渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜   作:秋ボーロ

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二十一:新米P、力戦奮闘。(4)

 

 

 

 

「んじゃ、次はいよいよ未央ちゃんの番なのでっ! バイバイしーぶにい☆」

「みくもレッスン行ってくるから! また今度ね、プロデューサー!」

「はいよ、行ってらっしゃい」

 

 ひらひらと手を振って、本田さんと前川さんを仕事に送り出す。

 

 元気よく出掛けていく二人。

 

 後ろ姿からキラキラと輝きが舞って見えるような気がした。

 

 ……いいなあ。

 

 やっぱりこの子たちは才能がある。

 この子達だけじゃない、346にいる子達は全員光り輝くという才能がひしひしと感じられるのだ。

 

 特に若い人たちに。

 

 やはりあれか。若さは力なのだろうか。

 

 いーなー若いっていーなーそれだけで正義だよなー。

 

「ねえ? そう思いません菜々さん?」

「もしかしなくてもそれはナナへの当て付けですねっ!?」

「いやいやそんなまっさかー。ナウくてヤングでピッチピッチでイケイケな菜々さんが若くないなんて、ある訳ないじゃないですかやだなー」

「何気ない言葉選びに悪意しか感じられないんですけど……!」

「大丈夫です! 菜々さんはまだまだ十分に若いですよ! 精神年齢は(ボソッ」

「今何か小声で付け加えましたよね!? よく聞こえなかったけど今ナナをバカにするようなことを言いましたよね!?」

「聴力は年齢と共に衰えますもんねぇ」

「うわああついにはっきりしっかりばっちり声に出したぁっ!」

 

 二人が出ていくまで存在感を消して黙々と掃除をしていた菜々さんを、ここぞとばかりに弄っていく。

 

 案の定、光の速さで菜々さんが輝き始めた。

 

 大声で反応しているからか、肌がどことなく紅潮していて、息も荒くなっている。

 

 やばいめっちゃ涙目でぷるぷるさせたい。

 

 色々な所から刺客を送り込まれそうなのでやらないけど。

 

「うう、何でそんなにナナを弄るんですか……私は何も悪い事してませんよ……」

「うーん、十戒にも嘘を吐いてはならないって書いてありますしねぇ」

「う、嘘じゃないですし! ナナは永遠の十七歳ですし色んな意味で! それに、十戒に書いてあるのは嘘を吐くなじゃなくて偽証するなですし!」

「……随分詳しいんですね?」

「い、いえ、ナナはミッション系スクールに通ってた……通ってるので!」

「菜々さん、思うんですけど、本気で隠し通したいならその墓穴掘るの気を付けた方が良いかと」

「ぐさぁっ!」

 

 菜々さんの精神に9999のダメージ。

 ウボァーと奇妙な断末魔を挙げてウサミンは倒れた。

 

 うーん虚しい戦いだった。

 

 

 というかさっきやらないとか言ってた癖に普通にやっちゃってるんですが。

 

 まあいっか。過ぎたことを気にしても仕方ない。

 

 

 今はただ目の前の可愛さを(苛めて)愛でることに専念しよう。

 

 そう決めてもう一度菜々さんを見ると、彼女はめそめそと落ち込み始めてしまった。

 

「……どうせ菜々は年も食ってますよ……耳も悪いし物覚えも悪いし……お肌も曲がり角迎えちゃってますし……実家からは早く孫の顔が見たいだの生活が心配だの言われますし……ついこの間まで」

「……菜々さん」

 

 しくしくと涙まで流し始めそうな菜々さんを見て、俺は心を揺さぶられた。

 

 あらやだ、かわいい……。

 

 いいわぁ……。

 自分の限界から目が逸らせなくなって涙目になってる電波系アイドル超かわいいわぁ……。

 

 もっと弄ってさらに輝かせたいとも思ったが、これ以上は本当にマズイ。

 

 具体的に言うとウサミンに嫌われてしまう。

 

 それだけは避けたい。

 

 俺は基本的に誰に嫌われようがさして気にしないタイプではあるが、好きな人に嫌われるのは結構辛いものがある。

 

 慌ててフォローに入る。

 

「……菜々さん、大丈夫です。二十七歳なんてまだまだ若い内に分類されますよ。そりゃあ、ちょっと身体にガタはきますし肌荒れもしますしお腹周りが気になってくる時期ではありますけど」

「プロデューサーさん……フォローすると見せかけてさらにいじめてきてませんか……?」

「いや、これは菜々さんじゃなくて自分のことで」

「そんなこと言って……プロデューサーさんまだ学生じゃないですか……」

「えっ、いえ俺もう成人してますけど」

「え」

「というか、菜々さんより年上ですよ多分」

「えっ」

 

 信じられないものを見たような目でまじまじと顔を見られる。

 やめて欲しい。

 

 そんなに見られたら、髭の剃り残しがあるのがバレてしまいそうだ。

 

「……プロデューサーさん、今、いくつです……?」

「……完全数です。そういう菜々さんは?」

「……新約聖書の巻数と同じです。うわぁ……まさか本当にプロデューサーさんが年上だとは……」

「つっても、俺は十年近く引きこもってましたし、実質年齢としてはやっぱり菜々さんたちの方が年上なんですけどね」

「え、そうだったんですか。そりゃまた、どうして?」

「いやぁ、色々ありましてね……」

 

 そう言って遠い目をしてみせると、長い人生ですもの色々ありますよね分かりますの目で頷かれた。

 なんだこの物分かりの良さ。これが年上の余裕という奴なのだろうか。一応俺の方が年上だけど。

 

「ともかく、年齢は気にしなくても大丈夫ですよ。菜々さん、ちゃんと輝いてますし」

「ほ、ホントですかっ!?」

「ええ、間違いないです。それはもう、ピッカピカのキラッキラですよ。今の若い子達と遜色ないレベルで」

「あ、ありがとうございます……な、なんか照れますね。そんな風に真正面から言われるのって久し振りで。えへへっ」

 

 照れ照れと後頭部をぽりぽり掻くウサミン。

 

 やだ、めちゃくちゃかわいい。

 めちゃくちゃにしたいくらいかわいい。

 

 落ち着け俺のしぶにいよ、鎮まるのだ。

 

「……ふふっ、何だか久しぶりに若返った気がします。今なら、メイクしなくても十七歳に見えるかも……」

「現実見てください?」

「わーい知ってましたー!」

 

 一転して死んだ目で笑いだす菜々さん。

 いや、うん、その、ごめん。

 

 掛ける言葉も見つからず、ぽんぽんと肩を叩いていると、ガチャリと扉が開いて誰かが入ってきた。

 

 

「おはようございま……な、何してるんですか……?」

「ああ、ええっと、お疲れ様です。いえね、ちょっと年増系アイドルのメンタルケアを」

「は、はぁ……。えっと、お疲れ様です?」

 

 

 入ってきたのは、蛍光グリーンの事務服を着た女性だった。

 

 見覚えはある……気がするが、どうにも思い出せない。

 多分、アイドルではないだろう。

 

 輝きの素質はあるが、全く磨かれていないし。

 その分、やり手そうなオーラがプンプンしている。

 

 仕事が出来る人間なのだろう。

 羨ましい限りである。

 

 そんな風に俺がジッと見ていると、俺とは初対面なことに気が付いたのか、女性は咳払いを一つしてから自己紹介をしてくれた。

 

「こほん。……改めて、初めまして。千川ちひろです。シンデレラプロジェクトのサポートが主な業務の一つですね。……それで、あなたが渋谷プロデューサー、ですよね?」

「ええ。これからよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いしますね♪ ……じゃあ、早速ですけど、これ。武内プロデューサーからです」

 

 そう言って千川さんは手に持っていた茶封筒を俺に差し出してきた。

 

 受け取ると、手にずっしりとした重みが伝わる。

 

 武内さんからってことは、これが宿題か。

 

 頑張って、あの人の期待に応えないと。

 

 

「それから……これは、私から」

「エナジードリンク……?」

「頑張ってくださいね。それじゃ、私はこれで」

 

 

 それだけ笑顔で言って、ちひろさんは再び部屋を出ていった。

 

 

 早速、缶を開けて一口飲んでみる。

 

 

 それだけで体に力が漲ってくるが、何故だろう。

 

 

 妙に不安になる味だった。

 

 

 

 




力戦奮闘編はまだまだ続きます。
これが終わったら少しだけシリアスになる予定です。
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