渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜 作:秋ボーロ
「さて、と……じゃあ、そろそろ出掛けるか」
「あれ、渋谷さん、何処か行かれるんですか?」
エナジードリンクを飲み干し貰った書類を確認し終えてから時計を見上げるともう夕方近かった。
そろそろ出るかと思って立ち上がると、菜々さんに声を掛けられる。
また心の声が漏れていたようだ。
これでも一応気を付けてはいるつもりなのだが、どうにも上手く行かない。
三つ子の魂百までとも言うし、治すのは無理かもしれないなこれは。
聞かれてしまったのでは仕方がないので、俺は菜々さんに事情を説明することにした。
「実は、明日から武内さんの代わりに、ちょっと仕事の付添いをすることになったんですよ。で、ずっとこの格好のままって訳にもいかないんで、今日中に身だしなみ整えてこいっていうお達しが武内さんから出まして」
「ああ、流石に学生服はまずいですもんねぇ」
「ええ。そんで、ついでに髪やらなんやらも整えてしまおうかなと思って」
「そうですねぇ、それが良いと思いますよー」
「それで、菜々さんに付いて来てもらいたいんですよ」
「あー良いですねーそれが良いと――えちょっと待って下さい今なんて!?」
「お、流石菜々さんフットワーク軽いですねー。じゃ、行きましょうか!」
「ストップ! ストップです行くなんて一言も言ってませんよ私は! っていうかそれどういう意味ですか菜々が学生なのに一日暇してるって言いたいんですか!」
「落ち着け。深読みしすぎて地雷踏み抜きまくってます」
適当に相槌を打ち始めた菜々さんに着いて来て欲しいと言うと、完璧な営業スマイルが一瞬で崩壊してミンミン鳴き始めた。
というかどうしてフットワーク軽いと言っただけで、的確に自分の年齢に結び付けて考えるのだろう。
誰もウサミンさんじゅうななさいの年齢のことなんて言っていないのだが。
「……ハッ! あ、いえいえ、何でもないですよ、ハイ! ……じゃなくて、どうしてナナが付いていくことに!?」
「だって、一人は寂しいじゃないですか」
「子供ですかっ!」
(永遠の)十七歳に子供と言われたんだがこれは喜んでいい事案なのだろうか。
あと菜々さんボロ出し過ぎ。
最早そういうキャラを狙ってるんじゃないかってくらい地雷を爆破しまくっているんですけど。
……まさか本当に狙ってないよね?
「ともかく、ナナは忙しいんですよ。この後もまたカフェに戻らないといけませんし……」
「そうですか……カフェで立て篭もり事件起こせば暇になったりしません?」
「しませんし……起こさないで下さいよ……」
ウサミンの目が加速度的に濁っていく。
ジョークで言ったつもりだったんだが。流石にシャレにならなかったか。
しかし、そうなると本当に一人で用を済ませに行かなければ行けなくなってしまう。
俺の対人恐怖症はまだ治った訳じゃないから、出来る限り誰かと一緒に行動したいんだけどなぁ……。
うーん、誰かいないか、誰か……。
「おはようございますっ! 学校終わったので来ちゃいましたー!」
そんな事を考えていると、島村さんが元気な笑顔と共に入ってきた。
グッドタイミングだ。彼女にお願いするとしよう。
「……凄いですね、凛ちゃんのお兄さん。実はお金持ちだったんですか?」
「んなまさか。経費で落としてくれるっていうから出来るだけ高いの選んでるだけだって」
「あっはい」
そうして数時間後。
洋服選びを手伝って欲しいと頼んでみると、二つ返事でオーケーしてくれた島村さんと俺はスーツ数着を片手に、店を後にしていた。
予想外にいいものが合ってホクホクしている俺とは対照的に、しまむーは引き攣った笑みを浮かべている。
ちょっと傷ついたが何も見ていない振りをして次の店に向かう。
「あれ、スーツを買ったら終わりなんじゃ?」
「いや、まだアウトドア用のを買わないとダメなんだ。俺は武内さんと違ってパシリみたいなもんだから、それなりに機動力もないといけないんでね」
「プロデューサーさん、スーツで普通に山の中に入ったりとかしてましたけど……」
「卯月ちゃん。全てのプロデューサーがああいう感じで人間やめてると思わない方がいい」
「ああやっぱりプロデューサーさんは異端なんですね……」
本当に武内さんのフットワークはどうかしている。
スーツを着たまま火の中水の中草の中森の中と何処へでもずんずん進んでいくのだ。
頭がおかしいとしか思えない。
このままだと海の中だったり雲の中だったりあの子のスカートの中にまで突っ込んでマッポにしょっ引かれてしまうかもしれないのだが。
その時引き取りに来るであろうちひろさんの顔を思い浮かべると、背筋がヒュンってしました。(小並)
そんな他愛のない話をしながらも歩いていると、あっという間に次の店に辿り着いた。
「お、着いた着いた」
「ここって……洋服のしm――凛ちゃんのお兄さん?」
「おおっと何かなそんな怖い笑顔で俺の方を見て……わかった俺が悪かったごめんなさい店を変えよう! そうしよう!」
しまむらさんは看板を見た瞬間、凄まじい殺気を発しつつ満面の笑顔で俺に微笑みかけてきた。
いつもと同じ笑顔のはずなのに、今日の彼女の笑顔にはやると言ったらやる凄味が感じられた。
果たして今日の笑顔を見ても武内さんは彼女の選考理由を笑顔ですと答えられるのだろうか……答えられるだろうなぁあの人なら。
ある種同次元の化け物だし。
一つ言っておくと、店のチョイスに他意はありませんでした。
ただ、平謝りした後、笑顔を消してむくれたしまむーは非常に可愛かったとだけ言っておきます。
さておいて、別の店にゴーだ。
幸いにもこの近辺にはいくつかの格安服飾店が存在している。洋服のしま(略が使えなくても他に当てはあるのだ。
俺と島村さんは近くにあったしま(ryの姉妹店に入り、買い物を終えた。
「さて、これで大体買う物は買ったかな……」
「ひどいですよ凛ちゃんのお兄さん、私が選んだ服全部『普通過ぎてパッとしない』の一言で切り捨てて……」
「いや、だってホントに普通だったんだよ……ああいうのは卯月ちゃんみたいな子が似合うのであって、俺みたいな異端児には似合わないんだって」
「……あの、私みたいな子って、どういうことです?」
普通というか、没個性というか、テンプレというか。
思わず口に出そうになったが危うく口の中で押し留めた。
危ない。今度こそ本当に消されるところだった。
俺は曖昧に微笑んで誤魔化し、次の話題に移って有耶無耶にすることを選ぶ。
「ところで、卯月ちゃん俺のこと凛のお兄さんって呼ぶけどさ。長くない?」
「うーん……私は特に気になりませんけど。凛ちゃんのお兄さんは気になりますか?」
「少しね。普通に義兄さんって呼んでくれていいんだよ?」
「ごめんなさい意味が分からないです……」
「おおぅ辛辣」
島村さんも慣れてきたのか、困った笑顔で針のような言葉を飛ばしてきた。
というかどうして同音なのに的確に聞き分けられるのだろう。
イントネーションの差か。
そうなのか。
「大体、何で私が凛ちゃんと、その、そういうことにならなきゃいけないんですか……」
「え、でも卯月ちゃん、凛のこと好きだろ?」
「そりゃ大好きですけど、でもそれってそういう好きじゃなくてですね……ってちょっと! 無視して行かないで下さい! ちゃんと聞いてくださいよー! お兄さんーっ!」
ようやく理容店に辿りついたので、島村さんの話をぶっちぎって入店する。
後ろから聞こえる『お兄さん』の響きが、何とも甘美だった。
本当にお待たせしました。
誰でしょうね中間期末学年末考査作ったの。滅びればいいのに。
そしてまだ第一期末が終わっただけで次の第二期末が控えているという。
そんな訳なんで、近々また一週間ほどお休みをいただくかもしれません。なるべくストック作れるように努力はしますが、あまり期待しないでください……。