鹿屋デイズ・鹿屋ライフ   作:ミギー・ドン

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 イベント終わりました
 サラトガっぱいも無事入手して満足です


サムソンティーチャーむかしばなし・後編

  「重金属粒子濃度は中程度と言ったところね。『しまばら』の生き残りがいるとすれば、無線が使えずさぞ絶望しているんじゃないかしら」

 「かッ、女々しい男は好かんのー! オールでも信号弾でも使って、最後まで戦うような輩はおらんのか!」

 「Oh…明治の頃とはもう違いますよ、三笠お姉さま」

 「なんじゃなんじゃ、儂を年寄り扱いか金剛! 『三笠』は1900年進水、『金剛』は1912年進水じゃ! 一回りしか違っとらんわ! 見よこのぴっちぴちの玉の肌を!」

 

 『Execution』(執行)と刻印された軍刀を振り回しながら、三笠が騒ぐ。

 艤装に宿った魂…即ちその艦が経た年数と、それを纏い戦う適合者の年齢は、当然ながら異なっている。敷島や三笠に至っては一世紀以上も前の艦であるから、いかに勤勉な適合者であっても、詳細な記録までは把握しきれるものではない。

 しかし適合者はあたかも、その『艦』そのものになりきった言動をし、また当時の知識を披露したりすることが確認されている。

 いずれ説明させて頂くが、これは『記憶の融合』と呼ばれ、艤装を纏うことになった適合者全てに起こる、副作用のようなものである。

 

 「お喋りはそこまでになさい三笠。奴等を目視で確認したわ」

 

 先頭を進む敷島が、声のトーンを一段落としてそう告げる。

 網膜に投影された映像に、かのバケモノ達が、救命艇の群れを前にして舌なめずりをするのを、敷島は確かに捉えていた。

 

 「敵性体『イ』が三…、あとは見たことのない新型が一と二…ね。二隻の方はヒトのカタチをしているわ…驚いたわね…それと、救命ボートも三隻ほど見えるわ」

 「ヒトガタじゃと…ふむ、了解した。しかし敷島姉(あね)よ、それについては後ほどということでな。それよりも、じゃ。こちらの射程まであと…三十秒といったところか。金剛よ、汝は最大船速で飛ばして、『しまばら』の連中を曳航、安全な場所まで退避させよ。儂らが牽制をするでな」

 「Yes,Ma'am!」

 「牽制と言わずアンブッシュでもいいわよ三笠、数を減らせれば」

 「それもそうよな…よし金剛、行け」

 

 その言葉を皮切りに、金剛が速度を上げ、単縦陣から離れていく。トップスピードを出しているであろう敷島、三笠よりもずっと早い船足は、正に次世代のスペックと言えるだろう。

 それを確認すると敷島、三笠は若干速度を落とし、己の側面を見せる体勢になって艤装を稼働させた。

 そして黒い鋼の砲門が、月の光を受けて鈍く輝いた。

 

 

 

 

 こちらに向かってくるものは、数える限り六体。うち二体は人間とほぼ同じ大きさと形で、右手に巨大な鉄の塊を装着している。先ほど、漁船と誤認したのはその双眸に浮かぶ赤い光であった。

 残りの三体は、あえて例えるならばイルカ、あるいはクジラのような、海棲生物のように思える。グロテスクな口腔と不揃いな歯をガチガチと開閉させ進んでくるその様は、意思の疎通など絶対に不可能と思わせる説得力があった。残る一体もどこか人間のようにも見えるが、やはり意思のようなものは感じられない。  

 それを確認した寒村は、自分がとうの昔に死んでいて、ここはいわゆる地獄なのではないか、と思い始めた。

 先ほど、海士数名をボートごと消し飛ばしたのを見るに、あの海の上を進んでくる異形の者どもは、おそらく一撃でこちらを殺せる武器、武装をもっているのだろう。

 何のことはない。悪魔や妖怪、そんな類のものだ。人間同士の戦争などでは決してない。 

 そう考え、合点がいったとばかりに寒村はポケットから煙草とライターを取り出し、蓋を開けた。

 

 「白土、斎藤、荒木、山口。僕たちは腐っても日本海軍の軍人だ…せめて、見苦しくないように死んでいこうじゃないか」

 

 自分たちがもう助からないな、という思いは、そこにいる全ての人間が共有しているようで、寒村のその言葉に異を唱えたり、泣き叫んだりする者はいなかった。

 白土は煙草を一本受け取っては銜え、差し出されたライターで火を点ける。他の者は吸わないということで、手持ち無沙汰になった寒村は、もう一本煙草を取り出すと、慣れない手つきでそれを口に運ぶ。

 

 「生まれて初めて吸うんだ」

 「そうなんですか。副長、今お幾つで?」

 「29だよ。来月で30だ」

 「ハハハッ、真面目だったんですねえ。俺ァ高校の時、兄貴のを隠れて吸ってたらお袋にぶっ叩かれましたよ」

 

 震える手で火をつけ、口元に持っていくが火は着かない。煙草というものは息を吸いながらでないと着火しないので、生まれて初めて吸うという寒村が、こんな状況で一服する、という最後の願いはなかなか叶わない。

 

 「息を吸いながら火をもってくんですよ」

 「そうなのか…ああ、本当だ。ついた。生まれて初めての煙草が人生最後の煙草になるなんて、結構オツなもんじゃないげぇっほげほ!」

 「わはははは! あるある!」

 

 盛り上がる寒村達に向け、人型のバケモノは右腕を向ける。それは殺意という砲弾が込められた砲塔であり、そしてバケモノは、悪意という引き金に指をかけた。

 

 「ありがとう。君たちと仕事ができて、よかった」

 「あの世で会えたら、思う存分酒でもやりましょうや」

 「階級なんて無視の無礼講ですなァ」

 「まぁ俺、下戸なんですけどね!」

 「わはははは!」

 

 が、しかし。

 一秒経っても、十秒経っても…寒村達の体は霧散しないでいた。

 

 「なんだ、やるならひと思いにやりやがれ!」

 「そうだそうだ、今更びびってんじゃねーぞ!」

 

 だが、明らかに様子がおかしい。

 バケモノどもは罵声を飛ばす寒村達など、まるでどうでもいいと言わんばかりに、左舷方向に目を向けていた。

 何かを警戒しているのか、動きすら止めている。

 

 「…なんだ…?」

 

 そして次の瞬間。

 人型のバケモノ共の後方に位置していた、海棲生物の如きバケモノが、大爆発を起こして木っ端みじんに吹き飛んだ。

 

 「う……っ!?」

 

 凄まじい衝撃と轟音に、ボートは木の葉の如く揺り動かされ、波をかぶる。

 転覆だけは免れたが、事態を理解出来ているものはそこにはいなかった。

 否、バケモノ達だけは違う。加えられた攻撃に対し、怒りをむき出しにした人型が、さっと手を上げる。

 生き残った海棲生物型が二匹、そして残りの人型がボートから離れ、左舷方向に突撃していくのを、寒村は茫然と見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 「命中。『イ』の数が2になったわ」

 「さすがは敷島姉じゃ、見事な手際よ」

 「あなたもね、三笠。さぁ、踊るわよ!」

 「応よ!」

 

 その言葉を合図とし、敷島は三笠の前に出て、『Sanction』(制裁)と刻印された三十年式歩兵銃を高らかに掲げ、そして発砲する。

 射出された弾丸は中空でぱあっ、と弾け、凄まじい光量を以て周囲を照らし出した。

 

 「儂が前に出るゆえ、敷島姉は後方から援護を頼む」

 「了解したわ。ただ無理はせぬよう」

 「是非もなし!」

 

 そう言い放った三笠は軍刀の峰を噛んで銜えたのち、足元の海面を爆発させ、急加速。背負った艤装が変形し、それまで前方に向いて固定されていた主砲がサブアームと連動して展開し、広い射角を獲得していく。

 そして更に、三笠は体勢を前傾させ、ほぼ四つん這いと言ってもいい、まるで獣のような姿勢で疾走し始めた。 

 

 「───!」

 

 三笠の双眸に宿り、接近してくる、まるで鬼火のような燐光を『敵』と認識し、回避運動と迎撃行動を開始したヒトガタ二体の水平砲撃が、彼女の頭上を掠めて彼方へと消えていく。

 そこで三笠はチラリと斜め後方を見て、敷島の支援砲撃の発火炎を確認すると、四つ足のまま大きく舵を切ってヒトガタの側面へと回り込んだ。

 そこに敷島の砲撃が着弾。後続の『イ』と呼ばれた海棲生物型は分断され、吹き上がった水柱に翻弄されていく。

 

 「!?」

 

 そこに、三笠の艤装の背面から射出された銀色のチェーン・アンカーが、『イ』の胴体に突き刺さって食い込んだ。そして三笠は他の敵性体に注意を向けつつ、アンカーを巻き戻していく。

 『イ』は食い込んだアンカーを外そうと必死にもがくが、戦艦のパワーに引きずられては、その抵抗も空しい。そのまま三笠は主砲を真後ろに向け、水平射で『イ』を粉々に打ち砕いた。

 更に三笠はその反動を利用して、悪あがきと言わんばかりに副砲らしきものをばら撒くヒトガタの間合いに一瞬で飛び込む。

 

 「──ァ」

 

 人間でいう処の腎臓の位置から突き入った軍刀の先端が、ヒトガタの体を貫通して、喉のあたりから突き出る。

 ビクビクと体を痙攣させつつも離脱を試みるヒトガタであったが、容赦なく捩じりを加えられれば、もはや助かる術はなかった。

 

 「貴様らの最期を訃る刀じゃ、せいぜい味わって死ね」

 

 そうは言うが、かなりの速度で踏み込まれたため、ヒトガタは恐らく最後まで、自分がどう死んだか認識していなかっただろう。

 軍刀を引き抜いた三笠はそのまま主砲を接射して、その場から離脱した。 

 

  

 

 「Illuminating flare(照明弾)! これで仕事がしやすくなった…!」

 

 両名の砲撃で開かれた戦端。金剛もそこに混ざって戦いたいという思いはあった。

 しかし遭難者を巻き込むわけにはいかない。これもまた戦いであると、彼女はすぐに頭を切り替え、全速でボートへと近づく。

 

 「Are you okay!? Don't Worry! 私は日本海軍横須賀基地所属、RiggingDriver..いえ、『艤装適合者』金剛です!」

 

 

 ◇

 

 

 「司令、現役の敷島お姉さまと三笠お姉さまともお会いしたんですか!?」

 

 辛抱たまらぬといった表情で、比叡がサムソンに詰め寄った。

 敷島、三笠は金剛の姉にあたるため、その金剛の妹分を自称する比叡にとっては、正に雲の上の人であると言えるだろう。

 サムソンは食いつかんばかりの比叡をなだめつつ、ゆっくりと頷いた。

 

 「ああ。と言っても、その時は戦ってるところをかなり遠くから見たくらいで、正体については戦闘詳報と空撮映像。それに引退した後の二人と会って知ったんだけどね」

 「日露戦争の頃の艦よね、その二人って」

 「うん。二人が艦娘になった経緯や、何故戦っていたか…ということは機密扱いで今でも知らないし、話す内容はあくまで僕の推測、私見が含まれているから…そこはあまり、真に受けすぎないよう注意してくれ」

 

 比叡は興奮冷めやらぬといった風情でうろうろと歩き回っていたが、やがて叢雲に注意されて再び着席した。

 だがその顔は、さっさと続きを話せと言っているようでもある。

 

 「何度も言うけど、この件の大半は機密扱いでね。公開されているのはごく僅かな部分でしかない…だからあの二人がどうやって奴らを撃退したとかそういう部分は、詳報と、あとは推測だ。しつこいようだけど」

 「はい」

 「で、だ。二人が戦っている間、僕は君のお姉さん…そう、金剛に曳航されて、安全な場所にまで退避することができた」

 

 

 ◇

 

 

 「き、君は…!?」

 

 その少女は和洋折衷の装束、巫女や神職といった風情のそれに身を包み、巨大な鉄の塊…ともすれば戦艦の主砲や舳先、マストなどを模しているようにも思える『装備』を背負っている。

 そんな少女が、英語混じりの日本語でそう尋ねてくれば、ここは果たして地獄なのか、と寒村は首を傾げた。

 地獄の鬼にしては可愛らしすぎるし、責め苦を与えてくるでもない。それに先ほどから聴こえる砲撃音も気になるところだ。

 では、一体何者だろうか、と。そんな疑問が声になって紡がれ、それを受けた少女は海風にロングヘアをはためかせて叫んだ。

 

 「詳しいことはお話出来ません! 出来ませんが! あなた達を安全な場所まで退避させます!」

 「さっきの爆発も君がやったのか!?」

 「いやちょっと待て、金剛…? こんごうと言ったのか!? 護衛艦の!?」

 「かわいいな君ィ! ここってひょっとして天国的なアレか!?」

 

 言葉の洪水をワッと浴びせられた金剛は目を白黒させ、他のボートと寒村達を見比べていたが、やがて埒があかぬと踏んだのか、身に纏う『装備』からワイヤーアンカーを引き出しては、それを全てのボートへと接続していく。

 

 「曳航する気か、無茶だ! 三隻で16名の人員だぞ!」

 「No problem! 戦艦のPowerなら容易いことです!」

 「せん…かん…?」

 

 ごうん、と低い音が轟いたかと思えば、金剛とともに、ボートがかなりの速度で急発進する。

 たまらず転げる寒村達であったが、ボートの縁に掴まっては何とか体勢を立て直した。先頭を行く金剛は振り返りもせずにスピードを上げていくので、海士たちは文句の一つも言えずにただ状況に身を任せる。

 

 「硫黄島だ!」

 

 やがて海の中に浮かぶ硫黄島の灯りが見えれば、否が応でも気勢があがる。ここは地獄などではなく、いまだ此岸であると、そう実感できることは、生きているということに他ならないからだ。

 金剛は速度を落とし、慣性に乗ったボートを先行させると、ワイヤーアンカーを外してはその『装備』へと収納させた。

 

 「ここまで来れば、おそらく安全です! 硫黄島には連絡が行っている筈なので、救助を待って下さい!」

 「待ってくれ、通信障害が出ていないか!?」

 「ここまで離れていれば影響はないはずです。では、私はこれで!」

 「あ、ちょ…待って…君は! 君は、なんだ!?」

 

 寒村は聞かずにはいられなかった。人の身でありながら巨大な鉄塊を背負い、海の上に立ち、進み、多くの人員を助けた、そのものの正体を、知らずにはいられなかった。

 

 「Sorry 私が開示することを許されているのは、所属と名前のみです。ですので先ほどお伝えした通り、横須賀の金剛、とだけ覚え置きくだされば結構です」

 「金剛ってのは戦艦か、護衛艦の名前だ!」

 「その通りです。これ以上はお答えすることはできません…それでは失礼いたします」

 

 有無を言わさず、金剛は波しぶきを立て、今きた海の上を戻っていく。

 取り残された一行は、ただそれを見送ることしか出来なかった。

 

 

 ◇

 

 

 「その後僕たちは硫黄島に辿り着いて、何とか事なきを得た。だが死んだ人間も沢山いたし、生き残った面々も殆どが軍を辞めてしまったんだ」 

 

 話し始めて2時間は経ったろうか。

 ライターの話からだいぶ膨らんだスケールの大きさに、若干の戸惑いを覚えつつも、艦娘たちはふうっ、とため息をつく。

 

 「そ、それでお姉さま達はどうなったんですか!?」

 「どうもこうも…深海棲艦たちを倒して、そのまま帰ったんじゃないか」

 「それはわかりますよう! サインとか貰わなかったんですか!」

 

 不完全燃焼といった感じの比叡に詰め寄られ、サムソンは困り顔を見せる。

 現在敷島と三笠の両名は、完全に引退して、軍で別の仕事に就いているため、その現役時代を知るのは恐らく金剛とサムソンだけなのだ。

 

 「無茶言わんでくれ。…比叡は引退した二人には会ったことがあるんだっけ」

 「いえ…ですが去年の大規模作戦の時、金剛お姉さまに会った際に色々お聞きました」

 「そうか…だが比叡、君は少なくとも、三笠さんとは一度会っているはずなんだ」

 「え…?」

 

 茶を飲みすぎたせいか、サムソンが一度席を外してトイレへと消える。

 残った叢雲、比叡、雲龍は何を語るでもなく、ただお互いの顔を見つめるばかりだ。

 

 「平々凡々だと思ってたサムソン先生に、そんな過去があったなんてね」

 「そう、ね。人に歴史ありってことね」

 「いいなァ、その戦闘詳報って今でも見れるのかなア」

 

 そしてトイレから戻ってきたサムソンは、語り疲れたと言ってベッドに横たわる。忘れていたが、彼は風邪っぴきの病人なのだ。

 

 「司令のこと、少しでも知れてよかったわ。ライターの件は本当、ごめんなさい」

 「いいんだ。この事は君たちの間で留めておいてくれると助かるよ」

 「それは、そうですけど。まだ聞きたいことが…」

 

 言いかけた比叡を雲龍が止める。そして雲龍はキャビネットにあったタブレットを指さして、口を開いた。

 

 「お風呂にアレ、忘れていったでしょう?」

 「あ、ああ。君たちが使ってなかったからつい、ね」

 「その時、ちょっとだけ画面を見ちゃったの。あの写真、『しまばら』の人たちなんでしょう?」

 「うん」 

 

 そこで話はおしまいになった。

 サムソンは風邪薬を飲み、再び眠ることになる。

 

 三人が司令室から出る頃にはもう、日は傾いていて、夕暮れの気配が迫っていた。

 

 「しかし、私が三笠お姉さまに会っているだなんて、何であんなことを」

 「さぁ? 艦娘になる前にでも会っているんじゃないの、政府のお役人が訪ねてくるでしょ、適合者のところに…」

 「あ…まさか…!?」

 

 しかし比叡はそれ以上何も言わず、三人はそこで各々の仕事へと戻っていく。

 そして鹿屋基地に、いつもの日常が戻る。 




 アルペ新刊にレパルスが出てきて大変うれしかったです。
 霧の中じゃレパルスが一番好きなので…

 鹿屋デイズは次回から平常営業に戻る…戻るはず…

 三笠と敷島については捏造艦娘ですがお許し下さい。
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