鹿屋デイズ・鹿屋ライフ   作:ミギー・ドン

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 今回は繋ぎのお話です。

 年内はあと一回投稿できるかどうか…オラに元気をわけてくれ!


助けたり、助けられたり

 

 

  「…で、庚さんは君達に何を聞いて帰ったんだい?」

 

 武蔵が顕現し、そして鹿屋で戦うことを望んでいる…その衝撃的な報せをもたらした庚は、昼すぎにはもう帰ってしまっていた。

 そして帰る前の夜…即ち昨晩であるが、彼女は基地所属の全ての艦娘を集めて、何かをしていたようであった。

 前回来た時も同じことをしていたようであるが、サムソンはその場から退出するように言われていたため、詳細はわかっていない。

 

 「それは…答えなくていいと庚さんは言ったよ。提督が…提督という立場を盾に、無理矢理にでも聞いてくるようであれば、すぐに連絡をくれとも言っていたよ」

 

 本日の秘書艦である初月が、申し訳なさそうに目を伏せる。

 女性たちでしか話せないようなこともあるだろう。サムソンに嫌がらせや理不尽な扱いをされてはいないか、という旨の質問などであるなら、確かに彼がその場にいては意味がない。

 前回庚が訪れた際に、そのようなことを聞かれたと…サムソンは叢雲から聞いているので、初月に対してもそれ以上の詮索はしない。彼女らがどう答えたのかは興味がないわけでもなかったが、だからといっておいそれと聞けるものでもないだろう。

 

 

 「なるほど、ガールズトークってヤツだね。僕がその場にいたら、アウェーすぎて倒れてしまうかもしれないな」

 「あ、安心して提督。決して提督のことを悪く言ったりとか、そういうのじゃあ、ないから」

 「わかってるよ。さて、庚さんは帰ったけれど、それはそれだ。仕事をしよう」

 「ああ、そうだね」

 

 鹿屋に武蔵が来る、というのであれば、彼女を万全の態勢で受け入れられるようにしておくのが、今すべきことだ。

 いずれ佐世保、そして大本営からも色々と指示連絡が来るだろう。その時泡を食わないようにしておかなければならない。サムソンは改めて鹿屋基地全ての備蓄や戦力などを見直し、そして最適化する作業を開始した。

 

 

 

 

 それから一週間。

 20XX年も残り二週間となった。様々なことがあったが、皆無事に過ごしてこれたという事実はサムソンにとって何物にも代えがたい好事である。

 だが年末年始といえど気を抜くことは許されない。やることは相も変わらず山積みである。 

 まず庚が帰ったあとに、大本営直々に連絡があった。

 『戦艦武蔵を鹿屋にて運用せよ』という、既に知っていた事例がひとつ。

 そしてそれに伴い、四つ目の入渠ドックの建造指示。これは一朝一夕で出来るものではないが、政府の依頼を受けた専門の技師たちと作業員たち、地元の建設業者や工務店、そして妖精さんたちが総出でかかることになった。

 その一方で、通常の任務も並行して行われる。鹿屋基地は正に多忙を極めた。

 

 「はぁー……」

 

 サムソンは机に突っ伏し、大きく息を吐いた。

 朝から晩まで働き詰めであるから、どうしても疲れは溜まる。本日の秘書艦である雲龍が、サイドボードにお香を置いて、火をつける。

 よい香りが立ち込め、サムソンの気力も僅かではあるが回復してゆく。

 

 「佐世保との会議はどうだったの、提督」

 「ああ、武蔵は艤装のフィッティングも上手くいって、今は基礎訓練を始めた段階らしい。こっちでやる、って言ったんだけど、忙しいだろうからって請け負ってくれたよ」

 

 出された茶を啜り、サムソンは言った。

 『適合者』が『艦娘』となり、すぐに戦える状態になるかと言うと、そうではない。それまで普通の人間であったものが、いくら脳波でコントロールできるからといって、巨大な艤装を背負って海の上を進む…いうことは、それはもう並大抵のことではない。

 いきなり自転車を補助輪無しで乗れ、と言われて乗れる子供がいないように。

 バイクをその機能も機構も判らずに乗れ、と言われて乗れる高校生がいないように。

 自動車を教習所に通わず乗れ、と言われて乗れる大学生がいないように……『艤装』を思いのままに動かすことは、本人の素質もあるだろうが、一か月から二か月はかかると言われている。

 佐世保の司令官である疋田は、それを含めて、武蔵を万全の状態で鹿屋に送ると約束してくれた。

 

 「武蔵とは顔を合わせた?」

 「…いや、まだだよ。本来なら様々なデータが送られてきてもいいはずなんだけど…顔写真の一つですら送られてこない」

 「……何か、理由があるのかしら?」

 「さぁね…でもまぁ、正直今は忙しくてそれどころじゃないから、落ち着いてからの方がいいと思う」

 「そうね……さ、お仕事の続きしなくちゃ。遠征部隊がそろそろ戻って…」

 

 雲龍がファイルをいくつか抱え、席に着こうとしたその時である。

 緊急の入電を知らせるエマージェンシーコールが鳴り響いた。

 

 「緊急…?」

 

 サムソンはそう言うとすぐに隣接する通信室へと入り、受話器を取った。モニターには鋭い目つきをした壮年の男…呉鎮守府司令、塚原が映し出される。

 

 「こちら鹿屋基地司令、寒村です。塚原司令、どうなさいました」

 『あァ寒村君、急にすまんな。単刀直入に言うが、うちの遠征艦隊が沖縄近海で襲撃を受けた』

 「……沖縄で、ですか? 昨日の哨戒では異常はありませんでしたが…」

 

 沖縄近海は鹿屋基地の担当海域でもあり、基地から近いこともあって常に哨戒の目が光っている。

 それが襲撃を受けたとあればこちらの責任にもなる。忙しさにかまけて手を抜いた、ということは無いはずだが、目が届かなったということはあるかもしれない…サムソンは居住まいを正し、モニターの向こうに映る塚原の目を見る。

 

 『こちらもそう認識しているから、比較的経験の少ない艦娘達を遠征任務に回したのだ。だが報告によれば、敵の部隊は『急に』出現して、襲い掛かってきたらしい』

 「早期警戒並びに哨戒機ですら察知できなかった、と……いえ、言い訳はいたしません。それで、被害状況は」

 『幸いにして、何とか逃げ切った。戦死者は出なかったが、損害は大きく、追撃があればそれこそおしまいだ。そこで君の部隊に、撤退支援を頼みたい』

 

 沖縄から敗走してくる艦隊を、おそらくは柱島近辺まで護衛する任務である。サムソンは是非もなく頷いて、作戦要綱の打ち合わせを始めた。

 

 『柱島にも要請を出したから、恐らく八島のあたりで護衛を引き継げるだろう。そこまで頼めるか』

 「了解です。すぐに出撃の準備をさせます」

 『ついでに言うとだな、部隊の中には新兵もいるから、そちらの艦娘達にも気を遣うように言ってくれると助かる』

 「わかりました。では通信終わります」

 『すまん、頼む』

 

 サムソンは送信されてきたデータをプリントアウトし、雲龍とともにそれを読む。

 川内型軽巡洋艦・神通を旗艦とし、飛龍型航空母艦・蒼龍、陽炎型駆逐艦親潮、綾波型駆逐艦綾波、同じく敷波。そして白露型駆逐艦・山風の六隻は呉を発したのち宮古島までの航路を取り、沖縄で補給を受けたのち帰路に就いたという。

 雲龍が彼女らのとった航路と、襲撃を受けた地点のデータを壁面の大型スクリーンにマッピングしていくのを見つつ、サムソンは基地全体のオープンチャンネルを開いて、六名の艦娘達を招集した。

 

 

 「司令、霞以下五名、入るわよ」

 「ああご苦労様。そろそろ日も暮れるが、緊急出撃だ。呉の遠征部隊が、沖縄近海で襲撃を受け敗走している。君達は急ぎ向かい、撤退支援…いや、護衛だな。護衛の任務に就いてほしい」

 

 呉の、という言葉に反応し、一同がざわつく。

 西日本においては佐世保か呉か、とまで言われる練度の高さが自慢であるはずだが、その呉の部隊が敗走とは、にわかには信じがたいのだろう。

 しかし嘘を言ってどうなる場面でもなく、霞はすぐに頷いて、サムソン並びに雲龍と任務内容の確認をしては、後ろで待機する葛城、初月、朝霜、雪風、時津風に指示を出していく。普段は落ち着きのない朝霜や雪風、時津風も、任務とあればふざけたりはせず、やる気に溢れた表情でもって霞からの指示を聞く。

 

 「親潮ねえさん、大丈夫かな…」

 「神通さんが旗艦、蒼龍先輩、綾波、敷波が護衛…で、この山風と親潮って子が新兵ってことかぁ」

 

 葛城がそう呟けば、サムソンもその通り、と返しては、含みのある表情を見せる。

 それを見た雪風が、「何です?」と尋ねる。彼女は人の表情を読み取るのが抜群に上手い。サムソンはアゴヒゲを二度三度撫でて、そして口を開いた。

 

 「呉の部隊には悪いが、葛城、初月、朝霜を呼んだのは、経験を積ませるためだ。君たちはまだ、他の面子と比べて経験が少ないからね。こういう機会は活かさないといけない」

 「ま、そんなこったろうとは思ったけど。でも、だからって手を抜いたらダメだからね!」

 「わかってるわ、全力でやるわよ!」

 「あったりめえよ!」

 「僕も頑張るよ」

 「うん。向こうの新兵さんには、特に気をつかってやってくれ」

 「わかったよしれー!」

 

 それから最終的な打ち合わせを終え、霞たちは出撃ドックへと向かう。

 そこで雲龍が霞を呼び止め、大型のテルモスを手渡した。

 

 「…これは?」

 「今日は気温も低いし、波も高いわ。全速で逃げてきたのであれば、冷え切って、疲れてるでしょうから…」

 「なるほど、そうね。わかった、ありがとう雲龍」

 「うん。気を付けて」

 

 その言葉に霞は手を上げてこたえ、司令室を後にした。

 

 

 

 

 「さむッ!」

 

 12月の海上は、例え南国であろうと寒い。葛城は艤装のヒーターを最大稼働させ、ほっと一息つく。

 日が暮れてしまえば戦闘能力を失う葛城ではあるが、大破した艦の曳航くらいならば問題ない。艤装背面にあるワイヤーアンカーを出し入れしては確認し、葛城は初月を見る。

 

 「初月はあったかそうね…」

 「そ、そうかな…」

 「ヒートテックみたいでいいと思うな。私はほら、これだからさぁ」 

 

 誰がデザインをしたのかは本人たちですら知らないが、艦娘の着る制服は多種多様を極めている。同種の艦がお揃いの制服を着ているかと思えばその限りでもなく、自分なりに着崩したり、アレンジしたりと、女性らしい出で立ちは見目麗しいものがあった。

 しかし葛城…というか、雲龍型の制服はとにかく露出が多い。夏ならばそれでもよかろうが、こういった冬の海においてはマイナスにしかならないものと思われる。

 だが葛城の姉妹艦である雲龍は、夏だろうが冬だろうが、雷雨であろうが雪であろうが特に弱音を吐いている様子はない。

 

 「葛城は寒がりなのかい」

 「そうねぇ、やっぱ春とか夏の方がいいわよねぇ」

 「そうか…。僕はやっぱり梅雨の時期が嫌だな」

 「だよねぇ?」

 

 お喋りをしながら進む葛城と初月のインカムに、霞の怒声が響いたのは、それからすぐの事であった。

 

 

 鹿児島県、徳之島近海──。

 

 「見えたわ、あれね」

 

 霞が指さす先に、小さく見える艦娘達の影。夕暮れの海に浮かぶ彼女らの姿は、弱々しく、今にも倒れそうなくらいに疲弊しているようであった。

 網膜投影型望遠鏡を通常モードに切り替え、霞は速度を落とすよう指示を出した。

 そして、合流。複縦陣を敷いていた呉の部隊は、その場で止まって一息ついている。

 

 「鹿屋から来たわよ! 塚原司令からの要請を受け、八島近辺までそちらの護衛に当たるわ…神通さん、久しぶりね」

 「霞、さん…。援軍、感謝します……!」

 

 旗艦である神通が姿勢を正し、敬礼をもって応える。彼女自身は無傷であるようだが、後続の艦娘達のダメージは大きいようだ。

 霞はすぐに大破している親潮、並びに蒼龍に対して二隻ずつ直掩につくよう指示すると、鹿屋へと連絡をとった。

 

 「提督? 霞よ。呉の部隊と合流したわ」

 『ご苦労様。状況はどうだい』

 「こっぴどくやられてはいるけど、何とかなるでしょ」

 『わかった。無理せず遂行してくれ』

 「了解。通信終わり」

 

 

 

 「蒼龍先輩!!」

 「あ、ああ…葛城かぁ。かっこ悪いとこ見せちゃったね」

 

 葛城にワイヤーアンカーを接続され、蒼龍が力なく笑う。しかし葛城は首を振り、煤で汚れた蒼龍の顔を、ハンカチで拭う。

 

 「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! 私が引っ張りますから、楽にしててください!」

 

 飛行甲板は保持しているのがやっとな程に破損し、手持ちの和弓は弦が切れて、折れかかっている。

 尊敬する先輩である蒼龍の惨状を目の当たりにして、葛城は明らかに動揺している…かと思えば、そうではなく、きっと前を向いて、彼女を曳航し始めた。

 

 「肩を…」

 

 脇についた初月の申し出を受け、蒼龍は笑う。どれほどのダメージを受けたかは判らないが、相当に疲弊もしているようだ。

 初月は破れた胸元から覗く豊満なバストを見て、若干ではあるが羨望の眼差しを向けるが、すぐに葛城同様真剣な顔つきでもって、彼女を支えた。

 

 「ありがとうね」

 「気にしないで下さい。困った時はお互い様、艦娘は助け合いだって…うちの提督がよく言ってます」

 「……うん、そうだね。君、名前は?」

 「秋月型、初月です。呉では姉がお世話になっているそうで」

 「秋月の妹さんか……今回も君達がいれば、ここまで被害は大きくならなかったかも、しれないねぇ」

 「え……」

 

 

 「親潮ねえさん!」

 「あ……雪風…時津風も」

 「大丈夫!? だいじょうぶなの!? 死んだらやだよ!」

 

 ぼろぼろの艤装、服装を見て、たまらず時津風が親潮に抱き着く。彼女は死というものを極端に恐れる気質を持っており、己や仲間が傷つくと、すぐに戦意を失ってしまうという問題を抱えている。

 サムソンもそれは承知の上であるのだが、だからといって基地で大人しくさせている訳にもいかないため、時津風とは違って勇敢な雪風を世話係として当てがっている節があった。

 気は遣うが、戦う存在である以上、それは仕方のないことでもある。

 

 「大丈夫よ、命には届いてないから…大丈夫。それよりも、会えて嬉しいわ二人とも…」

 「基地には磯風もいますから、生きて帰って、遊びにきて…くださいっ!」

 

 雪風はそう言うとアンカーの接続を終え、親潮を時津風に任せて曳航を始めた。彼女とて姉妹艦である親潮と会えて、嬉しいのではあろう。しかし今はそういう状況ではない。『軍艦』だった時同様、幾多の戦場を生き延びてきた雪風は、為すべきことを理解し務めることのできる、優秀な艦であった。

 

 

 「ありがとう、霞さん…」

 「お礼はいいわ…それより、状況を詳しく知りたいわね」

 

 朝霜を最後尾で警戒する綾波に合流させ、霞は神通の横につく。

 受け取ったココアの湯気がたなびき、消えていく。

 

 「本当にわからないんです。沖縄を左舷に見つつ進んでいたら、にわかに空が曇って……重金属粒子反応はまるでなかったのに」

 「スコールかなにか?」

 「雨は降っていませんでした。ただ、雷は鳴っていたけれど」

 

 霞は顎に手を当て、ふむ、と呟く。

 深海棲艦らが呼吸や排熱、排水などと共にまき散らす黒い霧のようなもの…『重金属粒子』と呼ばれるそれは、電波の攪乱や光の屈折、雷雲の招来などをもたらすことが広く知られている。

 これによって通常の船舶などは、電子機器や通信機器などに重大な機能障害を受けるため、彼女らと遭遇した場合はまず助からない。各メーカーもそれを上回るべく日夜研究に励んでいるが、その成果はいまだに芳しくないのが現状である。

 今の所、唯一これに対抗しうるのが、艦娘が纏う艤装に備わった『障壁』と呼ばれる防御機構である。これもまたいずれ説明をさせて頂くが、深海棲艦たちと相対しても通信を可能とする機能が、その防御機構の役割の一つでもあった。

 

 そして深海棲艦の中でも特に強力な個体が、膨大な重金属粒子でもって周囲の空間に働きかけ、局所的な天候操作をすることが、今までの戦いにおいて確認されている。

 しかし沖縄近海には、人類がその海域を奪回して以来というもの、そういった特異な個体が出現したという事例はない。神通はココアを飲み込むと、ほうっとため息をついた。

 

 「なるほどね……ま、ここで考えてもどうにもならないか。神通さんごめん、他の子達にもこれ、配ってくるわ」

 「はい、霞さん…本当にありがとう」

 「お礼なんて要らないったら」

 

 霞はにっ、と白い歯を見せて笑うと、テルモスを抱えて艦隊の後ろへと回っていく。

 

 

 「敷波、山風」

 「あ、霞ちゃん…こっちは大丈夫だよ」

 

 中破しながらも、敷波は気丈であった。敵がいないにも関わらず、どこか怯えた目つきを見せる山風を支え、彼女が態勢を崩さないよう気を遣っているのがわかる。

 

 「二人とも中破か。さすがに曳航はしてやれないけど、平気そうね」

 「うん。でも山風がちょっと、参っててさ。ほら、霞ちゃんだよ山風…鹿屋のかーちゃん」

 「あ、く、呉鎮守府の……やま、風です…」

 「……霞よ。敷波、ちょっとこれ持ってて…ココア入ってるから、飲みなさいな」

 

 霞はそう言うと、アルミのカップにココアを注いでは、残りを敷波に手渡し、彼女とポジションを入れ替えた。

 

 「わお、ありがたい!」

 「ほら山風、あなたも飲みなさい。熱いからゆっくりね」

 「あ、ありがとう……」

 

 しかし山風の手は震え、前歯がカチカチとカップにぶつかる。寒さもあろうが、彼女の怯え方は正に新兵のそれであった。

 いくら『軍艦』の記憶と魂を受け継いでいるとは言え、それと融合する適合者にもそれぞれ個性はある。勇敢なもの、能天気なもの、大人しいもの、活発なもの。

 山風にどういった事情があって艦娘となったかは判らないが、戦う以上は怯えを切り離さなければならない。

 しかしそれには、時間と周りの理解がいるということを、霞は知っていた。

 

 「戦うのって、怖いわよね」

 「え…」

 「私も最初は、そうだったわ。けどね、戦えるのに戦わないのは…力があるのに逃げるのは、もっと怖いって気付いたから」

 

 霞の言葉を聞いた山風が、彼女の目を見る。迷いや恐れなどがあったとしても、それを見せない、強い眼差しである。

 霞はそれだけ言うと、敷波からテルモスを受け取り、蒼龍と綾波の方へと行ってしまった。

 

 「あったかいモン飲んで、ちょっと元気でた?」

 「え、あ…うん…」

 「霞はさ、口は悪いけど、いいヤツだよ。うんうん。さてそいじゃ、柱島まで頑張っていこうかぁ」

 

 敷波はそう言うと両の手で顔を叩いて、気合を入れた。

 もちもちの頬っぺたが、おもちの如く揺れて、寒風を弾いてゆく。

 

 

 それから少しのち。

 豊後水道を抜け、伊予灘へと入った一行の前に、柱島から来た部隊が姿を現した。

 

 「ありがとうございました、鹿屋の皆さん」

 

 神通が深々と頭を下げる。

 引継ぎを済ませ、各々が別れを惜しみつつも、無事に還ってこれたことの喜びを噛みしめながら、鹿屋と呉の艦隊はゆっくりと離れていく。

 いくつか気になる情報を得もしたが、とりあえずは上々の結果であろう。霞は空になったテルモスを肩から下げると、腰に手を当てて、咳ばらいをひとつ。

 

 「それじゃ、帰るわよ。夕食には間に合うでしょ」

 「お腹空いたよー」

 「アタイもだぜ、今日は何かなァ」

 

 そんな言葉を交わしつつ進んでいく時津風たちを見ながら、初月が葛城に問いかけた。

 

 「ねぇ葛城。蒼龍さんが言ってたんだけど……今回呉の人たちをやったのって、ヲ級だって言うんだ」

 「ヲ級、ねぇ…不意打ちとは言え、対応出来ない相手じゃないでしょうに?」

 「うん…けど、おかしいんだよ。物凄い数の艦載機で攻撃してきたって…」

 

 空母である葛城は、同じ空母であるヲ級の弱点も、攻めるべきも知っている。きっと油断しちゃったんだよ、年末で忙しいからね…と、初月の言葉をあまり真剣に聞いている風でもない。

 それを受けた初月も、それ以上は話を進めることなく、黙ってしまった。

 

 しかし、その気の緩みが、葛城に手痛いしっぺ返しをもたらすことを、まだ彼女は知らない。

 昇った月は冷たく、鹿屋の面々を照らすだけであった。




 衛府の七忍の新刊がキレッキレすぎて最高でした。

 明日から29日まで仕事です…つらい…年末年始は書けるだけ書きたいところ。
 葛城はどうなってしまうのか。中破してもあの美しい腰から尻のラインが見れるだけだからヘーキヘーキ!
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