さて、悠の方はまた平穏にいきます。
いつだか、「悠の周辺はシリアスにいく」とか言いましたが、ちょっとだけ平穏な回を続けさせてくださいな。
港へと着いた車両は案内の通りに港を走り、予定通りに船に着いた。一度車両を降り、乗船口で身分証明をパスして船へと無事に乗船する。
「あ、言い忘れてたけど、この船貸し切りだから。下手に物壊したりするとこっちの責任になるから気を付けてねー。」
「さらっと怖いこと言うのやめてくれないかなぁ・・・。ていうか貸し切りって、一回のライブの為にいくら使うつもりなのさ・・・。」
両親と姉の影響で質素倹約が身に染みている悠は、改めてシルヴィア達と自分の世界のスケール差を思い知らされた。悠からすると、1万持っているだけで贅沢、みたいな感覚なのだ。ちなみに、悠達が今いるのは船の甲板。周りには誰もいない。まぁ、貸し切りらしいので当然だが。
「そういえば、悠君とこうやって船に乗ったりするのも大分久しぶりだよね。最後に旅行行ったのって・・・いつだっけ?」
「俺達が11歳の時だよ。確かシルヴィの誕生日で、バースデープレゼントって事で院長先生が俺達3人分とちゃっかり自分のチケット買ってきて船旅行ったでしょ?」
あれからもう4年も経ってるんだよなぁ・・・と、やけにしみじみしながら悠は呟いた。横のシルヴィアもそうだねぇ、とほわんほわんな笑顔を見せる。あの時は、確かシルヴィアと自分のバースデープレゼントも兼ねて江ノ島に4人で旅行に行ったのだったか。まぁどうあれ、悠達にとっては替えが利かない程に大切な思い出である事に変わりはない。
「・・・そういや、実里って船に弱くなかったっけ?大丈夫なの?」
と、思い出したように悠が言うと。
「大丈夫・・・よ・・・。もう、慣れた・・・。」
と、足元で不気味な声がした。ぎょっとして見ると、実里が顔を青ざめさせながらしゃがみこんでいる。絶賛船酔い中だった。
「相変わらず我慢癖は治らないのか・・・。ま、酔い止め飲まないで意地張ってたんなら自業自得だよね。」
「うっさい、黙・・・うぇぇ・・・。」
「いや、船酔い中に喋るなよ。出るもん出ちゃうから。」
「・・・黙らないとあんたの服に」
「ハイすみませんでした俺が言い過ぎましただから止めて!?」
そう言いながら飛びすさる。流石に本気ではなかった・・・というかそれどころじゃなかったらしくまたしゃがみこんで唸り出す。
「いつもやり込められてるからってこういう時ばっかり饒舌にならないの。ていうか、実里も実里だよ。意地張らないで素直に酔い止め飲めば良かったのに。」
「しょうがないでしょ・・・こいつ早く捕まえなきゃって急いでたんだから。」
そこまでして俺を逃がしたくなかったのかこいつは。と、悠は呆れた。別に、言われずともシルヴィアの頼みとなれば逃げる気は無かったのだが。いやまぁ、ライブの後に食事に付き合うってのには面食らったけども。
「・・・まぁ、結果的にこうやって息抜き出来てるしいいか。」
そう言って、眼前に広がる海面に穏やかな視線を向ける。
・・・故に、気がつくことは無かった。普段の悠ならば、周囲に気を張っていたから気がついただろう。甲板の影に完璧に隠れて彼らを見つめる、一組の男女の視線に。
ー■■■ー
「そうですか。では、そのまま監視を続けてください。・・・えぇ、それでは。」
一方その頃、星導館の生徒会長室ではクローディアが端末でどこかへ連絡を取っていた。端末からは微かに波音が聞こえてくる。向こうから通話が切られると、クローディアは微かに息を吐いた。
(とりあえずは、何も無しですか・・・このまま何も無ければいいのですが。)
心中でそう呟く。だが、そうはならないだろうという嫌な予想もついていた。以前聞いた彼の話からして、相手が何もしてこない可能性の方が低いのだ。特に、彼がシルヴィア達と一緒にいるというような、今の状況では。
「相手は悠を始末するためならば、何でもやるだろう」、と美晴が言っていたのを思い出し、クローディアは険しい顔をした。それと同時に、先日、銀河の幹部である母から「敵の活動が大規模化した時の施策」としてあるプランを伝えられていたのを思い出す。
「正直、やりたくはありませんが・・・いざとなれば、仕方ないのでしょうね。」
そう言って、執務机の引き出しからホッチキスで留めてある書類の束を取り出し、眺め出した。
ー■■■ー
アスタリスクを出てから数時間、10時を過ぎた頃、悠達を乗せた船は本土の港に着いた。船の出港時間が8時過ぎだったので、かれこれ2時間は乗っていた計算である。身分証明を再度通してから、タラップを降りた。
「そういや、こうして本土に来るのも久しぶりだなぁ・・・。」
と、訳もなくしみじみしながら、周りをぐるっと見渡しつつ悠は呟いた。通っていた小学校を卒業した後、院長を必死に説得してアスタリスクへの渡航を許してもらって以来だから、実に3年ぶりである。
「悠君、何ボーッとしてるの?」
と、横からシルヴィアが首を傾げつつ聞いてくる。何でもない、とそう言うと、シルヴィアと連れ立って先に車に乗っていた実里の所へと歩いていった。
「そういえば、私達がこうして本土の方に来るのも久しぶりよね。前のライブは欧州でだったし。」
「そういえば、そうだね。孤児院の皆、元気にしてるかな・・・。」
車窓に目を向けながら、シルヴィアが懐かしげにそう言う。その言葉を聞いた悠は、懐から一通の手紙を取り出した。
「念のために持ってきててよかったな・・・シルヴィア、これ。」
「うん?手紙・・・?」
「そ。院長先生と孤児院の皆から。昨日、俺のところに届いてたんだ。シルヴィア達の事も考えて、まだ開けてないから。」
「あはは・・・相変わらず心配性だね、院長先生。悠君はまだ分かるけど、私の方はライブの生放送とかで元気にやってるって分かると思うんだけどなぁ。」
そう言いながら、丁寧に封を開けて折り畳んである便箋を広げる。そこには、久し振りに見る丁寧な文面がびっしりと並んでいた。
『そちらは元気でやっているでしょうか?こちらは皆、元気にやっています。あなた達が孤児院を出て3年が過ぎたと思うと、時が経つのは早いものだとつくづく思う今日この頃。
(中略)
子供達も3人が今年小学6年になりました。と、いうわけで、進学祝いという事でシルヴィアがチケットを送ってくれたのでライブに連れていく事にしました。実里から聞いていますが、悠もいるそうで。貴方達に会えると言って、子供達がずっとはしゃぎっぱなしです。当日、ペトラという方の計らいでライブ前に時間を取って頂いたので積もる話はそこで。私としても会えるのを楽しみにしています。』
とまぁ、そんな内容の手紙だった。悠の事を気にしている辺り、まだまだ心配な部分があるらしい。実里は実里で「ペトラさんもシルヴィも何やってんの・・・」と呆れ気味に顔を覆い、シルヴィアはそれにを「あはは・・・」と笑いながら頭をかく。
「シルヴィア・・・いくら何でもこれは・・・。」
「うぅ・・・だって、お祝いしてあげたかったんだもん。それに寂しがってるって聞いてたし。」
と、唇を尖らせながらそう言うシルヴィアに悠と実里、二人揃って溜め息をつく。
「・・・まぁ、そういう風に思いやりがあって優しいのはシルヴィらしいけどね。」
そう言うと、悠は若干しょげ気味なシルヴィアの頭を撫でてやった。
「別に責めるつもりは無いからそんな風にしょげなくていいよ。それに、先生にも久し振りに会えるんだから俺としては異議ないし。」
「そ、そうかな・・・えへへ。」
と、照れ気味にはにかむシルヴィアの頭を撫でる悠。その光景を見ながら、実里は内心で爆発しろバカップル、と言っていた。
皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
いやぁ、驚くほど場面変わらないね!(いやお前が書いてんだろ!?)
長々と同じような場面ですみません・・・基本的に各話ごとの字数は統一するようにしてるので、場面が変わらない事が今後も多くなるかと思われます。その代わり、各話でバカップルの甘々成分を増やしときますので許してください。