またお付き合い頂ければ幸いです。
「攻撃隊用意ッ! 加速……! 往け、箒星!」
海面にしっかと立ち、正しい姿勢でもって放たれた一矢は、流星(六〇一空)へと姿を変え、既に至近弾で動きを制限されていた敵旗艦、足柄へと襲い掛かる。
優勢であった制空権の助けもあって、流星は敵対する白組の対空迎撃を潜り抜け、足柄の直上から爆弾を投下した。
「やばっ…!」
さすがの足柄と言えど、無防備な状態でそれを受けては一たまりもない。爆発に巻き込まれ、そのまま轟沈判定を受ける。
『旗艦足柄、戦闘不能!』
「おっしゃあ! ぶっ飛ばすぞてめーらァ!」
「ヤイサホー!」
審判をしていた叢雲の声を受け、紅組は一気呵成に攻撃に出る。
旗艦を失った白組は、摩耶を始めとした艦艇の攻撃を受けて、そのまま崩れてしまった。
『勝負あり! 紅組の勝利よ!』
おおっ、という歓声が上がり、次いで、制空権争いや攻撃などで八面六臂の活躍を見せた葛城が、MVPに選出された。
相手方の千代田、隼鷹と干戈を交え、尚且つ一歩も退かないその姿勢は正に、正規空母の面目躍如たる務めであった。
旗艦を務めていた霞が、葛城の背を力強く叩いては「やるじゃない」と笑えば、他の者も口々に葛城の働きを賞賛する。
「あ、ありがとう…!」
「いンやァ、大したもんだよ葛城ィ! あたしらもそっちは葛城一人だからって、艦爆や艦攻多めに積んだのが裏目に出たなァ」
「紫電改じゃなくて烈風を積んでくるとは思ってなかったもんね…いつの間に使えるようにしてたの?」
「あ、あはは…雲龍姉とこっそり特訓してたんだ…」
真面目にやってはいても、これまでさほど活躍していなかった葛城に、先輩格の二人が手放しの賞賛を浴びせれば、彼女とて嬉しいのであろう。顔はゆるみ、上気してゆく。
『あーこちら寒村。水を差すようで悪いが、午後もVR演習が一件入ってるからね。各員すぐ戻って体を休めたら、選出されているメンバーは備えるように』
「おっと、そうだったわね。午後は大湊の連中が相手よ、あんた達! さっさと風呂に入ってお昼ごはん!」
サムソンの声を受け、霞が手を叩いて周囲の者を促す。
演習で破損した艤装は、深海棲艦どもの汚染の影響が無いため、すぐに修復できる。昼食が終わる頃にはもう、万全の状態で出撃することが可能となっているはずだ。
それぞれが引き上げて行く中で、葛城は拳をぐっと固め、掴んだ手ごたえを脳内で反芻するかの如く、リフレインさせていた。
そして午後、VR演習。
「初月! 対空!」
「ああ…見えてる!」
高速で動作する初月の眼球、その網膜に投影されたロックオンマーカーが、飛来してくる敵艦載機を捕捉していく。そこからもたらされる、敵機の種類、速度、降下角度、更には足下の波の動きなどを全て計算し、初月は艤装の左右にマウントされている長10cm砲ちゃんズに砲撃指示を出した。
ヴン、という剣呑な音が響いたかと思うと、都合4門の対空砲が火を噴いては、上空の敵機を叩き落していく。
防空駆逐艦たる初月の、正に真骨頂とも言える働きであった。
「よーし、こっちもやるわ! エンジン回せ! 烈風隊、発艦用意!」
そして、続けて射出された葛城の烈風が、残った敵機と交錯し、次々に撃墜すれば、相手はもうその制空権を取り戻すことは出来かった。
「制空獲ったわ! 比叡さん!」
「よーし! 弾着観測よろしく!」
「我輩も続くぞ! 時津風は比叡、初月は葛城、夕立は我輩につき、警戒態勢を取りつつ備えよ!」
「了解っぽい!」
「わかったよー!」
戻ってきた瑞雲を回収しつつ、利根が大声で指示を出す。時津風、夕立、そして初月はそれに従い、態勢を整えた。
制空権を奪ってしまえば、向こうの行動にも大きく制限がかかる。その機を逃すほど、鹿屋の面々も甘くはない。
そして比叡の放った一撃が、残っていた旗艦、伊勢に直撃して、決着はついた。
『やられたぁ……流石ね比叡、私たちもまだまだだわ…』
「いえ! 今回は初月と葛城が特に上手いことやってくれたから、勝てました!」
VR空間とは言え、勝負が終わればまるで本当の体のごとく近づけて、会話を交わすことが出来る。
伊勢は人の好さそうな笑顔を浮かべながら、初月と葛城を見た。
『なるほどねぇ…うちは航空戦がまだまだ発展途上だからね、そりゃ敵わないか』
「い、いえ…僕もまだまだ、訓練が足りていないから…必死でした。伊勢さん、皆さん。今日はありがとうございました」
「ふふーん! 葛城の実力、見てくれた!?」
『…はは、そうだね。いつか戦場で一緒になったら、頼りにさせて貰うわ』
「は、はい!」
「皆、ご苦労だった。特に葛城、君はここんところ、随分と活躍してるな。僕としても鼻が高いよ」
「べ、別にそんなこと……ちょっとはあるけど…頑張ってるから…」
「以前、呉の部隊を襲撃した深海棲艦どもが、また姿を現すかもしれない。葛城に限らず、各員しっかりと備えておくように」
サムソンの言葉に、皆が表情を強張らせる。
そう、依然として例の敵部隊は発見されていないのだ。無論、この海のどこかにある、本拠地に帰ったという可能性もあるが、だからと言って放置しておけば、また新たな被害者が出る。
大本営はこれを重く見て、鹿屋をはじめとした南方の基地、泊地に対し、警戒を強めるよう指示を出していた。
「大丈夫よ提督、初月が聞いた話によれば、敵は空母ヲ級を軸とした機動部隊だっていうじゃない?」
「ああ、呉の部隊からもたらされた情報にも、そういう記述があったね」
「だったらいくらでも、打つ手はあるわ。私と初月、それに雲龍姉と摩耶さんを討伐部隊に入れれば、十分対抗できると思う」
薄い胸を張りつつ、葛城は言う。しかしサムソンはすぐにそれを肯定したりはせず、あくまで部隊全体で取り組むべき問題だ、として、その場は終わりとなった。
「ちぇー、つまらないの」
「別に今から出撃する訳じゃないんだから…」
「そうだけどさ! でもいくら強いったってヲ級だよ? 姫とか鬼が出てくるんでもないんだから、さっさと討伐に…」
「葛城よ、調子が良くてノリノリになるのは良いが、あまり功を急ぐでない。急いては事をなんとやら、じゃぞ」
利根の言葉に一旦は大人しくなる葛城であったが、どうにも納得はいっていないようだ。彼女は踵を返すと、梓弓をくるくると回しながら、練習場へと消えていった。
「……葛城は確か、軍艦であった時は、殆ど実戦をしておらんのだったな」
「復員船としての方が有名だもんね。それが何か?」
「今の状況はそれこそ、『葛城』が望んでいたことであるとも言える。しかしのー…」
傍らにあったウォーターサーバーから水を汲み、利根は一息にそれを飲み干して、続ける。
「浮足立った者が足元を掬われるというのは、いつの時代、どんな戦場でもあり得ることよな」
「あー…なるほど」
「ま、本人のやる気を削ぐような事は言わんでもいい。比叡、ちゃんと見ててやるのじゃぞ」
「うん」
心地よい音を立て、矢が的へと突き刺さる。
葛城の姿勢は一分の隙も無く、美しい。矢をとり、つがえ、引き絞り、そして放つ。この一連の動作だけ見れば、彼女が尊敬してやまない先輩、瑞鶴のそれと比べても、決して見劣りするものではなかった。
「私はやれる。できる。私は強い…負けない」
的が剣山のようになった時点で、葛城はふと我に返った。一矢として外した矢はなく、全て的に収まっている。
もはや誰が相手であっても、引けを取らない。彼女はそう思った。
「お疲れ様」
そんな葛城の後ろから、声がかかった。
水とタオルを持って微笑んでいるのは、姉妹艦である雲龍であった。
「あ、雲龍姉」
「私もあっちでトレーニングしてたの」
「へぇ、そうなんだ。気付かなくてゴメン」
「あなた、集中していたもの。調子、いいみたいね」
あっち、と指さした先には、書庫と基地内神社しかないのであるが、葛城は取り合えずそれをスルーして、受け取ったタオルで汗を拭き、うん、と嬉しそうに頷いた。
調子に乗るな、と諭されれば、確かにその通りだと考える節もあるが、一番身近な雲龍に褒められるのであれば、その考えもどこかへ飛んでいってしまう。
期待に胸を膨らませ、葛城はまるで子犬のように、続く言葉を待つ。雲龍型…というより、最後に竣工した空母というだけあって、葛城はかなりの末っ子気質を持つ。良く言えば甘え上手、悪く言えば我慢のきかない質である。
しかし雲龍が紡いだ言葉は、そんな葛城に冷や水をかけるかの如きものであった。
「……けど、慢心はいけないわ」
「…えっ」
「演習はあくまで演習で、命のやり取りにまでは至らない。実戦とは違う」
ペットボトルの蓋を開け、雲龍は葛城にそれを手渡す。そして続ける。
「どんなに上手くやれても、死なないってわかった上での結果でしょう。けど、実戦はそうじゃないわ…演習で出来ていたことが出来ないことだってある。予想の上を行く事態が起きることだってある」
「……何が言いたいの、雲龍姉」
「浮かれることなく、あくまで謙虚でいなさい。最後の最後まで、それこそこの戦いが終わるまで…決して気を緩めず、常に考えて、生き延びることを」
笑顔から憮然としたそれへと変わっていく葛城の表情を知ってか知らずか、雲龍はとくとくと彼女を諭す。
血の繋がりはなくとも、魂は姉と妹である。彼女が現れた際、手放しで褒めてくれる、喜んでくれる…葛城は初め、そう思っていた。
しかし、そうではなかった。他の者が次々に口にしてくれた賞賛の言葉は、ついぞ雲龍の口からは出てこない。
明らかに声のトーンを下げ、葛城は雲龍に尋ねた。
「…雲龍姉は、私が調子に乗って浮かれてるって、そう言いたいの?」
「いいえ。例え調子がよくても、それで慢心するのはいけない。そう言いたいだけよ」
「…ッ! おなじ…同じことじゃない! なに、私は活躍しちゃいけないの? 喜んだらいけないの!? 艦隊の一つの部品として働いていればそれでいいって!?」
「……? そこまでは言っていないでしょう」
しかし葛城は、眉を吊り上げて、雲龍を見た。睨みつける、とまではいかないものの、爆発寸前の感情が、震える拳から見てとれる。雲龍は落ち着いて、と彼女を諭すが、その声は届いていない。
「そりゃあ、早くからこの部隊にいて、活躍してた雲龍姉から見れば、私がまだ未熟だなんてことは判ってるわよ! けど! だからって! ちょっとくらい褒めてくれたって……いいじゃない! 私だって! 必死に頑張ってるのに!」
「それは知っているわ。だからこそ、油断して欲しく…」
「もういいわよ、お説教なんてうんざりだわ! わかった、わかったわよ! まだ活躍が足りない、修行が足りないって言うなら、もっともっと戦って、あいつらをぶち殺してやればいいんでしょう! それこそ油断も慢心も無いってくらいに! そうよね! そう言いたいのよね、雲龍姉!」
「ちがう…」
「もういいッ!」
激昂した葛城はタオルを叩きつけるようにして返すと、梓弓を引っ掴んで、練習場の外へと出ていってしまった。
「……はぁ」
残された雲龍はため息を一つつくと、反対側にある射撃練習場に目を向け、そして口を開いた。
「ごめんなさいね、うるさくして」
「え、あ、う…?」
物陰に隠れていた初月が、狼狽しつつ姿を現す。手にはペットボトルの水が二つ、握られている。
「ぬ、盗み聞きするつもりは無かったんだ…雲龍さんと葛城が話を始めてたから、出るタイミングがわからなくて、それで」
「うん、こっちからはチラチラ見えてたわ。盗み聞きだなんて思っていないから安心して」
初月は水を傍にある冷蔵庫へと突っ込むと、雲龍の隣にちょこんと座る。姉妹喧嘩ともとれるそのやり取りを見てしまって、ばつが悪いのだろう、何かを喋ったりすることなく、ただ黙っているのみだ。
「提督は、私たち空母を運用する際、必ず摩耶かあなたを同じ艦隊に入れるわよね?」
「えっ、あ、ああ…そうだね。摩耶さんも僕も、対空迎撃が出来るから、でしょう」
「うん。結果、私たちの仕事がやりやすくなる。そして、艦隊の被害も抑えられる」
「けど、僕はまだまだだよ。摩耶さんには及ばない」
謙遜する初月に対し、雲龍は何も言わず首を振る。そして彼女の目をじっと見ては、口を開く。
「葛城が軍艦だった時のことは知っている?」
「うん。葛城だけじゃなく、鹿屋の皆のことは大体学んだよ」
「あの子ね、焦っているのよ。手柄を立てなきゃって……そうでなければ、存在している価値が無いって思っているのかも、しれない」
葛城の艦歴に関しては割愛するが、ともかくである。
自分を無価値、無意味と思い込んでしまうことは、多かれ少なかれ、誰にでもあることだろう。
戦いもせず、訓練に明け暮れ、戦いが終われば復員船という道しか残されていなかった葛城が、この世界に顕現し、再び戦うことになったにも関わらず、大した活躍も出来ないまま日々を過ごしているというのであれば、己の存在意義について疑念を抱くのも無理のないことと言える。
そしてその疑念を払拭せんと、躍起になるのもまた、無理のないことだろう。
「そんなこと…」
「そう。誰もそんなこと、思ったり言ったりしない。少なくとも鹿屋の皆はそうだと、私は思う」
「葛城は、それをわかっているのかな」
「わからない。私が言っても、無理かもしれない。だから、自分で気づくしかないのだと思うわ……でもね、それまでに、死んでしまっては元も子もないでしょう」
慎重なサムソンの性格を考えれば、死ぬ…轟沈するような事態にはならないとは思える。しかし戦場において、絶対、ということはない。雲龍はそれを憂いているのだろう。
雲龍は初月の手を取り、その金色の瞳でもって、改めて彼女の目をじっと見つめた。
「葛城を守ってあげて。もちろん、私が一緒に出ていれば、そうする。けどそう何もかも、思い通りにいかないのが普通でしょうから」
「雲龍さん…」
「そしてあなたも、ううん…私は、誰一人欠けることなく、最後まで戦えればいいなって、そう思ってる」
「それは、僕もだ」
「そうね。勝手なお願いだけれど、あなたは葛城と特に仲がいいし、頼むわね…本当に、手のかかる妹で、ごめんね」
初月は雲龍の手を力強く握り返し、頷く。
「言われなくとも、そうするさ。最後まで…僕が守ろう。それが駆逐艦の役目でもある」
一夜明けて。
クリスマスも目前に迫り、皆がそわそわした空気になりつつある鹿屋基地に、大本営からの命令が下った。
「あーみんなお早う。全員いるね。さて朝っぱらからいきなりだが、以前呉の部隊を襲撃した、例の空母機動艦隊が、哨戒の網に引っ掛かった」
「なんと! 昨日その話をしたばかりではないか」
「フラゲってヤツだな。アタイは詳しいんだ」
「フラグでしょ」
「えッマジか! クラゲみたいでかっこいいなって思ってたのに…」
「うるせぇぞ朝霜、黙って聞いてろ!」
摩耶の怒声が飛び、朝霜ははいッ! と叫んで居住まいを正した。それを確認したサムソンが、苦笑いを浮かべつつ、本日の秘書艦である隼鷹に指示を出す。
あいよ、と応じた隼鷹が装置をいじれば、大型のスクリーンに鹿屋基地の担当海域と、その周辺の地図をが映し出された。
「今朝、空軍の高高度偵察機が奴等を捉えたのは、ここだ」
サムソンは手元のタブレットとペンタブを使い、マップに当該海域をチェックする。
それは台湾とルソン島の中間にある、バシー海峡付近であった。
「バシー海峡…ですか。あの辺はとうに奪還していますよね?」
「ああ。ブルネイとタウイタウイの部隊、そして我々も当然ながら哨戒任務に就いているが…散発的に敵勢力が出てくることはあっても、強力なものではなかった」
サムソンは次に、呉の部隊が襲撃を受けた地点…沖縄本島と、その東に位置する南大東島の間の海域にチェックを入れた。
そしてレーザーポインターを取り出すと、バシー海峡とその襲撃地点含んだ部分をぐるぐると指し示す。
「我々は東シナ海からフィリピン海までの、このあたり…を、重点的に哨戒することになる」
「なるほど。しかし、フィリピン近海や南シナ海に出没する可能性もあるのでは?」
「それはもちろん、そうだ。なので、そちらの方はブルネイ、タウイタウイの部隊が哨戒にあたる。偵察機もいまだ上空で索敵を行っているが、最初の一回から、次の発見には至っていない。潜航しているか、あるいは何らかの方法でレーダー網から隠れているんだろう。雲も多いしね」
その言葉に、艦娘たちは様々な反応を見せて、傍の者たちとあれこれと議論を始める。
サムソンは少しの間それに任せ、タブレットに目をやる。
「三つの部隊を出して、それで捜索するって感じになるんですか?」
やがて喧騒が収まると、山城が手を挙げてそう言った。
サムソンはいや、と首をふると、一歩前に出て口を開く。
「まず、二つの艦隊を編成し、哨戒に当たってもらう。そして残ったものは、いつでも出撃出来るように待機していてもらう。相手の戦力はまだ不透明だから、自由に動ける艦隊は一つ残しておきたい」
「心得た。では哨戒にあたる人員…都合十二名を、これから選ぶというわけじゃな」
「そういうこと。まぁ、粗方目星はつけている。名前を呼ばれた者はそれぞれ準備に入ってくれ」
第一艦隊 旗艦摩耶 山城 利根 夕立 千代田 雲龍
第二艦隊 旗艦比叡 初月 霞 隼鷹 葛城 足柄
「とりあえず、この編成で行こうと思う。何か意見はあるかい」
「いいんじゃねーの。しかし意外だな、呉の連中が意趣返しに出るもんだと思ってたが」
摩耶の意見ももっともである。しかし軍隊というものが、一時の感情で動いては意味がない。呉から当該海域までは大分距離があり、いざ戦闘となった時に、燃料が不足していては元も子もないからだ。
輸送艇を出せばいいのでは、という意見も出るには出たが、輸送艇に乗っている際に不意打ちを受ければ、一網打尽にされる恐れがあるということで、今回は見送ることになった。
「意見が無ければ作戦会議は終わりだ。それぞれ準備に……うん? 葛城、どうした? 体調でも悪いのかい?」
一言も発さず、隅っこで険しい表情をしていた葛城を、サムソンは見逃さなかった。
しかし葛城はその心配をよそに、「問題ないわ」とだけ返すと、そのまま立ち上がって、ブリーフィングルームから出ていってしまう。
「…叢雲、ちょっと」
「うん? 何?」
サムソンは叢雲を呼ぶと、耳打ちをするようにして尋ねる。
「…セクハラだと思わんでおくれよ?」
「何よ、今更。誰もそんなこと言わないから安心なさい」
「…葛城、もしかして、女の子の日か?」
艦娘と言えど全身鋼鉄で出来ているわけではない。普通の女性と同じように、月経というものがあるのだ。
当然そうなれば、体調にも影響が出る。不調にもなる。戦場に立つことすらままならなくもなる。
それが大事な作戦行動の前であれば、なおさらよろしくない。それ故、司令官たる立場のサムソンは、たとえ男性であっても気を配らねばならない。
普段は叢雲に任せっきりにしてはいるが、今の葛城の様子は普通ではない。サムソンが気にするのも無理はないことだろう。
「いや、違うわね。あの感じは誰かと揉めたか、そんなとこじゃないかしら」
「なるほど…それは気になるね。しかしどうする…編成から外すかな?」
「葛城、戦闘の方は調子いいんだし、様子を見てから決めましょう。とりあえず、足柄や隼鷹にはそれとなく言っておくわ」
「わかった、頼んだよ」
叢雲は頷くと、持ち場へと赴く艦娘たちに混じって、部屋を出ていった。
サムソンは腕組みをしてしばし黙考をしていたが、やがて両の頬をぱしんと叩くと、よし、と気を吐いて、司令室へと戻っていく。
「第一艦隊、点呼取るぞ。山城ー」
「はい」
「利根ー」
「いつでも行けるぞ」
「夕立ィ」
「ぽい!」
「千代田ァ」
「頑張るよ!」
「雲龍ー」
「……」
名前を呼ばれた雲龍だが、隣の出撃ドックを気にしているようで、返事をしない。
摩耶は怪訝な顔をしつつも、咳払いをしてもう一度、雲龍を呼んだ。
「あ、はい」
「アッハイじゃないよお前。どうした、ぼーっとして」
「ごめんなさい、ちょっと」
「具合でも悪ィのか? アレだったら変えてもらうけど」
タブレットでつんつんと肩のあたりを突かれ、雲龍が笑う。そして一言、大丈夫、と。
「そか? ならいいがよ。夕立、お前雲龍の直掩に着け、いいな」
「了解っぽい!」
「大丈夫よ摩耶、本当、何でもないの」
「るせぇ、もしヲ級の相手をすることになったら、お前と千代田がこっちの生命線だ。温存すんのは定石だろうがよ。はいそんじゃもう一度点呼。雲龍!」
口調は乱暴だが、怒っている訳ではない。摩耶も鹿屋草創期からの古参なので、そこのところは皆判っていて信頼している。
雲龍は若干照れくさそうに頷くと、きっと摩耶の目を見て、「はい」と力強く答えてみせた。
一方、第二出撃ドック。
「はーい、全員いるね。体調悪い人はいない? いたら言ってね。トイレ行きたい人は今のうちだよ」
点呼を取り終え、いつもの調子で仕切る比叡。彼女は戦場であっても明るさを失わず、それがかえって皆の力を引き出すことが多々ある。
当然ながら、今回も皆の士気は高い。
そうこうしていると、足柄が葛城に近づいては口を開いた。
「葛城、あなたちょっと体調悪いんじゃない?」
「え、な、何で…?」
「いや、何となく。いつもならもっとこう…しゃいしゃいしゃーす! みたいな返事するから」
「そんなこと、そんなことないよ!」
足柄に尋ねられ、葛城は若干うろたえつつもそう答える。既に叢雲から個人回線で連絡を受けていた足柄は、訝し気に葛城を眺め、ふむ、と頷いた。
確かに、先ほどまで浮かべていた険しい表情ではなくなっている。生理が始まった訳でもない。ではなんだろう…と、足柄の目はそう訴えているようでもある。
「心配要らないったら! それにほら、確実に戦うってワケでもないんでしょう? 哨戒、哨戒」
「それはそうだけど。だからって絶対に戦わないってこともないのよ」
「それは判ってるけど。とにかく、私は大丈夫! 艤装も艦載機も万全なんだから」
足柄はちらりと比叡に目配せをし、やがて軽く笑っては、葛城の肩を叩いた。
「そうね。頼りにしてるわ、葛城」
「任せておいて! 隼鷹さんと一緒にめっちゃ頑張るから!」
「おっ、頼もしいねェ。んじゃ比叡、そろそろ行けるんじゃないか」
「そうだね、あとは司令からの合図待ちって感じかな。霞、初月もいいね?」
拳を二度三度繰り出し、比叡が言えば、霞と初月の両名も力強く、頷いてみせる。
午前9:05──
鹿屋の長い一日が、始まろうとしていた。
ガオガイガーFINALに始まり劇ナデやラーゼフォン、果てはジョジョの一挙までやってて始末が悪い…
今回はかっこいい雲龍が書きたくなったので書き始めました。
碧と銘打ってますけど雲龍の雷ってもっと明るい色ですよね。
まぁノリでお願いします。
ご意見ご感想ありましたらお気軽にどうぞ。