渋兄生。〜しぶりんの兄が好き勝手やりすぎるはなし〜 作:秋ボーロ
突然だが、ニートにも働かなくてはならないときというのはある。
ニートとはそもそも十五歳から三十四歳までの、家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない者のことを指すが、この就業というのは『収入』があってこそ初めて成立するものだ。
つまり、例え働いていたとしても給料が貰えなかった場合、それは労働にカウントされずニートのままということになる。
これの何が問題かって、逆に言えば給料さえ出さなければ息子はニートのままでいられるし私たちは働かせられる。Win-Winじゃないか、なんて考える親が出てくることだ。
もうお分かりだろう。
それは東京で花屋を経営する渋谷夫妻のことだ。
そして、フリーダムオブフリーダムであるはずの俺を、唯一縛り働かせることの出来る人物達でもある。
いや、違うんだ聞いてくれ。別に俺のニート魂がついに俗世の価値観に屈服したとかそういうことじゃない。現に俺のニートスピリッツは今も俺の
そう、俺は過去から未来永劫に至るまで絶対不変の
だが、そんな俺にも弱点があるってことだ。具体的に両親。
いくら俺がクズで引きこもりでニートで働こうとすると体と精神が拒否反応を起こしてしまう本気でどうしようもない屑だとはいえ、受けた恩を返したいという真っ当な感情は持ち合わせているのだ。
それが、非常に大きいものだとすれば、尚更。
で、ヒキニートの俺に小言を言いつつも追い出したりすることなく置いてくれるあの二人には頭が上がらない、と。
そういうことなのだ。
ちなみに、頭が上がらないのがどういうことかと言えば。
「それじゃ、一日店番宜しく頼むぞ」
「お土産楽しみに待っててね〜♪」
「ハハッ……いってらっしゃいませ……」
こういうことである。
三行で今までのあらすじを解説すると、
『夫婦旅行
犠牲になるのは
クソニート
リア充今すぐ爆発すればいいのに』
とこうなる。
要は夫婦で一日お出掛けなのでその間の店番を頼まれただけのことだ。
そう、言葉にすればこれだけ。
健全な社会生活を送っている諸君らには、この俺の魂の痛みが、分からないだろうなぁ。
お前ら俺が何でニートやってるか分かるか。
働きたくないから? ああ、それもそうだがそれだけじゃない。
俺は! 人が、怖いんだよおおおおおっっっ!!!!!
ちなみにアイドルは別腹です。
そして対人恐怖症の俺を見捨ててあの最終鬼畜妹の凛は何処かに逃げやがりました。
どうもクラスの用事っぽいが、多分口実だろう。
何で分かるかって? 俺の
まあ実際に使ったことなんて無いんだけどね。ああそうだよ人がゴミのように怖いよ悪いか。(二度目)
はぁ……そうして退路を塞がれた俺はこうして自らの矜持に背いてでも無賃労働をしているという訳です。まる。
……さて、時間だ。
愚痴るのもこれくらいにして、自らのやるべきことを為そう。
べっ、別に、働くわけじゃないんだからねっ!?
ただ、俺はやるならば完璧にやらなければ気が済まないタイプだ、というだけの話だ。
受けた恩は、きっちり返す。
これも、俺の矜持だから。
よし、じゃあ開店だ。
と、意気込んだはいいものの、実は殆ど仕事は無かったりする。
現在昼の一時。
客はまだ二桁に届いて間もないくらい。
それも、最低限の会話だけで乗り切っている。
考えてもみて欲しい。
この運送業とネットワークが発達した現代社会において、花屋にわざわざ足を運ぶ人がどれぐらい居るだろうか、と。
そりゃあ、花は気持ちを伝えるものだし、自分の目で見て選んで買いたいという人も居るだろう。
だが、そんな人は今の世の中じゃ少数派だ。
現代人はネット。はっきり分かんだね。
そんな理由で、俺の仕事は本当に少ないのだ。
精々、レジに座ってお客さんに営業スマイルを振り撒き、レジ打ちをし、丁寧にラッピングをし、マニュアル通りの定形挨拶を発声する。
これだけ。
これだけですよお兄さん。
いやもちろん本職の人にこんなことをドヤ顔で言ったら舐めてんじゃねぇとぶん殴られるのだが、俺はただのお手伝い。仕入れも値段設定も配達も在庫整理もない。
あるものをただ売るだけ。
殆どコンビニバイトとやってることは変わらないのだ。いや、コンビニでバイトしたこと無いから知らないけど。
で、何が言いたいかってーと。
「暇だ……」
俺氏、ついに暇を持て余し始めましたとさ。
仕方ない俺みたいな根っからのヒキニートに単純作業という、貧困の恐怖に怯える人間にしか出来なさそうな
……どうしよう。
サボっちゃおうかな。
いやだって俺十分役目果たしたしー。店番したしー。接客もレジ打ちも包装も完璧にこなしましたしおすしー。もういいよねおやっさんへの義理は果たしたよね俺頑張ったよねだからもうゴールしちゃってもいいよね? 答えは聞いてない!
という訳でサボります。
そーうと決まればシャッターを下げて閉店ガラガラ×3ドンッドンッ〜、っと♪
「何してんの……」
ぴくり。
聞き覚えのある声が耳に届いた。
気がする。
あれ、おっかしいな、空耳かな。
俺はまだ幻聴が聞こえるほどボケているつもりは無いんだが。
「ねえ、何してんのって、聞いてるんだけど。まだ閉店の時間じゃないよね?」
ああ、駄目だ現実逃避失敗ー……。
ここまで鮮明に怒気を孕んだ底冷えするような声を聞かせられちゃあ、もうすっとぼけることは出来ない。
諦めて後ろを見る。
そこには、エプロンを装備してすっかり(花屋の)戦闘態勢である凛が、腕を組んで仁王立ちしていた。
「ねぇ、まさかとは思うけど……。まさか、まさか営業時間を無視して勝手に店閉めようとしてるんじゃないよねぇ?」
一歩一歩追い詰めるように着実かつ効果的な責めを繰り出し続ける凛。
どうして体装備なのに攻撃力が上がってるんですかねぇ……。
あまりの破壊力に観念した俺は、両手を上げて素直に投降することにした。
「すまん。働きたくなかった」
「素直すぎだよ……そして自由すぎ……」
「仕方ない! だってそれがニートという俺の生き様だから――」
「あ?」
「ゴメンナサイ」
真の英雄は目で殺すとはよく言ったものだ。比喩でなく本当に死にかけた。
比喩じゃない。ココ重要。
「……はぁ、まあ、最初からあんたにマトモな店番が出来るとは思ってなかったけどさ……」
「そうだ、何で凛、ここに居るんだ。用事があったんじゃ……」
「嫌な予感がしたから早めに切り上げて貰ってきたんだよ。そしたら案の定。ほんとに、もう……」
「あー、いや、その……申し訳なかったな」
「……? 今日はやけに殊勝だね。まったく、謝るなら私じゃなくて迷惑を被ってるお客さんにしなよ。……ほら、一人お客さん来てる」
見ると、確かに閉めかけたシャッターの隙間から男性のものと思しきパンツスーツに包まれた足が見えていた。
慌てて俺はシャッターを引き上げる。
「紛らわしくてすいません、まだ閉店してないんで良かったら中へ――」
そこで、凛の言葉が止まった。
何事かと思えば、凛の目は未だに動こうとしない客の姿に吸い付けられている。
随分背が高くて強面の男性だ。
目が細く、どことなく闇を孕んでいるようにも見える。
なんかどこぞのヤーさんのような、そんな凄みを感じた。
そんな姿を見て、凛はただ一言。ポツリと。震える声で。
「プロデュー、サー……?」
思いもよらない言葉を漏らしたのだった。
パッパカ進めて行きたいところです。
あ、日曜は豪華二話更新か一回休みかのどちらかです。
震えて眠れ。