんと叩くことみ。……まぁ、特にやることもないからと軽々しく誘いに乗ったのが悪かったのだろう、何が書いてあるかさっぱり分からなかった。せいぜい分かるのは物理学の本だろうという事だけで、詳しい内容だとかどんな研究成果なのかとかは全くこれっぽっちも分からなかった。

 

「ことみ、俺でも分かりそうな本ってあるか?」

「えっと、サスペンス、サイエンスフィクション、ファンタジー、なんでもあるの」

「ことみのオススメって何かあるか?」

「じゃあ……これ」

 

 そう言ってことみが取り出した本は結構な年季が入っていそうなハードカバーの本だった。

 

「私の、一番のお気に入りなの。……紘太くんも、きっと気に入ってくれるの」

「そりゃ楽しみだ」

 

 

 ──おとといは兎を見たの。昨日は鹿、今日はあなた。

 

 

 どこかで、聞いた気がした。はっきりとは思い出せないけれど、きっとこんな風に誰かに読んでもらっていたと思う。あまりに記憶が曖昧で、何とも言えない不確かな感覚だけが残ってしまう。

 

「どう、だった?」

 

 恐る恐るといった感じで俺に感想を尋ねることみ。どこか怯えを含んだような視線で、少し気になるが思ったまま口にする。

 

「あぁ、結構よかったのよ。それになんだか懐かしい気分になったな。……よく分かんないけど」

「……そっか。気に入って貰えた?」

「もちろん。また読んでもらえるならお願いしたい、かな?」

 

 そして、気付けばまたことみの頭を撫でていた。……無意識って怖いね、うん。

 

「あっ……」

 

 なんで手を離したらそんなに悲しそうな顔をするんですかね、ことみさん?あぁ、もう!

 

 

 ──このあと滅茶苦茶ナデナデした。

 

 

「はぁはぁ……これで、満足したか?」

「……うん。幸せなの」

「そりゃ、良かったよ……」

 

 正直、こんなに撫で続けるとは思っていなかった。腕の疲れがほんとにヤバい。

 ここに来た本来の目的を忘れるところだった。

 

「ことみ、部活、やってみないか?」

 

 

 

 

 昼休み、ことみを引き連れ演劇部の部室(仮)になっている教室へと行った。

 そして今現在、部室内では渚さんとことみによる不思議空間か作られていた。今は多分、好きな動物を言ってるんだと思う、思いたい。

 

 朋也が堪らず止めたのはそれからすぐの事だった。

 

「朋也くん、いぢめっ子?」

「だぁぁっ!違うって言ってるだろ!」

「あぁ、ほらほらことみ、朋也はいじめないからな?根は優しいから安心していいぞ」

「分かったの」

「何でお前の言うことは素直に聞くんだ……」

 

 朋也から疲れてそうな雰囲気を感じる。……でも俺だってなんでこんなに言うことを聞いてくれるのか謎なんだからそんな目で見ないで欲しい。

 

「で、ことみはどうだ?演劇部入るか?」

「渚ちゃんは優しいの。それにだんご大家族はかわいいの。……でも、紘太くんは入るの?」

「んー、考え中?」

「……渚ちゃん、ごめんなさい。私ももう少し考えてみたいの」

「いえっ、気にしないでください。私が頼んでることですし、また気が向いたら是非いらして下さい!」

 

 そう渚さんに見送られる俺たち。若干俺のせい感があるけど、まぁ気にしたら負けだろう、そうだろう。

 

「ことみ、何で入らなかったんだ?」

「……入った方が良かった?」

「いや、お前の自由だから良いんだけどさ、楽しそうだったじゃんか」

「……ひみつ」

 

 あらやだこの子そっぽ向いちゃって可愛らしい。……じゃなくて。

 

「渚さんと合わなかったのか?」

「ううん」

「大学入試」

「ちがうの」

 

「……俺が入らないから」

「うん」

 

 ナンテコッタイ。すまない渚さん、貴重な新入部員が逃げたのは俺のせいらしい。心の中で渚さんに向かって土下座をかました。……あっ、すっげぇオロオロしてる。

 

 

 

 その後、なんとも言えず黙って歩いていたけど、その空気に耐えられなくなった俺が幸村の爺さんに会いに行くのを理由にして別れた。チキンだって?そうだよ、チキンだよ。

 

 

 

 

「ほう、部活の顧問とな?」

「そうそう、とは言えまだ部員が集まってないから活動のしようもないんだけどな。取り敢えず話すだけ話しとこうかなってさ」

「そうか、他の先生でもいいだろうに」

「いや、確か爺さん以外は顧問やってただろこの学校。前に小耳に挟んだぞ?」

「フム、まぁ他に新しく部活が始まりそうもないしの。集まり次第顧問になるのも吝かではないかの」

「いやーやっぱ、話がわかるな爺さん!」

 

 幸村の爺さんへの根回しもつつがなく終わり、今日学校でやることは全部やりきったので、放課後まで寝ることにした。

 

 

 

 

 放課後、玄関口でちょうどことみと鉢合わせた。

 

「あっ、紘太くん……。一緒にかえろ?」

 

 懐くのが早すぎると思うんだけど、そこは大丈夫ですかね。そして一緒に帰り、学生寮の前で別れようとしたんだが、『一緒に行く』の一点張りで譲りそうも無かったから、ことみを美佐枝さんに預けることにした。

 

「という訳で、美佐枝さんことみのことよろしく」

「何が、『という訳で』なのか教えて欲しいんだけどね?はぁ、ことみちゃん?まぁ寛いでもらっていいから」

「初めまして。一ノ瀬ことみです」

「ことみちゃん?俺に言っても意味無いからね?」

「……相楽美佐枝、ここの寮母やってるの。よろしくね、ことみちゃん」

「良い人?」

「あぁ、滅茶苦茶優しい人だから甘えても良いぞ」

 

 そう言った時のことみの顔が輝いて見えたのは、俺も経験が有るから黙っとこう。

 

 

 この後帰るときに、美佐枝さんに「紘太もこれから大変だと思うけど、まぁ支えてあげるわよ」という何やら意味深なことを言われ、寝る時もモヤモヤして寝付くのに時間がかかる掛かったのは言わずとも良いことだろう。

 




ことみちゃん、美佐枝さんに心を許す回。

あっさり過ぎると思うんで次回やる気があればここの間の話をしたい所さん。


創立者祭何するかな……
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