人は去り、また来る   作:スープレックス

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義理のためのたたかい

数日後、タマキは霧の町ギルドのバスソウの自室に呼び出されていた。自室と言ってもあらゆる書類や機械が持ち込まれており、どこから来たんだか分からない職員らしき人もいて、さながら事務所のようになっていた。

 

「まずは知りてえだろうことから話すと、お前さんのお師匠は生きている」

 

バスソウは両手のコーヒーを片っ方タマキに渡し、応接スペースの椅子によっこいせと腰掛けた。

 

「よかった・・・へへ、お師が死んだら町から出られないとこだったぜー」

 

タマキは力なく笑ってみせた。ここ数日ネズミの安否に気を揉んでいたために、若干憔悴している。

 

「で、ここからなんだが、やっこさん治療魔術を受け付けなかったんだ」

 

「・・・ふぅん?」

 

「だからよ、おいらがおいらのやり方で傷口をふさいでやった。糸だの針だのつかってよ」

 

タマキはいまひとつ飲み込めていない様子でうんうんと聞いている。

 

「おいらぁ医者でもなんでもねえ、まあ稼業柄怪我に遭遇することは多いから対処もある程度するんだがね。だからといっちゃなんだが、もう助からない奴もだいたい分かる。こないだのお前さんのお師匠がそうだった。あんな大怪我治療魔術が無きゃ間違いなく死んでる」

 

「ええーー!!」

 

「黙って聞け!声のでけえ奴だな。さっき言ったろ、生きてるって。あの日一晩明けてくたばったかどうかだけ確認しようと思って見に行ったら気味の悪いのなんの。出血は止まってるわ、傷口はふさがりかけてたわ、顔色まで戻っていやがった。意識まではまだ現時点戻っちゃいないが、命に別状は無いだろう」

 

「なあんだ、よかった。ありがとなおっちゃん!」

 

「よかねえんだ!」

 

バスソウは思わず声を荒らげた。体を跳ねさせて驚くタマキに悪い、と手のひらを振ったバスソウはそのまま手を組む。

 

「なあ、お前のお師匠、ありゃ何者だ。出身はどこだ。色々教えてくれよ」

 

その後、タマキは知りうる限りのことを話した。今までの事を話すにあたり、自分の身の上も話さざるを得ず、自分が化猫の妖であることも話したが、バスソウが食いついたのはそこではなかった。

 

「白鹿!」

 

「うん、詳しくは知らないけど、白い鹿と血がどうのって…あれ?こないだの片腕のバケモン男もわたしの血がどうとか言ってたっけ」

 

バスソウは口元を手のひらにうずめ、しばらくあらぬ方向を睨みつけていたが、ふと真剣な面持ちになりタマキに向き合った。

小声である。

 

「そのこと、誰かに話したか。言って回ってるか」

 

「いや、話したのは初めて」

 

「誰にも言うな。いいか、誰にも言うなよ」

 

「何で」

 

「なんでもだ!言えば命に関わると思え」

 

混乱するタマキを置いてきぼりにしながら、バスソウは手帳に書き物をし終わると、今後の話を告げた。すなわち、先日の依頼の件である。

 

「お師匠があんなじゃとても戦力にはならん。悪いが依頼はナシってことにするからな。当然報酬もナシだ」

 

「それなんだけどよ」

 

いつの間にか、タマキの表情が固くなっていた。唇をギュッと結んでいる。

 

 

 

「お師の代わりにわ、わたしが行く」

 

「は?」

 

「お、おっちゃんは知らないかもだけどよ、わたしだって修行してる!少しぐらいは役に立つと、お、思う」

 

緊張でどもりながらタマキはネズミの代わりに自分が依頼を受けることを告げた。バスソウは立ったまま近くのデスクによっかかり、黙って聞いている。

 

「約束は約束だろ。破りたくねえんだよ、なあ。報酬がないんじゃわたし達、この町から出られないんだよ」

 

「…うーん。おいら、分からないんだけどよ。どうしてあの男に肩入れしてんだ?聞いてりゃ別に他人だろ。放っておいていいんじゃないのか」

 

「そりゃそうだけどよう」

 

タマキは手元のカップを弄っている。バスソウが見る限り、本人も感情の整理をしながらといったふうである。

 

「でも、あん時も、前も、わたしのことを助けてくれたんだよ。だから今度はわたしが助ける番なんだと思うんだけどよう」

 

ずっともそもそ喋っている。内心のめんどくささを表情に出さず、しかしバスソウは途中から聞いてもいなかった。

 

「まあどういう理由であれ、連れてはいけないな。世の中弱肉強食だぜ。弱い奴は無力なだけじゃない、足手まといになって他人の足も引っ張るもんだ」

 

「そ、それでもよう!なあ頼むよ!」

 

「まあだろうな。だから、当日までにおいらを倒せたら連れてってやる。おいらより強いってことになるからな」

 

「えっ」

 

「いつでも、どこでも、何回でも相手してやるよ。さもなくば諦めるんだな」

 

話は終わりだ、ホラ帰った帰ったとバスソウは手を振った。本当なら依頼の件を進めなければならず、こんな小娘につきあってられないのだ。

 

「本当にいいの?」

 

「いいよ」

 

「いつでも、どこでも?」

 

「なんなら卑怯な手段だっていいぞー」

 

バスソウは立ったまま、コーヒー片手に手元の資料を読んでいた。タマキはバスソウの自室を後にし、

 

「おっしゃわかった、ありがとう!」

 

ドアを開けた瞬間、振り返りざまに飛び上がりバスソウの顔面へハイキックを繰り出した。

 

 

 

未熟といえ、タマキはネズミに師事しその修行を受けている。ネズミは全ての動作に速度を求めた。なにやら仏頂面でよく分からんことをクドクド言っていたが、

 

「(要は速い奴がつええってことだろ!)」

 

あの師匠は巨体だったが誰よりも足が速かった。剣だってそうだ。そしてその「速いことによる強さ」をタマキは何度も目の当たりにしていたから、修行にだって食らいついていたのだ。

 

渾身の高速蹴りはバスソウの顔面に直撃した。が、バスソウはまばたきひとつせず、痛がる様子もなくしれっとしていた。

 

「まあそうこなくっちゃあn」

 

「電撃!!」

 

蹴りが入った姿勢のまま、タマキは空中で手のひらから電撃を繰り出した。完全な妖怪だったころの名残のひとつである。正確には電気の類いではないのであるが、似たものである以上タマキにはどうでもよいことだった。

 

しかし、電撃がバスソウに当たることはなかった。バスソウはその場から動くことなくタマキに蹴りを入れ、食らったタマキは廊下どころかその先の窓の外へ吹っ飛ばされていたからである。

バスソウは自室の職員へ声をかけた。

 

「窓の修理代、経費ってことでヨロシク」

 

「そこは漢気でポケットマネーでしょう・・・がめついなあ」

 

 

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