とりあえず、今回で悠の平穏は一応終わりの予定です。ここからは悠も本格的にシルヴィアを守る側になるので。それから、今回の話は合間を除くと悠達は一旦サブキャラ化、周りの人物がメインになります。
ライブ会場は、ファン達の熱狂で盛り上がりに盛り上がっていた。そこら中でペンライトが放つ彩光がゆらめき、ファン達が興奮の声を上げる。その中心にいるのは、ステージ上で軽快なダンスを踊りながら歌っているシルヴィアだ。悠の隣でも、子供達が歓声を上げている。
「あの子の歌、久し振りに聞いたけど、やっぱり綺麗だね。歌姫って言われるのも頷けるなぁ。」
栞がそう言うと、悠も「全くその通りだ」と言うように頷いた。好きこそ物の上手なれ、とはよく言ったものだと思う。昔からシルヴィアは歌が好きだった。よく自分達の前で歌を披露したりもしていたくらいだ。
「まぁ、本人はそんなに気にしてないみたいだけどね。ていうかシルヴィの事だから、それ言ったら変に怒りそう。」
そうだろうねぇ、と栞は相槌を返す。端から見ていても分かるが、シルヴィアは悠と一緒にいる時だと素が前面に出てくるのだ。「世界の歌姫」としてではない、「ごく普通の女の子」としての素の部分。シルヴィアにとって「悠の隣」とは、「素の自分をさらけ出せる場所」に他ならない。
「そういや、招待券貰ったって事は4人とも3日間丸々このライブ見られるんだよね?孤児院の方は大丈夫なの?」
今回のライブは3日間。そして招待券を手にいれたファンには3日間のライブ全てを観る権利が与えられる。だが、栞は孤児院の院長・・・最高責任者的な立場だ。3日間とはいえ、彼女がやるべき仕事だって沢山あるわけで。彼女が留守にすると、滞ってしまう仕事ーーー特に財務管理や新規の入院者の受け入れ事務などーーーが発生するのである。
「あぁ、それなら心配しなくてもいいよ。代理の子に一任してあるから。ていうか、それを言ったら悠こそ大丈夫なの?学校の方の授業とかだってあるでしょう。」
「俺の方は大丈夫だよ。生徒会長からメールがあって、このライブと、今後ライブスタッフとしてアスタリスクを出る間の授業は公欠にしておいてくれるらしいから。ただまぁ、週末にまとめて補習受けないといけないんだけどね。」
文武両道が基本原則の星導館においては、基本的に授業の遅刻や欠席に厳しいしサボりなんてもっての他、かつ放課後には誰でも使えるトレーニングルームを開放したりして、自主的なトレーニングを推奨したりしている。そのため、よほどの事情だったりでもなければ基本的には授業に出席する必要があるのだ。だがそこは流石生徒会長権限。学園の基本原則に悠のような例外を容易く作れてしまう所が地味に怖い。
「それなら大丈夫そうだね・・・まぁ、ちゃんとやってるなら何も言わないでおくよ。」
栞がそう言った直後、周りが再び歓声に包まれる。それに気付いてステージの方を見ると、シルヴィアが最初の曲を歌い終え、観客席に向けて両手を振っているところだった。
ー■■■ー
時間は、シルヴィアのライブが始まる数分前に遡る。
「・・・はぁ。いきなり呼び出されたから何かとおもったら・・・何でここなんかね。」
そんな事を呟きながら、星導館の制服を着崩した少年ーーー夜吹英士郎は面倒くさそうに溜め息をついた。彼が今いる場所はとあるスタジアムホールの地下駐車場・・・シルヴィアのライブが行われる場所だった。そこに夜吹を含めると十数人が集合している。夜吹を除いた皆が皆、旧時代の忍を彷彿とさせる黒装束に身を包んでおり、一人の男を中心に円を描いて直立していた。
「・・・以上が上からの指令だ。今日から3日間、我々は不眠不休で対象の監視、及び対象を狙っている者達の排除にあたる。辛いのは承知しているが、これも我らの仕事の一環。どうか堪えよ。」
男がそういうと、相槌を打った周りの者達は、男ともう一人、少女を除いたそれぞれが事前に決められた監視場所へと散開していく。それを夜吹が見送っていると、残った二人は夜吹の方へと歩いてきた。
「とにかく来い、とか言われて来てみましたがね。まだ何の依頼か聞いてないですよ?親父殿。」
夜吹がそう言うと、男ーーーといっても白髭を蓄えた老人だがーーー英士郎の実父にして現
「影星に身を置きながら自由気ままに仕事を選び、あげく他所の連中と関わりを持つような愚息の事だ。仕事の用件によってはお主が断る事も有り得たのでな。あえて黙っていたわけよ。」
「いやいや・・・下っ端の俺に拒否権とかあるわけないでしょうよ。相変わらず信用ないですねぇ。」
夜吹がへらへらしながらそう言うと、憮仁斎は「何を今さら」とでも言いたげにまた鼻を鳴らす。そんな夜吹の態度が気にくわなかったのか、憮仁斎の隣に立つ少女ーーー英士郎の実姉である影花が口を開いた。
「慎みなさい、
「相応の振る舞いと言いますがね、姉上。今の御時世、顔を利かせておくのに越した事はないと思いますが?」
実姉の言葉に対しても夜吹はへらへらとしたまま、そんな言葉を返した。そもそも、夜吹は一族のこういう固く息苦しい関係や環境が嫌で故郷ーーーすなわち夜吹の里を出たのだから、当然と言えば当然の反応ではあったが。そんな弟に、影花は呆れた溜め息をつく。
「・・・はぁ。とにかく、父様と
「そりゃどうも。・・・んで、結局親父殿が請け負った依頼ってのは何なんですかね?」
夜吹がそう聞くと、憮仁斎は影花に目配せした。すると影花が携帯端末を取り出し、何か操作をする。その直後に、夜吹の携帯端末にメールが届く。夜吹がそれを見てみると、そのメールには添付ファイルがつけてあった。それを開くと、画面一杯に様々な男女の顔写真が映る。その数は、裕に100人を越えていた。
「・・・何ですかね?こいつら。もしかしてこれ、全員排除対象?」
「まぁ、排除対象である事は当たりだ。より正確にいうならば、その中で生存が確認されている者が排除対象なのだがな。何と言ったか・・・確かお主の友人におるだろう、孤児院出身の小僧が。」
「・・・。まさかとは思いますが、悠関連の事で?」
夜吹がそう聞くと、憮仁斎はぶっきらぼうに頷く。そして夜吹の携帯端末を顎でしゃくった。
「そうそう、双月悠と言ったか。そやつらは皆、その小僧の両親が亡くなる原因になった統合企業財体の下部組織にいた者共よ。曰く、かつて壊滅させたはずが、どうも残党がいたらしくてな。上からは生存者を見つけ出して一人残らず首を断てと言われておる。」
憮仁斎の言葉に、夜吹は耳を疑った。悠が孤児院出身である事は本人から聞いていたが、それ以前はどこにいたか、などの過去に関する具体的な話は今までしてこなかったのだ。それがまさか、両親を企業財体に殺されたからだとは思いもしなかった。そんな過去があったのなら、悠が時折見せた企業財体への嫌悪も納得出来る。
「お主にとっても、今回の仕事は受けて損はないと思うがの?」
憮仁斎がそう言うと、夜吹は苦虫を噛み潰したような顔をした。確かに憮仁斎の言う通り、この仕事は間接的にではあるが友人を助ける事になるだろう。だが、正直好きではない父親の言うことに従うのも何となく癪だった。
「・・・はぁ。分かりましたよ。俺も出ればいいんでしょう。」
1つ溜め息をつくと、夜吹はそう言った。悩んだ結果、彼は友人の助けになる方を取ったのだ。
「ではついてこい。儂らも持ち場に行く。」
そう言うが早いか、憮仁斎は踵を返して歩き出した。影花は夜吹に促すような視線を向けると、憮仁斎の後を追う。
(・・・まぁ、正直癪には障るが。あいつに友達らしい事してやれんなら、我慢しますかね。)
内心そんな事を思いながら、夜吹は二人の後を追って歩き出した。
ー■■■ー
「むぅ・・・どうしたものか・・・。」
星導館学園敷地内の学生寮。その自室で、ユリスはベッドに寝転がり、うんうんと唸っていた。
「悠は明後日まで公欠だというし、夜吹はどこかにいってしまったしな・・・どう時間を潰そうか。」
そう、今彼女が悩んでいるのは今日1日どう時間を潰そうかという事だった。最初は悠を誘って中心街での買い物に付き合ってもらおうかと思っていたのだが、昨日の夜に悠にその話をした所、「明日からのシルヴィアのライブに行かなきゃいけない」と言われたのだ。夜吹を誘うのは・・・正直何となく嫌だったので止めた。まぁ、その夜吹もどこかに行ってしまったが。
「仕方あるまい。買いたい物はたくさんあるから荷物が重くなるのは辛いが、一人で行こう。」
そう言って、部屋を出ようとした時だった。コンコン、というノック音がして、聞き慣れた声がする。
「いらっしゃいますか、ユリス?ちょっと話があるのですけど。」
「何だ・・・クローディアか。というかクローディア、お前の方から私のところに来るとは珍しいな。」
ドアを開けると、そこに立っていたのはクローディアだった。立ち話もどうかと思い、彼女を部屋に入れると電気ポットで沸かしてあったお湯で紅茶を淹れた。
「ところで、急に私の部屋に来たりして何の用だ?お前が用がある時は生徒会室に呼び出していたはずだが。」
そう言いながら紅茶を出すと、クローディアはそれを一口飲んでからユリスの方を見た。その目にはいつもと違い、真剣さが宿っている。
「えぇ、そうなんですけれど・・・この話は余り周りに聞かれたくないので。生徒会室ですと、いつどこで誰が聞いているか分かりませんから。」
そう言うと、クローディアは姿勢を正す。釣られてユリスも姿勢を正すと、クローディアは静かに話し出した。
「話というのは、双月君の事です。確か貴女、双月君が孤児院出身だという事は知っているんですよね?」
「あぁ・・・知っているが。というか、あいつと友人になったきっかけがそれだったからな。」
そうユリスが言うと、クローディアはふむ、と小さく頷いてから、ブツブツと呟くように独り言を漏らす。
「では、双月君が孤児院に入った経緯は知らない、と。まぁ、知らない方がこの場合は良いのでしょうが。」
「・・・おい、クローディア?」
自身の思考に入り込んでしまったクローディアを、ユリスの声が引き戻す。
「・・・あぁ、すみません。少し、考え事をしていただけです。実は、今双月君が少し面倒な案件に巻き込まれているんです。それでユリスには、学園内で双月君になるべくついていて欲しいのですよ。」
「・・・どういう事だ?というか、面倒な案件だと?」
ユリスの目つきが鋭くなる。それを、クローディアは真摯な目付きで受け止めた。
「これ以上は、貴女の身の安全のためにも言えません。ですがこれは、彼や貴女を守るためにも必要な事なのです。・・・信じてはもらえませんか?」
そう言うクローディアの目は真剣そのもの。ユリスの主観からすると彼女のイメージは「胡散臭い、何を考えているか分からない」という感じなのだが、今この時は彼女を信じても良いと思えた。
「・・・分かった。お前の言う通りにしよう。だがもし有事の時には、その案件とやら、ちゃんと説明してもらうぞ。」
ユリスの言葉に、クローディアはしっかりと頷いた。
皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
今回は少し悠から離れて、周りの人達の動きを書いてみました。次からはまた悠視点が中心になると思います。
作中でクローディアが悠を一人にしないように色々やってますが、何でも一人で抱えて、一人でやろうとする「双月悠」というキャラが主人公なので必然的に周りはこういう動きになるんですよね・・・大抵こういうキャラって頑なな所があるので。この作品も例に漏れず、そんな感じです、はい。
そろそろ本格的に、一番書きたいシーンに近づけていこうかなと思います。