今回特にネタ成分が多いので、気になった単語はお手持ちのPCやスマートフォンなどでお調べ下さい。
月夜に虫の音響く鹿屋基地。
基地司令である寒村…通称サムソンは夕食を済ませ、事務仕事に精を出していた。
傍の机で彼を補佐し、雑務をこなすのは駆逐艦・磯風と、駆逐艦・夕立である。ここ鹿屋では、司令付きの補佐官…いわゆるところの秘書艦は、所属する全ての艦娘が日替わりで担当する形式であり、今日は夕立の担当となっていた。
だが夕立は、身体を動かすのは得意でも、机に向かっての作業はどうも不得手であるらしく、あまり効率がよろしくない。そんな折に顔を出したのが磯風であり、ならば、と夕立を手伝う事になった。ユウジョウ!
溢れる書類を項目ごとに纏め、クリップで止めては区分分けをしていく。その日のうちに上がってきた資材の出納を記録する。直近の日に担当海域を行き来する船舶のチェック。などなど、やる事はいくらでもあるが、三人寄れば片付くのは早かった。
「ぽい〜…これでおしまいっぽい?」
「ああ、どうかな提督」
「うん、そうね。今日はこれくらいにしておこうか」
「ありがとう磯風ぇ、今度ジュース奢るね」
作業の邪魔にならぬよう、ポニーテールに纏めた磯風のロングヘアをわきわきと弄りながら、夕立が礼を言う。
磯風も夕立のプラチナブロンドを指に絡め、くんくん嗅ぎながら、「なに、気にするな」と笑った。寒村はその様子を若干気持ち悪い表情で眺めつつ、湯沸かし器を掲げて尋ねる。
「お茶を淹れようかね、君らなに飲む?」
「カフェオレ!」
「ジントニックを。カットライムはいらないぞ」
「カフェオレ二つね!」
湯気の立つカップを吹いて冷ましつつ、夕立はしんみりとした口調で磯風に尋ねた。
「やっぱ戦闘だけじゃ駄目っぽい?」
新聞を読んでいた磯風はその目を夕立に向け、しばしの沈黙の後口を開く。
「ま、人には得手不得手というものがあるからな。一概にそうとは断言出来ないが…」
「磯風はどっちも上手で羨ましいかなって」
「や、そうでもないさ。私は事務仕事では叢雲や足柄には及ばないし、戦闘ではそれこそ夕立、君には及ばないだろう」
「そうかなア…?」
「そうさ」
冷ましすぎてぬるくなったカフェオレを飲み干し、窓の外の月を見ながら磯風は言う。
どちらも上手にこなせれば、それが一番いいのだろうが、現実とはそう上手く行くものでもない。
だからこそ、出来ることを出来る範囲で、周りと助け合ってやるしかない…と、寒村はしつこいくらい皆に言っている。磯風は寒村について、そこだけは素直に尊敬出来ると感じているようだ。
夕立はなるほど、と頷き、カフェオレをぐっと飲み干した。
「じゃあさじゃあさ、最強の艦娘って例えばどんなのかな?」
「いきなりだな。そりゃもうあれだろう、こう…」
そこで司令室のドアが開き、喫煙ルームへ行っていたサムソンが戻ってきた。手には大量のみかんを携えている。
「みかん!」
「昨日業者さんから貰ったんだ、忘れてた。君ら食うだろ」
「いただこう。さて提督よ、今ホットな話題があるのだが…」
「ふーむ? 最強ねえ…でも、艦種ごとに役割も違うんだし、あんま意味無くないかね」
「ノンノン…そういうみんな違ってみんないい、おてて繋いで仲良くゴール的な話をしているんじゃあないんだよ提督…今! まさに! 最強の! 艦娘を!」
「提督さんはそういう話興味ないっぽい?」
「そういう訳じゃないけどさ…何をもって最強とするのかってことよ」
「だから今から決めるんだろう提督! それをわかるんだよ! はい! まずは動力源!」
磯風は何処からともなく取り出したフリップとマジックペンを各々に配り、何が「まず」なのかすら説明せずに囃し立てる。
まあ仕事も終わったし、明日は休みだしいいか…といった風情で、サムソンはペンを取った。
そして僅かな沈黙、みかんの匂い。
コトリと置かれるフリップ。
『燃料電池』
『次元連結システム』
『縮退炉』
「おいちょっと待て君ら。それって今の科学力で作れるものじゃないよね? っていうかフィクションの世界だよね?」
「出来るか出来ないかじゃあないんだよ提督…やるかやらないかだ」
「人間だけが神を持つっぽい」
「そんな壮大な話はしてないよ! ああもういい、じゃあこっちも変えるよ…」
澤野弘之のBGMが流れてきそうな空気の中、サムソンはぐしぐしと消しては直しを何度か繰り返し、そしてフリップを置いた。
『シズマドライブ』
「欠陥システム過ぎる…」
「三本揃った状態だよ!」
「でもまあ提督さんも同じ土俵に立ったっぽい! じゃあ次は…名前?」
何にでも名前はある。まずそっから行かんかい…とでも言いたげなサムソンをよそに、夕立と磯風はさらさらとペンを走らせた。
『†殲滅の漆黒天使ノワアル†』
「ちょっと待て磯風ェ! それもう艦娘の名前じゃないだろ!? それに漆黒とノワールって同じじゃないか! あと変な風評被害を被りそうな子が出そうだからやめてやれよ!」
「やめてくれないか言葉の洪水をワッと浴びせるのは。それにノワールではない、ノワアルだ。あと野分は関係ないだろう、奴は今タウイタウイにいるからな」
頭ごなしに全否定されちょっと癇に触ったのか、磯風がふくれっ面で反論する。そんな彼女を見て勝ちを確信したのか、夕立が不敵に笑いながらフリップを置いた。
「ふっふっふ…磯風のセンスはちょっとイタいっぽい! ここは安定のかっこよさを誇るドイツ語がマスト!」
「まあ同じ枢軸側としてはわからんでもないが…見せて貰おうじゃないか」
『†ゲヴェルクシャフト†』
「ほうドイツ艦ですか…って! だから何だよその十字架マークは!? あとそれでいいの本当に!? 意味分かって書いてる!?」
「意味は知らない! でもカッコイイでしょう!?」
ギャギィ、と親指を立て、夕立はこれ以上ないドヤ顔で二人を見た。
ちなみにゲヴェルクシャフトは独語で『労働組合』のことだが、サムソンは敢えて教えなかった。
磯風のは論外としても、独語にコロリと騙される層は少なからず存在する。もし夕立の案が優勢になったら、さり気なくバラすことで一気に蹴落とす算段であろう。まことセコい男である。
「じゃあ提督のはどうなんだ、当然カッコイイんだろうな?」
「だから何でカッコよくないと駄目なんだよ…はい」
『鶴見』
「つる…み?」
「うん。僕の実家のそばにある一級河川だよ。艦船の名前にはなってなかったような気がするからね」
「脳汁が漏れてきそうな艦娘だな提督よ。しかしいかにも優等生の考えそうなことで!」
「全滅の漆黒堕天使ノワールよりはマシだろう!?」
「✝殲滅の漆黒天使ノワアル✝だ二度と間違えるな」
名前は一旦保留となった。動力源も決まっていないがそんなことを覚えているものは誰もいない。
夜は更けていき、みかんも無くなっていく。夕立が部屋から持ってきたお菓子や何やらをつまみつつ、最強艦娘会議は新たなるステージへと昇っていく。
「排水量はこれでいいか…はい、じゃあ次は主兵装だな」
「ふふふ…これは自信があるっぽい!」
「君らもう真面目にやる気無いだろう…?」
などと言いつつ付き合うあたり、サムソンも意外と楽しんでいるようである。艦娘たちの士気が上がるのであれば、それでいいと思っているのだろう。
そして三人が同時にフリップを出す。
『重力子放射線射出装置』
『重力子放射線射出装置』
『重力子放射線射出装置』
言葉は要らなかった。三人は無言で頷きあい、手を重ねては満面の笑みをもってフリップを下げる。
「やはりこれだろう。声に出して読みたい武器No.1(国勢調べ)過ぎるからな」
「威力も申し分ないっぽい! 禁圧解除して深海連中の本拠地にぶっ放すっぽい! 終戦!」
「ぼかぁ弾体加速装置と迷ったけどね…ってか僕の部屋のBLAME!無くなってるんだけど誰が持ってるの」
「…」
その言葉に磯風はぷいと顔を逸らした。
午前2時。
みかんの皮はゴミ箱から溢れ、お菓子も底をついた。夕立はハッピーターンの粉を中毒患者の如く舐めているし、磯風はねじり鉢巻きでスルメをしゃぶっている。
いちいち喫煙ルームに行くのも億劫になったのか、サムソンは窓の傍で煙草を吸っている。叢雲や摩耶がいたら怒るだろうが、今この場にそれを咎めるものはいない。
「さて、大分固まってきたな…あとは容姿か?」
「前世も能力も決まったっぽいし…一旦まとめておいた方がいいっぽい!」
まとめてどうするのか、という最大の問題は見えていない。問題はそこではない。ここまで来たら中途半端は出来ないのだ。
未完の大作より完成した凡作に価値があるのだ。
三人は己にそう言い聞かせて、磯風が広げているB4のコピー用紙を見た。彼女の上手いともさりとて下手とも言い切れない、非常に味のある絵が所狭しと描き殴られている。
「まずオッドアイは外せないだろう」
「眼帯を付けてて、それを外すとぴかーん! 天龍さんと古鷹さんを合体させたみたいな感じっぽい!」
「それは天龍と古鷹でよくないか…アイデンティティを奪うような真似はよくない」
「いやー僕は眼帯より、ターレットレンズがガシャンガシャンって回って標準ズームと広角と赤外線を切り替え…」
「そういう高橋良輔的なものは若年層にウケが悪いと言ったろうが!」
この言い方だと何処かへ発表するのではないかという疑念もつきまとうが、眠さとみかんとハッピーターンで朦朧とした三馬鹿にそこまで考えが回るはずもない。要するにその場その場のノリだけで今この瞬間を楽しんでいる。それが大事なのである。
「もう何て言うか超美少女! オッドアイ! 感情が昂ると色の変わる頭髪! アルビノ! おっぱい! 柳腰! おしり!」
「帰国子女もつけるっぽい! 頭脳明晰でドイツ語と英語とフランス語とタガログ語とアラビア語に堪能!」
「こうなったら低血圧も入れよう」
「いいねいいね、あと昔から続く討魔士の家系の娘で、主人公に命を助けられて以来ベタ惚れ! 当然処女だ」
午前7時。
「出来た…出来上がった…!」
「やり遂げたっぽい…」
「おじさん徹夜はきついよ…んで、これどうするの」
ブラックコーヒーを力なくすするサムソンを、磯風と夕立が見る。
「まぁ落ち着け提督よ。では発表するぞ」
第九次元最強戦艦『✝殲滅黒死天使ノワアル・ゲヴェルクシャルト・鶴見✝』
艤装動力源 次元連結システム
排水量 たくさん
はやさ 光速の45%
パワー ゲッターエンペラー14台分
防御力 L.E.D.ミラージュと同等
主兵装 重力子放射線射出装置(長砲身ver.)
副兵装 安全核ミサイル 浸食魚雷 ハドロン砲 地球破壊爆弾 月光蝶 白兵戦用DX鶴見ブレード A.Tフィールド ゼロシフト
前世 鎮西八郎為朝
声優 川澄綾子
絵師 イソ☆ウインド
プロフィール ユーチューバーから成り上がり一代で財をなした鶴見財閥総帥・鶴見光士郎の長女。生まれつきアルビノで体が弱く、小学校に上がるまで一度も屋敷の外に出なかった。小学校に入ってからは何とか体調を回復させ、主人公である皇・マンダム・九郎と出会って色々あった。中学に入っても色々あった。中学校を卒業すると同時に見聞を広めるためフランスへと留学し色々あった。一年間で大学卒業資格と博士号と通信空手の黒帯を取得し帰国して色々あって艦娘として覚醒し色々あって呉第零鎮守府へと配属になり色々あった。
「色々ありすぎる…」
「これはまあ後々設定を練っていくからいいんだ。よしまずはこれを渋にアップしてだな…」
「ツィッターで拡散するっぽい!」
「まずそっからなの!? やめとこうよ、こういうネタって下手すればネットに一生残るんだよ」
「いちいちうるさいぞ提督! 今更止まるかこの冥王計画(プロジェクト)が! うるさいをいちいち五月蠅いとかふざけるなを巫山戯るなと書いちゃう世代をナメるなよ」
「ここまで来てビビッてんじゃねーっぽい!」
目の下の隈でおどろおどろしくなった磯風と、八割がた寝ている夕立が一斉にサムソンに噛みつく。身内で済ませていればただの笑い話で済むが、これが一度電子の海に放たれたらどうなってしまうのか。鹿屋基地に地味に危機が迫るのではないか。
寝なさすぎて逆に冴えてきたサムソンの頭脳が惨劇を予測していると、不意に司令室のドアがノックされ、そして開いた。
「おはよう提督、起きて…起きてるわね。磯風と夕立は何してるの」
朝食の乗ったプレートを持って入って来たのは叢雲であった。日曜日の朝は大体彼女がそうしてくれる。
叢雲は充満するタバコとコーヒーとみかんの臭いに顔をしかめ、卓上にあるコピー用紙の束を見る。
「何これ」
「ああ叢雲、丁度いい…三人で寝ずに考えた最強艦娘のプランだ。忌憚のない意見を聞かせて欲しいな」
「最強…? どれ…」
叢雲はそれらに目を通していたが、やがて無言でサムソンに近づくと、彼の胸ポケットからジッポライターを取り出し、何の躊躇も無しにそれに火を点けた。
「ああああああ!?!?」
「ぽいいいいい!?」
「…あんたらそこに座りなさい」
「な、何をするんだ叢雲! まだコピーも取っていないしネットにだって…」
「傍若無人っぽい!!」
「正座ァ!」
鹿屋基地成立以来、全ての艦娘の管理をしてきた叢雲にそう怒鳴られては、いかな磯風、夕立とて逆らうことは出来ない。そればかりかサムソンも思わず並んで正座をし、神妙な面持ちで裁定を待つ。
「こういうのは中学校で卒業するもんでしょ。それをいい年したおっさんと仮にも軍属のあんたらが率先してやって恥ずかしいと思わないワケ? そこんとこどうなの、とりあえず朝ごはんは遅くなるけどいいわよね…?」
アタマノウエニウイテルーノを攻撃色に染め、叢雲はサムソンの使う椅子にどっかりと腰を下ろした。
この後約2時間ほど説教を食らう羽目になるのだが、それは正に自業自得と言えよう。
そして最強艦娘✝殲滅黒死天使ノワアル・ゲヴェルクシャルト・鶴見✝は起工すらされぬまま轟沈の最後を迎えることになった。
これが良かったのか悪かったのかは、後の歴史が証明してくれるであろう。
DX天龍ブレードやむらむランスで白兵戦が出来る
そう思っていた時期が僕にもありました