鹿屋デイズ・鹿屋ライフ   作:ミギー・ドン

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 仕事が忙しくてなかなか書く時間が取れません。年が明ければ暇になるんですけどね…


師走の風

  サムソン達がクリスマス用の飾りを買いに出た翌日。

 そう、月曜日である。様々なことがあったとはいえ、新しい一週間は待ってはくれないのだ。

 サムソンは身なりを整え、司令室の椅子に腰を下ろした。本革シートの光沢が美しい、お高い椅子である。そしてタブレット、並びにPCを立ち上げてログインし、仕事の準備を整える。あとは秘書艦が来るのを待つだけだ。

 鹿屋基地においては、秘書艦は日替わりである。どんな状況でも、誰であっても、必要最低限の仕事は出来るようにしておくべきだというサムソンの考え方から、この方式となって久しい。

 ちなみに順番は簡単で、あいうえお順となっている。基地所属の艦娘は全部で二十名、そして先週土曜の担当は時津風であった。

 

 「二日連続であの喋りを聞くことになるとはね…」

 

 と、あれば、今日の担当は利根であった。

 昨日ショッピングモールで会い、重要な話をした『三笠』こと庚逸花と、利根の喋り方はよく似ているので、サムソンも混乱しやしないかと、要らぬ心配をしているようだ。

 そうこうしている内に、時刻は0800となる。早いものならばとうに司令室に入ってサムソンと駄弁ったり、仕事の準備をしていたりもするのだが、生憎利根はそういう質ではない。

 3分ほど経過したところで、ドアが開く。

 

 「おはよう提督」

 「おはよう利根。今週もよろしく」

 

 航巡となってから衣替えをし、特に下半身周りの布面積に不安が残る制服を身に着ける利根。その衣装がどういう構造になっているのか、上司であるサムソンもいまだに判っていない。

 見えてもおかしくない筈の下着のラインは見えないし、さりとて履いていないという訳でもない。書類やら筆記具やらを揃え、脇のデスクに着く利根をチラチラと見ながら、サムソンは口を開いた。

 

 「今日は来客がある…はずだね」

 「ああ、叢雲から聞いておる。何時かの?」

 「それがまだわかってないんだ。まぁおそらく、事前に連絡はあると思うんだけど」

 

 サムソンの言葉を受けた利根が、ふむ、と頷いてはタブレットに何事か入力していく。アバウトなように見えるが仕事はキチンとする利根のことなので、来客アリ、とでも書き込んでいるのだろう。

 

 「了解じゃ。それでは仕事と行こうか提督、月曜は久々じゃのー」

 「ああ、よろしく」

 

 

 

 

 落ち着きのない駆逐艦たちを秘書にしている日とは違って、仕事はすいすいと進む。磯風や霞、叢雲などといった落ち着きのある駆逐艦ならばよいが、時津風や雪風、アサキヨコンビなどが秘書官につくと、これが中々大変なのである。

 無論そうなった場合はサムソンの仕事の割合が増えるだけであるが…。

 ともかく、今週の予定を立てるところから始まって、各方面への連絡や担当海域を往来する船舶のチェック、護衛要請などの確認。実地演習の段取り、VR演習の予定など。そして所属する艦娘らの訓練メニューの調整、遠征艦隊の組成、出撃海域に対する下調べから、出撃艦隊の編成など。

 やる事は多いが、どれも順調だ。そうこうしている内に、部屋にかかった鳩時計が、正午を知らせる。

 

 「ふう…とりあえず休憩にしよう。利根、僕は食堂に行くけど」

 「ああ、今終わった…我輩も行くぞ」

 

 書類の束をトントンと整え、利根が立ち上がっては腕をぐるぐると回す。窓の外ではグラウンドで走りこみをする山城、初月、夕立の三名が見える。彼女らもすぐに食堂へと来るだろう。

 

 「今日は何じゃろうな、肉の気分じゃなー我輩は」

 「僕は…日替わり定にする」

 「嫌いな物だったらどうするのじゃ」

 「僕ァ好き嫌いはないよ」

 「ほんとかー? バラムツとかシュルストレミングとかでもかー?」

 「小学生かい!」

 

 基地の一階にある大食堂へと向かう道すがら、摩耶と比叡をパーティに加えてサムソンと利根はゆく。彼女らは午後から演習の予定であり、たくさん食って力をつける、という旨の会話が頼もしい。

 

 「相手は呉の連中だ、手加減しなくていいのが有難いぜ」

 「摩耶は手加減してるんだか、してないんだかいっつも判らないのよね、岩川の子らとやった時なんて泣かせちゃったじゃない」

 「あ、ありゃあ別にそういうつもりでやったんじゃ…ねえよ…」

 「まー厳しくするなとは言わんが、摩耶はちいと血の気が多すぎるやもしれんのう」

 

 標的となった摩耶が、助けろ、といった感じの目線を向けるので、サムソンもまぁまぁ、と取りなしつつ、一行は歩いてゆく。

 程なくして食堂へと着いたが、何やら人だかりが出来ているのが見てとれた。

 

 「なんだ?」

 「まぁた雪風か清霜あたりが馬鹿やっとるんじゃないのか、こぉら! 何を騒いでおるか!」

 

 入り口に立った利根が、腰に手を当て大声で諫める。集まっていた艦娘達が一斉にこちらを向いては、そして笑いだす。

 

 「そっくりだ!」

 「そっくりだな」

 「ヒャッハー! そっくりじゃーん!」

 「何を…なにを言っておるのかわからんが、何じゃ、我輩と誰がそっくりじゃって? ちなみにイン何とかさんの真似は我輩結構うまいぞ、とーまー! ほれどうじゃ」

 「そういう問題じゃないでしょ…。ともかく誰か来てるんですか? どれ…」

 

 比叡が人垣の合間を進み、テーブルの前に立つ。

 そこには銀色の髪の毛をカチューシャとリボンで纏めた、背の小さな少女がいて、天ぷらうどんをすすっていた。

 

 「あ……」

 「む、比叡か。しばらくじゃな」

 「みか……庚お姉さま!」

 

 そこにいたのは日本海軍・軍事研究所…略して『軍研』所属の元艦娘、庚逸花であった。

 確かに昨日、基地宛てに「明日訪問する」という旨の連絡はあったが、何時何分、とまでは言っていなかった。大方夕方くらいだろう、と高をくくっていたサムソンは面食らいつつも、大型犬と化した比叡にじゃれつかれている庚の前に立つ。

 

 「どうも庚さん……鹿屋のうどんのお味はいかがです?」

 「うむ、うまい…おいこら比叡、離れんか! 離れ…お座り!!」

 「それは何よりです…しかしですね! 来るなら来るで連絡を下さいよ…」

 「昨日したし、何より直接言ったじゃろ」

 「時間は仰いませんでしたが…」

 「止まった時計もな、一日に二度、正しい時間を指すのじゃ。わかったか? っだから比叡! ステイ!」

 

 よく判らない屁理屈を述べた庚が、隣に座る雪風の差し出したいなりずしを頬張る。もっちゃもっちゃと咀嚼し、そばつゆをひと啜り。その一連の動きを見ていた摩耶たちが、何故か感嘆の声を上げるが、サムソンには届かない。

 部下たちの前ではせめて毅然としていたいらしいが、今回ばかりは相手が悪い。サムソンは諦めた様子で一旦その場を離れると、丁度入ってきた山城たちの後ろについて順番を待つ。

 

 「提督は何にするっぽい?」

 「あー…何がいいと思う?」

 「私らに聞くんですか……じゃあ天ぷらうどんとかどうです、私は親子丼だから真似しちゃダメですよ」

 「しかしいつもより騒がしいな、誰か来ているのかい提督?」

 

 初月のその問いにサムソンは人だかりの方を指さしては、「庚さんだよ」と、答えた。

 

 

 

 

 「さて食事も終わったことだし、寒村よ」

 「はいはい。えー全員いるね。はいそれじゃ注目……こちらにいるのが、軍研の庚逸花さんだ。会ったことのある人もいるだろうし、去年の春先に一度ここに来ているから、大体の人は知っていると思う」

 

 サムソンの紹介に、一部の艦娘を除く面々がうんうん、と頷く。

 一方で葛城、朝霜、そして初月の三人だけはどこか不安そうな面持ちで、隣にいる者にこそこそを庚の素性などを訪ねている。

 それを察したのか、庚は比叡の膝の上から離れ、立ち上がっては腰に手を当て、大きな声で自己紹介を始めた。

 

 「今寒村から紹介があったが、儂が庚じゃ。庚というのは十干の内の一つであり金の兄、結実・形成・陰化の段階を本義とする。まぁそれは特に関係ないので忘れてよい。去年の春先にもここに来たので、今更言う事ではないが、儂は艦娘になれる者の元へ赴いては、艦娘として戦ってくれるようお願いする仕事をしておる」

 「敏腕スカウトマンですよ! 庚お姉さまは!」

 「我輩とキャラが被っておるがの」

 「はいそこ利根ェ! 儂! 儂が先だから! あーそれはまぁともかく…この中で儂が話をつけたのは比叡、雪風、時津風、磯風か。主に西日本出身の者達じゃな。それでお初にお目にかかるのはそこな胸がグロ画像な空母と、じっとりした全身タイツ。そして片目隠れの三名…葛城、初月、朝霜か。まぁよろしく頼む」

 

 思い切りディスられた葛城が、憤懣やる方なし、といった様子で庚を睨みつけて机をたたく。

 

 「ちょ、ちょっと! エライ人かもしれないけど、いきなりそれはないんじゃないの!? 大体アナタの胸だって私とそう大差ないじゃない! 私がグロ画像ならアナタはLiveleakってとこ!?」

 「Live…! くッ、上手い『返し』じゃな葛城! さすがは敗残兵を故国に『帰す』ことを全うした『葛城』の魂を持つだけのことはある」

 「ふふン…わかればいいのよ。褒めたって何もでないんだからね」

 「おい雲龍、お前の妹ちょろいな」

 「知ってた」

 

 庚はそこで咳ばらいをすると、改めて一同を見回す。彼女は武蔵の『適合者』候補を訪ねたはずであるが、それにしては来るのが早い。可否はともかく、相手が即決したのは間違いないのだろう。

 サムソンは結果を聞きたくなる気持ちを抑えつつも、茶を啜りながら彼女の言葉を待つ。

 

 「今日ここに来たのはの、武蔵の件があったからでな」

 「ああ、そういや艤装はもう出来てるんだっけ」

 「そうっぽい! 佐世保の時雨から聞いた!」

 「つまり、武蔵になれる人のところに行ったんですよねお姉さま!」

 「左様」

 

 頷いた庚は再び比叡の膝の上に座ると、腕を組んで押し黙る。結果を言っていいものかどうか、といった逡巡が見て取れるが、実際のところはわからない。

 そうしていると、霞が口を開いた。

 

 「で、結果はどうだったんですか」

 「うーむ…さて、どうするか。日吉にはもう知らせておるし、いずれ判ることじゃが…」

 「勿体ぶらずに教えて下さい、庚さん。基地の中なんだし外には漏れませんよ」

 

 矢矧の一声がダメ押しになったのか、庚はうむ、と手を叩き、そして言う。

 

 「主らとりあえず今日の任務が終わって、夕食の時間になったら、再びここへ集合せい。武蔵の件はともかく、儂が訪ねて来た目的は他にもあるでな」

 「えー、今じゃダメなのー?」

 「そう焦るでないわ。大体午後の任務やら何やらもあるのであろ? 今夜はここに泊まるつもりであるし、時間はたっぷりとある」

 「いけずー!」

 「えぐれ胸ー!」

 「ロリババア!」

 「やかましいわ! あと今えぐれ胸言った奴は叩く」

 

 この場ではもう語ることはないと、庚はサムソンを見てそう言った。

 ならば仕方なし、とサムソンは立ち上がり、手をぱんぱんと叩いては号令をかける。

 

 「はいはい、それじゃあ解散。それぞれの仕事に戻るように!」

 「りょうかーい」

 「うっし、初月、霞、足柄、山城、千代田は演習だ、行くぞおらッ」

 「今日は呉が相手ね、腕が鳴るわ」

 「お姉さま! また後で!」

 

 武蔵の件について興味があるのかないのか、それはいまいち掴みかねるが、艦娘達は割とあっさり引き下がり、午後の任務に向けて食堂を出て行った。

 残ったのはサムソンと庚、そして利根だけである。  

 

 「で、庚さんはこれからどうなさるおつもりで」

 「そうさな、まァお主らの仕事っぷりを見させて貰おうかの。前回来た時は殆ど見れなかったでな…摩耶も言っておったが、これから演習じゃろ?」

 「そうでしたね…。しかし、僕が介入する余地はありませんよ。作戦から陣形から、摩耶達が決めますので」

 

 サムソンのその言葉に、庚が怪訝な顔をする。

 VRであろうと実地であろうと、まず提督が陣形を選び、そしてそれに準じた作戦を立てるのが常である。と言うか、提督とはそういうものである。

 それが全くの放任と来たのだから、庚の表情も至極当然といえるだろう。

 

 「ハァ? お主、指揮は執らんのか」

 「そりゃ勿論、実戦なら執りますよ。ですが摩耶や足柄、叢雲や霞なんかは僕よりずっと上手く立ち回りますので」

 「……利根よ、こやつひょっとして、ナメられておるのではないか」

 「それは無いのう…なんだかんだで尊敬はされておるよ。それに、これだって放任とはちと違ってな」

 

 茶を啜りつつ、利根が言う。サムソンは若干照れくさそうにしてはいるが、満更でもないといった様子である。

 

 「こやつは褒めるとすぐ調子こくから、あまり褒めたくはないがの…。まぁ何じゃ、アレよ…信頼して任せてくれてると、皆そう思っておる。そして何かあれば、きっちりと責任を取るのでな」

 「ふむ……地味な見た目に反して能力は高いと」

 「そうでもない」

 「そうでもないんか!」

 「あぁ、もういいよ利根。こっ恥ずかしいから…じゃあ庚さん、折角ですので演習見に行きますか」

 

 

 

 

 そして数時間後。

 

 「お主も色々大変じゃなあ」

 「おわかりいただけたようで…女子校の教師ってこういう感じかなとは思います」

 「確かに……しかしじゃな、他所の提督と比べて、お主は明らかに威厳が無いぞ。呉や佐世保の…塚原と疋田の両名がここの指揮を執っていたとすれば、昼から今まで、何度雷が落ちたか」

 

 外部の人間だけあって、庚はずけずけと物を言う。『適合者』候補との折衝のほか、艦娘達のケアをするという役柄上、そういった所も気にしておくあたり、彼女の能力は高いようだ。

 サムソンもそれについては省みるところがあるようで、神妙な面持ちで庚の言葉を聞いていた。

 

 「優しくするのも大事じゃとは思うが、甘やかすのはいかんぞ。軍隊というものは規律で成り立っておるわけでな…」

 「それは、そうです。しかし、」

 「性分とは言わせんぞ。優しさと甘さは似て非なるものじゃ、それを忘れると必ず綻びが生じる…そしてそれは、手痛い結果となって、お主に、そしてここの娘らに帰ってくることもある、ということを努々忘れるな」

 

 正論であった。サムソンは返す言葉もなく押し黙り、さすがの利根も所在なさげに口をつぐむのみだ。

 和気あいあい、アットホームな職場です! という雰囲気は、それ自体はよい。しかしここは職場でなく、戦場であり前線なのだ。命のやり取りをするところである。

 甘さは油断を生み、油断は失敗を、敗北を生む。そしてその時、無事に還ってこれるという保証はない。

 

 「…寒村よ、利根も聞け」

 「…はい」

 「はい」

 「『適合者』はの、『艦娘』になることを承諾した」

 

 その言葉に、二人は庚を見る。大和級戦艦二番艦『武蔵』が、遂に顕現するというのだ。

 日本に生きる者にとって、その名には特別な何かが宿っている。サムソンは唾を飲みこみ、続く言葉を待つ。

 

 「ただ、幾つかの条件を提示された。知っておろうが、『艦娘』になってくれる者の希望は、出来得る限り叶えてやるのが政府の、海軍の方針だ」

 「はい」

 「…例えば利根、お主にも心当たりがあるだろう。寒村の手前言わんが、どうだ?」

 「……確かに」

 

 服の裾をぎゅっと掴み、利根が頷く。

 極めてプライベート、かつ繊細な問題ゆえ、庚がこの場でそれを言うことはしない。そしてサムソンもそれを問いただしたりはしない。

 『艦娘』になる前、ただの一般人として過ごしていた人生のことは、例え上司であっても聞かないのが約束でありマナーであるからだ。優しい性分のサムソンは、どれだけ彼女らと打ち解けても、それだけは、そしてそれに繋がるような事柄を尋ねたことは、一度として無い。

 

 「武蔵の『適合者』が出した条件の一つに…」

 「待って下さい、それは僕らが聞く訳にはいきません」

 「プライベートなことではない。それは儂も言うつもりは無い……彼女が鹿屋市に住んでいるとは言うたな?」

 「え、ええ」

 

 庚は残っていたコーヒーをぐっと飲み干すと、サムソンと利根の二人の目を見て、そして言った。

 

 「鹿屋からは離れたくないと、彼女はそう言った」

 「……え」

 「つ、つまり…?」

 「判らぬか? 佐世保や呉、舞鶴、横須賀、そしてそれ以外の基地、泊地…そのいずれにも配属しないのであれば、『武蔵』として戦うと、彼女はそう言ったのじゃ。その理由はそれこそ、言えんがの」

 

 利根が察したのか、目を丸くしながらも口を開く。

 

 「……武蔵が、鹿屋に来ると、そういう訳か」

 「そういう訳じゃ。つまり寒村、武蔵を活かすも殺すもお主次第ということよ。甘やかしては、ろくな結果にならんだろう…それだけは肝に銘じておけ」

 「そ、それは……はい…しかし…武蔵…武蔵が…」

 

 新しい風が、鹿屋に吹く。

 それは追い風か、はたまた逆風か…それは誰にもまだ、わからない。

 

 




 どうせ武蔵が鹿屋にくんだろ~褐色眼鏡銀髪妹武人系痴女がよォ~
 と思っていた方は大当たりでしたね(白々しい)

 でもしばらくは通常営業です。
 この後はクリスマスとか大晦日とかありますし、戦闘シーンも入れておきたいので、お付き合い下されば幸いです。

 ご意見ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
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