鹿屋デイズ・鹿屋ライフ   作:ミギー・ドン

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 作中の理論などはフィクションです


ドッキングセンサースタンバイ・後編

 前回のあらすじ

 

 駆逐戦艦ひえしも!

 それは比叡と清霜を組み合わせた全く新しい艦船である。

 似たようなものとして忍法と空手で忍空、

 カツとカレーでカツカレー、

 ランダとバロンでシヴァなどがある。

 

 

 

 これ以上ないドヤ顔を晒し、比叡と清霜(以下ひえしも)は摩耶と他のメンツを睥睨した。

 野心である。野心がモルヒネのように羞恥心と細かい理屈その他諸々を麻痺させているのだ。

 

 「……それで?」

 

 怒りではなく呆れから、摩耶は言う。合体してどうなるものか、と、彼女の目はそう語っているようだ。

 その目に見据えられて、ひえしも(Aメカ)は思わず口ごもるが、上にマウントしたひえしも(Bメカ)はそんなものを歯牙にもかけず、早口でまくしたてた。

 

 「比叡さんの137,970馬力+あたしの52,000馬力で189,970馬力! いつもの高さの二倍が加わって379,940馬力! そしていつもの三倍の…えーと…何だっけ?」

 「三倍の回転」

 「そう! 三倍の回転を加えれば1,139,820馬力の超ウルトラスーパーすげぇどすばいパワーだよ!」

 「ヒャッハーゆで理論だァー!」

 「やっぱすげぇよキヨは…だがなぁ摩耶さんよぉ、これで終わりじゃないぜぇ、カモン隼鷹さん! 壁に手ぇつきなよ!」

 

 そう、これで終わる筈がないのだ。ノリというものは恐ろしいもので、朝霜の言葉を受けた隼鷹が、「おっしゃ来いやァアアア!」と気合を入れ、ブリーフィングルームの壁に手をついて背中を見せた。

 何が始まるんです?

 

 「とぅ!」

 「来た来たきたァア!!」

 

 合体!

 ひえしもに続き爆誕したのは軽空母と駆逐艦を組み合わせた全く新しい艦船であった。

 具体的に言うと隼鷹が朝霜をおぶっただけのシンプルな構造であるが、それ故にどんな局面にも柔軟に対応することのできるマイティなフォームと言えるだろう。朝霜は隼鷹の使うスクロール式飛行甲板を受け取り、かっこいい決めポーズをとる。

 

 「「航空駆逐艦モーニング・ファルコンホークだ!」」

 「なんと…! この磯風、今猛烈に感動しているぞ。こうなれば摩耶よ、我々も後れを取るわけにはいかんな」

 「…お前らヒロポンかなにかやつておられる?」

 「広島産ポンカンジュースなら今朝飲んだがよく御存知だな! さぁ摩耶、いざ! いざ! カモンジョイナス! あなたと合体したいってキャッチコピーを知らぬ世代でもあるまい」 

 

 顔を紅潮させた磯風が、摩耶に迫る。黙っていれば黒のロングヘアが美しい少女なのだが、一度こうなるとしばらくは治まらない。摩耶は全てを諦めたかのような表情でもって溜息をつき、磯風の腰に手を回した。

 

 「あ、こ、これは予想外…もしや女子ならば誰でも憧れるお姫様だっこというものなのでグホァ!?」

 

 夢見る少女と化した磯風の予想とは裏腹に、摩耶は磯風を器用に持ち上げては体勢を入れ替え、肩を支点として担ぎ上げた。

 

 「うぉおおおおおこれはアントニオ・ロッカが考案しタイガー・ジェット・シンが猪木からギブアップを奪ったことでも有名なプロレス技の一つ! アルゼンチン・バックブリーカー!」

 「よく知ってるじゃねーか磯風ちゃんよ…ならこうすっか」

 

 そう言うと摩耶は更に体勢を変え、磯風を己の両肩に担ぐのではなく、右肩のみに担ぐ形でセットアップする。

 

 「んんんんんn!! これはカナディアン・バックブリーカー!! し、知らんかった…摩耶がロデリック・ストロングだったなんて…」 

 「ようしお前ら、もう何も言わねえ…行くぞ」

 

 そして最後に爆誕したのは重巡洋艦と駆逐艦を組み合わせた全く新しい艦船であった。

 カナディアン・バックブリーカーを決められたままの磯風はそれでもサムズアップを決め、摩耶に何事かささやき始めた。

 

 「…重駆逐艦まやかぜと駆逐巡洋艦イソマヤー、どっちがいい?」

 「もっとリングネームみてぇにしてみろよオラッ!」

 「おっごォウ! よかろう! そうだな…ザ・デストロイヤーというのはどうかな。駆逐艦だし」

 「パクリっつーか実在の人物じゃねえか! もっと真面目に考えろオラッ!」

 

 磯風が何か言うたびゆさゆさと揺れる摩耶。その有様に清霜と朝霜と隼鷹は大はしゃぎであるが、ただ一人比叡だけはだらだらと冷や汗を流し狼狽していた。

 ここまでやれば摩耶が雷を落としてなかったことにするのでは、という目論見が彼女にはあった。だが磯風のせいで…とは言い切れないが、ともかく磯風とのやり取りで摩耶に火がついたのは明らかである。

 遂には回転を加え出した摩耶はもう止められないだろう。このまま出撃となれば果たしてどうなることだろうか。

 だが今更やめようなどとは到底言い出せぬ空気である。比叡はサムソンに怒られることを覚悟しつつ、出撃ドックへと向かった。

 

 

   

 

 『さぁ時間一杯。今日の現場実況は私矢矧、解説は利根さんと提督でお送りするわ』

 「よろしくどうぞ」

 「我輩じゃよー。うむ。さて今回の見どころはどうかの提督?」

 

 阿賀野型軽巡洋艦・矢矧が戦闘海域に、利根とサムソンがオーシャンビューに設えられた実況席に座り、紅白の両組が出撃してくるのを待っている。その他の艦娘たちは岸壁で応援をしたり、後学のためにと見学をしたりと賑やかである。比較的アットホームな鹿屋基地を象徴する光景と言って差し支えないだろう。

 

 「初月がいるからなあ、隼鷹はちょっと仕事しづらいかもしれんね」

 「そうじゃな。初月はまだ未熟ではあるが、対空迎撃には光るものがあるゆえ、旗艦…まあ恐らく足柄か山城であろうが、旗艦が上手く指示を出せばそうなるやもしれん」

 『こちら矢矧。なるほど、では白組は初月対策を組んでくると?』

 「どうかな、白組はちょっと暴れんb…勇敢なメンツだからねえ…それに対空迎撃なら摩耶がいるし、どっちの軽空母もこりゃ大変そうだよね」

 

 矢矧ならびに解説席からの音声はその場にいる全ての艦娘達に送信されていて、サムソンは迂闊な事を言うたびそれを言質にからかわれるため、最近は大分言葉を選んでいるようだ。

 そうこうしている内に、両側にある出撃水路を通って、それぞれの組が海上に滑り出てくる。

 紅組は夕立と若葉を先頭に初月、足柄が第二列、千代田と山城が第三列を形成する複縦陣を敷いている。そしてもう一方の白組であるが、彼女らの全容が見えるにつれ、会場は水が引いたかのように静まっていく。

 

 『うん…うん?』

 

 何かおかしなものを見たかのような、そんな声色の矢矧と、そこにいる全ての者たちの意識がシンクロした。

 

 「なんだアレ…なんだアレ!?」

 

 清霜を肩車した比叡

 朝霜をおぶった隼鷹

 そして磯風にカナディアン・バックブリーカーを極めた摩耶

 

 初めはただのデモンストレーションかと、皆はそう思ったようであるが、いつまでたっても白組に動きはない。

 あまりの異常事態に、サムソンがマイクを通じてコンタクトを図る。

 

 「あー、あーこちら寒村。えーと白組の皆さん?」

 「おう、なんだよ司令」

 「何だよ…って、いやその…何この…なに?」

 「司令官! これは白組の作戦なの!」

 「いかにも左様、心だけでなく肉体までも強固な絆で結ばれた、新たなる陣形・戦術と理解せよ。ちなみに私と摩耶のコンビ名はビッグマグナム摩耶風先生だ。よろしくな」

 「いや磯風、君だけ変な結ばれ方してない!? つらくないの!?」

 「つらい」

 

 背中や腰を極められて辛くないはずもなかろうが、磯風は健気にもサムズアップで無事をアピールしている。根性論大好きな我が国で生まれた艦たるものの面目躍如であろう。

 

 「ごちゃごちゃうっせえんだよ司令てめぇ! これは大体清霜のんぐッ!?」

 

 痺れを切らした摩耶が磯風ごと体を揺らして何事か叫ぼうとしたが、比叡が慌ててその口に九一式徹甲弾を噛ませる。

 咬合力ごときで爆発はしないだろうが、それでもあまりと言えばあまりな処置に、摩耶は目を白黒させて徹甲弾を吐き捨てた。

 

 「てめェ比叡おいコラてめぇこのクソだけん! やっていいことと悪いこともがッ!?」

 「提督! これが私たちの作戦! 作戦です! 名付けてがったい作戦です!」

 

 摩耶の口に今度は水偵をねじ込んだ比叡の大声が、インカムを破壊せんばかりに轟いた。

 そう、このままではこのお世辞にも真面目とは言えない策が、清霜の発案だということが露見してしまう。守護ると決めたのだ、ならばやり遂げるまで…もともと真面目な比叡の努力は変な方向へと舵を切り、それが開始の合図となる。何か楽しそうなことが始まるのでは、という予感からか、周囲の者たちもわいわいと騒ぎ始め、もはや事態の収拾をつけるのは困難であった。

 

 「…提督よ、これはこれで見てみたくもあるな」

 「いやちょっと利根さん…」

 「よいではないか、鹿屋は皆仲が良いかもしれんが、それでもどこかで歪みは生じるものよ。適度なガス抜きは大事だと思うがのう」

 

 ガス抜きどころか爆発したらどうすんの…と言った表情で利根を見るサムソンであったが、やがて諦めたのか、マイクを取ってため息交じりに告げる。

 

 「あー…はい、じゃあお任せします。ただし危険と判断したらこっちで止めるからね。紅組に異論がなければそのまま開始」

 「そうこなくっちゃなァ!」

 「ヒャッハァー! 紅組は消毒だァー!」

 

 モーニング・ファルコンホーク(Aメカ)と(Bメカ)が気勢を上げ、ひえしも(Bメカ)も手にした高角砲を振り回してはやる気を見せる。

 黙ったまま一部始終を見ていた紅組はというとだが、これが意外なことにすんなりと了承のサインを矢矧に送ったようである。

 

 「い、いいんですか山城さん」

 「別に構わないわ。大方清霜の考えでしょうけど、考えてごらんなさい、一隻落とせばスコアは2になる計算でしょ」

 「そうよねぇ、あれじゃ速度だって出ないだろうし、射程だって噛み合わないわ。何て言うか東京に憧れて出てきたはいいけどよくわからないまま帰るお上りさんみたいな感じ」

 

 いまいちわかりづらい足柄の例えに、他のメンツが一瞬うん…? といった顔をするが、状況は既に始まっている。

 お上りさんだろうが何だろうが今は倒すべき相手である。若葉は懐から広島産ポンカンジュースを取り出してはキめ、初月は己の頬を強く叩いて気合を入れる。

 そして、開戦。

 

 『さぁ始まったわよ。速度差が結構あるみたいね、紅組が白組の頭を抑えたわ』

 

 矢矧の実況通り、反航戦から始まった戦いは、白組の進行方向に紅組が回り込み、脇…というか側面を見せつける、丁字の形となった。火砲の威力、散布界を最大限に発揮できる効果的な位置取りだ。

 

 「千代田! まずは航空戦で!」

 「了解! 艦戦隊、艦攻隊、出番よ!」

 

 山城の合図を受け、千代田が絡繰式の飛行甲板を展開。手にした操具を華麗に操っては紫電改、流星からなる攻撃隊を発進させた。山城も一拍置いたのち手持ちの瑞雲を射出し、速度を落として次の展開に備える。

 

 「摩耶、向こうの航空攻撃が来るぞ」

 「心配すんな、ケツに食いつかれなけりゃどうとでもなるさ。よし、機関一杯で回避運動しつつ対空迎撃準備! おっさんは艦載機の発進急げよ!」 

 「来たぜ隼鷹さん! こいつぁあたい達の腕の見せ所だよぅ!」

 「おっしゃー! スクロールを射出しとくれよー!」

 「任せろぉ!」

 

 朝霜はそう叫び、先ほどから持ったままのスクロール式飛行甲板を振り上げ、くるくると回転させてから

 

 すっぽ抜けた

 

 「あァアア!?」

 「射出しおったー!?」

 

 既に前方を注視し、対空砲撃の準備を進めていたひえしも、イソマヤーの各名は事態に気付くはずも無く、後方から飛んでくる筈の味方艦載機を待っている。

 だが紅組の艦載機が攻撃射程内に入り、降下を開始したにも関わらず、こちらからは何のアクションもない。

 

 「おいおいおいオイ! おっさん! 朝霜! 何やっ…て…」

 「ごめーーーーん!! 甲板がなくなった!」

 「は!?」

 

 次の瞬間、敵攻撃機の投下した爆弾が炸裂し、轟音と共に巨大な水柱が噴き上がる。

 付近にいたモーニング・ファルコンホークは直撃を受け、AメカとBメカに分離して大破し、そのまま撃沈判定を食らってしまっていた。

 

 『隼鷹、朝霜、撃沈!』

 「ぶほッ…!」

 「ご、ごめんよぅ隼鷹さん!」

 「あはは、まぁしゃーないしゃーない! あれ結構軽いかんなー! それより探しておくれよ、なくなったら流石に困るからさ!」

 「おう! まかせろ!」

 

 撃破されれば安全のため海域から離脱するのが常であるが、朝霜と隼鷹はぼろぼろになりながらもスクロールの捜索を始める。合体したが故のイージーミスにイライラ来ていた摩耶もそこはすぐに頭を切り替え、速度を上げて紅組へと突撃を開始した。

 

 「こうなりゃ火力で黙らせるっきゃない、比叡! 後ろから援護射撃! あたしが突っ込む!」

 「ええっ、無理無理むりムリ! 向こうは山城と足柄さんが健在なんだよ!? っていうか私たち何にもしてないよ!」

 「だから今からやるんだろうがッ!」

 

 二度目の航空攻撃まではまだ時間があるが、今度は山城と足柄の砲撃が降り注ぐ。抱えた磯風をカウンターウェイトの如く使い、摩耶は水面を滑走する。比叡もまた清霜を気遣いつつ避けていくが、どうにもじり貧なのは否めない状態だ。

 そんな折に、海水に濡れ煤で汚れて何か別のモノになった磯風が口を開いた。

 

 「私にいい考えがある」

 

 

 

 

 『さぁ白組は反撃の糸口を見つけたいところ。一方の紅組は余裕をもって頭を抑え続けているわね』

 

 「ふうむ、結局あの合体作戦とやらは、何がしたかったのかの」

 「予想はつくけど黙ってるよ」

 「…ま、それが良いか…」

 

 サムソンはふう、とため息をつくと、手元にあった広島産ポンカンジュースをぐっと呷った。

 すると一際大きな着弾音が響き渡る。比叡、清霜、摩耶、磯風の姿が確認できない。すわ撃沈か…皆がそう思って固唾を飲み見守る中、水柱の中から飛び出してきたのはひえしも(Bメカ)であった。

 

 「分離した!?」

 「元の状態に戻っただけっぽい」

 

 いかに船足が早かろうと、万全の状態で待ち構えている相手に対して突撃するなど、無謀を通り越してもはや自決である。よせ清霜! ギブアップせい! アツクナラナイデマケルワ! などといった声援が飛ぶが、清霜はどこか楽しそうに高角砲を放ち、魚雷を撒いては場を動き回る。

 

 「一人でも負けないんだからぁア!」

 

 健気である。だがそれを許すほど、現実は甘くない。

 清霜の障壁は徐々に削られ、艤装は破損していく。

 

 「きゃん!」

 『き、清霜大破!』 

 

 絶体絶命である。あともう一発貰えば耐久値は活動限界値を下回り、撃沈判定が下されるだろう。矢矧も心配なのか、実況を忘れて清霜を見守っていた。

 

 「…すごいな、清霜は…あんな小さいのに…でも僕だって加減はしない!」

 

 初月は奮闘する清霜に心の中で敬礼をしつつ、長10cm砲ちゃん達に照準をとらせ、そして砲撃指令を出す。

 その瞬間──

 

 大質量の一撃が初月の側面から直撃し、彼女は大破、撃沈判定を受ける。

 

 「な!?」 

 

 爆炎が晴れる。

 火線の向こうに立っていたのは、摩耶を肩車した比叡であった。

 

 「あ、ちょ、まずいっぽい!」

 

 そこに更に、既に発射されていた摩耶の魚雷が、夕立の足元で炸裂する。

 あっと言う間に初月、夕立を仕留めた比叡&摩耶が、超かっこいいポーズでもって叫んだ。

 

 「「高速重戦艦ザ・マウンテン!」」

 

 ザ・マウンテン爆現!

 彼女らの名前の由来がそれぞれ比叡山と摩耶山から取られているのは周知の通りであり、それを急造のユニット名としているのは明らかである。だがテリーなマンに負けたあいつも似た様な名前であったので、あまり縁起はよろしくないように思える。

 

 「なにあれズルい! でもカッコいい!」

 「磯風を盾にして難を逃れ、摩耶が比叡と合体したか。なるほど超かっこいい展開だ…清霜は上手く時間を稼いだな」

 「感心してる場合じゃないでしょ! 来るわ!」

 

 足柄の怒声に、皆が先ほどまで比叡たちがいた海上を見れば、そこにはぷかぷかと浮いたままの磯風がサムズアップをして笑っている。

 

 『初月、磯風、夕立の撃沈判定を確認! これはえーと…アリなのかしら…』

 「まあ、明確なルール違反じゃないしいいと思うよ…しかし名前はどうにかならなかったのかな…ダブルマウンテンとかにすれば良かったのに」

 「何か楽しそうじゃのう…我輩もちくまがいればやってみたかったぞ」

 「筑摩さんはショートランドだから我慢して!」

 

 与太話をするサムソンと利根をよそに、状況は動く。

 彼女らの狙いはシンプルであった。

 マウンテン(Aメカ)が回転の早い副砲をばら撒き至近弾を、マウンテン(Bメカ)が夾叉を発生させ牽制。それを組み合わせ、動きを止めてから主砲の一撃。

 無論紅組とて黙って撃たれるはずもないが、相手は実質一隻分であり更には足も速いので、狙いを付けづらいことこの上ない。足柄は位置取りを有利にするべく魚雷を撒き、千代田にも艦載機による攻撃を指示していく。

 だがマウンテンを狙う攻撃機は、対空迎撃を得意とするマウンテン(Bメカ)の効果的な砲撃によって叩き落されて効果を発揮しない。その間にもマウンテン(Aメカ)は副砲を絶えず撃ち続け、遂には至近弾で千代田の足を止めるに至った。

 

 「うわっ…!」

 『千代田、大破!』

 

 二発目の魚雷が千代田に刺さり、大破。撃沈判定こそ出ないものの、こうなっては空母に出来ることはない。 

 予想外の粘りを見せる比叡と摩耶を信じられないものを見るような目で見つつ、山城は足柄と若葉に指示を出していく。

 

 「あと3だ、比叡! 今度ァこっちが奴らのケツを取るぞ!」

 「よーし!」

 

 タービンをフル回転させ、マウンテンは海上を疾走する。摩耶の重さが加わっているにも関わらず、その足は極めて速い。

 テンションもレッドゾーンに突入したのか、二人は気勢を上げながら攻撃を続け、遂には若葉をも撃破した。

 だが若葉は流石に試合巧者である。直撃が避けられないと判断したその瞬間にはもう、ありったけの魚雷を放っていた。

 

 「ち、回避だ回避!」 

 「大丈夫、見えて…うわっ!?」

 

 若葉の放った魚雷は、マウンテンの直前で自爆し水柱を噴き上げる。信管をいじったのだろうが本来ならばそういった使い方はしない。しかしはなから合体などという、『合体はルールで禁止されていないから合法』といった屁理屈のような戦術を取っている白組に、それを咎めることはできない。

 ともかく進路を限定され、マウンテン(Aメカ)は苦し紛れに左舷方向へと回頭した。あとは足柄、山城だけであるが、気合だけでどうにかなる相手ではない。

 足柄の副砲に足を止められてしまえば、そこに山城の主砲が刺さる。

 

 『比叡、中破!』

 

 「ひえーッ! だ、ダメ…も、もう持たない…!」

 「諦めんじゃねー! こうなりゃ最後の手段だ!」

 「ま、また分離!? もうバレてるって!」

 「分離は分離でもただの分離じゃねえ! いいか比叡、あたしが合図をしたらお前のパワーであたしを射出しろ!」

 

 突拍子もない策であった。射出…射出と言ったか? 射出してどうするの…? などという疑問が浮かんだものの、摩耶の力強い言葉に比叡もすぐその思いを振り払い、前を見据えて腰を落とす。

 

 「わかった…行くよ摩耶、信じてる!」

 「ああ、任せろ…よし、やれぇ!」

 

 これ以上の言葉はいらない。比叡は腕を上げて摩耶の腰を抱き、そのまま持ち上げては上空へと放り上げた。

 

 「分離と射出…二つのキーワードを満たす技…これだぁあああああ!!」

 「は…?」

 

 比叡はすぐさま仰向けに寝そべり、落ちてくる摩耶の足裏を全力で蹴りあげた。

 そう! ある世代以上の…ぶっちゃけ言えばおっさんならば、誰でも一度は憧れた、または試したことのある、あの技である。

 一人が砲台、一人が砲弾となって相手のゴールを狙う…由緒正しきサッカーの技、それが…

 

 「スカイラブ・ハリケーンだァアアアアアア!!」 

 

 シュポーン、と。

 

 摩耶は比叡の力を受け、ほぼ直上に射出された。

 

 「てめぇエエエエエエエエェェェ」

 

 徐々に遠くなっていくその声。あとは任せたぜ、相棒…と、満足げに笑う比叡。

 太陽に浮き上がる摩耶のシルエットは神々しささえ感じられたが、特に状況を変えるものでもなかった。

 

 「足柄、あれ撃っていいのかしら」

 「イイワヨー」

 

 

 

 

 『比叡撃沈! 摩耶も落下のダメージで大破…勝負あり、かしらね…』

 「提督よ、今のあれは何じゃ?」

 「おじさん世代にはなじみ深いけど…君たちにはちょっと判らないかな…でもまあいいよね、サッカー…」

 

 決着である。 

 サムソンのどうでもいい独白を背に、引き上げてくる艦娘たち。演習が終われば敵も味方もない。紅白のメンツが土左衛門の如く浮く摩耶を囲み、いい笑顔で笑う。

 

 「ははは、ガンダムW1話のラストみたいだぞ摩耶」

 「ぶはァアア! てめぇ…てめぇ何処だ比叡ゴラァアアアア!」

 「比叡ならなんかサッカー留学するって言ってスペイン行ったよ」

 「んだとォあのゴールデンレトリバーがァアアアアアア!!!」 

 

 咆哮が響き渡る。

 だが怒り狂う摩耶の前に、神妙な顔をした清霜が座り込む。

 

 「摩耶さん、こんな結果になっちゃって…ごめんなさい」

 「あァ!? ああ…うん…まぁそれはしゃあねーけどよ…」

 「あまり清霜を責めないで摩耶、たまにはこういうのもいいと思ったわ」

 「そうそう、私も今度やってみるっぽい!」

 

 皆口々に清霜をフォローし、摩耶も徐々にクールダウンしていく。と言うよりは最初から清霜に対してどうこう、というつもりも無いようだが。

 しかし清霜はそうではなかった。己の言い出したことで、こんな結末になったということを悔いているようでもある。

 

 「やっぱり、反則で戦艦になってもダメだよね」

 「え、ああ…いや…」

 「でもわかったんだ、やっぱ戦艦には自分の力でならないといけないって」

 「そうですよ清霜ちゃん! 鍛えて鍛えて勉強もして、一杯食べて一杯寝て一杯笑って! そうすればいつかきっと…!」 

 

 そう言った清霜の頭を優しく撫でて笑うのは比叡であった。

 

 「うん…うん!」

 

 優しく強い戦艦が見せるその笑顔に、清霜も満面の笑みをもって応える。

 何だか知らんがとにかくよし! という雰囲気が場を包み、比叡と清霜の朝練から始まったがったい作戦は、ここに幕を閉じたのだった。

 

 そして。

 

 「いい雰囲気のところ悪いんだがな比叡ちゃんよ、あっちでちょっとサッカーの話しようじゃねーの」

 「ひッ! ま、摩耶…いやあの私、実はサッカーより野球の方が好きでして…」

 「じゃあ野球でもいいや、鹿屋の街にバッティングセンターあったよな、行こうぜ」

 「あ、いや、ちょ、それってあのやくざ映画の…アーッ!」

 

 

 

 

 「叢雲、記録は?」

 

 サムソンは残ったポンカンジュースを飲み干し、戻ってきた叢雲にそう尋ねた。叢雲はやれやれ、といった感じで肩を竦めるが、仕事はきちんとするのが彼女のいいところだ。

 

 「したわよ。でもこんなもの、大本営に知られたら何言われるかわかんないんじゃないの」

 「ですよねー…じゃあこの一件は無かったことにしておこう…あと今後、合体も禁止しないとなあ」

 「ま、いいんじゃない…あ、さっそくやってるのがいるけど…」

 「ンモー! ちょっと止めてくる!」

 

 

 この後鹿屋で合体禁止令が出たのは言うまでもないことだろう。

 そして清霜が戦艦になれる日は来るのだろうか。それは誰にもわからない。

  




 仕事の合間を縫って書いておりますが、筆が遅いのと感性が古臭いのはどうにもなりませんね。
 磯風の扱いが毎回ひどいと思う次第ですが、世間ではどうしても浜風浦風の陰に隠れてるイメージがあってイッパイカナシイ…磯風がもっと活躍するSSとか流行ればいいと思います。谷風もいずれ出したいですがどうなるやら

 ローソンのガッサさんクリアファイルを手に入れたのですが、裏面のお淀と明石のアホ面が面白すぎてたまりません。まだの方は是非入手してください。今ならどん兵衛が二個ついてきます。
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