渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜   作:秋ボーロ

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十七:新米P、和気藹々? (3)

 

 

 

 

 俺達を見た楓さんは、ぱちくりと瞳を瞬かせて小首を傾げた。

 

「どうして、凛ちゃんがこんな場所に……? ここ、凛ちゃんみたいな子が来るような場所じゃ、ないですよ?」

「あ、いや、その……」

 

 視線を彷徨わせて助けを求める凛。

 

 と言っても助け船を出せそうな人間は俺しかいない。

 

 すぐに何か言ってよ、とのアイコンタクトを頂いた。

 

 ……そう言われてもなぁ。

 

 額をぽりぽり掻くと、楓さんの目が俺の方に向いてきた。

 

 俺の姿を捉えると、その瞳がぱっと見開かれた。

 

「あら……? えっと、貴方は……確か――」

「あー、その、今日付けで346プロのプロデューサーに就職した、渋谷です。ここには、アイドルとの親睦を深めるためとでも言いましょうか、その――」

「――確か、十年前にも、ここでお会いしたことがありましたよね?」

 

 言い訳をしかけて、言葉が、止まる。

 

 ……やっぱ覚えてるよなぁ。

 

 いや、うん、分かってはいた。

 俺でもおぼろげに覚えてるくらいだし、この人ならはっきり覚えてるんだろうとは思ってた。

 

「ええと、あれはライブの後の打ち上げ……でしたよね? 確か、後片付けがあって、遅れて来られた方」

「……その通りです。本当、良く覚えてますね……」

「ふふ、記憶力には自信がありまして。……その節はお世話になりました」

「ああ、いえ、大したことはしてませんから」

 

 何故かぺこりと頭を下げられてしまった。

 本当に大したことはしていないのだ。ただちょっと落としものを拾って届けただけであって。

 

 そんな会話をしていると、横から凛がすごいアイコンタクト飛ばしてることに気付いた。

 

 ねえいつ楓さんと知り合ったのどういう関係なのいったい楓さんと何があったの。

 

 どうやってるのか分からない目の動きだった。

 

「……ずっと前に、ちょっとな。大したことじゃないから凛は心配しなくていい」

「本当に? 何か妙なセクハラとかしてないんだね?」

「そこまで行くともう信用のなさとかじゃなくてただの誹謗中傷だからなそれ。なんもないって!」

 

 ですよね? と楓さんにも助けを求めると、そうですねぇ、とどちらとも取れる返事が返ってきた。

 

 やめてくださいしんでしまいます。

 ほら凛がめっちゃこっち睨んでるし!

 助けて楓さん!

 

「……あ、そういえば、別れる時にしきりに手を握られた気がします」

「兄貴、ギルティ」

「ちょっと待て誤解だ! 話を聞け!」

「そうですよねぇ、別れ際の握手は悪趣味ですよねぇ……ふふっ」

「…………」

「…………」

 

 一人でくすくすと笑う楓さん。

 

 すごく反応に困った。

 

 いや、おかしそうに笑う楓さんは凄く可愛らしいのだけれど。

 どうしよう、一応突っ込んでおいた方が良いのだろうか。

 

「……ちょっと兄貴」

「何だよ、突っ込めってか? いくら俺でも流石にこの人相手に突っ込むのはちょっと……」

「――最っ低! この変態!」

「えぇ……?(困惑)」

 

 理不尽にキレる凛に困惑していると、更に女性が一人近づいてきた。

 

 手にはビールジョッキ。

 顔は紅潮している。

 

 足取りもふらふらしているところを見ると、完全に出来上がってしまっているようだ。

 

「ちょっとー、楓ちゃーん一人にしないでよー……ただでさえ独り身の夜の寒さが身に堪えるっていうのに、これで楓ちゃんまでいなくなっちゃったら、もう私どうしていいかー……」

「ああ、ごめんなさい瑞樹さん。ちょっと凛ちゃんを見かけたもので」

「瑞樹さんもいるんだ……」

 

 凛が酔っぱらった女性を見て眉間を押さえている。

 どうも、俺以外は皆顔見知りらしい。

 

 ……ってことは、346の人か。

 俺は脳内で記憶検索を開始した。

 

「瑞樹さん……ってことは、この人がわかrゲフンゲフン、川島瑞樹さん?」

「……? そうだけど、貴方は?」

「ああ、すみません。俺は今日付けで346プロのプロデューサーになった渋谷です。楓さんとはかくかくしかじかで」

「成程ね、わかるわ」

「分かるの……!?」

「これで意思疎通をソツなくこなせるようになるのが業界人への第一歩ですよ……ふふっ」

 

 瑞樹さんに説明をしていると、凛が呆れたような驚いたような表情を浮かべていた。楓さんの発言は聞こえなかったことにする。

 

 本当に楓さんはたまに何を言いだすのか分からないから困る。

 さっきみたいな火に油を注ぐような発言は勘弁して欲しいのだが。

 

「……まあ、とにかく。ここは私達みたいな大人の場所なんだから、あんまり若い子達は長居しちゃダメよ? 食事が終わったらすぐに帰ること。いいわね?」

「ええ、勿論です」

 

 川島さんから年配者特有のお小言を頂く。

 

 すっかり最初の目的を忘れてたが、元々ここには食事の為だけに入ってきたんだった。

 

 確かに、居酒屋に未成年が遅くまでいると知れたら色々マズイ。

 

 いくらデビューしたてで知名度が低いとはいえ、アイドルはアイドルだ。

 スキャンダルには気を付けないと。

 

 という訳で、そろそろお暇することにした。

 さっきから他のことに目もくれず食事をしていたみくにゃんとリーナにも声を掛ける。

 

「よーし、そろそろ帰るぞー……って、何してるんだ?」

「あ、プロデューサー! 聞いて聞いてにゃ! さっきマスターが通りかかったから、ハンバーグ美味しかったですって言ったら、マスターさんレシピ教えてくれたのにゃ! これであの美味しさを家でもいつでも再現にゃ!」

「プロデューサー! さっき魚嫌いでも食べれる魚料理をマスターに聞いたら、魚肉を使ったハンバーグを教えてくれたんだ! 早速今度試してみよっと!」

「お、おう……よ、良かったな。……すいませんマスター、すっかりお世話になっちゃって」

 

 キラキラした目ではしゃぐ二人を宥めつつ、マスターに頭を下げる。

 

 

 マスターは何も言わず、ただグッとサムズアップをかますだけだった。

 

 

 そんなこんなで四人を急かして、居酒屋を出ようとする。

 

「あの、渋谷プロデューサー」

「……はい?」

「……あの時のこと」

「ああ、落し物渡した時の?」

「はい。……あの時、『今に新しい世代を率いるアイドルがいる』って、言ってましたよね?」

「――――」

 

 時間が、止まった。

 

 そうして、封じ込めていた十年前の出来事が、鮮明に思い出される。

 

 

『……アイドル?』

『ええ。高垣さん、今はモデルって言ってたけど、案外アイドルも向いてるんじゃないかな、って思って』

『……そんな、私がですか? とても、そうは思えないんですけど』

『俺の目を信じて下さいって。今に新しいアイドルの世代がやってきます。貴方みたいな人を求める時代が』

『新しい、アイドルの、世代……』

『はい。……あ、そうだ! 今度、アイドルの一人と会ってみませんか? これからのアイドル業界を引っ張っていけるような、そんな素質のある奴なんですけど』

 

 

「あの時、言っていた子って、もしかして凛ちゃんですか? あの子なら、確かにこれからの時代を作っていける人だと思うんですけど……」

「……いえ。いくら俺でも、五歳児をアイドルにしたりはしませんって。……すみません、会わせたかった人はちょっともう、会えなくて」

「……そうですか。ごめんなさい、急に変なこと言って。……お疲れ様でした。お休みなさい」

「ええ。それじゃ、失礼します」

 

 

 微笑む楓さんに頭を下げて、その場を後にする。

 

 

 外に出ると、四人が遅い遅いと口々に言ってきた。

 

 

 苦笑してから、ごめんと謝り、女子寮に向かって歩き出す。

 

 

 空に向かってはーっと息を吐くと、白い吐息が空に昇っていく。

 

 

 冷やされた換気が、制服に包まれた俺の身体を、いつもよりずっと強く蝕んでいた。

 

 

 

 




楓さんの駄洒落は色んな所から引っ張ってきました。あと、記憶力が良いは独自設定です。原作にもあったかどうかは……忘れました。

こっから徐々にシリアス……に、なるのか?
その前に一回セクハラらしいセクハラをしておきたい所です。
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