過去編3話目。
たぶんもう1話やったら過去編は終わります。
あ、今日投稿した作品、「転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。」もよろしくねー。
と露骨な宣伝をしてみたり。
――???
女妖怪は刀を手に入れた後、日本全国を歩いて回った。
時には都で人間のふりをして封獣ぬえが起こす騒ぎを楽しんだ。
時には蝦夷に行き、神と間違えられて、御神体にしようと追ってくるアイヌ民族から逃げ回った。
時には人を気まぐれに助け、時には逆に人を襲って食い殺した。
そして今は――妖怪の山で鬼相手に戦っていた。
「ああもう!あんたらしつこい!私は今は戦うつもりなんかないんだってば!」
女妖怪は殴り掛かってくる鬼――「星熊勇儀」に対して悪態をつきながら刀で迎撃する。
この女妖怪はせいぜいが中級妖怪程度の実力だが、かつて奪った刀の力によって大妖怪相手に戦える程度の力を手に入れていた。
元が霊格の高い刀だったためか内包する力は妖刀どころか魔剣と呼ばれるほどの武器と化している。
実際、今現在も女妖怪では反応することが出来ないほどの速さで繰り出される勇儀の拳を自動的に迎撃し、更には反撃の斬撃を返しており、拳を受け止め、傷一つついていない。
「つれないこと言うなよ。最近は弱い奴らばかり相手しててね。鬱憤が溜まってたんだ。
そこに最近名を上げてきたあんたが来た。これは戦うしかないじゃないか!」
「知るか!それはあんたたちの都合でしょうが!」
いくら刀が自動的に守ってくれるとはいえ、攻撃の衝撃までは完全に防ぎきれない。
その威力は女妖怪が涙目になって悲鳴を上げるほどに凄まじいものだった。
もしも相手が勇儀一人だったならば女妖怪はさっさと逃げ出していたことだろう。
しかし、ここには勇儀以外の鬼の四天王、鬼子母神に天魔、大天狗にそれ以外の鬼や天狗たちが戦いを見物していた。
鬼だけならば長年の旅で培ってきた逃げ足で何とか逃げ切れただろうが、天狗相手ではあまりにも分が悪すぎた。
しばらくの間、女妖怪と勇儀は互角の戦いを見せていた。
しかし、動かない戦況に痺れをきらした周りの鬼たちがヤジを飛ばし始めた。
「本気でやれー!」
「勇儀ー!そんな妖怪に何手間取ってるんだい!とっとと決着つけなー!」
そんなヤジを受け、勇儀も決める気になったのか、いったん女妖怪から距離をとる。
「周りも我慢できなくなってきてるみたいだし、そろそろ決着をつけようかい?」
そう言った途端、勇儀に凄まじいまでの妖力が集まっていく。明らかに大技を放つ前兆である。
女妖怪はそれを悟って顔を蒼くする。今までの攻撃ですら凌ぐのがやっとというありさまだったのに、大技など受けきれるはずがない。
(無理無理無理無理無理無理無理、あんなの無理いっ!!!!!!!!!!!)
しかし、そんな女妖怪の心中など関係なく奥義は放たれた。
「四天王奥義――三歩必殺!!!!!」
一歩目――踏み出した足が地面をめくり上げ、土ぼこりが辺りを覆う。
二歩目――足が地面に着いた衝撃で地面が割れ、衝撃波が発生し、女妖怪を襲う。しかし、刀がそれを自動的に迎撃し、斬り裂く。
三歩目――この間にたまった全てのエネルギーが勇儀の右腕に集中し、それが女妖怪に向けて放たれた。
この攻撃も刀が迎撃するが、「語られる怪力乱神」と称される勇儀の奥義をまともに正面から受けて女妖怪が耐えきれるはずもなく、彼女はいともたやすく吹き飛ばされ、1キロほど先の大木に勢いよく衝突した。
それを見て鬼たちは爆笑し、よくやったと勇儀をたたえ、天狗たちは同情的な視線を吹き飛ばされた女妖怪に向けたのだった。
しばらくして気が付いた女妖怪――天狗たちが吹き飛ばされた女妖怪を見に行くと、あられもない姿で目を回して気を失っていた――を巻き込んで大宴会が開かれた。
鬼というのは何かしら理由をつけて酒を飲みたがる種族なのだ。
鬼が阿呆みたいに酒に強いことを知っている女妖怪は鬼に無理矢理飲まされそうになりつつも自分のペースでちびちびと飲んでいた。
すると、彼女の隣にある人物が座った。
「今日は随分災難だったわね、あなた」
その人物は桃色の髪に二本の角、そして右腕全体を包帯で巻いている。
鬼の四天王の一人であり、鬼の中では比較的常識人に分類される「茨木華扇」だ。
「災難なんてもんじゃないわよ、もう…」
女妖怪は愚痴りつつ、酒を煽る。
華扇はそれを見て苦笑し、まあまあ、となだめる。
それを見た周囲の鬼たちやすでに酔いが回っている天狗などが彼女たちの周りに集まってくる。
椛はその光景を少し離れたところで眺めていた。
よく見てみると、まだ若干幼い文がいたり、勇儀や鬼子母神と飲み比べをしている伊吹萃香の姿が見えたりする。
椛にはこのような光景は見覚えがないのできっと自分が生まれる前の出来事なのだろう、と考える。
そんなやたらと騒がしい宴会の中、今は鞘に入っている刀はただ静かに、なにも発せず、なにも語らず、ただ主人の腰に存在していた――