渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜   作:秋ボーロ

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十:クソニートヒキニートから脱却する。

 

 

 

 

「……俺が今日来ること、分かってたのか?」

「いいえ。……ですが、渋谷さんから貴方が倒れたと聞いたので、もうすぐ来るかもしれないとは思っていました。手紙もその場に落ちていたと聞きましたので」

「……なんだよ、全部アンタの思い通りかよ」

 

 自嘲気味に呟く。

 プロデューサーはふっと笑って。

 

「まさか。貴方がこんなに早く目が覚めるなんて思ってもいませんでしたし、病院を抜け出す体力があるとも思いませんでした」

「だろうな、俺も思ってなかった」

 

 俺も今度は自虐的な笑みを浮かべる。

 

「でも、あの手紙と封筒を見たら、居ても立ってもいられなかった。……なあ、あいつからの手紙、あれって……」

「つい最近、彼女の使っていたロッカーの隠しポケットから見つかったそうです。誰も使っていなかった為に、今まで見つからなかったようですね」

「隠しポケット……そんなんあったのか。初めて知った」

「ええ、私も初めて知りました。我が社の調査班が見つけ出さなければ、あの手紙はずっと貴方の元へは届かないままだったでしょう」

「優秀すぎて寒気がするよ。もう二度と調べられたくねーな」

「同感です。……さて、それでは面接を始めましょうか」

「……面接?」

 

 聞いていない話が出てきた。

 スカウトに面接が必要なんて話は寡聞にして知らないのだが。

 

 怪訝そうな俺を、男は悪戯っぽい笑みで笑った。

 

「ええ。……貴方が成すべきこと。それをお聞きしたいのです」

「……もしかして、それ次第でやっぱりこの話は無かったことで、とか言いだしたり……?」

「さあ、どうでしょうね?」

 

 ともかく、お聞かせ願います。

 プロデューサーが無表情な笑いを浮かべて促す。

 

 俺が成すべきこと。

 俺にしか出来ないこと。

 

「……決まってる。アイドルを、俺の手で輝かせること。それこそ誰もが振り向くようなトップアイドルにすること。……それが、今の俺が成すべきことだ」

「……覚悟は、出来たたようですね」

「……覚悟。覚悟か。ああ、そうだ。俺はもう逃げない。何があったって振り返らないで、前を向いて、進み続ける。沢山の笑顔の為に……!」

「……合格です」

 

 男は、プロデューサーは、初めて見る笑顔で笑っていた。

 

 純朴で、混じりっ気のない、綺麗な笑顔だった。

 

「……なんか、アンタが笑ってるの見るの、初めてな気がする」

「奇遇ですね。……私も、今の貴方の笑顔を見るのは初めてです。……それと」

「ん?」

 

 プロデューサーは内ポケットから名刺を取り出し、苦笑しながら差し出した。

 

「私の名前は武内です。……これから同僚になることですし、覚えてくださいね」

「……ああ。これから宜しくな。武内さん」

「ええ、宜しくお願いします」

 

 俺は名刺を受け取って、プロデューサー改め、武内さんに右手を差し出した。

 

 武内さんも、右手で握り返してくる。

 

 良いプロデューサーだ。

 その真摯な姿勢と真っ直ぐな信念が、握った手から伝わってくる。

 

 ……この人に出会えて良かった。

 

 

 心から、そう思った。

 

 

 

 こうして、俺は346プロダクションに就職を果たし、約十二年にも及ぶニート生活に終止符を打ったのだった。

 

 

 

「……で、早速武内さんに一つお願いがあるんだけど」

「……はい、なんでしょう」

「……車、出してくれない?」

「……は?」

「実は行きは勢いで来ちゃったんだけど、安心したらなんか気が抜けちゃって、今更ながら外が怖いことに気付いてしまって」

「……病院に戻ったら、そっちのリハビリもして貰えるよう、手配しておきます」

 

 

 やや呆れたような無表情を浮かべる武内さん。

 すいません。ご迷惑お掛けします。

 

 

 

 それから。

 

 俺は武内さんの運転する車で病院に戻った。

 

 戻ったら両親から大目玉を喰らった。

 まあ、病院を脱走してきたので当然だろうか。

 

 でもその後に就職したことを報告すると一転して大喜びされた。

 

 おやっさんはバンバン背中叩いてくるし、母上なんて感涙していた。

 

 喜ぶか怒るかどっちかにしてくれませんかねぇ……。(照れ隠し)

 

 あ、勿論看護婦さんや医者からもこってり絞られた。

 

 曰く点滴やらコードやら引っこ抜くなんて非常識にも程があるだとかもっとちゃんと栄養をとればこんなことにはならないんだとかそもそもどうして数日食事を抜いて全力疾走ができるんだとか。

 

 そういう小言を一時間ほどみっちり聞かされた後、俺はお説教の締めとして、一週間の絶対安静を命じられたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……そう言われても、一週間って長ぇんだよなぁ」

「自業自得でしょ。大体、元ヒキニートの兄貴は暇の潰し方くらい心得てるんじゃないの?」

 

 そう病院のベッドの上で独りごちると、凛が答えてきた。

 

 入院して三日目。今日は何故か凛が見舞いに来ている。

 

 何でも急に仕事にキャンセルが入ったらしく、少し時間が空いてしまったのだとか。

 

 暇な時間の使い道に困った末に、俺の顔を見に来ることにしたらしい。

 

 そういえば入院してから一度も見に行ってないしね。まあ、来てあげたよ。とは本人の談である。

 

 

 どうしよう妹が妹オブ妹すぎてマジ妹。

 

 

 略して妹。

 

 

「いやまあ、自宅だったらいくらでも暇潰せるけど。ここ病院だから迷惑掛かるし。そーなると途端にやることなくなるんだよなぁ。テレビは飽きたし、アイドルビデオも見れねぇとなると、溜まって仕方無い訳で」

「……溜まるって、何が?」

「何って、そりゃ色々だよ」

「……最っ低」

「わーい表現濁してもダメなんですね」

 

 凛が虫けらでも見るような目で俺を見てくる。

 

 一部のファンにしてみればご褒美以外の何者でもないんだろうなぁとか思った。

 

 

 尚俺はその中の一人なのでしっかり興奮しました。(恍惚)

 

 

「あ、そうだ」

「……何」

「俺、ニート止めることになりました」

「知ってるけど……」

 

 うん知ってる。

 

 まあこの際知っていようと知っていまいと関係はない。

 

 ただ俺が俺なりのけじめの一つとして報告しておこっかなって思っただけだから。気にしないで欲しい。

 

「そんで、346プロダクションに就職することになりました」

「うん」

「これからはプロデューサーとしてシンデレラプロジェクトに参加することになります」

「えっ」

「ちなみにこれからニュージェネレーションの担当プロデューサーは俺です」

「えっえっ」

「ごめん最後の超嘘」

「捩り切るよ?」

「ちょ待てよやめろよほんの冗談だろうがアツクナラナイテマケルワ-」

「うっさい黙って捻り千切られて――ってちょっと待って、最後の以外はホントってこと?」

「え、あ、うん」

 

 ほら、と言って名刺を見せる。

 

 これは入院の翌日に武内さんが持ってきてくれたものだ。346プロダクションシンデレラプロジェクトプロデューサーと書かれている。

 

 ヒキニート上がりの新米プロデューサーとバリバリ働く有能プロデューサーが同じ肩書で良いんですかと聞いたところ、貴方の仕事を信じていますからと言われた。

 

 とか言いつつ、本音はいちいち別の名刺作る費用が勿体無いからじゃないかなと思ってるが。

 

「うわぁ、本当だ……うわぁ」

「何だ、武内さんから聞いてなかったのか」

「聞いてな……くもないけど。いや、でもまさかプロデューサーだなんて思わないよ普通……」

 

 何か凛がブツブツ言っているが、声が小さくてよく聞き取れない。まあいいか。

 

 

「ま、なんにせよ。これから宜しく」

 

「……はぁ。うん、よろしく」

 

 

 俺が手を差し出すと、凛は諦めたような顔で握り返してきた。

 

 

 酷く冷たい手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも会社では一人っ子って設定にしてあるから馴れ馴れしくしないでね?」

「嘘だろお前」

 

 

 

 




ようやくヒキニート編終了です。これでやっとギャグが書ける……!

まあまだシリアス展開は残ってるんですが。

あ、明日は祝日なので二話更新します。
多分。

※誤字報告ありがとうございました。適用済みです。
なお「呆れたような無表情」は故意です。紛らわしくてすみません。
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