紗枝を宥めつつ、レッスン室に行くと、二人の少女達が、談笑しながら待っていた。
「すみません、屋上が暖かくて時間が過ぎていました」
六瓢の気の抜けるような説明に、小日向美穂はくすくす笑ってしまった。
「六瓢さん、また日向ぼっこしたてんですか?」
「えぇ。346プロの屋上はのんびりするのに最適ですからね」
「それで遅刻してたら、元も子もありまへん」
まだ少しご機嫌ナナメな紗枝。そんな紗枝に、白坂小梅も美穂と同じようにくすくすと笑った。
「ふふ……紗枝ちゃんも、可愛い、ね」
「こ、小梅はん!? な、何を言うてはるんです!?」
「だって、大好きなおに、むぐ」
「こーうーめーはーん!! それ以上はあきません!!」
女三人集まればとはよく言うが、三人できゃいきゃいはしゃいでいた。
そんな三人を微笑ましそうに眺めていた六瓢だったが、パンパンと手を叩く。
「さ、楽しい会話もいいけど、時間は有限だよ。初めはこの間の基本の復習から。そしたら足裁きを中心にやっていこうか」
「はい!」
「はい……」
「はぁい」
まだ年若い少女とは言えど、三人ともプロのアイドル。気持ちを切り替えると、音楽とともに六瓢から教わった踊りを始める。六瓢も各々の動きを具に見つめ、細かい点を指摘する。
基礎を中心に濃密なレッスンを終えた頃には、三人は大粒の汗を掻いていた。
「うん。三人ともお疲れ様。まだまだの所はあるけど、ちゃんと成長しているね。トレーナーとして嬉しい限りだ」
一番近くにいた小梅の頭をぽんぽん叩きながら、嬉しそうに笑う六瓢。
「えへへ……六瓢さんの、お陰、だよ?」
「そう言ってくれるみんなのお陰だよ。さて、すまないが私は用事があるからこれで失礼するね。紗枝ちゃん、また夜にね」
別れの挨拶といわんばかりに紗枝の頭をぽんぽんぽんと頭を撫でると、六瓢はレッスンルームから出ていった。
残された紗枝は悔しそうにぐぬぬと頭を押さえていた。対して小梅と美穂は楽しそうに笑っていた。
「六瓢さんの手、ポカポカだった、よ?」
「いいなー、私はあんまり頭撫でてもらえないから羨ましいよ。ね?」
そんな二人に見つめられ、紗枝は後ずさる。
「な、なんどす?」
「紗枝ちゃん、今日、外泊届け、出してたよね?」
「もしかして、六瓢さんとデートなのかなー?」
「で、ででで、でぇとちゃいます!! た、ただお兄はんがくじ引きでレストランのペアチケット当てた言うから着いてくだけどす! 外泊届けだって、そのお店が遠くて帰りが遅くなってまうからであって、何も色気なんてあらしまへん!」
「(それ、って……)」
「(デートだよねぇ……)」
顔を真っ赤にして一生懸命に否定する紗枝だったが、それは墓穴を掘っているだけである。
「第一、お兄はんはお兄はんどす。色恋沙汰とかあらしまへん。お兄はんはお師匠はんやし」
「うーん……これは……」
「重症、かな?」
端から見ている分には、年齢の割に落ち着いた紗枝の可愛らしい所が見れて楽しいのだが、ここまで頑なな態度を見ると、前途多難だなぁと思うのであった。
「そう言えば、六瓢さんの予定って何なのかな? やっぱりレッスンについて?」
場の空気を変えようと、話題を変えた美穂だったが、紗枝はぷくーっと頬を膨らませた。
「お兄はんは、茄子はんと芳乃はんと聖はんとで・ぇ・と、どす……」
紗枝の様子に、やっべ、と思った美穂だったが後の祭り。
「そ、それは凄まじいメンバーだね。宝くじ買ったら凄いことになりそう」
幸運値が限界突破していそうな三人組に加え、六瓢自身もその三人と同様である。
「そやろなー。お兄はん、運はとてつもなくええから、いつも可愛い女の子と一緒やもん。羨ましいどすー」
いくら話をすり替えようとしても、効果かない紗枝。そんな紗枝に美穂は。
「そうだねっ☆」
諦めたのであった。