渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜 作:秋ボーロ
「う゛ーん……」
346プロのプロジェクトルームにて。
俺はソファに腰掛け、一向に答えの出ない問題に頭を悩ませていた。
「どうしたにゃ、プロデューサー。朝っぱらからそんな変な声出して」
「しぶにい、何か悩み事でもあるのん?」
「……いやさ。実は凛の奴が、今朝からなーんかよそよそしくて」
うんうん唸っていると、丁度向かいのソファで喋っていた本田さんと前川さんが話し掛けてきた。
「凛チャンがかにゃ? ……そーいえば、確かになんか落ち込んでるような気もしたけど……」
「えっ、そう? 私には、なんか機嫌が良さそうに見えたけどー」
「そう。何が問題かって、凛が機嫌がいいのか悪いのか、さっぱり分からないところが問題なんだよ」
あいつは普段から表情に乏しいし、元々機嫌の良し悪しは分かりにくかったのだが、今回はいつにも増してそれが分かり辛い。
たまにニヤニヤしたと思ったらすぐにぶすっとした顔になって、またすぐに鼻歌を歌いだす。
情緒不安定なのだろうか。
どちらの状態にも共通していることは、俺が話しかけようとすると途端に挙動不審になって逃げていくということだ。
「プロデューサーは何か心当たりないの? よそよそしいのって、プロデューサーに対してだけなんでしょ?」
「うーん……そうは言っても、あいつに避けられるとか日常茶飯事過ぎて、最早何が原因なのかさっぱり」
「しぶにい、普段しぶりんに何してるのさ……!?」
考えてみるも特に原因が思いつかない。
何故かちゃんみおは冷や汗を流しているが、別に普通の生活だと思う。
突然洗濯物干しを押し付けられたから仕返しに下着の匂いをひたすら嗅ぎ続けたとか、お風呂の排水溝に溜まった凛の毛を観察して今日の体調を調べたりとか。
皆やるよねそういうの。
「……何でだろ、今私世界有数の変態と話してる気分になった」
「みくもにゃ」
「何だよ唐突に失礼だな」
何故ここのアイドル達は人の心を勝手に読むのだろうか。
普通にプライバシーの侵害だと思う。侵害革命だ。
「ま、まあ、それはおいといて……原因が分からないんだったら、凛チャンに直接聞けばいいんじゃないかにゃ?」
「朝から何度か聞いてるんだけど、はぐらかされるばかりで。一回めっちゃ睨まれたからもう聞きたくない」
「んー……遅めの反抗期、とかじゃない?」
「反抗期……反抗……うーん、なんか違う気もするが……」
「年頃の女の子の気持ちは、移ろいやすいからねぇー……」
どこか遠い所を見るような目をする未央。
何か自分にも経験があるのだろうか。
聞いたところによると、未央には年上の兄もいるらしいし、それ関連か。
一度御挨拶に行くついでに、そういうネタを仕入れてくるのもいいかもしれない。
「……そういえば、今日いるのって二人だけ? 他のメンバーは?」
「えーっと、しぶりんは今インタビュー中で、しまむーは今日学校の登校日みたい」
「李衣菜チャンはPチャンと一緒にお仕事の打ち合わせ中にゃ」
「へぇ……あれ、じゃあ二人は何でここに――あっ」
「……ねえしぶにい何で私達の顔を見て同情するような目をしたの? ねえなんで?」
「……もしかしてみくたち人気無くて仕事無いとか思ってる? ねえ、プロデューサー」
「分かった悪かったからにじり寄ってくるな怖いって!」
ちょっと生暖かい目で見たら凄い顔の二人に詰め寄られた。
キレるってことは図星ってことだよね?(名推理)
でも口に出すと本気で酷い目を見そうなので大人しく謝っておく。
二人はやれやれとでも言いたそうな顔をして、いつの間にか手に持っていたボールペンやシャーペンを机に戻した。
……やだこの子達、怖い。
というかどうしてここのアイドル達は暴力に訴えてくるのが早いんだろう。
暴力系ヒロインでも目指しているのだろうか。
生憎旬じゃないんで。
帰って、どうぞ。
「良いしぶにい!? 私はしぶりんの後にインタビュー、みくにゃんはこの後レッスンがあるからここで待ってるだけだから! 決して私達が不遇とか忘れ去られてるとかそんなんじゃないから!」
「分かってるって……いくらなんでもそこまで思ってないって。それに、今度また二人も参加する仕事あるんだろ? 昨日渡されたスケジュールに乗ってたし」
「ああ、そういえば次の地方ライブ、来週だったっけ。……確か、楓さんと川島さんも来てくれるんにゃよね?」
「そうそう。……もっとも、あの二人に関しては単に、地方の美味い酒と温泉目当てだろうけど」
「何だっていいよー! 二人が来てくれるんだったら、成功間違いなし!」
「……一応、メインはニュージェネとアスタリスクなんだから、頑張って目立ってくれよ?」
そう釘を刺すと、二人は露骨に明後日の方向を向いて口笛を吹き始めた。
……まあ、無理もないか。
まだまだ彼女たちはぺーぺーの新米ユニット。
あの、現状最もトップアイドルに近いと目される高垣楓が相手では分が悪いというもの。
それでも、彼女たちの持っている輝きは本物だし、上手くやれば並び立つことぐらいは出来ると思うのだが。
まあ、それは彼女たちと武内さんがすることであって、もっと新米の俺が偉そうに言える事でもないんだけど。
この仕事にも俺付いて行かないしね。
「えっ、しぶにい、付いてこないのっ!?」
「そりゃまあ、新人だし。まだそんなに大きな仕事に付いて行ける程経験は積んでないからなぁ」
「じゃあ、プロデューサーはみく達がお仕事いってる間、一人で何してるのにゃ?」
「掃除とか雑用とか電話番とか? あと、他のアイドルたちとの挨拶とかもあるかも。ま、一人になるっつったって二日間だけだし。何とかなるだろ」
それに、武内さんから宿題も出てることだし。
そういう細かい仕事もこなしていたら、たぶん二日間なんてあっという間だ。
通勤に関しても、二日くらいなら仮眠室借りて社内に泊まれば済む話。
何の問題もない。
「おはようございまーす! お部屋のお掃除に参りましたー!」
「あっ、菜々さんっ! おっはよー!」
「菜々ちゃん! おはようにゃー!」
そんな話をしていると、突然プロジェクトルームのドアが開いて、見覚えのあるメイドさんが入ってきた。
他でもない、先日カフェで会った、菜々さんだった。
「あれ、菜々さん……? カフェのアルバイトしてるんじゃ……もしかして、掃除バイトも兼任してるんですか?」
「ああ、いえ! 時間が出来たので、いつもお世話になってる場所を掃除しようかな、と! ……あれ? プロデューサーは……?」
「Pチャンなら、今は李衣奈チャンと打ち合わせ中だよ?」
「あちゃー、そうでしたかー……今度の衣装の相談がしたかったんですけど……」
「衣装って……メイド服の?」
「いえいえ、ステージ用の衣装ですって。あれ、言ってませんでしたっけ? 菜々、本職はアイドルなんですよ?」
「……菜々……アイドル……? ……まさか、菜々さんって、安部菜々さんですか!?」
驚愕に目を剥く。
思わず大声が出てしまった。
「あ、あの、菜々のことご存じで?」
「はい! 地下アイドル安部菜々こと、ウサミン星人! いやぁ、まさか実際に会える日が来るとは……!」
「こ、光栄です……? あの、そして何故また手を……?」
「ああ、失礼。……あれ、そう言えば、前会った時高校生って言ってましたけど、確か安部菜々の活動開始って十年前じゃ――」
「わー! わあああああっっっ!!!」
ふと疑問が口を吐いて出そうになったが、慌てた菜々さんが口を塞ぎにきた。
成程。
どうやら謎は解決したようだった。
明日は私用により一話更新となります。申し訳ない。