――幻想郷 博麗神社
「暇ね~、何か面白いことでも起きないかしら…って、これじゃ文に文句言えないわね」
霊夢は暇を持て余していた。いくら普通の常識が通用しない幻想郷とはいえ、毎日常識外なことが起きているわけではない。
だからやることがなくなれば暇になるのも当然といえた。
そんな霊夢のそばに人影が降り立った。
「霊夢!事件だぜ、もしかしたら異変になるかもしれない大事件だ!」
「何よ、魔理沙。あんたはいつもそうやって騒ぐけどたいしたことなかったことの方がほとんど――」
「風見幽香が誰かに倒されて瀕死の重傷だ!」
「――何ですって?」
霊夢は友人である「霧雨魔理沙」の言葉を聞いてまず耳を疑い、言葉を頭の中で反芻して自分が聞き間違っていないかを確認した。
風見幽香がやられる、しかも重傷を負っているということは、弾幕ごっこでの敗北ではなく、純粋な殺し合いでの敗北だろう。
だがそれはまずありえない。なぜなら風見幽香は幻想郷内でも屈指の実力者であり、殺し合いで彼女に勝てる者は両手の指の数で足りるほどに少ない。
そして、それらの実力者たちは基本的に戦いを好まない。
何故なら、彼女たちは今の状態に満足しており、無駄な諍いを起こしてまで現状を壊す必要がないからだ。
しかも、下手に動いて幻想郷の管理者である八雲紫の怒りをかえば、存在ごと消されるのは目に見えている。
故に霊夢は信じられなかった。現状を壊してまで風見幽香を打倒したその存在が。
「魔理沙、その話は本当?」
「ああ、もちろんだ。さっき文の奴が大スクープだって大騒ぎしてたからな」
文の情報ならば信憑性は半々だ、と霊夢は考える。
彼女の書く「文々。新聞」は嘘は書かれていないが、誇張されていることが多く、真実がほとんど見えなくなっているからだ。
「それに、その話を聞いて私も太陽の畑に行ってみたら、畑に大きな血だまりがあったし、永遠亭の兎が重傷の幽香を運んでるところだったからな」
「なら間違いないわね。でも誰が何のためにそんなことを?」
「それに関しては私が答えますわ」
どこからか声が聞こえてきたかと思うと、空中にぱかりとスキマが開く。
その中はいくつもの目があらぬ方向を向いており、様々な標識が乱雑に乱立している。
妖怪の賢者、隙間妖怪、幻想郷の管理者――彼女を指す呼び名はいくつもあり、
かつ、幽香を打倒できる数少ない実力者「八雲紫」は胡散臭い雰囲気を出しながら二人の前に現れた。
「…紫。あんた、今回のこと何か知ってるの?」
霊夢は面倒くさいやつが来た、と思いながらも紫に問いかける。
紫は胡散臭い表情はそのままに霊夢の問いかけに答える。
「ええ、今回、風見幽香を倒したのは、妖怪の山の白狼天狗、「犬走椛」ですわ」
「「ありえない(わ/ぜ)」」
霊夢と魔理沙は即答した。彼女たちは椛と幽香、両者と弾幕ごっこで戦ったことがある。故に分かる、椛では幽香は倒せない、と。
「紫、あんたふざけてるの?あいつが幽香に勝てるわけないでしょう」
「そうだぜ。冗談にしてもずいぶんとつまらない」
二人の非難を紫はやんわりと受け止め、言葉を続ける。
「厳密に言えば、犬走椛に憑りついた存在が、ですわ。霊夢、あなた、物置に封印されていた刀を烏天狗に渡したでしょう」
「ええ、確かに封印されていた刀を文に渡したけど…、でも、あれからは悪い気配は感じなかったわよ?危険な刀だったら私は触ろうともしないでしょうし」
それを聞いて紫はハァ、とため息をつく。
「そうでしょうね、あなたが気が付かないのも無理はないわ。あの刀はかなり危険な妖刀なのだけれど、そこらの妖刀とは少し毛色が違うのよ」
「どういうことだよ?」
焦らすような話し方に痺れをきらした魔理沙が紫を急かす。
「簡単に言えば、自意識を持った妖刀だってことよ。しかも、その意思が持っているのは人を殺すだとか、戦うことだとか負の意思じゃないの。それらはあくまで手段であって目的じゃない。その意思が望んでいるのは「主人から自分が必要とされること」なのよ。だから霊夢は嫌な感じがしなかったんでしょう。
その意思は子供のように純粋で、だからこそ残酷よ。武器としての本能とその純粋さが合わさってあの刀の意思は作られた。そして、犬走椛はその意思に体を乗っ取られた」
「なんでそんな物騒な刀が物置なんかに封印されてたのよ?」
霊夢が紫の説明を聞いて、浮かんだ疑問をぶつける。
すると、紫は懐かしむような表情になった。
「そうね、それを話すには先代の巫女のことについて話す必要があるわ…」
そして、紫は昔のことを語り始めた。