俺は失踪してないぜアピールのためにめちゃくそ短いけど投下じゃ!
次回からまた元の長さになるんじゃないかな……多分
金は命より重いのだ 前編
「よォ兄ちゃん達、黙ってちゃわからないぜ。何か言ってみろよ」
「……」
「なあ。俺ァよ、怒ってるんじゃねえんだ。どう責任をとってくれんのかって聞いてるんだぜ」
「……」
「この桃園の桃は俺達がゴスター王家の方々に毎年納めてる大事な大事な桃なんだ。ジジイがくたばってからは親父、親父がくたばってからは俺が作ってる。作ってきたのは桃だけじゃねえ、世間様とお偉方からの信頼をも作ってきた。俺はそう思ってる。ここの桃はな、ブランド品なんだ」
「……」
「兄ちゃん達が勝手に手を出していいような安い桃じゃないんだぜ。それをてめえ、あっちからこっちまで軒並み全部たいらげちまった。どうすればいいんだ、俺は?」
「……」
「できることはある。幸いこの辺で作ってる桃はおんなじようなタネからできてるし、それを作ってる連中も俺が面倒見てきた奴らだ。味は少し落ちるがそれを分けてもらってそれで今年はお許しいただくしかねえわな。でもよ、タダってワケにゃいかねえよな?仲間とはいえ同業者だ。何が必要か分かるよな?カネだよ、カネ」
「……」
「出しなよ。桃代と慰謝料合わせてひぃふぅみぃ……これだけ出しな」
「……だ」
「あ?何だ?文句があるのか?」
「だから俺は止めとけって言っただろうが!」
「お師さんだって結局たらふく食ってたじゃねえかよォォォ!!」
悲しいことに、ネズミとタマキは盗み食いで糾弾されていた。
半日前。山間のガトーネ村から街へ出ようと山道を下っていた二人は腹を空かせていた。街までの距離が思っていたより長く、手持ちの食料品が底をついていたのである。しばらくはネズミが鼻を効かせて食い物を調達してはいたが、それも山道を出てからは通用しなかった。村を出発して数十日、せっかく辛気臭いネズミに新たな仲間が加わってさあ物語が転がりそうだというのにあわや餓死寸前、もうダメかと思われたところでネズミの鼻が甘い匂いを嗅ぎつけた。師弟揃って半死半生駆け出したところ、たわわな桃をいっぱいにぶら下げた桃園を発見。九死に一生を得たのであった。
「あァ、そういうのは他所でやれ。とにかく今は金を出せ。出せなきゃ身ぐるみ剥いでやる」
登園の主は声色こそ静かだが、そのスキンヘッドをリンゴかなにかみたいに真っ赤にして目を釣り上げている。何故か顔にいくつも刀傷があるあたりどうみてもヤッチャンである。
「金は……無い」
「は?」
ヤッチャンの怒気が一層濃くなり、タマキは思わずネズミの影に隠れた。
「ど、どうしよォォォ……お師さん、お師さん、なんかヘソクリみたいなのないのか!ヤバいって!」
「無いものはない!」
「いやちょっとは考えなよ!この場合正直は美徳じゃないって!」
「斬るか……?」
「人でなしかよ!もっとダメだろ!」
ネズミはタマキに剣術を指南するにあたって『お師さん』と呼ばせていた。最初はタマキも「おしさん、おしさん、なんか変な名前」と首をひねっていたが、それも慣れた。
「兄ちゃん騎士か、なら話は早え。街のギルドに立て替えてもらえ。いや、この場合そうするしかないな」
ヤッチャンは経験があるのか、書類と無線連絡装置の準備をてきぱきと整えだした。
「よかったなてめえら。これでアテがなきゃ俺のツテで内臓売っぱらってたとこだぜ。ハッハッハ!」
笑い話ではなかった。やはりヤッチャンなのだろうか。
ネズミは小さく嘆息した。
「ギルドは……好かん」
「好き嫌いの話じゃないでしょもう……これでしばらくは街のギルドで依頼を受けまくるしかないね。お師さん剣の腕はあるんだし、すぐ返済できるって」
「元はと言えばお前が桃を見つけるなり食いついたのが悪いんだろうが!」
「いやわたしが飛びつかなくたってお師さんがいってたでしょ!『た、助かった……』って言ってたじゃん!」
「それが師匠への口の利き方か!」
「今は関係なくね!?」
「うるせーてめえら!今街ギルドに連絡を付けた!ココの桃代は立て替えてくれるそうだ!その代わり返済し終わるまで街ギルドでカンヅメになって依頼をこなせだとよ!そら、とっとと街に下りるこった!逃げようなんて思うなよ、ギルドは地の果てまで追いかけて返済させるぜ!」
その物言いは、やはり畑の主というよりはヤッチャンのソレであった。