学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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おはこんばんにちは。
更新が遅くなった事、深くお詫び申し上げます。
今回は悠の幸せ+ブラコン最強回です。悠の方は甘甘展開がより濃くなります。


第9話 約束と対面、あるいは暗躍と最強

 「ほら、見えてきたよ!あそこが今日から三日間ライブやる会場。」

 

 しばらく車に乗っていると、ふいにシルヴィアが窓の外を指差した。首を伸ばして見ると、道路に立ち並ぶ街路樹の合間から白いドーム型の屋根が見えた。ナビを見るに、車は真っ直ぐその建物を目指して進んでいる。

 

 「今が10時20分か・・・ギリギリセーフってとこね。機材と会場照明、あと演出の最終チェックが11時30分から・・・リハーサルが14時から・・・本番は18時からだから、その合間で・・・。」

 

 右手につけていた腕時計を確認すると、反対に座っていた実里は横に置いていたボストンバッグから何やら色々な書類の入っている両開きのファイルを取りだし、それとは別に持ってきていたらしいポシェットから出した眼鏡を掛け、ファイル内の書類に目を通し始めた。シルヴィアのスケジュールマネージャー、というのは伊達ではなかったようだ。

 

 「シルヴィ、着いたらまず楽屋に荷物置いてから、本番衣装に着替えてステージに来て。悠はシルヴィアの楽屋の隣にスタッフルームがあるから、まずそこに荷物置いてあんたもステージに集合。11時にはステージにいるように。もうスタッフにもあんたの事は伝えてあるから今日はあくまで見学だけど、どんな仕事があるかペトラさんにちゃんと教わる事。明日からはあんたにも手伝いしてもらうからね。」

 

 「・・・大分忙しいんだな。しかもド素人の俺が仕事を理解するのに与えられた猶予がたったの1日って・・・。」

 

 「うちは実践主義なのよ、諦めなさい。ここまで来たんだから覚悟決めなさいな。」

 

 悠の弱音を実里がばっさりと切って捨てた。先が思いやられる事に深い溜め息をつく悠に、横に座っているシルヴィアは苦笑いをする。車は何時の間にやら、会場の地下駐車場へと入っていた。

 

 

ー■■■ー

 

 

 「じゃ、私は先にステージに行ってるわ。シルヴィは悠の案内してあげて。」

 

 そう言うと、実里は先に行ってしまった。悠はその背中を見送ると、車に寄りかかる。

 

 「・・・なんか、大変な事になったなぁ・・・。」

 

 「あはは・・・何かごめんね、私の我が儘で。」

 

 同じく実里を見送っていたシルヴィアがそう言うと、悠は軽く首を振って笑顔を見せた。

 

 「いや・・・でもまぁ、来て良かったよ。久し振りに二人と話せたし、スタッフとして働いてればこれからも会えるんだし。代わりにやらなきゃいけない事の難度がアレだけどね。」

 

 溜め息をつきながらも、その表情は穏やかだ。シルヴィアもその表情に、安堵の吐息を漏らす。が、その表情はすぐに暗いものへと変わってしまう。

 

 「・・・正直、不安だったの。悠君、過去が過去だし、一人で何でも抱え込むし・・・何より、周りを優先して自分を後回しにする所があったから。それにクローディアから聞いたけど、ご両親の仇だっていう人達に接触したって・・・。だから、私と実里の事を考えて、もしかしたら会ってくれないかもって。」

 

 「あぁ・・・だからわざわざ俺の所に来たり、万が一のために手回ししてたのか。」

 

 悠がそう言うと、シルヴィアは小さく頷いた。その表情は、3年前・・・悠とシルヴィア、実里が分かたれた日に見せた表情と似ている。彼女達も、そして悠も成長しているからあの時とは背格好や顔立ちこそ変わっているが、今シルヴィアが見せている表情が示す憂いはきっと3年前と同じものなのだろう。「もう二度と会えないのではないか」という、えもいわれぬ不安感。

 

 「・・・大丈夫だよ、現に今、俺はここにいる。クローディアの言う通り、確かに俺は父さんと母さんの仇に会ったし、そいつらを倒さなきゃって危ない事に首を突っ込んでる。だから、シルヴィ達を巻き込まないためにも、今日の誘いだって断ろうかどうか迷った。・・・でも、あいつらが俺の交遊関係を把握してた以上、放っておいても奴等が君を狙わない保証はない。だったら、近くで守れた方が良いと思ったんだ。」

 

 そう言うと、シルヴィアの手を取ってしっかりと握ってやる。

 

 「まぁそれ以上に、俺自身、本当はシルヴィアに会いたかったしね。・・・大丈夫、俺は何処にも行かないよ。あいつらを放っておく訳にはいかないから動向調査くらいはするけど、俺一人でどうにかしようってつもりは無い。姉さんもクローディアも手を貸してくれてるし、叔母さんのお陰で銀河も動いてくれてるみたいだし。本気で危ない事は専門家に任せるさ。少なくとも、シルヴィアの前からいなくなるような事は絶対にしない。約束する。」

 

 そう言うと、シルヴィアが顔を上げた。その顔が驚き、そして穏やかなものへと変わる。

 

 「うん・・・分かった。約束だからね。」

 

 「あぁ、約束。何だったら昔みたいに指切りでもする?」

 

 子供じゃないんだから、と小さく笑うシルヴィアに連れられながら、悠も駐車場からステージへ続く連絡通路へと歩いていった。

 

 

ー■■■ー

 

 

 「さて・・・どうする?のろけまくってる今なら殺れるかもよ?」

 

 「リーダーからは監視命令しか出されてない・・・なら

、その行動に必要性はない。」

 

 「・・・はいはい、分かったよ。何でリーダーもこんな奴と俺を組ませたかね・・・必要性とかなんとか、どうでもいいからさっさと目的達成しちまえばいいのにさぁ。」

 

 一方、地下駐車場の柱の影・・・そこに一組の男女が隠れて二人の様子を伺っていた。監視対象らしい二人は、地下駐車場を抜けて連絡通路へと歩いていく。その背中が連絡通路へと消えていくのを見ながら、男の方は小さく舌打ちをした。連絡通路の先はシルヴィア・リューネハイムのライブ会場であり、スタッフなどが連絡通路を通して機材の運び込み等をやっているため彼らは人目につきすぎる。故に、監視が可能なのもこの地下駐車場が限度だ。

 

 

 「しょうがねぇな・・・帰るぞ、今日はもう上がりだ。」

 

 「分かった。」

 

 そう言って、踵を返そうとして・・・二人の足が止まる。男の方はピュウ、と口笛を吹き、

 

 「やるねぇ、お嬢ちゃん。隠密行動には自信があったんだが・・・まさか自分が監視される側になるとは予想外だ。」

 

 そう言いながら目の前に立つ少女を睨み付けた。天井の蛍光灯で分かりづらいが、栗色の髪をサイドテールにし、その一部をさらに肩下まで下げている容姿端麗な少女ーーー双月光もまた二人を睨み据える。

 

 「・・・ふぅん。貴方たちが父さんと母さんを殺したあげく、私の弟に手を出そうとしてるっていう。・・・案外弱そうね。」

 

 その言葉に、二人の眉がつり上がった。

 

 「・・・ほーう。大きく出たねぇ。俺達よりあんたの方が強いって?」

 

 「そうだね。さらに言うなら、私の弟だって貴方達よりは強いよ?まぁ、私には敵わないだろうけどね。」

 

 平然と、自慢げにでもなく、強がるようでもなく。何を当たり前の事を、とでも言うように光はそう言った。その態度が、二人をさらに苛立たせる。

 

 「・・・ね、殺っていい?」

 

 女の方が痺れを切らしたようにそう言った。その顔は苛立ちに歪み、いつの間にやら取り出したのか短刀を両手にきつく握りしめている。それを見てもなお、光は動揺もなく、静かに立っている。腰には武器が吊るされているが、それを取る気配もない。

 

 「オーケーオーケー、とりあえず落ち着け。怒りに任せてもどうにもならんぜ?」

 

 女の肩に手を置きながら、男の方がそう言う。が、言葉とは裏腹に男の表情は険しいものだ。その手が腰に吊るされていた杖型の煌式武装(ルークス)を取り出す。

 

 「んじゃ・・・始めようか。悪いが容赦は出来ねえぞ。」

 

 そう言うと、杖の切っ先を光へと向ける。対して光は、僅かに腰を落とした。

 

 「・・・"喰らえ"!」

 

 と、そう男が唱えると同時に女が地を蹴った。光の視界を乱すように左右へとジグザグに動き、彼女の正面へと迫った所でーーーその姿が突如として消える。それも、ただ消えたのではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、「そこにいる」事を示す物ーーー気配から存在に至るまで、全てが一瞬にして消えたのだ。その現象に、光の目が一瞬驚きに見開かれるが、すぐに元の落ち着いた表情へと戻る。

 

 「さて、どこにいるか分からない暗殺者に加えて俺の影も出してやった。その自信の根とやら、見せてもらうぜ?」

 

 男の影がまるで生き物のように伸び、棘となって襲いかかる。

 

 影の棘が津波のように無数に分裂しながら膨れ上がり、光を飲み込もうと迫る。全力の横っ飛びでそれを避け、支柱にヒビが入ったらしい音を聞きながら前進しようとしてーーー光は反射的に右へと飛びすさった。

 直後に、今まで光がいた空間を裂く、刃物特有の音が鳴る。

 「・・・なるほど。それが貴方達の能力かぁ。さしずめ、"隠密"と"操作"って所かな。」

 

 そう言うと、腰から武装ーーー彼女しか扱えぬ、ブレード型純星煌式武装(オーガルクス)を抜き放った。彼女が星振力(プラーナ)を込めると、待機状態にあった武装が起動状態に移行する。持ち手から漆黒の柄が構築されていき、さらにそこから虹色の刃が伸びていく。

 

 「能力を晒してくれてどーも。どんな能力か分かってしまえば幾らでも対処法は思い付くし、どうやら貴方達の能力は大した事ないみたいだし。あんまり派手にやるとあの子達に迷惑かけちゃうから、さっさと終わらせてもらうね。」

 

 「へぇ・・・この状況でまだそう言えるか。自信過剰は自分の身を滅ぼすってよく言うぜ?」

 

 「生憎と、私は自分を過信なんてしてないよ。事実、それだけの実力があるって客観的評価をしてるから言ってるの。」

 

 彼女の言葉はどこまでも静かで、落ち着いたものだ。その声音には、いささかの動揺もない。その様子に、男の表情はより苛立ちを露にする。

 直後、光の姿が消えたかと思うと、男の右横ーーー何も無い空間へと現れ、右手に握っていた武装を一閃する。すると光が切り裂いた空間が揺らぎ、女の姿が露になった。その血塗れた体が重苦しい音ともに倒れ込み、男が目を見開く。

 

 「・・・は?・・・あんた今、何やった?」

 

 「別に特別な事はやってないよ。純粋に身体技術。あとは直感かな。」

 

 あっけらかんと、平然とそう彼女は言う。先程彼女がやったのは、縮地ーーー日本の武術においては、体捌きで以て相手との距離を瞬時に詰める移動技術である。言葉だけ聞くと余り凄さは伝わらないが、これを使える者は早々いない。

 なぜなら、この縮地という技術自体、まず習得までに気の遠くなるような修練を要するのだ。そして、習得したら習得したで、今度は実戦で活かせる練度まで鍛え上げなくてはならない。この2段階でどれだけ修練が必要かは個人個人によるが、どんなに才能があってもそれなりの修練は確実に必要である。

 その点で言えば、光は凡人の部類だった。決して才能があったわけではない。だが、彼女の負けず嫌いな性格もあって彼女は毎日欠かさず剣と体、両方の修練を続けた。その結果が、今の彼女ーーー「星導館第1位、双月流の後継者」である双月光だ。

 

 「ふざけんなよ・・・今の動きはまだしも、あいつの位置を特定したのが直感だと?滅茶苦茶過ぎだろ、冗談じゃねえぞ!」

 

 堪えきれなくなった男が声を荒げる。だが、光は動じない。

 

 「分からないかな・・・人がいる空間ってね、少なからず空気や気配が他とは違うんだよ。覚えがない?楽しげに話してる部屋に入ると、廊下の雰囲気との違いが体感として感じられるような感覚。あれと同じだよ。」

 

 光がそう言うと、男は絶句した。

 

 「・・・化け物が。アンタ、色々とイレギュラー過ぎだろ。聞いてねえ・・・双月悠の姉がこんな強いなんて、聞いてねえぞ!」

 

 「人から聞いた情報だけで相手の実力を計るほど馬鹿なことって無いよ。まぁ、貴方達の間違いはそれだけじゃないけど。とりあえず・・・悠に手出しした事、地獄で反省してきなさい。」

 

 男には、その言葉に反論する時間も与えられなかった。男が口を開いた瞬間には光の姿は自身の背後で剣を振り抜いており・・・男が開けた口から血の塊を吐き出して崩折れる。

 

 「大事な弟に手を出されて、黙ってるわけがないでしょう。姉パワー舐めるなってーの。」

 

 そう言いながら武装を腰のホルダーへと戻し、周囲を見渡す。周囲には目立った戦闘の跡はないようだった。強いていうなら男の能力でヒビが入った支柱と、あとは相手にした男女の遺体から流れ出ている血溜まりくらいか。

 「・・・まぁ、気にする事ないか。叔母さんには言ってあるから銀河も動いてくれてるはずだし。」

 そう呟くと、踵を返して駐車場の入り口へと歩いていった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「シルヴィアさん、入りまーす!」

 

 スタッフのそんな声を聞きながら、楽屋で華やかなステージ衣装に着替えたシルヴィアの後を、スタッフ用のパーカーを羽織った悠は後をついていくようにしてライブ会場へと入る。そして天井やステージ床に設置された照明に目を細め、同時にステージの規模に圧倒された。

 悠達が入ってきたのは正面ステージの横。その正面ステージから両端に移動式ステージの通路が伸び、正面ステージのちょうど反対で小さな円形ステージに合流。そこから中央にある大きめの円形ステージを貫くようにして正面ステージへとまた戻る。会場の広さを活用した大規模なライブ会場だった。

 

 「・・・凄いな。流石は歌姫だ。」

 

 「といっても、会場を手配したのはペトラさんだけどね。」

 

 苦笑しながら、シルヴィアがそう返す。節約癖の悠としては謙遜にしか思えなかったが、「シルヴィアなら仕方ない」と自分を納得させた。

 

 「んで、えーと・・・俺はどうしたらいいのかな?」

 

 「あぁ、そっか。どこかにペトラさんがいるはずなんだけど・・・あぁ、いたいた。彼処だよ、中央ステージのとこ。」

 

 シルヴィアが指差す先・・・中央ステージの上で無線機を手に何か話している女性がいた。その横では実里が例のファイルを手に何かをチェックしている。

 

 「うわぁ・・・如何にも堅物そうな・・・。」

 

 「大丈夫大丈夫。実際はそんな堅くないから。ほら、行こ?」

 

 「う、うん・・・。」

 

 尻込み気味な悠を引っ張るようにしてシルヴィアが中央ステージへと向かっていく。途中でスタッフとすれ違う度に会釈すると、凄く和やかな目で見られた。その視線に戸惑いながらも中央ステージへと歩いていくと、スーツ姿にサングラス型バイザーを着けた女性が此方に気付いた。実里に何かを言うと、その場を任せて自ら歩いてくる。

 

 中央ステージ途中の通路で立ち止まると、互いに顔を合わせる。

 

 「こうして顔を合わせるのは初めてですね。シルヴィアのプロデューサーをしているペトラ・キヴィレフトです。貴方が双月悠君ですね。シルヴィアから話は聞いています。」

 

 「ど、どうも。双月悠です。えーっと・・・今日からよろしくお願いします、でいいんでしょうか?」

 

 緊張気味にそう返すと、横でシルヴィアが小さく笑う。悠が非難気にシルヴィアへ視線をよこすと、彼女は小さく舌を出した。そんなやり取りを、ペトラは微かに口元を緩めながら見る。

 

 「・・・本当に仲が良いんですね。まぁ、『今日から』というのは間違いではないですよ。今回のライブも含めると、実質貴方には今日からスタッフとして働いてもらうわけですし。今日はスタッフ職を一通り見学してもらって、明日からは実際に手伝ってもらいますので。」

 

 「ですよね。分かりました・・・。」

 

 悠が若干ひきつった感じの顔で返答すると、ペトラは満足げに一つ頷いた。悠がシルヴィアの方を見ると、シルヴィアは相も変わらず笑いを堪えているし、実里は実里で何やら意地悪いにやけ面をしていた。

 

 「・・・あ、シルヴィ!時間だから、正面ステージに行って。演出の最終チェックするから。」

 

 腕時計を見た実里がそうシルヴィアに声を掛ける。悠も持参してきた腕時計を見ると、ちょうど11持半になるところだった。

 

 「はーい。じゃあ悠君、ちょっと行ってくるね。」

 

 そう言うと、シルヴィアはパタパタと正面ステージの方へ戻っていく。

 

 「じゃ、あんたも今日は頑張んなさい。あと、14時からのリハーサルが終わったらシルヴィアの楽屋に来る事。分かった?」

 「はいはい、分かったよ。分かったから行けって。」

 そう言うと、実里はヒラヒラと手を振ってシルヴィアの背中を追いかけていった。

 それを見送ると、悠は小さく息を吐いた。それを遮るようにペトラが大袈裟な咳払いをする。

 

 「では、私達も行きましょうか。貴方には見てもらわないといけない事がたくさんありますからね。」

 

 「了解しました・・・。」

 

 今からやるのだろう演出の最終チェックを確認するために、最もステージが見えやすい座席の方へ歩いていくペトラの後を、悠も追った。

 




皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
新生活への準備などもあり、投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした!
御詫びに今回はいつもより長め、かつ悠とシルヴィアの甘甘成分濃い目にしておきましたが、いかがだったでしょうか。
次の話もなるべく早く投稿しますので、気長にお待ちくださいませ。
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