鹿屋デイズ・鹿屋ライフ   作:ミギー・ドン

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 艦娘武装化現象(カンムス・アームド・フェノメノン)だッ!

 そんな展開はございません。


師走の来訪者

 

  暮れも迫りつつある十二月。鹿屋では比較的暖かい日が続いていた。

 風邪をひいて寝込んだサムソンも、何とか週末にまでは回復し、鹿屋基地はいつも通りの日常を送っている。

 そして、明日は日曜日であった。

 

 「提督ゥ! 明日ショッピングモールに行きたいんだよぅ」

 「ショッピングモールのモールって何? 生き物?」

 

 元気よくそう申請してきたのは、朝霜と清霜の通称アサキヨコンビであった。

 シャングリラがどうこうという作戦もあるにはあったが、距離から何から離れている鹿屋基地の面々が招集されることはなく、横須賀の部隊があっさりと片をつけたと報告があった。

 何でもMS諸島B環礁における作戦であったらしいが、艦であった時、かのクロスロード作戦に関わった艦娘は鹿屋にはいない。

 不測の事態に対し備えておくべし、という通達も来てはいたが、それでも基本的には蚊帳の外であった。

 そしてこの作戦において多くの艤装が顕現し、横須賀はその大所帯っぷりに拍車がかかったという。いずれ養い切れなくなった艦娘たちが全国に散らばることになるであろうが、それはまた別の話である。

 

 「モールってのはベンチとか並木のあったりする遊歩道のことだよ。で、買い物かい? そりゃ構わないけど、何か言いたそうだね朝霜くん」

 「おう! 荷物が多くなりそうだからさ、車出して欲しいなって」

 「あたし達クリスマスの飾りつけ担当なんだ!」

 

 そう。世界平和、人類守護の砦たる基地、鎮守府にも、季節は平等にやってくる。十二月と言えばまず思い浮かぶのがクリスマスであり、例に漏れず鹿屋でもそれなりに大きな宴が開かれる。

 ケーキとチキン、飲む者にはシャンパン。そしてプレゼント交換といった、心躍る催しを楽しみにする艦娘たちは多い。

 

 「ああ、今年はそうだったね。確か…千代田と矢矧もそうじゃなかったか」

 「そうだぜ。でもあの二人はおっぱいでっかいからダメ」

 「は? …は? つまりどういうことだキバヤ霜」

 「司令官はおっぱいが好きだからなー! おっぱいを車に乗せたらよそ見して事故るじゃん!」

 

 腰に手を当て、清霜がニヤニヤと笑いながら言うが、あまりにも突拍子の無い言い分過ぎるため、サムソンも納得は出来ないようで狼狽しつつも食い下がる。

 

 「なんでだよ! 大体僕がおっぱい星人だって誰が言ってんのさ」

 「隼鷹さんと磯風」

 「あいつら…! 誤解だ誤解! そりゃあ多少はそういうことだってあるさ僕だって男だからねでもね僕はどっちかって言うとお尻の方が好きなんだよ大体おっぱいおっぱい日が暮れるーなんて中学生マインドはもうとうの昔に投げ捨てたよだからそこんところ変に誤解して年頃の娘さんみたいな反応でやだー司令官サイテーとか言わないで下さい泣いちゃうからお願いします」

 

 あいつ女体のことになると早口になるの気持ち悪いよな、といった表情を一瞬だけしたアサキヨであったが、すぐに持ち前の能天気さと純粋さがそれを打ち消し、けらけらと笑いだす。

 端から見れば微笑ましい光景ではあるが、サムソンからすれば沽券に関わる。だがそんなことはお構いなしに、アサキヨはサムソンの背中をばんばん叩いては笑い続けた。

 

 「ひー! おっかし…エロだー! 司令官、エロかもしれん!」

 「摩耶さんや葛城のケツばっか見てるのあたし知ってるかンな! そんなにケツがいいなら壁に手ぇつきなよ!」

 

 この二人が揃うともはや手がつけられない。壁に手をついて可愛らしいお尻を振る清霜と、それを長い髪の毛を鞭のように振ってひっぱたく朝霜。そのやり取りを黙って聞いていたサムソンであったが、やがてこめかみに指を当てつつ、苦虫を嚙み潰したような表情で口を開いた。

 

 「…車は出さないけどいいかな」

 「ハァ!? なんでだよ! あたいは司令が乳派でも尻派でもどうでもいいんだよ!」

 「そーそー、オトコのヒトってそういう生き物だって言ってたもんね」

 「誰が」

 「隼鷹さんと磯風」

 「あいつらァアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 そして翌日の昼。基地の駐車場に、アサキヨと千代田、矢矧、そしてサムソンの五名はいた。

 夕雲型の制服は学生服に見えないこともないという利点があり、アサキヨの両名はそのままの恰好である。比較的暖かかった前日とは違って、風が強いが、二人は特に苦もないようである。

 一方の矢矧はタートルネックのセーターにジャケット、そしてジーンズとコンバットブーツいうスタイル。千代田は黒のブラウスとカーディガン、ロングスカートに、厚手のダッフルコートを羽織りニット帽まで被っている。

 

 「やあ皆、おはよう。つってももう昼だけど」

 「おはよう提督、車出してくれるんだって?」

 「うん。朝霜と清霜に頼まれたからね」

 「デキる男は違うねー!」 

 「こら、からかわない」

 

 ボトル入りのブラックコーヒーをサムソンに手渡し、矢矧が笑う。彼女も免許を持っているので、サムソンがいなかった場合は基地の車…と言っても軍用のトラックであるが、ともかくそれで街に繰り出すつもりであったようだ。

 

 「荷物、積めるかな?」

 「それなんだよな。5人も乗ったら荷台にしか荷物は積めないし」

 「やっぱり矢矧がトラック野郎になるしかないんじゃない?」

 

 ふかふかの肢体に反して寒がりな千代田が、ポケットから手を出さぬまま矢矧を見た。当の矢矧もふむ、と思案するが、何か思うところがあるようで、すぐに答えは出さない。

 そして少しして、矢矧はコーヒーをすするサムソンを見て口を開いた。

 

 「ね、提督。SUVってどう?」

 「どう…って、僕は別にカーマニアじゃないからなァ。これだって鹿屋のディーラーさんがお安くしてくれたから、それじゃ有難く、って感じで買ったわけで」

 「ふーん…ね、私にこれ運転させてくれないかしら」

 「あァ、そういうこと…いいよ。じゃあ僕がトラック野郎になるよ」

 

 そう言うとサムソンはキーを矢矧に渡し、代わりにトラックのキーを受け取ってそのドアを開けた。

 

 「こっちには誰か乗るのかい?」

 「アタクシが乗るわ」

 「うわあ!」

 

 そそくさとSUVに乗り込もうとしていた四人が、サムソンの悲鳴に気付いて振り向く。

 その者は身にまとったハンチング帽、ピンクのコートと、ラメ入りサルエルパンツでもって、これでもか、と言わんばかりに己のセンスを主張しており、むしろ一種の清々しさすらあった。

 

 「おいこらアドン君、いきなり出てくるんじゃないよ」

 「あらァ、相変わらず冷たいわねぇサムソン先輩…でもそういうドライなとこ、嫌いじゃなくてよ」

 「あ! オカマちゃんだ! ちょりーっす!」

 「ボンジュール、キヨシにアサシー! 相変わらずプリティだわねぇ! そしてそっちのレディは矢矧ちゃんと千代田ちゃんねぇ、岩川の司令の阿曇忠良よ! よ・ろ・し・く・ね!」

 「よ、よろしくお願いいたします!」

 

 バチンとウィンクをかまし、アドンはしなを作っては二人に近づいていく。

 初対面であるはずの矢矧、千代田は若干引きつった笑みを浮かべながらも、略式ではあるが敬礼をしてそれに答えた。

 

 「あン、今日はオフなんだから堅苦しいのはノンノン! それよりアナタ達、鹿屋の街に行くんでしょう? アテクシもご一緒してよろしいかしら?」

 「オッケーオカマちゃん! アイスおごってくれるならいいよ!」

 「アタイはホットケーキな!」

 「交渉成立だわね! そうと決まれば話は早いわ、サムソン先輩、アタクシ運転するからさっさとデッパツしましょう!」

 

 勝手に話を進めるアドンとアサキヨをよそに、サムソンは運転席に乗り込み、エンジンをスタートさせる。

 それを見たアドンは慌てて矢矧からキーを受け取ると、SUVの運転席に颯爽と乗り込んだ。

 

 「君が運転するんかい! 事故んないでくれよ!」

 

 窓から顔を出したサムソンが困惑した様子で叫ぶが、アドンはどこ吹く風でエンジンをかけた。そしてアサキヨがわあっと嬉しそうに後部座席に乗り込むと、所在なさげに立ち尽くしていた矢矧と千代田が、トラックへと乗り込んでくる。

 

 「…なんかごめん」

 「ちょっと狭いけど、あの人と一緒よりかはいいかなって…」

 「霞から聞いてたけど、強烈だわ…それじゃ提督、行きましょ」

 「ああ。それじゃ出発」

 

 サムソンはそうつぶやくと、アクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 「オカマちゃんとこの子たちは来ないの?」

 

 ショッピングモールの地下駐車場に車を止め、外に出たところで清霜がそう尋ねた。アドンはウフフ、と笑うと、「あの子たちは訓練なのよ」と返し、ポケットに入っていたマフラーを清霜に巻いてやる。

 

 「んじゃ街には何しにきたんだい?」

 「ここんとこずうっとお休みがなかったからね、アタクシだって羽根を伸ばしたい時もあるわぁ」

 「なるほど、じゃあさじゃあさ、あたし達が付き合ってあげるよ! こういうの何て言うんだっけ、エ…エス…」

 「エースコンバットだな。アタイは詳しいんだ」

 

 きゃっきゃとはしゃぐ児童二名とオカマのパーティをよそに、サムソン、矢矧、千代田のパーティはエレベーターへと向かう。目指すはホームセンターであるが、このメンツであるからすぐに任務完了、とはいくまい。

 置いて行かれまいとオカマパーティがエレベーターに乗り込み、一先ず上へ。

 

 「まずは何処へ行くんですサムソン先輩」

 「そうさな、昼飯…は混んでるからちょっと外そうか。先に用事を片付けて、荷物積み込んだらでいいだろう」

 「そうね、そうしましょ」

 「岩川ではクリスマスパーティやらないの?」

 

 モフモフとマフラーを弄びつつ、清霜が訪ねた。アドンは顎に指先を当てて何事か考えている様子であったが、ぱっと笑顔を咲かせると、「それもいいわね」と目を光らせる。

 

 「君のとこだって福利厚生はしっかりしてるって聞いたぞ、そういう気遣いも必要なんじゃないか」

 「そうですねェ、岩川はまだ初年度だからその辺失念してたわ…鹿屋では去年も一昨年もやったんです?」

 「一応ね。彼女らだってそういう息抜きは必要だろ」

 

 なるほど、とアドンが答えたあたりで、ドアが開いた。

 

 「さて、とりあえず清霜と朝霜は矢矧と千代田の言う事きいて、大人しくしてるように」

 「そうは言うがな提督ゥ、ホムセンってめっちゃテンション上がるじゃん!」

 「そーだよ! 何か意味もなく防犯グッズ買ったりとかさー!」

 「軍の施設に盗みに入る度胸のある泥棒なんているかな…ともかく、ここは基地の外なんだから、常識ある行動をするように。出来なかったらお昼ご飯は無しだ、いいね」

 「はーい」

 

 店内に消えていく四人を見送り、サムソンは傍にあったベンチに腰掛ける。アドンも隣に座って一息つくが、端からみればアゴヒゲの男と奇妙な恰好をしたオカマのカップルであるから、周囲の目はどうしても集まってしまう。

 

 「先輩も大変ですねえ」

 「は…? あ、あー…そりゃあね。けれど僕らは所詮、彼女らがいなけりゃとっくに滅亡してたかもしれない種族なんだ…出来得ることはすべてやらないと」

 「それは、そうでしょう」

 「言い方は悪いが、彼女らの機嫌を損ねぬよう、蝶よ花よと持て囃す仕事でもある。けどそれでこの世が救われるなら、僕のプライドやら気苦労なんてのは、安いもんだよ」

 

 ポケットに入っていたブラックコーヒーの蓋を開け、サムソンはそれを一息に飲み干した。

 実際のところ、提督業というものは、大本営から降りてくる大まかな作戦指令を、己の基地の人員でどう攻略するか、というところから始まり、担当海域の治安維持、資材の管理や出納、艦娘たちの管理、そして港湾関係や漁業関係への説明や要請なども請け負う、言ってみれば何でも屋めいたところがある。

 ある程度は政府が肩代わりしてくれるとは言え、やはり基地責任者自らが出向いてやるのとやらないのとでは、与える印象も違ってくるというものだ。

 印象が悪くなればそれだけ、艦娘たちも息苦しくなるだろう。彼女らがこうして笑って過ごしていられるのも、彼女ら自身が体現している、『人類の守護者』たる働きと、それに隠れたサムソンの根回し、努力があってこそのものだ。

 サムソンはそれを、鼻にかけるような真似はしない。あくまで裏方、黒子に徹するべきだと、彼の控え目な性格はそういった苦労をものともしない節がある。

 

 「僕は作戦指揮や策を考えたりするのがあまり得意じゃないからね、それならそれで持ち味を活かすしかないだろ」

 「不得意というより、先輩はちょっと優しすぎるきらいがあるのではなくて?」

 「……」

 「実際指揮を執っているところを見た訳ではなくて、鹿屋の戦果や詳報を見た限りでの話ですけれど、彼女らがちょっと劣勢になったくらいで、すぐに帰投させているイメージがあるわねえ。悪い言い方をするなら、臆病」

 

 臆病であると言われれば、サムソンにそれを否定することは出来なかった。無論アドンとて、彼の方針を非難することはしまいが、言下にそういった含みがあるのは、サムソンとてわかる。

 

 「彼女らを気遣うのは当然、そうでしょう。けれどそれも行き過ぎると、彼女らとて自分たちは先輩から信頼されていないのではないかって、思うこともあるかもしれませんね」

 「……彼女らは大事な戦力で、仲間で、部下だ。無理はさせたくないと思うが、いけないかな」

 「いけなくはありませんよ。それで成り立っているのだから、それはいいんじゃないかしら。だけど彼女らにだって、口には出さないけれど、戦う存在としての矜持があるんじゃなくって? 先輩が気遣うから、それも言い出せないというだけで」

 

 アドンはさっきから、サムソンの痛いところを突いてくる。もともと言いたいことはあまり我慢しない質であるから、それも当然といえばそうなのだが。

 

 「僕が彼女らを信頼してないってことか」

 「と言うより、大事にしすぎて、お父さんみたいな心境になっているんじゃないかなって…まァ、アタクシも基地司令になって、どこかそんな心境になりつつあるのは否定しませんがね。目覚める父性! みたいな…」

 

 そこまで言うと、アドンは立ち上がり、ちらりと顔を見せた清霜に手をふった。

 

 「まぁガラにもなく、こんな話をしたのは、やっぱり基地では出来ないからですねえ」

 「基地の子らとは…しないか」

 「あの子たちはまだまだ、雛鳥ですから。余計な心配や気苦労はかけたくないんです」

 

 そうか、とだけ返し、サムソンは立ち上がった。

 

 

 

 その後は清霜たちが買い込んだ荷物をトラックに積み込み、昼食をとって、しばらく自由行動することになった。

 アドンとアサキヨコンビはアミューズメント施設に行ってしまったし、矢矧と千代田は洋服やコスメティックなどを見るということで、サムソンは手持無沙汰になってしまった。

 まずは一服するか、とポケットから煙草を取り出し、喫煙スペースに歩いていく。途中で以前見たうどんレディが働く本屋にも顔を出したが、生憎うどんレディは不在のようで、サムソンは苦笑いをする。

 そんな時、彼の端末にコールが入る。サムソンはポケットの端末を煙草と入れ替えようとするが、手が滑ってライターが落下、乾いた音を立てて転がった。

 

 「あァ、叢雲か…どうした? うん、うん…? そう、わかった。戻ったら詳しい話を聞くよ」

 

 手短に通話を済ませ、サムソンは端末をポケットにしまう。ライターを拾わねば、と足元を探すが、見つからない。

 そこで、彼の背を後ろから叩くものがいた。振り返ってみると、そこにいたのは長い銀髪をカチューシャとリボンでまとめた、背の小さな少女であった。

 

 「あ…!? み、」

 

 少女は手にしたライターをサムソンの頬に押し付ける。冷たい感触が、紡がれる言葉をせき止めようとするが、それは叶わない。

 

 「三笠さん…!」

 

 それは艦娘だったもの。

 そして今は、艦娘たちを導くもの。

 かつて敷島型戦艦四番艦・三笠と呼ばれた存在であった。      




 鹿屋にショッピングモールってあるんじゃろか…と不安になる横浜県民。まぁフィクションなので…

 なお僕はおっぱい派です。サラ姉たまんねえ!
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