世界はきっと優しくて 作:たたた
皿洗いを終え、美佐枝さんの部屋へと向かう。最近はあまり行っていなかったせいか少しだけ緊張していて、少し前なら何も考えずに行けたのになぁと思ってしまう。そう思いながらいつも座っているベッドの前の席へと着く。
お疲れ様、そう言いお茶を淹れてくれる美佐枝さん。美佐枝さんが急須から茶碗にお茶を注ぐ時、少し色っぽく見えたのは美佐枝さんに恋しているせいだろうか。そう考えていると、美佐枝さんと目が合ってしまい少し気恥ずかしく感じる。前までは目が合っても特別恥ずかしく感じるようなことは無かった筈なのに、最近の美佐枝さんからは前まで感じなかった色気のようなものが出ている気がする。今日の夕方のときも、前までなら近づいてくることはあっても身を寄せるなんてことはそう無かったことだ。そのせいだろうか、昔のように美佐枝さんにぐいぐいアプローチが出来なくなり、ずっと見てると頬が熱くなることが多くなった気がする。
「……た、紘汰、ちょっと大丈夫?」
少しボーっとし過ぎたようで、美佐枝さんに心配をかけてしまったようだ。
「大丈夫、少しボーっとしてただけだから」
「ボーっとって、しかもほっぺも赤くなってるし熱でもあるんじゃないの?……ちょっと大人しくしてなさいね」
そう言いながら紘汰に近づいていく美佐枝。そうして彼の前に座ると、おもむろに彼の前髪を上げおでこをあわせ熱を測った。もちろん、突然そんなことをされれば彼の体温は否応無く上がっていく。少し体勢を変えれば彼女とキスできてしまう、そんな距離。彼女の顔をこんな至近距離で見た経験はもちろんあるわけが無く、上のほうを見れば、長く綺麗な睫が目に入り、下の方を見ると瑞々しい唇が目に飛び込んできてしまう。そのため更に体温は上がり続けてしまう。
「すっごく熱いじゃないの、少し休んでから帰ったほうが良いわよ?」
そう心配してくれるのは嬉しいんだけど、これが美佐枝さんのことを考えていたせいだなんて言えないし、少しあいまいな返事になってしまう。
「ほら、少し横になったほうが良いわよ?私のベッド使って良いから。・・・病人は遠慮しないで早く治すことだけ考えれば良いの、分かった?」
そう言われてしまい、言われるがまま美佐枝さんのベッドに横になる。美佐枝さんのベッドに入ると石鹸のいい匂いに包まれて、なんだか美佐枝さんに包まれているような錯覚に陥ってしまい、だんだん瞼が重くなっていく。瞼が落ちる前に美佐枝さんの飼っている(本人は否定しているが)猫と目が合ったような気がした。そういやこいつの名前決めてないとか言ってたなぁ、そうぼんやり考えていたらいつの間にか意識が飛んでいた。
「ふふっ、気持ちよさそうに寝ちゃって……。このまま朝まで寝てるんじゃないかしらね?」
「にゃーん」
「お前もそう思う?起きなかったらどこで寝ようかしらね?」
そう言いながら、紘汰の寝ているベッドを見る。紘汰が寝ているけど彼が細身なせいかもう一人寝れるだけのスペースはありそうに見える。朝起きたときの紘汰のあわてた表情が見たい気持ちはあるけど、それ以上に彼の隣で寝ることに恥じらいを感じてしまうから実際には出来ないなぁなんて紘汰のほっぺを突っつきながら考える。
「ねぇ、どうして私なんかを好きになったの?」
つい呟いてしまう。寝ているこいつの顔は本当に安心しきったような表情で、いつもみたいな周りを警戒しているような眉間のシワもない。こうして寝顔を見ると本当にあどけない子供のようで、庇護欲みたいなのが沸きあがってくるような不思議な感じになる。
「結婚してくれぇ…」
急にそう呟くように言ったと思ったらまた規則正しい寝息が聞こえてくる。
「どんな夢見てんのよ、まったく……」
──夢を、見た。
どんな夢だったか、記憶はおぼろげだけど夢に出てきた少女を見た瞬間結婚してくれって叫んだ気がするから、多分美佐枝さんだったんだと思う。いや、そうに違いない。光坂高校のOBだってことは知ってたけど制服姿の美佐枝さんは中々の美人さんだった。出るとこは出てるし引っ込むところは引っ込んでて、同学年だったら毎日告白に行くレベルでやばかった。そんな美佐枝さんが三年の頃の恋の夢だったと思う。
あれから一時間ほど経って、もうそろそろ寝る場所をどうするか考えなきゃいけないかなんて思ってい
たらベッドから布団が擦れる音がして、紘汰が起きてくれたのが分かった。
起きてすぐに紘汰に話があると切り出される。寝ていたときのようなあどけない表情とは打って変わって真剣な顔で言われ、紘汰が思い詰めている様子なのに気付く。こんな表情をしている紘汰を見るのは一度告白された時以来だなぁ、なんて場違いな考えが頭をよぎる。こんな風に少し現実逃避してしまうのも彼が「昔好きだった人の話聞かせてくれないか?」なんて言ってきたせいだ。
「そんなに聞きたいの?私の昔話なんて」
そう言いながらも彼が聞きたがるのはわかっていた。それでも確認してしまったのはきっと怖かったから。アイツみたいに私の前から居なくなってしまうかもしれない、そう思ったから。
「聞かせてほしい。それと安心して、俺はどこへも行かないから」
だからだろうか、彼にそう言われてどこか安心してしまったのは。あるいは信じたかったのかもしれない、それぐらい今の彼は自分にとって大きな存在になりつつあるんだろう。
「昔の話、か……。あんまり面白くないわよ?それなのに馬鹿みたいに長いわよ?」
そう言い、彼に話し出す彼女。その語り口は自分の過去を整理するような、あるいは区切りをつけるようなそんな話し方だった。
「……っていうことがあったってだけの長くてつまらない話よ。……紘汰、どうして不機嫌な顔してるの?」
「だって美佐枝さんの制服姿見たことねぇしさ……」
「はぁ、何かと思ったら……。確か押入れの中に入ってたはずだから今度着てあげるわよ」
「マジ!美佐枝さん最高!」
「ほんと男子って単純っていうか、馬鹿っていうか……」
「でもさ、美佐枝さんにとって志麻くんがとっても大切な人で、今でも思い続けてるっていうのも分かったし本当に好きだったんだなって思うとなんか……。うまく言葉に出来ないけど、志麻くんが羨ましくなるかな。……はぁ、覚悟決めなきゃかなぁ」
「んー、そんなに羨ましいかねぇ。私みたいな叱ってばっかの女のどこが良いんだか……」
「叱ってくれる人って中々居ないよ?それに美佐枝さんのお陰で高校辞めないで続けてるし」
「そうかねぇ、ってその話初耳なんだけど?」
「美佐枝さんと出会った頃は朋也たちとも知り合ってないし、なんのために学校に行ってるか分かんなかったんだよね。まぁ、俺のせいっていうのもあるけどさ。だからあの時美佐枝さんのお叱りを受けなかったら今の俺はないって感じだから、叱ってくれるのは結構嬉しいもんだと俺は思うよ。それに叱るだけじゃなくて心配してくれるし、それに石鹸のいい匂いがするしさ……あっ、今のセクハラになっちゃうかな」
「叱ってくれて、心配してくれて、それにいい匂い……」
「美佐枝さん?」
「ごめんなさい、前にも似たようなことアイツに言われてね。少し思い出してたの」
そう言いながら紘汰の隣に腰掛け、少し頬を染めながらあの日以来聞けなかった事を口にする。
「紘汰はなんで私なんかを好きになったの?」
そう唐突に聞かれ、少し驚いてしまう。こんな風に美佐枝さんに聞かれるのは一年の時に玉砕して以来のことだ。けどあの時はどうにか自分のことを諦めさせて他の女の子に目を向けさせようとする質問の仕方だったが、今の言い方は本当に知りたがっているような聞き方で、でも上目遣いにその上頬まで染めるなんて衝動的に抱き締めたくなっちゃうから本当に止めて欲しいんだけどなぁ……。
それから一時間ほどだろうか、美佐枝さんに如何に美佐枝さんが魅力的かを丁寧に説明していたんだが、美佐枝さんが「もう十分分かったから!」と顔を真っ赤にして止めて来たため、不完全燃焼ではあるけどおしまいになった。けど、一番大切なことを言っていないことに気付いたため、言わないとかなんていう風に考える。
「だから俺は美佐枝さんのこと好きになったんだ。できれば、その、付き合ってほしいな~なんて思うわけなんだけど……」
そう呟くように、けれどしっかりと彼女への思いを口に出した紘汰。そんな彼の告白を聞いて、彼女は呆れたような、それでいて嬉しそうな表情で自分の隣で全てを出してくれた彼に同じように言うのだろう。呟くように、けれど隣に居る彼にはしっかりと聞こえるように。
私もあなたのことが──
地の文強化できてたらいいなぁ…(遠い目)
美佐枝さんの膝枕に思いを馳せていたら告白してた件について
ほんとは創立者祭ぐらいに告白する予定だったんだけどなぁ…ほんとだよ?
全てはプロットを作らない作者のせいです。
原作やってて杏ルートで毎回やりたくなくなる。あれは何なの…
美佐枝さんに膝枕と耳かきして貰えないか頼んでもぅ…ってため息混じりに膝ポンポンして貰いたい人生だった。
それではまた次回。