鹿屋デイズ・鹿屋ライフ   作:ミギー・ドン

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 遅くなりました。

 最近は寒くて嫌になります。早く春にならないものか…しかしスパロボVとモンハンが控えているという…
 頑張って書きます!


碧雷(2)

 

  『あーこちら第一艦隊、摩耶だ。準備は出来た、いつでもいけるぜ』

 『第二艦隊も準備完了です!』

 

 インカムから聴こえてくる摩耶と比叡の声に、サムソンは頷き、傍にいて各艦隊のオペレーターを務める叢雲と矢矧に、出撃ドックのゲートを開くよう指示を出した。

 

 「それじゃあ第一艦隊から順次出撃。第二艦隊は第一の5分後に出撃…予定されたルートをゆっくり進んでくれ」

 『摩耶了解! んじゃ行くぜ!」

 「進路クリア、第一艦隊発進いいわよ」

 

 海面に面した岸壁にある、重厚な鉄の扉が開いたと思うと、第一艦隊が勢いよく飛び出してくる。

 陣形は単縦陣。基本的ながらも攻撃力に優れた陣形で、とりあえずこれを選択しておけば間違いはない。しかし今回は戦闘というよりは哨戒任務であるから、必ずしもこの陣形を選ぶ必要はないのであるが…そこはイケドンな摩耶の性格ゆえだろう。

 

 「さて、どうなるかな…」

 「提督はいきなり会敵出来るって思ってるの?」

 

 椅子に腰かけ、誰ともなしに呟いたサムソンの言葉を、矢矧が拾う。案外率直に物をいうタイプの矢矧ゆえ、ともすれば遠慮なしと思われることもある。

 しかしサムソンもそんな事はとうの昔に理解しているので、腹を立てるようなことはない。

 

 「どう、かな。何もかも、全て上手くいくだなんてことはないと思う」

 「そりゃそうでしょう」

 「だからまァ、色々考えなきゃいけないよね。叢雲、空軍からの報告は」

 「今のところ無いわね、あちらさんも本気でやってんだか、どうか」

 

 ややあって、出撃して行く第二艦隊を見送りつつ、サムソンは席を立った。

 

 「ちょいと一服してくる。すぐ戻るよ」

 「はいはい」

 

 画面から目を離すことなく、叢雲が返した。

 

 

 「ふー…」

 

 喫煙ルームの窓から見える空は、薄曇りである。予報によれば午後からは雨だという。

 サムソンは肺一杯に吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出しつつ、アゴヒゲをいじる。彼が考え事をする時のクセである。

 

 呉の部隊が襲撃を受け、敗走した。相手はヲ級という報告が上がってきている。しかし正規空母まで擁した部隊が、そう簡単に負けるだろうか。雷が鳴っていた。バシー海峡付近に出現した。その意味はなんだ。過去の事例と関係があるのか。

 

 などと、考えてはみるが、まとまらない。優秀な指揮官ならばもっと、うまく立ち回れるのだろうが…とも考える。

 しかしサムソンはそれを引きずるようなタイプではなかった。出来ないならば出来ないなりに、やり方を考える。周囲に助力を仰ぐ。情けないと思われる節もあるが、そのような事は彼にとって些末なものであった。

 

 

 「万が一には備えないとダメか」

 

 聞くものなどいないが、サムソンはそう口にした。それは己自身に言い聞かせるためでもあり、ことの重大さを改めて認識するためのスイッチでもあった。

 サムソンは半ばまで吸った煙草を灰皿でもみ消し、消臭スプレーを体に吹きかけると、喫煙ルームを出た。

 

 

 「すまん、戻った。状況に何か変化は?」

 「たかだか5分である訳ないでしょ」 

 「はは、それもそうだ。さて、ちょいと通信室に行くよ、何かあったら呼んでくれ」

 「了解」

 

 タブレットを片手に、サムソンは司令室の隣にある通信室へと入った。

 そして、呉との回線を開く。

 

 『はい、こちらは呉鎮守府。秘書艦の陸奥です』

 「おはようございます。鹿屋基地司令、寒村です」

 『あ、寒村中佐。おはようございます。この前はうちの子達がお世話になりました』

 「いえいえ、とんでもない。当然のことです……して、塚原少将はおいでですか」

 『はい、少々お待ち下さい』

 

 

 

 

 鹿児島県は中之島、その南西の海上。

 

 「うぅ、寒い~!」

 「アホか夕立ィ! ヒーター使えヒーター!」

 「点けてるよぉ! 私の艤装、ヒーターあんま効かないっぽい~…夏はめっちゃ涼しいのに~」

 「帰ったら見てもらえ! とにかく凍えて戦えないなんてなァ、ただの馬鹿のすることだぞ」

 

 先頭を進む摩耶と、その後ろにつく夕立の会話を聞きつつ、雲龍は空を見上げた。

 彼女はその名が示すように、雲の流れを『読む』ことが出来る。雨や雪が降ったり、雷が鳴ったり…というのは、気象予報でも判ることであるが、その雨や雪がどれくらい降るのか、どの程度で止むのか、ということまでを瞬時に理解できるのは、艦娘多しと言えど雲龍ただ一人である。

 しかし何故そんなことが出来るのか、という疑問については、彼女自身、まるで覚えていない。

 

 実のところ、雲龍は鹿屋へ来る前の記憶を保持していなかった。

 マニラ沖でたゆたっていた『雲龍』の魂は、鹿屋の部隊に解放され、既にサルベージされていた艦体に戻って、『艤装』として出力された。それ自体は特におかしな事ではない。

 しかし、雲龍には…正確に言えば、雲龍になった『適合者』の記憶であるが…ともかく、それが『ない』のである。

 空母としての『雲龍』が辿った記憶や知識はある。しかし、肝心の中の人の記憶が『ない』。

 サムソンに頼んで閲覧させて貰った、己自身のデータによれば、艤装の目覚めと共に、大本営を訪ねてきたのが、『適合者』であると記されているだけであった。戸籍や出生地、両親などのデータはまるで残っておらず、それこそ雲のように、突如として発生したかのようでもあった。

 そして艤装を纏って、『雲龍』となってからのことについては、彼女もしっかりと記憶を保持している。

 

 「雲龍さんは寒くないっぽい?」

 「……え、ああ。平気よ。寒いのには慣れてるの」

 「そんな薄着なのにねぇ」

 

 寒がりな千代田が、ポケットに手を突っ込んだまま笑う。絡繰式の飛行甲板は艤装腰部のハードポイントにマウントされ、まるで行商のおばあちゃんみたいな出で立ちである。

 

 「私、案外、スウェーデンとかの生まれだったりして…」

 「あぁ、確かにそんなところあるわね…服装は中華っぽいけど」

 「ってか雲龍、お主実は記憶あるんじゃないのか」

 

 インカムから山城や利根の声も入ってきて、艦隊はにわかに賑やかになる。艦娘になる前にどのような人生を送っていたか、ということについては、口にしないという不文律もあったが、本人からそんな言葉が出れば、それに乗らないというのもかえって付き合いが悪い。

 しかしそれもつかの間のこと、摩耶の声で艦隊は静まり返る。

 

 「ヒトマルマルマル、定時連絡だ。叢雲か? こちら第一艦隊だ。異常はないぜ」

 『こちら司令部、現在位置は中之島沖ね。空軍からも今のところ発見報告は無いわよ。そのまま哨戒を続けて頂戴』

 「第二艦隊の方はどうだ?」

 『そちらと同じよ』

 「そうか、わかった。以上、通信終わり」

 

 摩耶はそう言うと一同を見回し、先頭を切って海原を進み始めた。

 風は強く、気温も低いが、士気は低くない。もし接敵したとしても、万全の状態で戦うことが出来るだろう。

  

 

 

 

 「あーこちら比叡。ヒトヒトマルマルの定期連絡です。現在位置は奄美大島近海。司令部どうぞ」

 『はい、こちら矢矧。何か異常はあったかしら』

 「今のところそれらしきものは無しだねー。空軍さんはどう?」

 『これから南下するそうよ。そちらの航路と被り気味になるけど、まぁ仕方ないわね』

 「そっか、わかったよ。それじゃあ通信終わり」  

 

 比叡はそう言って通信を切ると、腰に手を当てながら振り返った。

 

 「特に異常なし。それじゃあ皆、このまま進むよ!」

 「あいよ! に、しても寒いなァ、一杯やりたくなるねぇ」

 「それはわからないでもないけど…とりあえずそのスキットルはしまいなさい」

 

 足柄に注意され、隼鷹がへいへい、と笑いつつスキットルをしまう。呑兵衛な彼女は常にそれを持ち歩いており、隙あらば飲もうとする。酔っぱらって事に当たるなど、普通ならば許されることではないが、隼鷹はかの酔拳の如く、酔えば酔う程に戦果を上げる、というデータがあった。

 比叡は苦笑いをしつつも前を向き、そして波を蹴立てて進み始めた。

 

 

 

 

 午後12:06

 

 「叢雲、最新の天気図をこっちに回してくれないか」

 「いいわ、ちょっと待って…はい」

 「すまない。矢矧は先に昼食を」

 「正午の定時連絡も済んだし…そうさせて貰うわ。すぐに戻る」

 

 ヘッドセットを外し、矢矧は席を立つ。代わりにサムソンがその席へと座り、手にしたタブレットとにらめっこを始めた。

 先ほどから彼は、哨戒圏内の過去数年分の天気図を眺めては、何事かを考えているようであった。

 

 「天気がそんなに気になる?」

 「ああ…いやね、霞から聞いたんだが、呉の神通さんは『雷が鳴っていた』って言ってたらしいのよ」

 「近くに雷雲が発生していたんでしょう?」

 「そう思うんだけどさ、でもその日時の天気図や、過去の同じ時期の天気図を見ても、雷雲が発生していたなんて記録はないんだよな…だから、ちょいと気になってさ」

 

 アタマノウエニウイテルーノを深緑に染め、叢雲が黙考する。そしてすぐに、手を叩いた。

 

 「深海共が意図的に、ごく短時間だけ発生させてたってこと…?」

 「可能性はなくもないだろうね。だから注意だけはしておきたくてさ…雷雲でなくても、雨になれば空母部隊は戦いづらくなる」

 「なるほどね……けれど、雷雲を発生させるだなんて、それこそヲ級なんて目じゃない強力な…」

 

 その時、叢雲の言葉を遮るように、緊急の通信を告げるアラートが鳴り響いた。

 サムソンはすぐにチャンネルを開き、モニターを凝視して受け答えを始める。

 

 「こちらは鹿屋基地司令部です」

 『海軍総司令部です。空軍の哨戒機から連絡が入りました』

 「ええ、何か異常がありましたか」

 『そちらの第二艦隊の進路上に、急速に発達している雲があるとのことです。画像並びにデータをお送りしますので、お役立て下さい』

 「……了解しました。こちらでも確認します」

 『ご武運を。通信終わります』

 

 ふうっ、と息を吐き、サムソンは険しい表情で、キーボードを操作し始めた。

 

 「沖縄に近いわね…案外、当たりだったりして」

 「ただの雲であればそれでいいんだがな。あーこちら寒村、第二艦隊応答せよ」

 

 

 

 

 「曇ってきたなァ」

 「雨、降りそうね…空母部隊は雨、嫌いでしょう?」

 「別に、関係無いわ。竜巻や霰が降るってんならまだしも」

 

 足柄の問いに、葛城はにべもない。

 やはりどこかおかしい、そう感じたのか、足柄が葛城の傍につけて口を開いた。

 

 「もしかして、だけど」

 「……うん?」

 「あなた、雲龍と喧嘩したでしょう?」

 

 その問いに、葛城の表情に翳がさす。図星か、と言わんばかりに足柄は苦笑して、風に乱れた髪を整えた。

 鹿屋基地における年長組…いわゆる二十歳以上の女性は三人いて、ややスパルタな面のある摩耶、とぼけているようで意外と老獪な利根、そして足柄は包容力のある姉、といった立ち位置である。

 そんなだから、足柄はおとなしめの艦娘達から、よく相談を持ち掛けられていて、それに対するアンサーの引き出しも多い。葛城の様子を見て、どこかおかしいなと察したのも納得のいく話である。

 

 「ちょっと、だけ」

 「やっぱりね。お姉さんそういうのすぐわかっちゃうな」

 「か、からかわないでよ」

 「んふふ、ごめんごめん。どうして喧嘩したとか、そういうの聞きたいんじゃないから安心して……基地帰ったら、仲直りするのよ?」

 

 和解を促す足柄だが、葛城は無言のまま、首を縦にも、横にも振らない。

 思いつめた目はどこか悲し気で、それが足柄の庇護欲に火をつける。

 

 「なにか、理由があるのね」

 「……それは」

 「ま、いいわ。そういうのって、一朝一夕で解決するようなものでもないし……ン」

 

 足柄は言葉を遮り、インカムに人差し指を添える。

 基地からの緊急連絡であった。

 

 「こちら比叡、司令?」

 『第二艦隊は一旦その場で停止。現在位置は沖縄近海だね…ところで、周囲に異常は無いか?』

 「いえ……今のところありません。何かありましたか?」

 『空軍から報告があった。そちらの進路上に、急速に発達している雲があるらしい』

 

 その言葉に、皆が一斉に前方を注視する。どんよりと曇った空であるが、それらしき雲は見当たらない。

 比叡はその旨を告げるが、サムソンの口調は明るくはない。

 

 『ともかく、何か嫌な予感がする。十分に注意して進んでくれよ』

 「はい、了解です。第一艦隊の方はどうですか」

 『あちらは特に異常は無いようだが…何かあれば指示を出すよ』

 

 その時。

 サムソンからの通信が終わる間際……その瞬間、である。

 

 「あ、あれ! あれ見て!」

 

 初月が大声でそう叫んだ。

 彼女が指さす先には、低い位置で急速に形成されつつある、渦状の黒雲が見て取れる。

 

 「! 司令!」

 『どうした』

 「重金属雲……でしょうか? 過去の大規模作戦で、同じようなものを見ました! 映像送ります!」

 

 比叡が艤装の高精密カメラを起動し、その映像をリアルタイムで基地へと送信し始める。

 初月と霞が前に出て、即応体制を取れば、残る面々も各々の艤装を戦闘コンディションへと移行させてゆく。発達する黒雲は、やがてゴロゴロと音を立て始め、それに呼応するかの如く、霧のような雨が舞っては落ちてくる。

 

 「司令、これはおそらく戦闘になるかと思います」

 『そのようだね。第二艦隊は原速で接近、警戒しつつ戦闘態勢を取ってくれ』

 「了解です。艦隊、複縦陣に変更! 対空警戒を厳として!」

 

 午後12:10

 第二艦隊、接敵予測。

 

 

 

 

 「摩耶了解、通信終わり」

 「向こうが当たりを引いたっぽい?」

 「あァ、そうみたいだな。確定ではないからこっちも哨戒は続けるが…進路を少しばっかり、第二寄りに変えるぞ」

 

 艤装のチェックをしつつ、摩耶が指示を出す。第二艦隊とて強者揃いであるから、そう簡単に後れを取るとは思えない。しかし、だからといって、何も対策を打たない訳にもいかない。

 

 「今の通信内容から察すると、やっぱり敵は何かしらの天候操作が出来るみたいね?」

 「そうじゃのー、厄介な相手やもしれん」

 

 山城がそう言うと、利根も拳を掌に打ち付けてそれに同意する。こちらの思惑を上回る何かがいる、という考え、それ自体はよいが、確認が取れている訳ではない。思い込むことは危険だ。

 摩耶はそれを危惧したのか、強い口調でそれを諫めた。

 

 「だから確定じゃないってんだろ。温暖化が進んで、気象にも影響が出てるなんてなァ、ガキの頃から学校で習ってるじゃねえか」

 「でも、だからといって、何も無いところからいきなり雷雲が発生するだなんてこと、ある?」

 「さァな、あたしゃ別にお天気博士じゃねえからよ。その辺は雲龍に聞いてくれ……ともかく、第二の連中がヲ級の顔を拝んで、その他の証拠が出そろうまでは、他の可能性もあるってことを忘れるな」

 

 摩耶はそう言い切ると、第二艦隊のいるであろう方角を一瞥しては、きっと前を向いて進み始めた。

 不安はあれど、ここから何かを出来る訳でもない。

 

 

 

 

 「見えたわ! 1時の方角、距離2000!」

 「了解! 全艦戦闘準備! 葛城、隼鷹の両名は航空戦の準備を! 初月、霞はまず対空警戒!」

 

 霞からの報せを受け、比叡は各員に指示を出す。

 葛城は梓弓をぎゅっと握りしめ、『十万四千度御祈祷大幣』と刻印された矢筒から矢を数本取り出しては、身構える。

 来るならこい、といった気概が迸り、葛城の美しい黒髪の先端が、余剰なエネルギーを放出しては蒼く輝いた。

 

 「空母部隊了解! 葛城! あたしは今回、攻撃寄りのセッティングだからね、制空の方はあんたがメインだよ!」

 「わかってる…!」

 

 そして奴等は、黒雲を頭上に抱き、その姿を現した。

 

 「戦艦ル級確認…数、2! 他には…輸送ワ級1、駆逐ロ級3!」

 

 隼鷹が放った彩雲、並びに己の零観から上がってきた報告と、目の前の状況を擦り合わせ、比叡が首を捻る。

 呉の部隊、強者である蒼龍すら凌駕したという、問題のヲ級が見当たらなければそうもなろう。

 

 「あれ? ヲ級がいないみたいだけど?」

 「まさか、陽動…?」

 「けど、奴等があんな雲を起こせるとは思えないわ。重金属反応もそこまで高くないし…」

 「それは、そうだけど…ともかく! 艦隊、攻撃開始!」

 

 議論をしている暇などない。艦隊は速度を上げ、大きく迂回しながら交戦状態に突入する。

 敵に空母がいないのであれば、例え戦艦がいようとどうにでもなる。葛城は複雑な表情を浮かべつつ、手にした矢を番え、引き絞った。

 隼鷹もスクロール甲板を展開し、袖口から取り出した式神に呪(まじない)を込めて、その上を滑走させて射出する。

 

 隼鷹の流星並びに天山と、葛城の流星改が射出され、敵部隊に突撃してゆく。向こうには艦戦…というより航空機がいない為、制圧することは容易い。

 

 「制空権確保したわ!」

 「あちらさんの対空迎撃も大したことないね! このまま仕掛けるよぉ!」

 

 言うが早いか、敵艦隊に大量の爆弾が降り注ぐ。水柱が噴き上がり、ついで爆炎が炸裂する。

 盾になって前に出ていた駆逐艦どもが、断末魔の咆哮を上げて海中に没していく。

 

 「駆逐ロ級撃沈を確認…数、2!」

 

 観測していた霞から、戦果報告がもたらされると、比叡は更に速度を上げて、部隊を直進してくる敵艦隊の右舷側につける。

 

 「反航戦! 距離は…やや遠いか。霞と初月は警戒態勢のまま! 比叡、砲撃戦いけるわよ!」

 「よし! よーく狙ってぇ……撃てぇ!」

 

 艤装を展開させた比叡、並びに足柄の主砲が火を噴いた。

 午後12:34

 第二艦隊、戦闘開始。

 

 

   

 

 「始まったわ、今のところ優勢ではあるみたい」

 「第二艦隊はそのまま戦闘続行。第一艦隊はどうだい」

 「相変わらず、ね。しかしヲ級がいないのが気になるわね…」

 

 顎に手を当て、叢雲が言う。複数の部隊が遊弋していたのであれば、おかしくはないが、他に敵影は見当たらない。時折入ってくる、ブルネイやタウイタウイのからの報告にも、交戦している部隊はない。

 空軍からもたらされた発見報告に誤りがあったか、あるいは別のヲ級であったか…サムソンも叢雲と似た様なポーズで考えを巡らせる。

 

 「陽動か、あるいは…」

 「ともかく、警戒するに越したことはないわね。天気も荒れてきてるし…」

 「そうだな。第一艦隊にはその旨伝えてくれ」

 「了解」  

 

 午後12:46

 

 「第二艦隊は優勢みたいだな」

 

 叢雲からの通信を受けた摩耶が、若干嬉しそうに告げる。ヲ級がいないので、本命の部隊ではない…という報せももたらされてはいたが、それと戦友たちの活躍は別腹である。

 もし発見、交戦に至らずとも、無事に帰ることが出来れば、機会はまたくるのだから。

 

 「けど、進路は変えないっぽい?」

 「あァ、もう少しすりゃあ台湾だ。バシー海峡の哨戒が終わるまでは気を抜くな」

 「了解」

 「葛城のこと、心配か?」

 

 不意に、摩耶がそう雲龍に尋ねた。

 ただでさえ口数の少ない雲龍が、先ほどから発するのは、『了解』のみである。それ以外は空を見上げたり、遠くを見つめていたりと、どこか様子がおかしかった。摩耶はそれに感づいたのだろう。

 

 「少しだけ、ね」

 「葛城と何かあったか? あいつ、朝からちょいと様子ヘンだったもんな」

 「……ちょっと、言いすぎちゃったみたいで」

 

 三つ編みの先をくるくるといじりながら、雲龍は言った。その表情はどこか寂し気で、申し訳なさそうでもある。

 

 「口喧嘩でもしたかよ。でもお前から仕掛けるとも思えねーし、葛城に何か言われたのか」

 「ううん。私の言い方がよくなかったみたい」

 「ほー…まぁお前ら二人、仲いいもんな。だけど喧嘩の一つや二つ、まるでしねぇってのもおかしいだろ」

 

 足柄や比叡としょっちゅうやり合ってる摩耶が言うと、妙な説得力がある。雲龍はそうね、と笑って答えた。

 

 「葛城も葛城でよ、強気なようで案外素直だからな。誰かと言い合いしてるのなんざ見たこともねーよ、提督にゃ割ともの言うけど……ともかくさ、殴り合いつかみ合いの喧嘩したってんならともかく、口喧嘩なんざ、普通に生きてりゃ誰だってすんだろ」

 「うん…」

 「向こうだってお前と同じように、言いすぎたなって思ってるかもしんねーだろ。戻ってちっと話してゴメンナサイすりゃいいって話だよ。言いづらいってんならあたしが付いてってやっから」

 

 旗艦として、コンディションのよくない僚艦を気遣うのは当然のことと言える。しかし摩耶は例え旗艦でなくともそうしていただろうし、もっと言えば鹿屋にはこういった気風の者達が多い。

 艦娘は助け合いだと、サムソンは何処かで聞いたような文言をよく口にするが、それが多かれ少なかれ、彼女たちの心に影響を与えていることは間違いのないことだろう。

 雲龍は照れくさそうに笑うと、ゆっくりと頷いて「ありがとう」と、摩耶に言った。

 

 「よぅし! んじゃーさっさと台湾方面、終わらせちまうか! 艦隊、速度上げ!」

 

 

 

 

 午後13:15

 

 「ル級撃沈! 残りは戦艦1に輸送が1!」

 

 初月の緊張した声が響く。航空機が進行ルートを制限したところで足柄が副砲で足を止め、比叡が必殺の徹甲弾で相手を射抜く、単純ながら強力な戦術の前に、ル級と言えど一たまりも無い。

 残りは二隻、こちらは隼鷹が流れ弾で小破したものの、他は健在とあれば、もはや勝負は見えている。

 比叡は艦隊の速度を落として調息しつつ、空を見上げた。

 

 「本降りになる前でよかった」

 「輸送ワ級大破! あとは戦艦だけよ!」

 「おっと…!」

 

 気を抜きかけた比叡が、霞の声に姿勢を正す。魚雷が刺さったのか、黒煙を上げながらワ級がゆっくりと下がっていく。その上空に張り出した黒雲がどこか不吉だが、こうなってはどうすることもできないだろう。戦艦を倒したあと、雷撃で処分すればいい。

 比叡は装填の済んだ主砲の先をル級に向け、照準装置とリンクさせる。

 が、発砲の必要はなかった。

 葛城の放った一矢が再び流星改となって、ル級の直上から突入してゆく。薄暗い空を切り裂いて降下していく様は、正に流星の名に相応しい。

 そして、爆発。ル級は金切り声を挙げつつ海中に没し、葛城はふんっ、と鼻息を荒くする。

 

 「ル級撃沈! 比叡、あとはワ級!」

 「よーし、艦隊原速に速度落として! 雷撃で処理するよ!」

 「初月了解。僕がやる」

 

 言うが否や、初月は背を向け、背中の魚雷発射管をワ級に向けた。

 そして発射された魚雷が、もはや浮いているだけのワ級の足下で炸裂する。

 

 「よし…」

 「戦闘終了、ね。はぁ、うまく行ってよかったわ」

 

 葛城の言葉に、足柄や隼鷹も同様の反応を見せる。

 他の艦艇より一回り以上大きなワ級が、炎に包まれてうめき声を上げる。いくら敵と言えど、それは聴いていて気分のいいものではない。比叡は残弾や燃料のチェックを指示しつつ、進むべき方角を見据えて、進行命令を出した。

 その瞬間。

 

 何か、凄まじく速いものが、艦隊の背後から飛来しては、列からやや外れた位置にいた隼鷹の背中に直撃した。

 

 「え?」

 

 大爆発を起こし、隼鷹が転がる様にして海面を跳ねる。

 

 「……え?」

 

 艤装から発せられ、彼女らを護る『障壁』には、自動で防御をする機能もあるにはあるが、意識の外からの攻撃に対しては、さすがに脆い。

 鳴り響くアラートと、その爆発に、比叡達は一斉に後ろを振り向いた。

 

 ワ級の大きく膨らんだ腹が裂け、そこから、まずどす黒い血にまみれた手が。

 そして一度見たら忘れない、あの頭部のユニットが姿を現す。

 

 「な……!?」

 

 更にその下の、人とそう違わないつくりの顔が。

 胴体が。

 

 「ハアァ……使エナイ奴等ダ。モット数ヲ減ラシテクレルモノダト、思ッテイタンダガナ」

 「ヲ級……!」

 

 金色のオーラを身に纏い、全身に付着したワ級の血を蒸発させながら、空母ヲ級が誰ともなしに呟く。

 頭上の雲は時折、ゴロゴロと音を立て、今にも雷を発しそうである。

 

 そしてヲ級は、目の前にいる比叡達を確認すると、歓喜とも、殺意ともとれる感情を宿らせた表情を見せた。

 

 「マァ、イイカ。サァ、始メヨウジャナイカ……」

 「艦隊戦闘準備ッッ!!」

 

 比叡の怒声が、空気を切り裂いて轟いた。

  




 実際ゲーム上で、改とはいえヲ級単品なんて出されても瞬殺でしょうが、そこはお話の都合上お許し下さい。

 前回のイベントで散々痛い目見せてくれたヲ改め! ゆるさん! という思いはあります。
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