渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜 作:秋ボーロ
武内さんに声を掛けようと近付くと、彼はなにやら分厚い茶封筒を持っていた。
「おはようございます、武内さん」
「おはようございます。……その格好は?」
「あー、その、スーツなんて着る機会が無かったもんで。マトモな服をこれしか持ってなかったんですよ」
「……なるべく早く用意して下さい」
「すいません」
強面なせいで怒っているようにも見えるが、実は全然怒ってない武内さん。
前はパッと見では分からなかったが、今はもう大分分かるようになってきた。
意外と表情豊かな無表情をする人なのだ。この人は。
全部無表情じゃないかって? 突っ込んだら負けだ。
俺が軽く頭を下げると話は終了し、代わりに手に持っていた封筒を俺に差し出してきた。
ありがたく頂戴して目を通す。
中に入っていたのは
……ああ、そういうことですね?
俺が確認の意味も込めて視線を投げかけると、武内さんはその通りと言わんばかりに軽く頷いた。
……念のために、口でも聞いておく。
「いいんですか? 俺まだ社会人初日ですよ?」
「構いません。メインは今まで通り私が担当しますから」
つまり、基本的には今まで同様武内さんが仕事をして、武内さんがいなくても大丈夫そうなことだけが俺に回ってくると。
このスケジュールを見た感じ、俺はレッスン状況とかの確認みたいな些事だけで良いらしい。
まあ新入りに任されるのは失敗してもそこまで問題の起きないことだけだし、妥当だろう。
いや、よく考えればアイドルに関わる仕事をヒキニート上がりの新米にいきなりやらせるって、大分無茶だと思うのだが。
その辺は俺の過去やらで、出来ると判断されているのだろうか。ありがたい話だ。
「……給与や雇用形態の説明は後程、経理部から説明がありますので、その時に確認して下さい」
「了解しました。それじゃ、これから宜しくお願いします」
武内さんは俺の返事を聞くと、すぐに談笑していた五人の元に向かった。
打ち合わせの為だろう。まあ、内容はなんとなく分かっているのだが。
そんな事を考えていると案の定、しばらくしてから、ええーっ!? という驚愕の声が聞こえた。
ほらやっぱり。(苦笑)
向こうから押しかけてくる前に、こちらから出向くことにする。
俺の姿を認めるなり、五人がばたばたにゃんと慌ただしく近付いてきた。
「ねぇどういうこと私達の担当になるって話は超嘘じゃなかったのどういうことなの!?」
「しぶにいが私達のプロデューサー代理になるってホントなのっ!?」
「プロデューサーさん交代されちゃうんですか!?」
「みくは自分を曲げないからね!? 今更、その年で猫キャラはキツいですよ(笑)なんて言われても辞めないからね!?」
「私もロックなアイドルで行くから! カワイイ系アイドルとか目指してないからね! 別に可愛いモノとかこれっぽっちも興味無いんだからっ!」
一斉に詰め寄られた。
一体全体どういうことなの……?
武内さんを見れば、首元に手をやって困ったような無表情。
えぇ……これ全部丸投げですかまさか。
取り敢えずどうどうと全員を落ち着かせて、もう一度俺から説明し直すことに。
「ええと……武内さんから説明があったと思うけど、改めて、今日付けでシンデレラプロジェクト担当プロデューサーになった渋谷です。んで、俺の仕事は今の所、
「じゃあ、病院で言ってたのは?」
「あれは嘘だったのが嘘だ」
「この嘘吐き! 最っ低! ヒキニート!」
「待て故意で嘘吐いた訳じゃないしもう俺ニートじゃねぇしキャラ変わってんぞ一旦落ち着け!」
「しぶりん落ち着いて! ていうかどっから出したのその重そうな花瓶!」
一瞬で許容量がキャパオーバーしたのか、凛が小学生のような罵倒と共にどこからともなく花瓶を取り出して振りかざした。
やめて! 俺のライフが全損する!
なんとか未央さんと俺とで取り押さえて花瓶を取り上げる。
GCとは比較にならない重量感がその手に伝わる。
やだ、この子本気だ……!(戦慄)
というか武内さん見てないで助けて! ヘルプ! ヘルプミー!
この後、武内さんも加わって一から説明し直したことで、何とか俺の命は繋がった。
あぶなかった。
しぬかとおもいました。
「……という訳で、今日からしばらくお世話になります。……改めて、宜しく」
若干疲れた俺がもう一度頭を下げると、今度は全員しっかり頭を下げ返してくれた。
初日からこんなんで大丈夫なんだろうか、俺。
なんか心配になってきた……主に生命的な意味で。
「で、今日のことなんだが、特にやることもないらしいので、自由にしてもらって構いません」
「……そういうことなら、みくは自主レッスンをさせていただきますにゃ」
「あ、じゃあ私もー」
前川さんと多田さんは自主練をすることにしたようだ。
ばいにゃーと挨拶してから二人と別れた。
本当は二人にも案内を手伝ってもらおうかとも考えたのだが、流石に五人に案内してもらうのは申し訳ない。
人手的には三人でも多いくらいなのだ。五人なんてどう考えても人材の過剰投入である。
それに、そんなにいたら絶対ツッコミが追い付かなくなるだろうし。
間違いなくツッコミに回る前川さんの精神がゴリゴリやられそう。不憫。
そんな訳で、今回はニュージェネレーション+俺という編成で社内見学と相成った訳です。
「じゃあ、まずはレッスンルームから見てみる?」
「そうだな……」
凛の確認に少し迷う。
本音を言えば今すぐカフェにゴートゥしてフォールアスリープしたいところではあるのだが、それをしたら今度こそぶっ飛ばされそうだ。
……でも試しに言ってみたら案外オーケーされないかな? かな?
「する訳ないでしょバカじゃないの?」
「あの、ピンポイントに心読むのやめてくれないか」
「というか何で分かるんですか……?」
「ふふ、それが兄妹の絆ってヤツなんだよしまむー!」
「未央、うるさい」
「ひどいっ!?」
勝手に心を読んだ上に辛辣なツッコミを入れる凛。
大分精神がキてるようだ。
何かあったんだろうか。
俺としては、プロになった以上そういう精神管理も仕事の内だからそっちの方面でも頑張ってほしいと思うのだが。
「誰のせいだと思ってんの……?」
無論俺のせいである。
そんなの分かってて言ってるに決まってるじゃないですかやだー!
「――――」
「ああっ! ついに凛ちゃんが殺意の波動に!」
「お兄さんが塵と共に滅されちゃう!」
何だか凛のの肌が黒ずみ、目も赤くなって、更にはどす黒いオーラを撒き散らしているような気がするけど、まぁ多分気のせいだろう。
まさか本当に殺意の波動に目覚められる訳もないし、恐るるに足りない。
「じゃ、まずはレッスンルームから見て回らせてもらおうかな。二人共、案内よろしくね」
「「まさかの放置!?」」
ぶちん。
俺が凛をスルーして二人に案内を頼むと、つい凛の堪忍袋が切れる音が聞こえた。
そして、凛は若干涙の滲む目で俺を睨み付け、
「――兄貴のっ! ばかあああああぁぁぁぁぁっっっ!!!」
それから始まった約十分に及ぶ凛の罵声は、アイドルとしての彼女のイメージを著しく損なう恐れがあるのでここでは割愛しておく。
ただ、憤怒で真っ赤に染まった凛の顔はいつにもましてかわいかったです。(恍惚)
社内見学とタイトル付けてるのに一向に社内見学が始まらない。
それにつけても凛ちゃんが可愛い。とても可愛い。
個人的には李衣菜をもっと輝かせたいところです。
李衣菜の乳が揉みてぇ。(切実)