渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜 作:秋ボーロ
「年少のアイドル達をロリと呼称しているだけで、他意は一切ないと……非常に怪しいですけど、今はそれで納得しておきましょう」
「いやあ流石橘さん懐が広い! 大人の女性って感じですね! 素晴らしいですよ!」
「ほ、褒め過ぎです。 私だって自分がそんな大層な人間じゃないことぐらい自覚していますし……いえあの、褒めるのをやめてくれと言っている訳ではなくてですね?」
説得の甲斐あって誤解を解いた橘さんに、俺はあからさまなお世辞を繰り返していた。
さながら小悪党の腰巾着のように。
12歳の女児相手に。
何やってんだ俺。
内申で溜息を吐く。
流石に、小学生相手に媚び媚びするのは自分でもどうかと思っている。
が、仕方がない。全てはロリ系
でもよく考えるとここまで太鼓持ちしてぽんぽこ叩かんでも良かったのかもしれない。
ま、顔真っ赤にして謙遜しつつもっともっと、と褒め言葉をせびって来るありすちゃんぐうかわだし細かいことは気にしないことにする。うーんありすちゃんかわいいよありすちゃん。
「……ところで、えっと、渋谷プロデューサー? って、ひょっとしてあの……」
「そうそう、渋谷凛の兄です、一応ね」
「一応……?」
「ま、大人には色々あるのさ」
そう茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべる。
ふふ、これが大人の余裕スマイルというものなのだよ!
さあ、これを見たありすちゃんは恐らく本当の大人を知ったことで即落ち2コマの如く――。
「……急に変顔なんか始めてどうしたんです?」
「知ってたよ畜生!」
「……大丈夫ですか? この前受けた薬物乱用講習での薬物依存の例とそっくりなのですが」
「おおっとありすちゃん、おもむろに机のエナジードリンクなんか凝視してどうしたのかなー? 大丈夫、これは普通のエナジードリンクだよ! ちょっと成分表示とか書いてないだけの、普通のエナジードリンクだよ!」
「橘です」
ありすちゃんを誤魔化しつつ、そっとエナドリの空き缶を引き出しの中にぶち込んで、証拠隠滅を図る俺。最高にヒールである。悪役と体力回復的に。
「まあまあ、そう固いこと言わないどいてよありすちゃん。ほら、飴玉あるよー? なんでか知らないけど机の引き出し一杯に詰め込まれた飴ちゃんが」
「橘です」
「しっかし何だってこんなに飴玉が……ん、何だこのメモ。『あんずせんようのあめ』……? ありすちゃーん? 申し訳ないんだけどさっきあげた飴ちゃんぺーっしてくれるかなー?」
「嫌です」
ありすさんコロコロと口の中で飴玉を転がしてご満悦のご様子。
うーん心なしか柔らかくなった目元がポイント高い……。飴玉? この顔の犠牲になったのだよ。
全力で飴玉盗難の隠蔽を決意する俺に、口内の菓子を食べ終えたのか、唇をぺろりと舐めたありすちゃんがボソリと呟く。
「……失礼ですが、本当にプロデューサーなのですか? 全くそうは見えないですけど」
「う、ぐさっと来る……まあ、見習い始めて日が浅いから、多少はね?」
「はぁ。ちなみに、それ以前は何を?」
「……引きこもりクソニートしながら外界と関係を断ってひたすらアイドルビデオを見続けアイドルの情報を集め続けるゴミ野郎でした。後悔はしてますが反省はしてません。正直今が充実し過ぎてて何かが切っ掛けでこの日々が壊れるんじゃないかと気が気じゃないです」
「あの……えと……ごめんなさい」
過去の自分を思い出すだけで死にたくなるねFo。
そして12歳児に地雷爆破を謝られるこの惨めさである。ハハッ。
……まあ過ぎてしまったことは仕方のないことだと割り切って前に進むしかないのだ。
問題は割り切ろうとしても時折些細な出来事で過去がフラッシュバックすることなんだけど。
「あーくそ死にてぇ……寧ろ引き篭もりてぇ……一生陽の光が届かない墓場でゆっくり死を待ちてぇ……」
「落ち着いて下さい渋谷さん、そも墓場にいる時点で死んでないですかそれ。じゃなくてですね……あっ、そ、そうだ! プロデューサーさん、仕事ですよ仕事! 仕事に逃げましょう! 何かの文献で辛い時は仕事に逃げるのが真の社畜だって書いてありました!」
「何でそれを俺に勧める気になったのか小一時間問い詰めていい? ……でもまあ、ありがとね。辛気臭いのは終わりにしよう。まだ仕事残ってるしな!」
「そうそう、そうですよ! 頑張って下さい!」
「よーし! お兄さん頑張っちゃるどー!
……ありすちゃん、出来れば『お兄ちゃん頑張って♡』ってエールくれるかな?」
「嫌です。橘です」
「知ってた!」
☆
「……暑い」
「そうですね……」
「今月一番の猛暑らしいよー……」
ロケバスに揺られること数時間。
私達はLIVE会場付近に到着した。
ドライバーさんにお礼を言って車から降りると、途端に日本特有の粘っこい湿気が体に纏わりついてくる。
卯月も未央もうっへりとした表情を隠そうとしない。
今まで冷房の効いた車内にいた分、落差も大きいからだろう。
去っていくロケバスの排気音を聞くと、なんだか少し心細くなった。
「二人共、平気?」
「私は平気だけど、しまむーが辛そうかな?」
「すいません……なんか、酔っちゃったみたいで」
心なしか卯月の顔が青い。
そういえば、車内でも少し疲れていた様子だった。
「じゃ、ちょっと木陰で休んでよっか。そっちの方に広場があるからそこで……」
「そっ、そこまでしなくても、私大丈夫ですよ?」
「いやいやいや、ここで無理して後に響いたら大変だよー? 素直に休んどきなって!」
あからさまに無理をしようとしている卯月を未央が宥める。
未央からの説得もあって、卯月は割とあっさりと休憩を受け入れた。
三人で連れ立って木々の下まで歩く。
歩きながら、私はプロデューサーに連絡を入れることにした。
兄貴じゃなくて、武内さんの方だ。
確か、今は楓さんと瑞樹さんの方に付いているはず。
数コールの後、電話は繋がった。
「もしもし、私。……うん。実は卯月がちょっと車酔いしちゃったみたいで。それで会場前の広場で休んでいくから、会場に入るの少し遅れちゃうんだけど。……そのまま? うん、わかった。了解。ごめんね。それじゃあ」
「……プロデューサー、何だって?」
「余裕を持ってスケジュール組んでるから、イベントには支障ないってさ。それで、楓さんと瑞樹さんも今仕事済んだから、ここでそのまま合流してくれって」
連絡をして指示を仰ぎ、電話を切った。
未央の心配そうな声にあの人の指示をそのまま返すと、二人はほっとした表情を浮かべた。
二人共、無意識の内に緊張していたのだろう。
考えてみれば、地方LIVEなんてこれが初めてだ。
もっと言えば、楓さんみたいな――トップアイドル級の人との合同LIVEも、これが初。
普段の仕事とは比較にならないプレッシャーが掛かるのは、ある種必然だったのかもしれない。
「よしっ、と。じゃ、ここで少し休んでこっかー!」
「それにしても、日も出てないのに、暑いね……」
「日が出てないから逆に、みたいな感じじゃない?」
「卯月もすっかりぐったりしちゃって」
「しまむー! 顔真っ青だよ! 大丈夫!? おーよしよし……」
卯月の背中を擦る未央。
私もバッグから水筒を卯月に手渡す。
少し風が吹き抜けて、ふと私は空を見上げた。
分厚い雲が、空を覆い尽くしている。
しばらくは曇りが続くだろうか。
どんよりとした暗さが、日の光を遮っていた。
なんとなく、不吉な予感がした。
エタったと思った? 残念! まだでした!
ていうか新生活が思っていたより三倍くらい忙しいんですがそれは。
誰だ大学生は暇過ぎて死ぬとか言ったやつは。責任とって下さい。
そんな訳で次回は未定です。うまく行けば明日、行かなきゃ来週、って感じでしょうか。
相変わらずのガバ更新ですが、付いてこれる方だけ付いてこい!
ところで第七回総選挙は是非ともあべななさんじゅうななさいに清き一票をお願いしたく存じます。ええ。はい。なにとぞなにとぞ。