渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜   作:秋ボーロ

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十四:新米P、社内見学。(3)

 

 

 

 

 それから、社内見学を一時間ほど続けた。

 噂には聞いていたが、本当に346はすごかった。

 

 広いレッスンルームに最新の機材の機材が惜しみなくセットされている。

 しかも、そんな部屋がいくつもあるのだ。

 

 思わず興奮して本田さんの手をぶんぶん上下に振り回したら引きつった笑いを浮かべられた。

 

 ちょっと辛かった。

 

 他にも、大浴場やらサウナやらエステルームやらも見学させてもらった。

 

 どうやらこの設備はプロデューサーたちも使ってよいらしい。

 ただ、あくまでアイドル用の設備だからか、実際に使う人たちは殆どいないのだとか。

 

 掃除のおじさんがそう教えてくれた。

 

 俺は新人だし、しばらくは使えそうにないだろう。

 非情に残念だが、諦める他ない。

 

 そのあまりの悔しさをがっくりと膝をついて表現していたら、他の四人に白い目で見られた。

 

 唯一卯月ちゃんだけが俺を励ましてくれた。泣けるでぇ……。

 

 あと、敷地内を散歩していると、四つ葉のクローバー探しをしているアイドルや、アコギを弾いているアイドルなど、多数のアイドルとエンカウントしました。(白目)

 

 流石に全てのアイドルに話しかけるとHPが持たないので、ほとんどの相手には逃げるを選択してしまったが、何人かとはちゃんと話す事が出来た。たどたどしかったけど、そこには目を瞑って欲しい。

 

 そもそも、俺には圧倒的に経験値が足りてないのだ。

 

 なんせ、ヒキニートからプロデューサーになるために要求される進化レベルは非常に高い。

 

 それこそ一朝一夕で上げられるレベルじゃない。俺の現役時代の経験からくる成長アドバンテージと、武内さん曰く天才的な俺のセンスをもってしても、一人前になるには年単位の時間を要するだろう。

 

 そのぐらいプロデューサー業ってのは難しい仕事なのだ。

 

 十人単位でのスケジュール&体調管理とかザラだし、新規の仕事とかもとってこなきゃいけないし、個々のアイドルの長所はどこか短所はどこか等のステータスの見極めやメンタルケア、信頼を得るためのコミュニケーションも欠かせない。

 

 そればかりでなく今世間がどんなアイドルを求めているかのマーケティングのようなこともしなきゃいけない。

 

『アイドルをプロデュースする』と言葉にすればそれだけだが、それに必要な技能と労力は計り知れないのである。

 

 シンデレラプロジェクトみたいな、大きな一つのテーマに基づいて動く企画だとこれが更に大変だ。

 

 アイドルたちの魅力をどうやってそのテーマに沿わせていくのか、またどのようなペースでプロジェクトを進行させていくのか、その辺のことも考えて行かなきゃならないから。

 

 で、武内さんは今までそれを一人でこなしていた、と。

 

 そりゃ補佐も必要になる訳だよ……こんなんマトモに全部やってたら過労死しかねん。

 

 改めて武内さんがバケモノだとしみじみ感じました。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで社内見学を終え、今は会社に併設されているカフェで一服中である。

 社員は割引価格になるので、金欠の時には助かりそうだ。

 

 まあ、俺は金には困ってないのでそんな機会は来ないだろうけど。

 

 ちなみにアイドルは無料らしい。

 なんかずるい。

 

「いやぁ……346ってやっぱすげーわ。どこ行っても才能ある人しかいないし、設備は充実してるし」

「そうなんですか?」

「そうだよ……。俺がガキの時お世話になってたとこなんて、会社にスタジオルーム無くて、貸しスタジオで練習してたくらいだし。まあ、今とは時代が違うってのも関係してるのかもしれないけど、それにしたってここは異常だ」

「確かに、会社にエステが付いてるところなんて、なっかなかないもんね~」

 

 思わず感嘆の声を漏らすと、本田さんがそんな風に感心する。

 

 まあ逆に言うと、エステが必要なくらいにハードな仕事をする職場という捉え方も出来るんだけど。

 

 願わくば、エステしなくちゃやってられない状況には陥りませんように。(願望)

 

「今日はありがとね、二人とも」

「いえいえ、お役に立てて何よりですっ!」

「また見学したくなったらいつでも呼んでくれていいんだよー?」

「その時はまたお願いするよ。……で」

 

 二人にお礼を言って、ちらと横に視線をやる。

 

 隣の席では凛が机に突っ伏していた。

 

 顔色が明らかに悪い。疲労困憊した表情をしている。

 こころなしか、髪もぼさぼさになっているみたいだ。

 

「……凛はなんでそんな疲れてるんだ?」

「……兄貴がみんなに変な事しないかどうか目を光らせ続けてたから」

「別に、何もしないって……」

「言っとくけど、ことあるごとに皆と握手しようとするのも、下手したらセクハラの範疇だからね?」

「いつから日本は手に触るだけで性的嫌がらせと判断される国になったんだ」

 

 突っ伏したままで返事をする凛。

 

 どうやら本当に疲れているようで、声にもいつものクールさが感じられない。

 

 ちょっと悪い事したかなとも思ったので、店員さんに頼んで何か甘いものを持ってきてもらうことに。

 

 程なくして、テーブルにはチョコソースのたっぷりかかったパフェが運ばれてきた。

 

 のだが。

 

「あの……これ、ちょっと、デカすぎませんか?」

「え、そうですか? でもコレ、一応サイズ(小)になりますよ?」

「これで、小……」

 

 高校生くらいの見た目のウエイトレスさんが持ってきてくれたパフェが、やけにデカかったのである。

 

 高さはおよそ15cmほど。器の直径が10cmと、かなり大きい。

 

 アイスとクリーム、チョコプレッツェルにウエハース、ベリー系フルーツが数種と、中身も豪華だ。

 

 それなのに、これが(小)。

 

 どう考えてもサイズ詐称としか思えない。どこぞのラーメン屋でもリスペクトしているのだろうか。

 

「マジですか……」

「今の若い子はこれくらいペロっといっちゃいますよー。花盛りのお年頃って、食べ盛りの育ち盛りでもありますしね」

「え、じゃあメイドさんはこれ、ペロっと食べれるんですか?」

「わ、私ですかっ!? な、ナナは、その、食べれないこともないかもしれませんけど、ちょっと食べた後のカロリーとかお腹周りとか気にしちゃうと、別の意味で食べれなくなりそうで……」

「あー、やっぱそうですよねー……」

 

 俺が訊くと、しどろもどろになるウエイトレスさん。

 やはりいつでも女性の頭を悩ますのは体型と欲望の兼ね合いみたいだ。

 

 ……それと、どうでもいいけどなんでこのウエイトレスさんはメイド服を着てるんだろう。

 

 確かここは至って普通の喫茶で、メイドカフェではなかったはずなのだが。

 

 ひょっとして、メイド系アイドルの育成の為なのだろうか。そうなのか。

 

 あまり深く考えるとドツボにはまりそうなので、適当なところで思考を切り上げて相槌を打つ。

 

「ナナも、昔はそういうの気にせずに目一杯無茶できたんですけどねぇ……」

「あれ、メイドさんって、高校生なんじゃ……?」

「え゛っ、あ、いや、わ、私油断するとすぐ太っちゃう体質なので! 昔って、中学生くらいのことですよ! あ、あはは、あはははは!」

 

 何かを誤魔化すようなメイドさん。

 

 ちょっと引っ掛かったが、深く突っ込むと何か知らなくていい事を知ってしまいそうになったので、やめておいた。

 

 そんな俺達を他所に、今時の若い女の子三人は目を輝かせてパフェをぱくつき始める。

 

 凄いスピードでパフェの山がどんどん低くなっていく。

 

 三人がかりということもあるのかもしれないが、やっぱ女性にとって甘いものは別腹なのだろうか。

 

 

 そんなことをぼんやり考えながら、俺はにわかに上がってきた欠伸を必死に噛み殺すのだった。

 

 

 

 




これで社内見学は終了の予定です。
社内見学編なのに見学の描写がめっさ少ないっていう。
この辺はもしかすると後々書き足すかもしれません。

明日は二話更新です。
時間までに書きあがったらの話ですが。
震えて眠れ。
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